最西端の都市
アステス王国、城壁を超えた先にある平原。爆発音や断末魔の声など、耳障りな音が響き続ける。
「はぁっ!!」
アヤメ・クジョウが爆破魔法で周囲のゴブリンを吹き飛ばして道を作り。
「【土壁】!!」
ジェイク・ヴァルダンが土の壁を両脇に作る事で、側面からのオークの襲撃を防ぐ。
「雑魚に構ってる暇は無いのよっ!!」
最後列のシスティアが長剣エル・クレイモアを振り下ろし、背後から襲いかかるコボルトを切り捨てる。また彼女が振りかぶった長剣の軌道は真空状態となり、魔物たちの追従を許さない。
「ーーー邪魔だ」
そして最前列のアイトが聖銀の剣を強く握り締め、迫る魔物たちを手当たり次第に斬り刻む。アイトとシスティアが前と後ろに陣取り、2人の間のジェイクとアヤメが安全に魔法を発動させる。
この戦法が功を奏し、アイトたちは負傷することなく移動を続ける。正面から衝突するため魔物たちよりも勢いがあり、突破の難易度も下がっているのだ。
「確かにこれなら比較的安全に進めるが!」
「移動できる距離がどんどん短くなってるわよ!!」
ジェイクとシスティアが自分の役目を続けながら抗議の声を出す。実際、アイトも2人が話す前から分かっていた。
(このままだとジリ貧だ‥‥‥ジェイクやクジョウさんの魔力が尽きれば今の陣形での魔物たちの対処は難しくなる)
自分たちの足が、魔物たちによって止められるのも時間の問題だと。
「ーーーみんな走って!!」
するとアヤメが突然大声を出し、右手の全指に魔力を集めて1体のゴブリンに触れる。ゴブリンの攻撃を滑らかに躱して距離を取ると、勢いよく両手を叩く。
「【最大爆破】!!」
直後、地面が僅かに揺れるほどの衝撃と共に大爆発が起こる。爆破の起点となったゴブリンと周辺の魔物が瞬時に粉々となり、死骸が燃えて大規模な煙が立ち昇る。
「煙で視界が悪くなっている間に、奴らが追いつけないほど距離を離せばいいわ!!」
「助かったクジョウさん!! 2人も攻撃をやめて走るぞ!」
アイトが剣を鞘に納めて先導すると、システィアとジェイクも負けじとついて行く。
「どどどういたしまひてっ♡」
アヤメは顔を赤く染めて夢心地で噛みながら返事をし、無我夢中でアイトの背中を追いかける。
彼女が大量の魔力を消費した甲斐があり、爆煙に気を取られた魔物たちの追跡を振り払うことに成功した。
3時間後。
(まさか1日もせずに戻ってくることになるなんて、誰も思ってなかっただろうな)
アステス王国領内、最西端の都市メーガンロ。
王都から比較的近くに位置しているだけでなく、すぐ隣にはグロッサ王国領との国境がある。そのため物流や交易が盛んであり、人口も多い。アステス王国が誇る大都市と言える。
アイトを含めた交流戦の代表たちは、約半日前にここへ足を運んでいた。ここで宿を取って休息し、アステス王国の王都へ移動したのだ。
(ここも国民が少し慌てているが、魔物はいなさそうだ。ルーク王子の居所を把握していて、王都に魔物を集めたのか?)
アイトは僅かに肩を上下させながらも、都市の様子を眺めて考える。アステス王国の王都と違い、魔物がいないことに疑問を抱いているのだ。
「はぁ、はぁ‥‥‥さすがに疲れたわね。ほとんど休憩無しで走り続けてきたから」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥‥ほ、本当にな。途中で親切なおじさんに乗せてもらった、あの馬車の時間だけが、唯一の身体を休める拠り所だった‥‥‥」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ‥‥‥ごほっ、ゴホっ」
一方システィア、ジェイク、アヤメは肩を上下しながら息を乱す。ジェイクとアヤメに至っては膝に手をつき、しばらく碌に動けない様子だった。
「はぁ、はぁ、おまえ‥‥‥本当に何者なの?」
3人の中で唯一話す余裕があったシスティアが苦しそうに言葉を返す。だが当然、アイトはその質問に応えない。
「それよりも今はここにある駅に急ごう。蒸気機関車なら半日ほどで東側からグロッサ王国領に入れる」
「確かにね‥‥‥でも中央北に位置する王都ローデリアまで、ここから蒸気機関車でも丸1日はかかるでしょ」
システィアが徐々に息を整えながら相槌を打つ。ジェイクとアヤメはようやく膝から手を離した程度だった。
「分かってる。でも現状、他に手は無い。他国間の移動に時間が掛かるのは当たり前のことだ。グロッサ王国が心配な気持ちは分かるけど、仕方がないよ」
「‥‥‥そうね。シロア先輩でもいたら転移で瞬時に移動できるんだけど」
彼女の言葉に、アイトは僅かに息を詰まらせる。ユニカから聞いた、シロアが行方不明という情報を思い出したのだ。
「ふぅ‥‥‥じゃあ僕たちはとりあえず、この駅の出発時間を見に行こう。グロッサ王国領内のどの場所に着いてもいい。とにかくすぐに乗れそうなものに乗るんだろ」
ここで話せるほどに息を整えたジェイクが腰に手を当てて言葉を呟く。彼の発言に、誰も反対はしなかった。
「はぁっ、はぁっ‥‥‥申し訳ないけど、私も駅で待ってるわね‥‥‥変に動いて、足を引っ張りたくないし」
「そうした方がいい。ここからまだ長い。休める時間は休んだ方がいい。そうだろ、ディスローグ」
ジェイクの問いかけに、アイトは頷く。駅の待ち時間はどうしようもない。それなら休んだ方がいいという考えである。
「俺は水や食糧を買って駅に向かう。みんなは先に駅で待ってーーー」
「私も行くわ。お前だけに負担は掛けられない」
アイトが率先して提案するも、システィアに割り込まれてしまう。まだ息を乱して辛そうな彼女を見て、アイトは首を振る。
「まだ息が整ってないだろ。別に水と食糧くらい、大した重さじゃない」
「あーうるさいわね!! 立ち止まって話すのは時間の無駄でしょ!? とにかく私は大丈夫だから!!」
「ちょっ、そんな押さなくても」
アイトはシスティアに力強く背中を押され、無理やり歩かされる。
「アヤメ、ヴァルダンくん! お前たちは駅に行って休んでなさい! 出発時間もちゃんと調べるのよ!」
こうしてアイトとシスティアは、小走りで都市の中へと入っていく。
「ーーーきゃあ!!」
だがその直後、都市の真ん中で悲鳴が響き渡る。
「ディスローグくんッ!!!」
システィアが咄嗟に叫んだ直後‥‥‥鋭いナイフを持った人間が、アイトへと襲いかかるのだった。




