絶対強者
「アリスティア総隊長!? そ、其方は5年前に死んだはずっ‥‥‥生きておったのか!!?」
「あ、アリスティアさんっ!!? 魔王を倒した伝説の総隊長が、実は生きてたなんてっ‥‥‥ゆゆゆ夢じゃないですよね!?」
ダニエルが立ち上がり、ユリアが腰を抜かして目を輝かせる。注目を浴びるアーシャは飄々と笑ったまま、2人へと近づいていく。
「‥‥‥‥‥‥」
それはシロアと‥‥‥身体を震わせて涙を流す、エリスの元に。
「大きくなったな‥‥‥エリス」
アーシャはそう言ってエリスの前にしゃがみ込む。エリスは目を見開いたまま、まるで石像のように停止している。
「アヴリス‥‥‥姉さん?」
そして、エリスはようやく声を絞り出した。本人同士しか分からないような言葉を。
「あ、アーシャ姉さんなのっ‥‥‥?」
「ああ。お前のその呼び方、久しぶりに聞いたよ」
「っ、アーシャ姉さんッッ!!!」
エリスが勢いよく飛び込んでくるのを、アーシャは真正面から受け止めた。力強く抱き締めてくるエリスの頭を撫でる。
「本当に大きくなったな。それに、私に似て綺麗になった」
「姉さんっ、姉さん‥‥‥姉さんが生きてたなんてっ‥‥‥!! アーシャ姉さんにまた会えるなんてっ‥‥‥!!」
「私も、ずっとお前に会いたかった。小さい頃から会えていない、お前に」
「あぁっ‥‥‥アーシャ姉さぁぁぁんッ!!!」
エリスが止めどなく涙を溢れさせ、アーシャの胸で泣きじゃくる。そんな彼女を、アーシャは優しく背中を摩る。
「どどどどういうことですかぁぁぁぁ!!!?」
そんな2人を見て、ユリアが手をあたふたさせて絶叫する。ダニエルは左目を見開いて絶句し、驚愕でわなわなと震えている。
「さ、さすがにその発言には心底驚かされたな」
そしてルークすら、普段の態度が見えないほど両目を見開いて口を震わせている。
「お前のそんな顔が見れるなら、ここに来て良かったよ」
それを見たアーシャが意地の悪い笑みを浮かべ、エリスの頭を撫でながら話し始める。
「私の母はエレオノーラ・アルデナ。父はデビット・アルデナ。そして私とエリスを含めて、4人家族だ」
次々と出てから新情報に、ルークが尻餅をついて乾いた笑みを浮かべる。
そんな中、真っ先に声を出して驚いたのは、ユリアだった。
「えぇぇぇ!? ととということはっ、アリスティアさんも私たちの従姉妹って、事ですか!?」
「ああ。それにアリスティアは本名じゃない」
「ぶぇぇぇぇぇッッ!!?」
ユリアの絶叫が何度も王の間に浸透していく。両手を後ろについたルークは、次第に壊れたかのように笑い始める。
「はははっ!!新事実の連発で、頭がおかしくなりそうだ‥‥‥」
「いいザマだな。じゃあトドメを刺してやる」
アーシャは高らかに笑うと、一度瞬きして両眼を見せ付ける。
「なっ!!?」
彼女の右目と左目には‥‥‥聖痕が宿っていた。
ルークが素っ頓狂に叫んだのは、それが理由ではない。
「勇者の聖痕と、賢者の聖痕っ‥‥‥!?」
それは語るまでもない、絶対強者の証明。
右目は勇者、左目は賢者。
最強という言葉は、まさに彼女にこそ相応しい。
「これで分かっただろ。私とエリスは姉妹で、お前たちとは従姉妹だ」
そう言って、アーシャが揶揄うように笑った直後。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!?」」
ユリアとダニエルの絶叫が同時に重なった。
‥‥‥数分後。
グロッサ城内、医務室。
「‥‥‥」
ベッドで休むアイト以外に、椅子に座るのは7人。
行儀良く彼の横に座るエリス。
負けじと近くに椅子を寄せるシロア。
今も目を白黒させるダニエル。
その隣で口をぽかんと開け続けるユリア。
苦笑いを浮かべるルーク。
「まず私の名はアヴリス・アルデナ。家族から呼ばれる愛称はアーシャ。だが王立学園に入学する際、両親に名前は伏せろと言われた。その理由を、私は今知ったけどな」
そして全員の視線を浴びながら、足を組んで飄々と話すアーシャ‥‥‥いやアヴリス・アルデナ。
「だからアリスティア・ルーライトと名乗っていた。それがお前たちが知っている、学生時代から5年前までの私だ」
「もう、どんな情報が出ても驚かない気がします‥‥‥あなたはいつも、僕の想像を超えてくる」
ルークが呆れながら声を漏らす。5年前の事を思い出し、懐かしむように笑っている。
「さっきも言ったが、そこで寝てるアイト・ディスローグは私の弟子だ。エリスを助けてくれた恩返しとして、鍛えてやった」
「アーシャ姉さん‥‥‥私がアイに助けられて、一緒に過ごしてきたのを知ってるの?」
次に声を出したのはエリスだった。姉の言葉に驚き、気になって仕方ない様子を見せる。
「ああ。私にはこれがあるからな」
アヴリスが自分の右眼‥‥‥勇者の聖痕を指差す。まるで宝石のように真っ赤な瞳。
「私が言っている事、お前なら分かるだろ?」
「‥‥‥ええ。どうやらアイと私の事は全て筒抜けみたいね。さすが姉さんと言っておくわ‥‥‥」
その聖痕を両眼に宿すエリスが、姉の言葉を素直に納得した。
「まあ、そういった話は後にしよう。私が1番話したいのは‥‥‥この生意気な弟子の事だ」
アヴリスがしゃがみ込むと、意識のないアイトの頭をグリグリと撫でる。
「私は1年前に見つけたんだよ。こいつと行動を共にしているエリスを」
「姉さん、それっていつ?」
「大量の魔物が平原から侵略してきた時だ」
「‥‥‥そんな事、確かにあったわね」
「魔物を殲滅した10人の中に、お前がいた。そしてお前が信頼を寄せていたのが、こいつだった」
アヴリスは不機嫌そうに話しながら、アイトの頭をグリグリし続ける。意識の無いアイトが、少し苦しそうに呻く。
「‥‥‥あ、あの。やめてあげてください」
シロアが小声で注意を促すと、アヴリスは息を吐きながら手を離す。
「エリスは私と同じで特別な力を持っている。それをこいつが悪用してないか、そもそもこいつを調べる必要があった。この右目なら遠くからでも監視できる」
「あなたが1番悪用してますよね」
ルークが小言を挟むが、アヴリスは無視して話を続ける。
「生まれは一般的だが、実力は年齢を加味すれば将来性あり。それと性格は優しくて聡い。そして謎の組織『エルジュ』の代表。妹の目に狂いは無かった」
「ずいぶん上から言ってますね」
またもルークが小言を挟むが、アヴリスは無視して話を続ける。
「それに何より‥‥‥エリスを大切に思い、守ろうとしていた。こいつならエリスを託してもいいと思った」
「アイ‥‥‥」
エリスが頬を赤くし、目を輝かせて一点を見つめる。今も仰向けで眠っている、アイト・ディスローグを。
「アイトは日々の平穏を守るために、裏で暗躍して悪と立ち向かっていた。事情を知らない奴らに悪と蔑まれようともな。その心意気を、私は気に入ったんだ」
アヴリスが優しく、アイトの頭を撫でる。
「‥‥‥だから、彼の行いを肯定しろと? 僕たちとも何度も交戦した彼らを」
今度のルークの言葉は、決して小言ではなく反論だった。
「そうは言ってない。だがこいつらの有用性は相当なものだ。お前たち王国側よりも、『地獄行』の些細を熟知し、何度も悪行を阻止している」
「‥‥‥ゴートゥーヘル? なんですか、それは」
そんな言葉を聞き、話を聞いていたエリスが静かに笑う。『やっぱり知らないのね』と言わんばかりの表情。
「世界を混沌に陥れようとしている犯罪組織だ。国の崩壊、聖者の血の悪用などを率先して行っている覆面集団」
「覆面‥‥‥何度か見たことがあります。『魔闘祭』の時に大量に湧いて出ました」
「そこの王女誘拐、魔闘祭、アステス王国のパレード‥‥‥様々な事件を引き起こしたのが『地獄行』。それを止めているのが、アイトたちだ」
「な、なんということだっ‥‥‥極悪だと決め付けていた謎の集団が、実は犯罪組織を止めるために存在していたというのか」
真っ先に声を上げたのは国王ダニエル。どこか悔しそうに歯を噛み締めている。
「し、仕方ないですよお父さま。『エルジュ』の皆さんは表立って行動していなかったんですから。でも、これでアイトくん、いや『エルジュ』の事を分かってもらえましたか?」
ユリアが励ますと同時に、どこか嬉しそうに話をしている。アヴリスの説明とユリアの言葉に、国王ダニエルの表情が少し和らぐ。
「ーーー長々と楽しくお喋りしてる場合じゃないんですよ。今回の一件を早く皆に説明しないといけない」
その空気を壊すように、ルークが淡々と話を切り出した。
「そして何より‥‥‥『エルジュ』のトップである彼を、これからどうするか」
そして彼はベッドを見つめて、そこに眠る黒髪少年を一瞥する。その態度に、空気が一変する。
ルークは、両手を前に組んで話し始める。
「アイト・ディスローグを始めとする、『エルジュ』の全構成員はグロッサ王国軍に入隊。実力に合わせて確かな賃金と地位を約束する。それが僕に出せる最大限の譲歩です」
「ーーーだから、それは無理だと言ったでしょ?」
当事者でもあるエリスが口を挟み、心の底から否定を示す。
「アイが私たちのトップじゃないと、『エルジュ』は機能しない。私は当然として、他の構成員も彼以外の指示は受け付けないわ」
「じゃあ、君たちの組織丸ごと王国軍の傘下に入る。それなら、君たちが大好きな彼が直属の部隊長だよ?」
「そのアイに指示を出すのはあなたでしょ? そんなの到底認められないわね。アイを自分の下に付かせようとしているのが、心底気に入らないわ」
ルークの嫌味たらしい言葉に、エリスが吐き捨てるように言い返す。
「‥‥‥君はまるで子供だね。こっちが譲歩してるのに文句ばかり。彼の右腕は君だと思ってたけど、もしかして他にいるのかな?」
「これまで何度も大勢を救ってきた彼を、王都を魔物に占拠された無能王子の下に付けるのはおかしいでしょ?」
「ーーーそもそも何で怪しい組織なんて設立したのかな? この国の平穏を守りたいなら、王国軍に入って活躍すればいいじゃないか」
「『地獄行』の存在すら知らなかった王国軍に? ふっ、笑わせないでくれる? いつも後手に回ってる軍なんて全く信用できないわね」
2人の言葉には完全に苛立ちが混ざっていた。椅子に座りながらも嫌悪感を醸し出す両者に、誰も割り込むことができない。
「っ!?」
「!」
2人の前で勢いよく両手を叩き、けらけらと笑うアヴリス以外は。
「従姉妹のくせに相性最悪だな。まあ2人の言い合いはなかなか面白かったが」
彼女は楽しそうに笑いながら、足を組み直して一息つく。
「それなら私が1つ提案しよう。かなりの決断を迫られる話だが」
アヴリスは不敵に笑い、全員を見据えて口を開く。
「『天帝』レスタが、王女のどちらかと婚約するのはどうだ?」
そして、爆弾のような提案を投下した。




