結束早すぎない?
グロッサ王立学園武術大会から1日。
アイトたち生徒は普段の学園生活に戻っていた。
あの後アイトはマリアたちと合流して男子の部の試合を見た。優勝したのはルーク。それは大会が始まる前から誰もがそうだと思っていた。
そしてアイトが戦ったギルバート・カルスは10位だった。まだ1年生で10位に入った大剣使いのギルバートは注目されていた。
「おい、ちょっと付き合え」
「え? 俺?」
放課後。そのギルバート・カルスにアイトは話しかけられていた。
「そうだ。ついて来い」
「あ、ああ。わかった」
アイトは席から立ち上がって先に歩くギルバートについて行く。
着いた先はグロッサ王国の平原だった。そこにはアイトたちと同じクラスの藍色の髪の女の子がいた。女の子は杖を持っている。
「クラリス頼む」
「はいはい。【ミラージュ・サークル】」
「!?」
アイトはいきなり女の子が魔法を発動したため身構える。
「落ち着け。攻撃じゃない。ただの隠れ蓑だ」
「ちょっと!? 頼んでおいて何よその言い草!!」
アイトは2人のやりとりを聞きながら周囲を確認する。どうやら3人を透明なサークルで覆っているようだった。
「これで外からオレたちのことは見えねぇ。
さあ話してもらおうか。昨日の件を」
「昨日の件? 何だよそれ」
「とぼけるな! オレの目は誤魔化せねぇ!!
お前、わざと剣を投げ捨てたじゃねぇか!!!」
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(速い!!)
キィンッッ
金属の衝突音が響く。
アイトはギルバートの想像以上に速い動きに、つい身体が反応して無意識で攻撃を捌いていた。
(やばい! 止めたことに気づかれる!!)
アイトは捌いた自分の剣が後ろに流れていることを活かしてそのまま剣が吹き飛ばされたように見えるよう投げ捨てたのだった。
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(! まさか、気づかれていたとは)
「‥‥‥何のことだ」
「安心しろ。お前が応じてくれたら誰かに話す気はねぇ。
興味ないからな。オレは本気のお前と再戦したいだけだ」
「‥‥‥はあ?」
「もししらばっくれて再戦しないなら今回のことを、
そうだな。ブラコンで有名なお前の姉に話してやる」
「!? お、おい。言っていいことと悪いことが」
「ならオレと戦え」
(な、なんだこの戦闘狂。カイルや姉さんみたいな
脳筋性格じゃないか)
もし昨日の件を姉に話されたらアイトにとって地獄が待っているのは確実。それがルークにも伝われば平穏の終わり。
「‥‥‥わかった認めるよ。本気で戦えば良いんだな?
それで言わないんだよな? 誰にも言わないだろうな?
特に姉さんには言わないだろうな!?
本当だろうな!? 本当に言わないだろうな!?
嘘だったら承知しないからな!!?」
「あ、ああ約束する。誰にも言わない。
オレとクラリスの胸の内にしまっておく」
アイトの切羽詰まった声にギルバートが少し驚く。
「そうね。あたしも構わないわ。
あ、あ、あたしはクラリッサ・リーセル。
よ、よろしく」
「あ、どうもアイト・ディスローグです。
よろしくお願いします」
「何クラスメイトに人見知り発揮してんだ。
全く‥‥‥それじゃあ、これ貸してやる」
ギルバートが投げてきた物をアイトは掴む。刃がない鉄製の剣だった。
「昨日お前が使ってたものと同じ物だ。
もちろんオレの大剣も同じ物」
「ルールは?」
「昨日と同じで構わねえ。
それじゃあクラリス、合図してくれ」
アイトが剣を、ギルバートが大剣を構える。
「それじゃあ、始め!!」
「ウラァァァァァァ!!!」
(昨日俺が剣を投げ捨てた時のスピードか。
魔法じゃないけど【血液凝固】も反則だろうな)
ギルバートがアイトに接近する。
キィィィンッ
昨日と同じく金属音が鳴る。だが昨日よりも音は大きい。アイトが大剣の攻撃を真っ向から弾いたため音が響いたのだ。
「やるじゃねえか! やっぱり手を抜いてたな!!」
ギルバートは大剣の重量を物ともしない速さで連撃を繰り出す。アイトは武器の重量では負けているため攻撃を受け流す。
「くっ、やっぱり重いな。脳筋かよ」
「褒め言葉だと受け取っておくぜ!」
「ああ、褒めてるよ」
その後もギルバートの攻撃をアイトが全て受け流す。その攻防がしばらく続いた。
クラリッサは今の光景を見て冷や汗をかいていた。
「ギルの攻撃を真っ向から受け流すなんて‥‥‥
あの男子、いったい何者なの??」
クラリッサは思わず口から言葉が漏れていた。
「はあっ、はあっ、はあっ。当たらねぇ!!」
「大剣をそれだけ振り回せば疲れてくる。
でもこっちも少し疲れてきた。終わりにしよう」
アイトは全く息を乱していないのにそんなことを言いながら攻撃を避けた直後にギルバートの襟元を掴む。
「な!?」
(大剣はリーチが長い分これだけ接近されると大変だ。
こんな風に掴まれたら大剣を振れない。たぶん)
「ッラァァァァ!!!」
ギルバートが雄叫びを上げながらアイトに頭突きを喰らわそうとする。
(それに大剣だと軽い武器に比べて
体術を使う機会が極端に少ない。たぶん)
アイトはギルバートの頭突きが当たる前に右足で相手の両足を払う。
「グハッ!!」
ギルバートは声を上げて地面に倒れた。
アイトは倒れたギルバートの額に剣を向け、当たる直前で止める。
「これで良いかな?」
「はあっ、はあっ、はあっ‥‥‥ああ、完敗だ!!」
ギルバートが降参を宣言するとアイトは剣を下ろして手を差し出す。ギルバートはその手を掴んで立ち上がる。
「お前超強えな! 見直したぜ!!
今までは女侍らせてる軟派なやつだと思ってたが、
今日で意見が変わった! やるじゃねえか!!」
「え? 俺、そんなふうに思われてたの‥‥‥?」
アイトはとてつもないショックを受けた。自分がそんな評価をされていると流石に傷ついた。
「いやオレの個人的な意見だ。
そんなことよりなんで実力隠してるんだ?
もったいないぜ!! オレとクラリスとお前で
魔法に頼り切った優等生気取りのAクラスを
ごぼう抜きにできる! オレたちと天下取ろうぜ!」
「いや取らないけど。こっちにも事情があるんだ。
それに言わない約束だろ?」
「ちっ! もったいねぇ!
じゃあオレとダチになってくれ!
それなら良いだろ! お前、面白いからな!」
「良いの!? それはこちらからお願いする!」
「よっしゃ! これからよろしくなアイト!!」
「こちらこそよろしくギルバート!!」
アイトとギルバートが握手する。そして気づけば肩を組み合っていた。
「「はっはっはっはっはっ!!」」
「あんたたち、結束早すぎない‥‥‥?」
クラリッサが呆れた様子で2人を見つめるのだった。