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お昼付き合いなさい

 6月。ユリアの拉致、そしてアイトの『終焉』によるメルチ遺跡破壊から 2ヶ月が過ぎた。


 その間の《エルジュ》の活動は、特に無かった。無かったというよりは《黄昏トワイライト》が動くほどの任務が無かったということ。


 そのせいかそのおかげか、アイトは順風満帆な学園生活を送っていた。


 普通に授業を受け、時々ユリアたちと一緒に昼食を取り、放課後になると『マーズメルティ』でエリスとカンナ特製のお菓子を食べる。


 そんな生活を送っていたアイトは、 1つだけ大きな悩みがあった。それは。


 (どうしよう‥‥‥クラスに友達がいない)


 アイトは1年生の中でかなり悪目立ちしていた。


 王国最強部隊ルーライトの隊員で『迅雷』と呼ばれるマリア・ディスローグを姉に持ち、新入生代表で第2王女のユリア・グロッサとお昼を共にするほどの仲で、その姉の第1王女のステラ・グロッサとも面識がある。主に男子生徒から嫉妬の念に駆られていた。


 (どうしよう。もうすぐ『ギルド連携魔物討伐体験』が

  あるのに。このままだとパーティ組む人いない!!)


 アイトが頭を抱えていると上級生が教室に入ってきた。


 「アイト〜! 今日は紹介したい人がいるから

  お昼付き合いなさい! さあ行くわよ!!」


 「グエッ」


 1年Dクラスの教室にまで来たマリアがアイトの首根っこを掴んで食堂に連れていくのだった。




 「さあアイト! アンタが将来ルーライト

  入った時の先輩になる子よ! 自己紹介!」


 マリアに連れてこられて席に座ったアイトは向かい側に座っている少女と目が合う。薄桃色の鮮やかで長い髪、無表情で少し小さいとても可愛らしい女の子だった。


 「え、え〜と、《ルーライト》に入る気はないし

  そもそも入れないアイト・ディスローグです。

  1年Dクラスです。よろしくお願いしま痛って!?」


 アイトは少女の隣に座っているマリアに身を乗り出して思い切り叩かれる。


 「ごめんねシロア! この子ったら自分に自信がなくて」


 「‥‥‥(フルフル)」


 マリアの声に少女が首を振って答える。


 「あ、この子の名前はシロア・クロート!

  3年Aクラスで学校でも《ルーライト》でも私の後輩!

  この子、最年少で《ルーライト》に入ったのよ!

  シロア、本当にすごいんだから!」


 (‥‥‥この人が、シロア・クロートか)


 アイトは《ルーライト》の隊員の情報はメリナから聞いていた。4月のユリア救出作戦以降、これからの行動で何かやらかさないように何でも情報は取り入れるようにしていた。


 シロア・クロート。


 3年Aクラス。17歳。薄桃色の長い髪で背が低く少し幼い。無表情で寡黙。


 2年生の時にルーク王子から実力を買われ《ルーライト》に入隊。最年少で入隊した。


 希少な時空魔法の使い手で、神出鬼没な戦闘スタイル(?)。


 それに基本の属性魔法も使いこなす天才少女。


        通称『時の幻影(クロノ・ファントム)


 これがアイトがメリナから聞いた情報だった。


 (とりあえず、すっごく強いことはよくわかる)


 「‥‥‥(フルフル)」


 「シロアったら、そんなに謙遜しなくてもいいのよ!」


 「あの、姉さん? なんでクロート先輩って話さないの?」


 アイトはここでメリナから聞いていた情報で、ずっと気になっていたことを聞いた。


 「あ、そうだったわね。シロア、言ってもいい?」


 「‥‥‥(コク)」


 シロアが首を縦に振って肯定を示す。


 「えっとね。シロアは、話すのが苦手なの! 以上!」


 (今の本人の許可必要だった!?)


 「わ、わかった。よろしくお願いします、クロート先輩」


 「‥‥‥(コク)」


 「‥‥‥」


 「‥‥‥」


 (‥‥‥やばい。すごく話しづらい)


 アイトは何を話そうか考え込んでいると。


 「あ、そういえばアイト。明後日行われる

  グロッサ王立学園武術大会は知ってる?」


 偶然にもマリアから話を振ってくれるのだった。


 「知ってるよ。最近その話よく聞くし」


 『グロッサ王立学園武術大会』。


 6月に行われるイベントで、武術に自信がある者たちが切磋琢磨し意欲向上と色々な武術を知ることを目的とした武術大会。


 ルールは一般的なもの。降参や戦闘不能、武器が手から離れたら負け。魔法の使用は禁止。あくまで武術で競い合う。命に関わるほどの攻撃も禁止。


 武器の種類は基本自由だが試合時は管理会側が用意した刃のない鉄製の武器を使用。参加登録の際に希望の武器種を記入すれば用意してくれる。トーナメント形式で行う。参加は強制ではなく自由参加。


 アイトは絶対に出ないと決めているイベントだった。


 「あ、姉さん出るの?」


 「もちろん出るわよ。でも女子の部だから

  ルーク先輩とは戦えないのよね」


 (あの王子と戦いたいとか戦闘狂かよ)


 大会は男子の部と女子の部で分けられている。


 「そうなんだ、がんばって。応援してる」


 するとマリアがきょとんとした顔になる。




    「何言ってるの?? アンタも出るのよ?」



          「‥‥‥はい??」



     今度はアイトがきょとんとした顔になる。




 「私がもうあんたの分の参加申請しておいたから。

  あんたの武器種は私と同じ剣にしておいたわ。

  明後日の大会であんたの全力を見せなさい?」


           「はあ!?」


          「口の聞き方!!」


            「グエッ」


 マリアにゲンコツされてシロアの前で情けない声を上げるアイト。すると授業が始まる5分前を告げる予鈴が鳴った。


 「あ! もう授業始まるわね!

  それじゃあアイト、お互いがんばるわよ!!

  シロア、良かったら明後日の大会観に来て!」


 「‥‥‥(コクッ)」


 マリアは食堂から一瞬で離れていった。アイトとシロアを残して。


 (あの自己中マイシスター!!

  何してくれてんだ‥‥‥!!!!)


 心の中で姉の犯した惨劇を嘆く。強制的に明後日の武術大会に参加することが決定してしまったアイト。


 「‥‥‥(??)」


 シロアはその様子が気になったのか首を傾けてアイトを見る。


 「あ、すみません何でもないです。

  クロート先輩、あんな勝手な姉ですが

  どうかよろしくお願いします」


 (できれば先輩があの自己中をなんとかしてください)


 言った後に心の中でそう念じたアイト。


 「‥‥‥(コクッ)」


 「それでは失礼します!」


 シロアが頷いたことを確認し、アイトは急いで次の授業の教室へ移動する。


 「‥‥‥(ハッ)」


 取り残されたシロアは授業まで時間がないことに気づく。彼女なりに急いで準備するも、次の授業に遅刻してしまうのだった。

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