自分のためか、他人のためか
一方その頃。
アイト、ギルバート、クラリッサ、ポーラの4人は。
「あれ、さっきどっちから来た?」
「あっちじゃねえのか?」
「こっちでしょ」
「そ、そっちだと思います」
全員が違う方向を指さす。森の中に入ってしまい、方角が全くわからなくなっていた。
すると突然、凄まじい雄叫びが近くから発される。
「うお!? もしかして、獲物か!?」
「ちょっとギル! 突っ走るなぁ!!!」
ギルバートとクラリッサが声が聞こえた方に走っていく。
「ちょ、ちょっと待って2人とも!」
「待ってください〜!」
アイトとポーラも後を追う。すぐに2人は見つけることができた。
(おいおい、これって)
ただし、見覚えのないオーガと共に。
「くっ! コイツ硬ってえ!!」
ギルバートの大剣でもオーガの身体は切れなかった。
「ギル! 幻影魔法効かないわよ!!」
「クソッ!! もうごり押すしかねえ!!」
「あ!? もう、バカっ!!」
ギルバートが正面から突っ込んだと同時にクラリッサがオーガの背後に凄まじいスピードで接近する。
「「はああっっっ!!!!!」」
挟み撃ちにした2人が声を上げながら大剣と杖を振り下ろす。
「グアアアアアッ!!!!!」
だがオーガはおぞましい雄叫びと共にその場で回転し始める。
目で追えないほどの回転をするオーガの体に武器をぶつけた2人は武器ごと別々の方向へ吹き飛んでいき木に激突した。
「ガッ!」
「きゃっ!」
「ギルバート! クラリッサ!」
2人は強く体を打ったことでしばらく動けない。アイトは悩んでいた。
(ここで魔法を使うしかないのか!? いや、聖銀の剣を使えば‥‥‥ダメだ! 『異空間』から取り出すところを見られるわけにはいかない!)
自分のためか、他人のためか。
(ひとまず、2人を連れて逃げるしか‥‥‥でもポーラはもちろん、俺でもギルバートを担いで早く移動できるとは思えない。どうする!?)
アイトはますます決断に悩むことになる。
「‥‥‥!! アイトくん、離れてください!」
すると、普段聞かない大声を出して指示するポーラ。その目には何かの覚悟が表れている。
「! わ、わかった!」
アイトはオーガから距離を取る。ギルバートとクラリッサは吹き飛ばされたためオーガとの距離は空いている。
「‥‥‥兄さん、力を貸して」
そう呟いたポーラはポーチの中から魔結晶を取り出す。それを握りしめて片手を前に突き出す。
するとポーラの身体から凄まじいオーラが発生する。オーガもこの異変に驚いている。
「やああああああっっっ!!!」
ポーラが放ったのは光のレーザー。そのレーザーが相手に当たった途端、大爆発を起こした。周囲には土の粉塵が。
「グアアアアアア!!!!!」
オーガの断末魔の声が響くとともに、粉塵が晴れるとオーガの体は粉々になっていた。
「すげえじゃねえか!! なんで隠してたんだ!?」
「そ、それは、その‥‥‥」
動けるようになったギルバートが興奮気味に質問する。ポーラは少し震えている。
「‥‥‥あれって、【フォトン・ブラスト】よね?
ポーラ、あの魔法使えたんだ」
ポーラが放った魔法を知っていたクラリッサがそう口にした。
「おいおい! フォトン・ブラストっていえば
『高威力魔法』に認定された魔法じゃねえか!!
お前マジですげえな!!!」
『高威力魔法』。『破滅魔法』には及ばないが、むやみな使用は危険だと判断されている、魔道大国レーグガントに認定された価値のある魔法。
アイトはその魔法をポーラが放ったことに疑問を抱いていた。
(【フォトン・ブラスト】はポーラの兄で
王国警備隊の分隊長、レンクス・ベルが
使う魔法だったはず。
ポーラが使えるとは聞いてない。
そんな魔法を使えるならDクラスにはいないだろう。
それに魔法を放つ前に魔結晶を使っていた。
ポーラ、何かを隠している?)
アイトが考え込んでいる間に、興味津々と言った様子でギルバートが口を開く。
「なんでこんな魔法を使えるって言わなかったんだ?」
「そ、それは‥‥‥」
「言えなかったんじゃないか?」
アイトはギルバートとポーラの間に割って入った。
「? どういうことだ?」
「あんな強力な魔法を使えるって言ったら毎回戦術に組み込まれるかもしれないし、そもそも俺たちが連携をとる必要がなくなるかも」
「まあ、そりゃ確かに」
「そうなることを危惧してたんじゃないか? あんな魔法を毎回打つのは負担が大きい。ポーラの性格的に、俺たちに頼まれたら断れない」
「アイトくん‥‥‥」
「アイト‥‥‥そういうことか。
そうだよな。ポーラ、すまん!!」
ギルバートが頭を下げてポーラに謝る。
「そ、そんなギルバートくんが謝ることはないです!」
「お前が話したくなった時に、オレたちに教えてくれないか?」
「ギルバートくん‥‥‥うん、わかりました」
ポーラがそう微笑みながらそう返す。そしてアイトと目が合うとまた微笑んだ。クラリッサも納得した様子を見せる。
「よっしゃ! この森をさっさと抜けるか!」
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アイトたちが迷っている森のはるか上空。
「おい、見たかあの魔法」
「ああ。明らかに噂に聞く『高威力魔法』級。あの小娘、後に我々の脅威になる可能性がある。それにあの大剣使いと杖使いも中々のもの」
「今はギルドや他の生徒たちと離れている」
「なら、消すか」
偶然空を通りかかった2匹の魔族が、アイトたちに目を付けたのだった。