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王子じゃありませんように

 (はあ、なんで出場しないといけないんだ)


 アイトは心の中で愚痴を溢しながら廊下を歩く。


 アイトは大会の受付に出場辞退を申し出たがすでにトーナメントを組んでしまっているため健康である限り出場してほしいと受付係に涙目で頼まれた。出たくないアイトでもそこまで言われたら断れない。


 そのためとりあえず放課後に掲示板に貼られる明後日のトーナメント表を確認して、対戦相手をチェックしておこうと思ったのだ。


 掲示板の前に着いたアイトはトーナメント表を眺めて確認する。


 (あの王子じゃありませんようにありませんように)


 自分とルークの名前を血眼になって探す。


 (お!! やったぁぁぉぁぁぁぁぁ!!!!!)


 アイトの思いが届いたのか、ルークとは決勝まで当たらない位置となっていた。それにアイトは 1回戦で負けるつもりである。 1回戦でルークが来なかっただけで満足だった。


 次にアイトは自分の対戦相手の名前を確認する。


      1年Dクラス ギルバート・カルス


 (あ、同じクラスの人か。まだ交流ないけど

  とりあえず王子じゃなかったら誰でも良い!)


 アイトは不幸中の幸いだと喜んでそのまま帰路に着くのだって。




 2日後。グロッサ王立学園武術大会当日。休日のため学園はない。学園内の闘技場で大会は行われる。


 午前が女子の部、午後が男子の部。


 半日で両方の部が終了するほど出場者は多くない。武術に自信のない者は参加しないし、自信のある者でも参加しない人は少なくなかった。女子の部は30人。男子の部はアイトを含めて40人だった。


 アイトは一応出場者のため観客席に座って女子の部の試合が始まるのを待つ。


 (‥‥‥あ。あれって)


 アイトは少し前の席で1人で座っている少女を発見した。


 「クロート先輩、おはようございます」


 「‥‥‥(ビクッ! ‥‥‥コクッ)」


 アイトに話しかけられて驚く様子を見せ、アイトだとわかり頷くシロア。


 「1人ですか? 俺も1人なんですよ。

  隣で見て良いですか?」


 「‥‥‥(コクッ)」


 頷いたシロアを見てアイトは彼女の隣に腰を下ろす。


 「クロート先輩は出場するんですか?」


 「‥‥‥(ブンブン)」


 「そうなんですね。俺も本当は出たくないんですよ。

  こういう目立つの結構苦手で」


 「‥‥‥(! コクコク!)」


 「先輩もそうなんですね!」


 シロアが強く共感してくれたことに嬉しくなり、アイトは試合が始まるまでシロアとの談笑(シロアは一言も発していない)を楽しんだ。


 そのため周りの人たちから注目を浴びていることに全く気がつかないアイトとシロアだった。


 女子の部はマリアの一強だった。他を寄せ付けず圧倒的な実力で優勝。


 「あ、もう男子の部が始まりますね。

  俺、実は最初の試合なんですよ。

  それでは先輩、行ってきますね」


 「‥‥‥(フンスッ!)」


 シロアは手を握りしめて胸の前に突き出しブルブルと振るわせる。アイトは最初どういうことか気づかなかったが、すぐに応援してくれていると気づいた。


 「あ、ありがとうございます! それでは」


 アイトは感謝と罪悪感を感じながらシロアの元を去る。


 (ごめん先輩。俺、わざと負けるんだ)




 「それでば男子の部を始めます! 1回戦第1試合!

  アイト・ディスローグ対ギルバート・カルス!!」


 アイトは自分の名前が呼ばれたため控え室から闘技場に歩いて移動する。大会用の鉄剣は腰のベルトに差している。


 「アイト〜!! 勝ちなさいよ!!!」


 「アイトくん、がんばって〜!!!」


 「‥‥‥(フンスッ!)」


 (ゲッ! ユリアまで大会を見に来てたのか!

  ていうかクロート先輩と面識あるんだ!?)


 声がした方を向くとマリア、ユリア、シロアが固まって観覧席に座っていた。


 アイトは応援の声を聞きながら(主に2人)、対戦相手と対峙した。


 相手のギルバート・カルスは茶髪で筋肉質の体、身長、体格ともにアイトより大きい青年だった。


 「それでは両者、構え!!」


 名前を呼ばれた2人はお辞儀をして互いに敬意を示し、それぞれ自分の武器を構える。


 そこでアイトは相手の武器を見て動揺する。


 (え?? 大剣!?)


 大剣、または両手剣と呼ばれる武器。剣身がとても長く、重量も凄まじくある持つだけでひと苦労な武器。使いこなすにはかなりの鍛錬が必要である。


 身長が平均であるアイトにはとてもじゃないが扱えない武器だった。


 「では‥‥‥始め!!!」


 「うおおおぉぉぉ!!!!!」


 「!」


 開始の合図と共にギルバートが大剣を両手に持ったまま走ってアイトに接近する。大剣を担いでいるにも関わらずかなりの速さ。観客が驚きの声を上げる。


 「ウラァァッ!!!!」


 アイトはギルバート横薙ぎの攻撃をしゃがんで避ける。


 「ハアッ!!」


 「!?」


 するとギルバートは横薙ぎ中の軌道を強引に縦切りへと変化させた。


 (なんてパワーだ!)


 アイトはしゃがんだ体勢で地面を思い切り蹴って後ろに体を後ろに重心を置く。そのまま地面の上で後転して距離を取る。その直後にさっきまでアイトがいた場所で轟音が聞こえ、そこには穴が空いた。


 (うわっ、怖!!!)


 アイトは急いで立ち上がって距離を取る。


 この攻防を見た観客から凄まじい歓声が上がった。


 「よく避けたわアイト! さあ反撃よっ!!」


 「マリアさん落ち着いてください!?」


 「‥‥‥(‥‥‥)」


 マリアが観客席から乗り出して大声を上げる。それを注意するユリアと何もしないシロア。


 「へっ、上手く避けたな! なかなかやるじゃねぇか!」


 「君パワーおかしくない!?

  俺避けてなかったら死んでたよ!?」


 「死にはしねえよ? まあ死ぬほど痛いだろうけどな!!

  だが、まさかあれを避けられるとは思わなかった。

  それじゃあ準備運動はこのくらいにして、

  そろそろマジで行くから、な!!」


 (速い!?)



            キィンッッ


 アイトの剣は後方へ飛んでいき音を立てて地面に落ちた。


 「そこまで! 勝者、ギルバート・カルス!」


 アイトの剣はギルバートの大剣がぶつかった際に手から離れて地面に落ちた。それがアイトの敗北を意味していた。


 観客は2人を讃えて歓声と拍手を贈る(ほとんどがギルバートに対してなのは言うまでもない)。


 「もう〜!! 何やってんのよアイト!!」


 「マリアさん落ち着いてください〜!」


 「‥‥‥(‥‥‥)」


 マリアが叫ぶのをユリアが止め、シロアがそれを眺める。


 アイトはギルバートにお辞儀をして闘技場を出て控え室に戻る。


 アイトはなんともいえないという表情をしていた。それは負けて悔しかったからというわけでは全くなかった。


 (完全にミスったなぁ‥‥‥俺の落ち度だ)


 アイトは反省しながら控え室を出ていくのだった。


 一見するとアイトはギルバートに圧倒的実力差で負けたように見える。生徒のほとんどがそう感じた。


 だが、アイト自身が失敗したと思っていること気づいた人間が少なからずいた。



     (ほう‥‥‥マリアの弟くん。何かあるな)



 気づいた人間の中には、ルークも含まれていたのだった。

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