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【40万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
1章 王立学園入学

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記録 精鋭部隊『黄昏』No.9、『破魔矢』ミスト

 エルジュ戦力序列、第9位‥‥‥『破魔矢』ミスト。


 これは彼女の、訓練生時代について記した記録である。


「ひえぇぇっ!!」


 ミストは幼少期から暗殺の術を学び、ラルドが総帥を務めた暗殺組織『ルーンアサイド』では、若年ながら側近を務めていた。


『おいっ、ミストだぞ』


『冷徹ミスト様のお通りだな』


 そのため同僚からは畏怖の対象となっていた。

 組織がレスタ(アイト)の配下になり、組織名が『エルジュ』となるまでは。


 そして、訓練生からのミストの評価は‥‥‥以前と全く異なった。


「ひぇぇぇぇ!!!!」


 とある体術の訓練で、ミストは悲鳴を上げた。

 彼女は極度の怖がりで気が弱かったのだ。そのことを『ルーンアサイド』時代は必死に隠していた。


 だがラルドがレスタに敗れた時に、同僚だったターナに自分の本性を知られてしまう。


(我慢する必要無いですよねっ)


 隠す意味が無くなったことで、これからは驚いた時に遠慮なく奇声を上げようと決意した。


「ひぇぇぇッ!!?」


 そして無理に隠さなくなってからは、無意識に抑えられていた力が開花した。


 怖がりのミストは、周囲を常に確認する習慣があった。そのため視野が広く、培ってきた暗殺術が以前よりも活かされるようになったのだ。

 そんな彼女は訓練生として最後の試験を受ける。以前の従うべき主との実戦を。



 訓練場。


「いやですっ、ボスと戦うなんてぇぇぇ!!」


 試験開始前から、ミストは半泣きだった。


「ミスト‥‥‥今の私はボスではなく、教官だ。これからのボスは、レスタ殿だ」


「呼びたくないいぃぃ!!!」


 そしてミストは、代表であるレスタのことが‥‥‥あまり好きではない(むしろ嫌い)。


 彼女にとって、仕えたいと思うのはラルドだけだった。当然、本人や周りの人たちには言っていない。レスタを慕う訓練生が大勢いるからだ。


「‥‥‥ミスト」


「ひゃい!!」


「‥‥‥レスタ殿のことを、無理にボスと呼ぶ必要はない。だが、私をボスと呼ぶのは認められない」


「なんでですかあぁぁ!!」


「体裁の問題だ。代表はレスタ殿。それなのに教官の私をボスと呼ぶのは失礼に値する。レスタ殿にも仲間にも、そして私にもな」


「ひえぇっ」


「‥‥‥側近だった其方が、納得いかないのは理解できる。全員がレスタ殿に忠誠を誓ってるとは、思っていない。だが、少なくとも私は誓っている」


 ラルドのレスタに対する忠誠、信頼は本物だとミストは感じた。


「ぼ、ぼっす!! いえ教官んんっっ!!!」


 だから彼女は信じてみようと思った。自分が尊敬している人が、信頼している銀髪仮面の少年を。ミストは涙を流しながら決意した。


「うむ、それでいいのだ。悩むのは悪いことではない。いつでも相談に乗ろう」


「いつでもいいんですねっ!!?」


「では始めるぞ。無論、手加減はいらん。全力でかかって来い」


「はああいぃぃっ!!」


 涙を手で拭ったミストは短剣を握り締め、全力で走り出す。ミストが主に使う武器は、弓。


(短剣の方がいいですよね!!)


 だが一対一の近接戦闘では弓は隙だらけになるため、元暗殺者として使い慣れている短剣(試合のため鍛錬用)を選んだ。

 そしてラルドも同様に、短剣(試合のため鍛錬用)である。


「やいっ!!」


 ミストは神経毒が塗られた針を数本投げる。ラルドが当然それを回避する。


「ひゃっ!」


 ミストは接近して短剣を振ると、ラルドが自分の短剣で受け止める。


「ひゃぁっ!?」


 自分から振りかぶって攻撃したにも関わらず、ミストは押し返される。ミストとラルドでは、純粋なパワーが違いすぎる。


「甘いぞ」


 押し返されてのけぞったミストを、ラルドが当然逃がさない。短剣を持っていない左手で、鳩尾狙いの掌底を放つ。


「ひえええぇ!!!」


 声を上げたミストは咄嗟に右足を上げる。当然、掌底が右足に直撃する。


「いたぃッ!?」


 直後、そのまま腰を後ろに曲げて両手をつきバク転。その時に右足を振り上げることでラルドの左腕を弾く。


「よく防いだ」


 バク転して体勢を整えたミストに、ラルドが独り言を漏らす。


「いたぃ‥‥‥っ」


 ミストは涙目で口を歪ませていた。掌底を受けた右足から鈍痛が広がる。

 彼女は今、立っているのが精一杯の状況だった。


「‥‥‥っ」


 そして、ミストは痛みで絶叫する‥‥‥と思いきや歯を食いしばる。


 元暗殺者のミストは、痛みに慣れている。

 というより痛みで恐怖心が生まれないから、叫ばないと言ったほうが適切。


「しばらくはまともに動けない。ここまでにするか?」


「い、いやですぅぅ!!! 痛みに屈服する暗殺者は、暗殺者じゃありませんっ!!」


「よく言った」


 ラルドが一瞬だけニヤリと笑うと、容赦なくミストとの距離を詰める。


「‥‥‥‥‥‥」


 すると、ミストは目を瞑っていた。


(感覚を研ぎ澄ませ、反撃に全てを賭けたのか。いい判断だ。だが‥‥‥)


 ラルドが不規則に、速度を変えて近づいていく。


「ーーーやっ!!」


 ミストは目を開いて、本気で短剣を振る。その短剣の振りは、常人なら目に映らない。


「!!」


 弾いたのは、ラルドの短剣だった。


 2度目のミストの隙を、ラルドは確実に逃さない。


 短剣を振って伸び切ったミストの右腕を、ラルドが左手で掴んで自分の方に寄せる。


「ふんっ!!」


 そして右手で、ミストの首を掴んで持ち上げる。


「ぁ、がっ‥‥‥!!」


 身長が低いミストの足が、床から離れる。ラルドが小さく息を吐き、腕の力を緩めようとする。


「よくやった。さっきの反撃は見事でーーー」


 突然‥‥‥後ろで団子にまとめていたミストの髪が、スラリと落ちる。

 そして、ラルドの脇腹に‥‥‥かんざしが刺さっていた。


「なに‥‥‥!!?」


 目を見開いたラルドが、脇腹に刺さったかんざしを注視する。


 ミストは右腕を掴まれ引っ張られる瞬間、ラルドの意識が外れていた左手でかんざしを外す。

 そして、ラルドの視界に入らないように脇腹へ投げ付けたのだ。


「毒は塗ってませぇぇぇんッ!!!」


 今も首を掴まれているミストは、涙目で必死に叫んでいた。




 試験終了後。


「ふぐっ、怖かったぁぁ‥‥‥ふぇぇぇぇんっ、とっても怖かったですぅぅ!!!!!」


 ミストは床に座り込んで号泣を始める。


「す、すまなかった。怖かったか」


 それは、ラルドが動揺するほどのガチ泣きだった。


「ミスト‥‥‥成長したな」


「ふぇぇんぅぅ!!!!」


 ミストは泣き続ける。ラルドが話を続ける。


「初めからかんざしを刺すことが狙いで、目を瞑る反撃体勢は私を釣るための罠」


「ふぇぇぇんっっっ!!!!!」


 ミストは泣き続ける。ラルドが話を続ける。


「もしや、足を痛めたのもわざとか?」


「ぶぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!!!!」


 ミストは泣き続ける。ラルドが話を続ける。


「‥‥‥おい、ミスト」


「ぶぇぇぇぇぇえぇぇぇえっっっ!!!」


 ミストは泣き続ける。ラルドが話をーーー。


「話を聞け!!!」


 遂に、ラルドが大声で叱った。

 そして、ミストは1時間泣き続けたという。


 ◆◇◆◇


 ミストが後に知らされた実戦の点数は‥‥‥90点。


 終始優勢だったのはラルドだったが、毒が塗られていたらミストの勝利であることが主な点数。実質、ミストの勝利である。


 他には持ち前の暗殺術と高い柔軟性、さらに咄嗟の判断力。そしてわ戦いでの組み立ての巧さが得点の加点に繋がる。


 ‥‥‥すぐ泣くところの改善に期待、という記録も残っている。



 数日後‥‥‥ミストは序列9位に選出され、『黄昏トワイライト』への所属を果たす。


 そして‥‥‥彼女の泣き癖は、健在どころか悪化している。


 以上が、訓練生時代のミストの記録である。

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