2本の剣
「ーーーステラ様が、婚約!?」
新たな発表に王都内外がざわめき出す中、レスタは手を伸ばしてステラの口元に触れる。
「は、はいッ♡ 私は自分の意思でレスタさまと婚約を誓いました! 彼に助けられ、身を案じられた時から私の一目惚れでっ‥‥‥ずっと愛していますっ♡」
顔を真っ赤にした第一王女の、あまりにも大胆な公開告白。
「お姉さま‥‥‥」
「ここまでステラの態度が崩れるなんてね」
妹ユリアが苦笑いを浮かべ、兄ルークが呆れて小さなため息を吐く。
そんな2人には気付かないまま、ステラは嬉々として話を続ける。
「今回の騒動の終結にも力を貸してくれてっ‥‥‥本当に大好きですっ、心の底から愛してますっ♡」
恍惚とした彼女の姿は、無理やり言わされているようには見えなかった。とても演技で出来るような表情ではない。
「「「「ーーーうぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」」」」
それが分かった国民たちの祝福の声が、王都内から響き渡る。今話すべきじゃない内容だったが、むしろそれが王国の平穏が来たことを、彼らは感じ取ったのだ。
王女の婚約。まさに王国の安寧を願うに相応しい発表だった。
「凄腕の実力者『天帝』が王国の力になってくれるっ、それに彼が率いる精鋭たちもッ!!!」
「そう考えると凄えな!! ルーク王子と『天帝』が手を取り合うなんて
そして、薄々気づいていた『エルジュ』の存在と活動原理。王都を救出してくれた事で、代表であるレスタを英雄視する者もいた。
「そうよっ、ルーク王子の隣に立っている事が何よりの証明よね!!?」
「これで王国は未来永劫安泰だッ!!」
「『天帝』さま万歳ッ!!」
「ルークさま万歳ッ!! グロッサ王家万歳ッ!!」
「ステラ様の気持ちは本物だっ!!」
「ステラ様っ、本当におめでとうございますッ!!」
その結果、多数の賛同者による声が王都内を伝播していく。
「‥‥‥なに、これ?」
将軍のミネルヴァ、いや帝国軍の全員が呆気に取られる。あまりにも突然のことで、動揺と困惑を隠せない。
「むしろ、ずっと追い続けてきたのは私の方でっ‥‥‥多額の懸賞金を掛けて、捕まえてくるように言ったのも私ですっ! だ、だって誰にも渡したくなかったからっ‥‥‥♡」
次々と暴露されていくステラ王女の言葉は、間違いなく本当であると態度から分かってしまう。そして、ますます熱狂していく国民たち。
レスタは咳払いをしながら、ステラの口付近に伸ばしていた手を下げる。彼女の口元に音魔法と振動魔法を解除したのだ。
「‥‥‥よって、私が率いていた『エルジュ』は、今は既にグロッサ王国と協力関係にある!! 聞いているかアルスガルト帝国軍!!」
そしてレスタは大声を出して遠くを指差し、5000人もの帝国軍に言い放つ。音魔法と振動魔法を自分の口にたっぷりと載せて。
「これ以上侵略してくるなら、私たち『エルジュ』とグロッサ王国軍の精鋭がーーー全力で貴様たちを殲滅する!!」
そう言い切った瞬間、彼の全身から魔力が溢れ出す。下で聞いているミネルヴァには、当然その気配をはっきりと感知した。
「それを今から見せてやる。私の宣誓は、決して口だけでは無いという事を」
レスタは両手の指から溢れ出た黒の魔力を、手のひらで包むように合わせる。10個にも及ぶ属性魔力の融合体である黒の魔力は、バチバチと鋭いプラズマを発して反発し合っている。
「ーーーっ」
ミネルヴァが一瞬で、彼の脅威を悟った。無意識に後ろから来ている帝国軍を見つめ、唇を噛む。
『皆殺しにされる』。そんな言葉が脳裏に浮かんで。
「【終焉】」
黒の魔力が、解き放たれた。
まるで光線のように放出された魔力が一直線に飛び‥‥‥帝国軍へ迫る。
【終焉】は帝国軍の上空で炸裂し、反発し合っていた属性魔力が膨張。
「ーーー皆の者っ、体勢を立て直せッ!!!」
そして‥‥‥未曾有の大爆発を引き起こす。
「皆の者落ち着けッ!! 直接的な攻撃ではないっ!! 騎兵隊は各自、逃げようとする馬を宥めろ!!」
それはイーリスが大声で叱咤するほどの、衝撃と迫力だった。彼の顔も少し青ざめており、額から汗が数滴流れ落ちる。
「ーーー面白い」
だが、ミネルヴァだけは嬉々として笑った。地面を蹴って跳躍したかと思うとーーー半透明の壁を蹴りながら凄まじい速度で登っていく。
「下から帝国将軍がっ!! 跳ねて近づいてきてますっ!!」
覗いていたユリアが大声を出して忠告した時には、ミネルヴァが姿を現す。
ユリアたち王家とミネルヴァの距離は‥‥‥もう一足飛びで届くほどだった。
「私に脅しは通用しない」
ミネルヴァが大きく踏み出す。
「だって、彼らなんて至極どうでもいいからっ!!」
彼女は笑いながら突進していき、魔力を集めた右手を振りかぶる。
「そうかよ」
「やっぱり」
2つの声が聞こえた瞬間、ミネルヴァの足が止まって視線が落ちる。
「俺からしてもどうでもいい。あんたたちが何人死のうが」
「彼はそう言ってるけど、僕は優しいから。無駄に殺さない」
ミネルヴァの首には‥‥‥2本の剣が差し込まれていた。銀色の剣と金色の剣が交差し、彼女の首を挟んでいる。
「予想より速かった‥‥‥天帝と聖騎士」
『天帝』レスタと『聖騎士』ルーク。
これまで敵対していた2人が、帝国将軍の首に剣を向けている。
「どうする将軍。楽しみたいなら付き合うぞ」
「僕たちが、相手してあげるよ」
それはまさに‥‥‥国民の誰もが、見たかった光景だった。
「レスタさまっ‥‥‥!! 兄さんっ!!」
「レスタくんっ、お兄さまっ!!」
ステラとユリアが声を漏らし、姉妹揃って涙を流す。
「はぁ‥‥‥何この茶番」
ミネルヴァが呆れて息を吐くが、差し込まれた2本の剣から引こうとしない。いつ、戦いが起こってもおかしくない空気が流れる。
「ーーーおいおい。いい加減さぁ、帰ってくれよミネルヴァちゃん」
今までとは別の声に、ミネルヴァが息を呑んで横目を向ける。そこには、黒髪の青年が佇んでいる。
「今なら3対1になるぞ?」
そして、彼は目元を隠す‥‥‥白い仮面を付けていた。
「『白面』っ‥‥‥!!」
交易都市で面識があるため、ミネルヴァが悔しそうに歯を噛み締める。連行していて逃げられた相手が、目の前で仮面を付けて笑っているのだ。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」」」
そして、国民の声が一層大きくなる。
「消息不明だった『白面』様だっ、元副隊長の!?」
「えっ、ほんとに!?」
「あのアリスティア総隊長の右腕ッ!!!」
王国精鋭部隊『ルーライト』、その元副隊長は5年経っても色褪せていなかった。
「王国にとってこんなに最高な日があるか!? ルーク王子に『天帝』レスタ、そして元副隊長『白面』!!」
「帝国なんてもう怖くないぞ!!」
「グロッサ王国万歳ッ!!」
国民の熱狂が、最高潮に達する。
「「「グロッサ王国っ、万歳ッ!!!」」」
そんな掛け声が、王都に轟く。
「さあ、どうする将軍さん」
「僕たちと戦うかい?」
「この金髪はむしろ殺してくれて構わないぞ」
崩壊寸前だったグロッサ王国は‥‥‥3人の力によって息を吹き返したのだった。




