記録 精鋭部隊『黄昏』No.8、『腐乱』リゼッタ
これはエルジュ戦力序列第8位、精鋭部隊『黄昏』に所属したリゼッタの訓練生時代について記した記録である。
リゼッタは元々毒への耐性を持つ。
そのため幼少期に両親に捨てられ、毒沼に落ちてしまっても生き延びた。毒沼に浸かっていた期間は相当なもので、次第に毒魔法が扱えるようになっていく。
だがその幼少期にまともな教育を受けることができなかったことにより言葉遣いは独学で、話し方は今も勉強中である。
話す言葉が少ないといっても感情が薄いわけではない、ら彼女の目には確かな意志が宿っている。
会話が苦手ではあるが、幼く素直であることから多くの仲間たちに可愛がられる。
訓練生内のお世話したいランキングは堂々の第1位。
ちなみに、組織内で最年少の13歳。
そんな彼女が挑んだ試験の最終項目、ラルド教官との実戦。
訓練場。
「リゼッタ、準備は良いか?」
「おけ、まる」
2人が交わす言葉は少ない。試験はすぐに始まった。
リゼッタが両手から毒を溢れさせる。ラルドはリゼッタの戦闘体勢が整う前に攻め込む。
今回のラルドの武器は長剣(鍛錬用)。毒魔法使いのリゼッタにリーチが短い短剣は相性が悪いと考えたからだ。
ラルドが服のポケットに仕込んでいた投げナイフを投げる。
「【どく、ぼーる】」
リゼッタは飛んでくる数本のナイフを球状の毒を発射して撃ち落とす。
その隙にラルドはリゼッタの背後に回り込み、長剣を横に振る。
リゼッタはまだ13歳。訓練生の中で最年少(ミアも同じ)である。そのため身体があまり発達しておらず、身体能力は今の時点で低いのは否めない。
「あぶ」
ラルドの長剣がリゼッタの脇腹に直撃、しない。
直前に出現した毒の壁に長剣がめり込んでいた。
「なに!」
次の瞬間にはリゼッタがラルドの長剣を毒の壁の中へ引きずり込む。ラルドは手に毒が付着する前に剣を離した。
ラルドはバックステップでリゼッタから距離を取る。
「はや、すぎ」
リゼッタは毒の壁からラルドの持っていた長官をラルドめがけて噴出する。かなりの速度で飛んできた毒まみれの長剣をラルドは回避する。
その間にリゼッタはしゃがんだ状態で両手を床につけた。
「【どくの、うみ】」
両手から毒が溢れ、床に広がる。このままだと足場が毒だらけになると思ったラルドは毒が床に広がる前に【血液凝固】を両足に施して接近する。
次に【血液凝固】を施した右手で鍛錬用の短剣を持つ。まだ毒魔法を発動した直後のリゼッタめがけて近い距離で短剣を投げた。
「わい」
体を後ろに倒すことでかろうじて短剣を回避したリゼッタはそのまま毒が浸透していない床まで転がっていた。
その隙をラルドは見逃さない。仰向けに寝転がったリゼッタを見下ろし、拳を振り抜く。リゼッタの鳩尾に当たる寸前で止めた。
「ここまでだ。これで試験を終了する」
「きょーかん、つおい」
「勝敗は‥‥‥引き分けだ」
「ひき、わけ?」
リゼッタは鳩尾に毒を纏っていた。実際の戦闘ならば相討ちになっていた可能性が高かった。
「前よりも毒魔法の練度、毒の扱いが上達している」
「おけ」
真顔で親指を立てるリゼッタ。
「今回の試験の結果は後日伝える。ご苦労だった」
「おけ、まる」
無表情でダブルピースするリゼッタ。そして反応に困ったラルド。
今でも、彼女との接し方が全くわからないラルドだった。
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後に知らされた実戦の点数は80点。
勝敗は引き分けだが、リゼッタが優勢な場面が多いこと。それが主な点数。
他には以前よりも毒魔法、毒の扱いの上達、戦闘の理解ができていたことから得点の加算に繋がる。
幼いながらも確かな実力を見せつけた。
数日後‥‥‥リゼッタは序列8位に選出され、『黄昏』への所属を果たす。
リゼッタは、これからも成長していく。
以上が、訓練生時代のリゼッタの記録である。