記録 精鋭部隊『黄昏』No.8、『腐乱』リゼッタ
エルジュ戦力序列、第8位‥‥‥『腐乱』リゼッタ。
これは彼女の、訓練生時代について記した記録である。
「いっぱいどく」
リゼッタは元々、毒への強い耐性を持つ。
そのため幼少期に両親に捨てられ、毒沼に落ちてしまっても生き延びた。毒沼に浸かっていた期間は相当なもので、次第に毒魔法が扱えるようになっていく。
「‥‥‥」
だがその幼少期にまともな教育を受けることができなかったことにより言葉遣いは独学で、話し方は今も勉強中である。
「レーくん、レーくん」
話す言葉が少ないといっても、感情が薄いわけではない。彼女の目には、確かな意志が宿っている。
「よろすく」
会話が苦手ではあるが幼く素直であることから、多くの仲間たちに可愛がられる。
「おはよ、みなのもの」
訓練生内のお世話したいランキングは、堂々の第1位。ちなみに、組織内で最年少の13歳。
「がんばり、がんばろ」
そんな彼女が挑んだ試験の最終項目、ラルド教官との実戦。
訓練場。
「リゼッタ、準備は良いか?」
「おけ、まる」
2人が交わす言葉は少ない。実戦試験は、すぐに始まった。
「えいっ」
「っ!!」
リゼッタは両手から毒を溢れさせる。ラルドが彼女の戦闘体勢が整う前に、勢いよく攻め込む。
「ぬんっ!!」
今回のラルドの武器は長剣(鍛錬用)。
毒魔法使いのリゼッタに、刀身が短い短剣は相性が悪いと考えたからだ。
ラルドが服のポケットに仕込んでいた、投げナイフ(訓練用)を投げる。
「【どく、ぼーる】」
リゼッタは飛んでくる数本のナイフを、球状の毒を発射する事で撃ち落とす。
その隙を突きラルドが背後に回り込み、長剣を横に振り抜く。
「あぶしっ」
リゼッタはまだ13歳。訓練生の中で最年少である。そのため身体はまだ発達しておらず、身体能力は今の時点で低いのは否めない。
「あぶなし」
リゼッタの脇腹に彼の長剣が直撃‥‥‥しない。直前に出現した毒の壁が、長剣を受け止めていた。
「なに!」
リゼッタは無表情のまま、長剣を毒壁の中へと引きずり込む。
「ちっ」
手に毒が付着する前に、ラルドが剣を離す。そして後方に跳躍して、リゼッタから距離を取る。
「ぽん」
リゼッタは毒の壁から、勢いよく長剣を噴出する。飛んできた毒まみれの長剣を、ラルドが難なく回避する。
「よい」
その間に、リゼッタはしゃがみ込み‥‥‥両手を床につけていた。
「【どく、うみ】」
彼女の両手から毒が溢れ、床に広がる。
このままだと足場が毒だらけになるのは時間の問題。
「!!」
そう判断したラルドが、【血液凝固】を両足に施して接近する。
「ーーー」
次に【血液凝固】を施した右手で、懐から出した短剣(訓練用)を持つ。そして距離を詰めながら、リゼッタめがけて勢いよく投擲した。
「わい」
リゼッタは体を後ろに倒すことで、かろうじて短剣を回避。
彼女はそのまま、毒が浸透していない床まで転がっていた。
「ーーーっ!!」
その隙を、ラルドが見逃さない。
仰向けに寝転がったリゼッタを見下ろし、拳を振り抜く。
そして‥‥‥リゼッタの鳩尾に当たる寸前で、拳が止まった。振り抜いていれば、間違いなく致命傷になっていた。
「‥‥‥ここまでだ。これで試験を終了する」
つまり、実戦形式の試験が終わりを迎える。
「きょーかん、つおい」
リゼッタは仰向けに寝転がったまま、無表情で話しかけていた。
「勝敗は‥‥‥引き分けだ」
「ひき、わけ?」
リゼッタは‥‥‥鳩尾に毒を纏っていた。実際の戦闘ならば、相討ちになっていた可能性が充分にあった。
「前よりも毒魔法の練度‥‥‥毒の扱いが上達している」
「おん」
堂々と親指を立てるリゼッタ。ちなみに無表情である。
「今回の試験の結果は後日伝える。ご苦労だった」
「おけ、まる」
唐突にダブルピースするリゼッタ。ちなみに、無表情である。
「‥‥‥」
そして今でも、彼女との接し方が全くわからないラルドだった。
◆◇◆◇
リゼッタが後に知らされた実戦の点数は‥‥‥80点。
「やり」
勝敗は引き分けだが、リゼッタが優勢な場面が多いこと。それが主な点数。
他には以前よりも毒魔法、毒の扱いの上達、戦闘の理解ができていたことから得点の加算に繋がる。
彼女は幼いながらも、教官ラルドに確かな実力を見せつけた。
「やった、やりまる」
数日後‥‥‥リゼッタは序列8位に選出され、精鋭部隊『黄昏』への所属を果たす。
「レーくんと、いっしょ」
リゼッタは、これからも成長していく。
以上が、訓練生時代のリゼッタの記録である。




