お昼付き合いなさい
6月。
ユリアの拉致、そしてアイトの『終焉』によるメルチ遺跡破壊から‥‥‥2ヶ月が過ぎた。
「‥‥‥」
その間の組織の活動は、特に無かった。いや、無かったというよりは『黄昏』が動くほどの任務が無かったということ。
(俺、普通の学生してる‥‥‥!!)
つまり、アイトは暫くの間‥‥‥順風満帆な学園生活を送っていた。
普通に授業を受け、時々ユリアたちと一緒に昼食を取り、放課後になると『マーズメルティ』でエリスとカンナ特製のお菓子を食べる。
そんな生活を送っていたアイトは、 1つだけ大きな悩みがあった。それは。
(どうしよう‥‥‥クラスに友達がいない)
アイトは1年生の中で、かなり悪目立ちしていた。
「ほらっ、行くわよ!」
王国最強部隊『ルーライト』の隊員で『迅雷』と呼ばれるマリア・ディスローグが姉。
「こんにちは、アイトくん!」
新入生代表で第2王女のユリア・グロッサと、定期的にお昼を共にするほどの仲。
「お邪魔させてもらってます〜」
その姉の第1王女のステラ・グロッサとも面識がある。主に、男子生徒から嫉妬の念に駆られていた。
(どうしよう‥‥‥もうすぐ『ギルド連携魔物討伐体験』があるのに。このままだと班を組む人が‥‥‥いない!!)
アイトは座り込んで頭を抱えていると、上級生が教室に入ってきた。
「アイト〜! 今日は紹介したい人がいるからお昼付き合いなさい! さあ行くわよ!!」
やってきた上級生は、姉のマリアだった。アイトは思わず視線を逸らして体をのけぞらせる。
「逃げんなっ!!」
「グエッ」
だが結局‥‥‥アイトは首根っこを掴まれ、姉に連行されていった。当然、またも悪目立ち。
「さあアイト! アンタが将来、『ルーライト』に入った時の先輩になる子よ! さ、自己紹介!」
姉に連れてこられたアイトは、食堂の端に座っていた。そして、向かい側に座っている小柄な少女と目が合う。
「‥‥‥」
薄桃色の長い髪が特徴的な、可愛らしい女の子だった。だが、無表情である。
「え、え〜と‥‥‥王国の最強部隊に入る気はないし、そもそも入れないアイト・ディスローグです。1年Dクラスです。よろしくお願いしま痛って!?」
アイトは自己紹介の最後で‥‥テン身を乗り出したマリアに、勢いよく叩かれる。
「ごめんねシロア! この子ったら、昔から自分に自信がなくて」
「‥‥‥(フルフル)」
マリアの声に、少女が首を振って答える。無表情のまま、彼女は佇んでいる。
「あ、この子の名前はシロア・クロート! 3年Aクラスで学校でも『ルーライト』でも私の後輩!」
「‥‥‥え? ルーライトに、所属?」
アイトは目を見開いて絶句していた。そんな事には気付きもせず、マリアが意気揚々と話を続ける。
「この子ね、最年少で『ルーライト』に入ったのよ! シロア、本当にすごいんだから!」
「‥‥‥(ふるふる)」
マリアの絶賛に、シロアが謙遜して首を振るという微笑ましい光景。
だが‥‥‥アイトは目を細めて頬杖を付き、向かいに座る少女を見つめた。
(‥‥‥この人が、シロア・クロートか)
王国最強部隊『ルーライト』。
その隊員の情報は、メリナから逐一聞いていた。
4月のユリア救出作戦以降、これからの行動で何かやらかさないように。
アイトはどんな情報でも、とにかく取り入れるようにしていた。
(天才少女‥‥‥既に雰囲気からして特別な何かを感じる)
シロア・クロート。17歳。
グロッサ王立学園の3年Aクラス所属。薄桃色の長い髪で、少し小柄。そして、無表情で寡黙。
(いったい、どれだけ強いんだろう‥‥‥?)
2年生の時にルーク王子から実力を認められ、『ルーライト』に入隊。最年少で入隊した。
希少な時空魔法の使い手で、神出鬼没な戦闘スタイル(?)。まさに、天才という響きが相応しい少女。
(そして‥‥‥『時の幻影』と呼ばれている。まさに、王国内屈指の精鋭‥‥‥)
これが、メリナから聞いた彼女の情報だった。
アイトは無意識に、シロアの事を見続ける。
(とりあえず、すっごく強いことはよくわかる)
「‥‥‥」
2人は真顔で見つめ合うという状態が続く中、マリアが横やりを入れる。
「なに2人で見つめ合ってんのよ! もう仲良くなっちゃったわけ?」
「‥‥‥あの、姉さん? なんで、クロート先輩って話さないの?」
アイトはここで、ずっと気になっていたことを質問した。
「あ、そうだったわね。シロア、言ってもいい?」
「‥‥‥(コク)」
マリアが身を乗り出して尋ねると、シロアが首を縦に振って肯定を示す。
「えっとね。シロアは、話すのが苦手なの! 以上!」
(本人の許可必要だった!?)
アイトは目を見開いて絶句してしまう。あまりにも、求めていた返答が返ってこなかった。
だがシロアの佇まいから、もう追及すべきでは無いと悟る。
「わ、わかった。よろしくお願いします‥‥‥クロート先輩」
「‥‥‥(コク)」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
(‥‥‥やばい。すごく話しづらい)
アイトは何を話そうか考え込んでいた。そもそも、シロアには一方的に話す事になってしまう。
「あ、そういえばアイト。明後日行われる、グロッサ王立学園武術大会は知ってる?」
偶然にもマリアから、別の話が飛んでくる。シロアも少し姿勢を正して反応していた。
「知ってるよ。最近その話よく聞くし」
そしてアイトは、心外と言わんばかりに目を細めて言い返す。
『グロッサ王立学園武術大会』。
6月に行われる学内行事で、参加は強制ではなく希望者のみ。
武術に自信がある者たちが切磋琢磨し、意欲向上と色々な武術を知ることを目的とした武術大会。
ルールは一般的なもの。降参や戦闘不能、武器が手から離れたら負け。魔法の使用は禁止。あくまで武術で競い合う。命に関わるほどの攻撃も禁止。
武器の種類は基本自由だが、試合時は管理会側が用意した刃のない鉄製の武器を使用。参加登録の際に希望の武器種を記入すれば用意してくれる。
そして、大会はトーナメント形式で行われる。
アイトにとっては、絶対に出ないと決めている学内行事だった。
「あ、姉さん出るの?」
「もちろん出るわよ。でも女子の部だから、ルーク先輩とは戦えないのよね」
(あの王子と戦いたいとか戦闘狂かよ‥‥‥)
大会は男子の部と女子の部で分けられている。そのため、マリアがどれだけ強くてもルークと戦うことはできないのだ。
「そうなんだ、がんばって。応援してる」
アイトは素直に応援の言葉を送る。すると、マリアが目を丸くしてガン見してくる。
「何言ってるの?? アンタも出るのよ?」
「‥‥‥はい??」
アイトは、首を傾げて笑顔になった。妙な胸騒ぎが広がり、動悸が激しくなる。
「私がもうあんたの分の参加申請しておいたから。あんたの武器種は私と同じ剣にしておいたわ。
明後日の大会であんたの全力を見せなさい?」
「はあ!?」
「口の聞き方!!」
「グエッ」
アイトは勢いよく姉に叩かれた。シロアが何も言わずに2人を見守っている。
すると、授業が始まる5分前の予鈴が鳴った。
「あ! もう授業始まるわね!それじゃあアイト、お互いがんばるわよ!!
「ちょちょちょい待ち!?」
「シロア、良かったら明後日の大会観に来て!」
「‥‥‥(コクッ)」
話を終えたマリアが、まるで嵐のように食堂から一瞬で離れていった。初対面である、アイトとシロアを残して。
(あの自己中マイシスター‥‥‥!! マジで何してくれてんだ‥‥‥!?)
心の中で姉の犯した惨劇を嘆く。
明後日の武術大会に参加することが決定しまったことに。
「‥‥‥(??)」
シロアが首を傾げて見つめている。先輩の視線に、アイトは少し焦りながら口を開いた。
「‥‥‥あ、すみません何でもないです。クロート先輩。あんな勝手な姉ですが、どうかよろしくお願いします」
「‥‥‥(コクッ)」
そんなシロアの反応に、アイトは穏やかに笑う。
「あ、それでは授業なので失礼します!」
アイトは急いで走り出す。完全に姉と同じ仕草と動きだったが、本人は気付いていない。
「‥‥‥(ハッ)」
そして取り残されたシロアが、次の授業まで時間がないことに気づく。
「‥‥‥(ペコペコっ)」
彼女なりに急いで準備するも、シロアは次の授業に遅刻してしまうのだった。
「も、申し訳ありません!!」
そしてアイトも遅れてしまい、ますます悪目立ちしてしまったのだった。




