最高戦力
「チッ!!」
アイトは思わず、舌打ちしながら駆け出す。
意識の無い国王ダニエルに迫る、斬撃を止めるべく。
「っ!!」
寸前で間に合い、聖銀の剣で斬撃を受け止める。
当然、魔王軍第三将軍の斬撃魔法は、簡単に防げる代物ではない。
「っ、らッ!!」
少し拮抗した後、アイトは全力で聖銀の剣を振り払って、斬撃を弾き飛ばす。
「ーーー何を満足している?」
アイトが国王の窮地を救った瞬間。
ルシフェルは既に、右手を前に突き出していた。
「ぁ‥‥‥」
その先には、足が竦んで動けない第二王女ユリア。数日間軟禁状態だった彼女は、身体が重く力が入らない。
「実に愚かだな」
「くそッ!!」
アイトは声を漏らしながら飛び込み、ユリアに迫る斬撃を剣を割り込ませて受け止める。
だが、さっきよりも反応が遅れたため、受け止めた時の体勢が悪い。
「ご、ごめんなさいっ‥‥‥!! 足を引っ張ってッ‥‥‥!!」
ユリアが涙を流して謝罪する中、アイトは左肩から出血させる。
「ぐッ、ダッ!!」
辛うじて斬撃を弾き飛ばした瞬間ーーー飛び込んできたルシフェルの左足が、アイトの脇腹に減り込む。
「ぶっ‥‥‥!?」
「容赦せず徹底的に叩く。それが戦闘というものだ」
何度も床を転がり、背中から壁に激突するアイト。顔を上げた瞬間には、ルシフェルの魔の手がユリアに迫る。
「ーーーいい加減にしろッ!!」
アイトは不恰好な体勢のまま走り出し、彼女に振り下ろされるルシフェルの左腕を切り飛ばす。
「本当に残念だ」
ルシフェルの左腕が瞬時に再生。さっきの振りかぶった勢いで、剣を振り抜いたアイトに叩き込む。
「ぐッ」
「そろそろ魔力解放も尽きるんだろ? 最後に少しは足掻いてみろ」
やがて、必死にユリアを引き連れて引き下がったアイトは。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥」
数分も戦っていないのに、激しく息切れしている。身体に掛ける治癒魔法の効きも鈍い。魔力解放状態に終わりが近づいている前兆だった。
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ‥‥‥!!」
背中にいるユリアが、嗚咽を漏らして涙を流す。今の彼女からは、微塵も魔力が感じられない。
「魔力封じの手錠と魔力吸収の手錠を付けられててっ、今の私は治癒魔法すらあなたに掛けられないっ‥‥‥!」
両手の手錠がガチャガチャと音が鳴る。それは彼女が嗚咽で身体を震わせているから。
「‥‥‥大丈夫。絶対に勝つから」
アイトは穏やかに微笑んで、ユリアの肩を優しく叩いた。ユリアは顔を上げて目を見開き、仮面越しのアイトを見つめる。
「勝、つ‥‥‥? こんな、劣勢で‥‥‥?」
「ずいぶんと面白い事を言ったもんだな。仮面少年」
会話に割り込むように、ルシフェルが嘲笑を浮かべて話しかけてくる。
アイトは後ろ手で彼女を下がらせると、不敵に笑ってみせた。
「言ったよ。お前にも聞こえるようにな」
アイトが宣言した瞬間‥‥‥ユリアを囲むよう円形の魔力が発生した。それはまるで、彼女を守る黒い障壁。
その障壁は、国王ダニエルにも同様に発動している。
「ほう? てっきり、ここから『魔燎創造』という荒技に踏み切ると思ったら、こんな浅知恵とはな」
アイトは何も言わずに剣を構える。
『魔燎創造』は、確かにこの状況を打開し得るものである。
(どうせあいつも魔燎創造で対抗してくる。そうなったら、先に出した俺の魔燎が壊されるだけ‥‥‥)
だが後出しでない限り、有利な状況を引き込む事にはできない。
それは『使徒』シャルロット・リーゼロッテから教わった『魔力創造』の基本知識。
つまり『魔燎創造』は、戦いに於いて発動することは無くほとんど‥‥‥牽制として意味を成す。
「どうやら、魔燎創造を最低限くらいは理解しているようだな」
「化け物と話す事は無い。さっさと終わらせる」
『魔力解放』の時間切れが迫る中‥‥‥アイトは床を蹴る。右手に聖銀の剣を握り締め、距離を詰める。
ルシフェルが真横に繰り出した斬撃魔法は、ダニエルの前にある黒い魔力障壁が阻止。
その間に、アイトは至近距離から剣を振る。黒の魔力を剣に纏わせ、渾身の一撃を放つ。
「はぁッ!!!」
アイトの一撃は、半端逸れたルシフェルの左肩から、その下を全て切り落とす。だが、ルシフェルの身体は瞬きの速さで再生する。
「ーーー避けたな?」
そう呟いたアイトは、至近距離から斬撃を受けて吹き飛ばされる。
(避けたからには攻撃は通るっ‥‥‥まだ戦える)
アイトの両目には、確かな意思が宿っていた。
◆◇◆◇
「えり、エリスっ!」
王都ローデリア、西地区の端。ジャックによって維持されている半透明の壁、その上。
「ひさっ、おひさひさ!」
毒魔法で魔人を攻撃していた序列8位、リゼッタ。 彼女は僅かに目を見開いて、驚きの声を出した。
「久しぶりね、リゼッタ。後は任せて」
その相手はエルジュ構成員、序列1位エリス。
嬉しそうに微笑む彼女は、躊躇なく壁の上から飛び降りる。担いでいたカンナを、序列8位リゼッタの隣へ降ろしてすぐに。
「まだ敵いっぱいっ!」
「え!? エリス飛び降りたの!?」
リゼッタとカンナの声を背中で感じながら、魔人たちの中へと飛び込んでいく。その数、18。
「ーーーッ!!」
壁を蹴って急降下したエリスは、勢いよく抜剣して黒い血飛沫を起こす。剣の一振りで、2匹の魔人が仰向けに倒れ込んだ。
「ふッ」
地面に着地したエリスは、大きく足を踏み出して華麗に舞う。
勇者の魔眼による未来視を利用した、彼女にしか出来ない最適解の軌道を辿る。
エリスの進化した‥‥‥【剣戟】。
「エリス、すごっ。はやはやいちげき」
「見えないけどリゼッタの反応で何となく分かるよっ、こんな饒舌なの珍しいし!」
壁の上で話す2人が、完全に応援ムードでエリスの絶技を見届けていた。魔人に攻撃させる事すら許さない、完全無欠な剣の舞。
「これで終わりね」
足を止めたエリスが小さく息を吐き、剣に付いた黒い血を振り落とす。彼女の周りには、平伏すように18の魔人が倒れている。
「すご、すごすごエリスっ」
「ね!? 末恐ろしいよね本当にっ!!」
エリスは風魔法の応用【飛行】で身体を浮かせ、壁の上で話す2人の前に着地する。
「もう魔人の気配は感じないわ。だから後はーーー」
淡々と話すエリスから、笑顔が消える。彼女を含む3人は、突然の圧力に押し潰されそうになっていた。
「ななななな何これっ!?」
「わわわわわわからぬ」
カンナがうつ伏せ、リゼッタが四つん這いの状態で声を震わせる。喉が、いや全身が震えているのだ。
数秒もすれば、身体の骨が粉々になるほどの重圧。
「はぁッ!!!」
片膝を付いたエリスは両手を広げ、勢いよく振り上げる。彼女の身体から風が吹き上がり、周囲を優しく包み込む。
「たた助かったっ」
「すすすまぬ」
すると身体にかかる謎の圧力が消え、カンナとリゼッタが立ち上がる。そして既に立ち上がっていたエリスは空を見上げる。
「‥‥‥リゼッタ。カンナを連れて離れてて。西地区周辺には、誰にも人を寄らせないで」
エリスはそう言い告げると宙に浮き、上下へと急上昇する。カンナとリゼッタが何かを言っていたが、それをあえて無視して進む。
「あの魔人は作られた生物だと聞いたわ。あなたたち外道が作った生物兵器だと」
エリスは上空で停止し、目を細めて淡々と話しかける。同じ目線の高さにいる‥‥‥赤い髪の女性へと。
「文字通り、高みの見物かしら? 王都破壊の切り札だった魔人を壊されたのに、ずいぶんと余裕そうね」
エリスは話し続ける。湧き上がる怒りを発散するかのように、口から言葉を吐き出していく。
対して赤い髪の女性が、終始エリスを冷たく睨み付けている。
「‥‥‥本当に邪魔してくれるわね、いつもいつも。エレミヤとクロエはそれを楽しんでるようだけど、私には虫唾が走るわ」
女性の口から放たれたのは、純度100%の憎悪。エリスはどこか嘲笑うかのように口角を上げていた。
「それなら良かったわ。できるだけ苦しんでもらいたいから。関係無い人を巻き込む外道にはね」
「もうお喋りはいいかしら? そろそろ両眼をくり抜かれる覚悟はできた? 前みたいにレスタの助けはいらないの?」
両者、煽りに煽りで返す。互いに相手のことが憎くて仕方ない。
「第一席のあなたが死んだら、お仲間の士気はどうなるのかしらね」
「お前が死んだ時、レスタの反応が楽しみだわ」
『エルジュ』の序列1位、エリス・アルデナ。
『地獄行』の第一席、ノエル・アヴァンス。
「この日を待ち詫びたわ」
「泣き喚くのかしら!?」
組織の最高戦力が、衝突する。




