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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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最大の功労者

 交易都市ベルシュテット、北地区の地下室。


「えっ‥‥‥ハーリィが俺に変装してジェイクたちと合流してる!?」


 アイトの声が室内に響き渡る。以前仲間に引き込んだ怪盗ハートゥことハーリィが、魔闘祭の時のように自分に変装できることに驚いているのだ。

 彼女はピンク髪で身長にも差があるのに、他人なら気付かないほどの変装をやってのける技術を持っている。


「そうだ。吸血鬼騒動を終えた直後に連絡して呼び寄せた。お前の変装をして少しでも違和感を紛らわせるように」


 ターナが淡々と言葉を返す。アイトは安堵の息を漏らして視線を下げた。

 今、ディルフィとネルは買い出しで外に出ているため、室内にはアイトとターナ、そしてカンナしかいない。買い出しを頼んだのは、話を切り出したターナだったが。


「よかった‥‥‥正直、今回の件であの4人にはもうバレてるのかと思った」


 スカーレット、システィア、ジェイク、アヤメを思い浮かべながら呟く。


「ちゃんと考えてるよ。レスタの正体がバレると不利益を被るからな」


 アイト=レスタということを知られるわけにはいかない。その認識は、アイト本人だけでなく身近な仲間にも共有されているのだ。


「さっすがターナだよね! 私なんて言われるまで全然頭になかったもん。確かにレスタくんが眠ってたら、あの学生さんたちが『アイトくん』がいないって疑うよね!」


「お前はもっと早く勘付いてほしかったけどな」


 ターナが冷ややかな眼で見つめるが、カンナは「?」と首を傾げている。


「っ‥‥‥」


 両眼が見えていない彼女には、人の目線に気付くわけが無かった。ターナはその事に気づいて申し訳なさそうに顔を下げる。


「とにかく、助かったよターナ」


 そんな重い空気を察したアイトが咄嗟に話しかけることで、話を継続させた。ターナは顔を上げて「ああ」と呟くと、アイトの方を見た。


「だが少なからず何かしら違和感はあるだろう。レスタがこの都市にいる間、彼女たちは学生姿のお前と一度も遭遇していないんだからな」


「‥‥‥分かってる。でもそれは仕方ない。そんなこと言ってたら、俺は何も動けないから」


 アイトが心底理解した様子で言葉を漏らすと、ターナは目を合わせて口を開く。


「彼女たちは、学生のお前がレスタだという確証は無い。だが疑っている可能性はある。気を付けろ」


「‥‥‥うん。いつも心配かけてごめん」


 彼女の忠告を真摯に受け止め、アイトは眉を下げて謝罪を述べる。ターナは「気にしすぎた、馬鹿」と視線を逸らしたが。


「それとディルフィとネルは、お前の顔を見た。言いふらすような奴らじゃないから、勘弁してやってくれ」


 するとターナは、少し気にした様子で2人のことを話した。アイトは目を丸くすると、首を横に振る。


「仕方ないよ。構成員に見られるくらい別に何でもない。カンナがくれたペンダントを掛けてたおかげで、髪色は今も銀のままだったし」


 慰めるように話しながらカンナの方を向く。声を聞いたカンナは「役に立って嬉しいなっ」と微笑んでいた。


「あ、そういえばさっきハーリィから連絡来てたよ。『なんかめちゃくちゃ視線を感じるのだ!! 息が詰まるのだ!!』って」


 カンナがあっけからんと報告すると、アイトは苦笑いを浮かべ「それは悪い‥‥‥」と呟く。


「お前はまだ動ける状態じゃない。だからこのまま変装したハーリィがお前の学友たちとこの都市を出る。それでいいな」


 ターナの問いかけに、アイトは躊躇なく頷いた。


「‥‥‥ハーリィには苦労をかけるけど」




 その数時間後‥‥‥動ける程度にまで回復したシスティアたちが交易都市を出たと連絡があった。


『今トイレに駆け込んで連絡してるのだっ‥‥‥なんか黒髪の女が距離近くて怖いのだっ!!』


 変装を続けて同行している、涙声のハーリィから。


 ◆◇◆◇


 さらに数日後。

 吸血鬼騒動後の余韻も収まり始め、少しずつではあるが以前の交易都市に戻りつつある。


「2人とも歩けるようになったし、外に出ろ。ボクはニーナから借りてるこの部屋の後片付けをする」


「だったら俺も手伝うよ。迷惑かけたしーーー」


「お前たちにいられる方が迷惑だ。いいから自分たちが救った都市を見て来い!!」


 アイトとカンナは、勢いよく部屋の外へ閉め出されてしまった。ターナはわざとらしく内側から鍵を掛け、半ば強制的に追い出したのだ。


「ターナのやつ、急に怒ってどうしたんだよ‥‥‥」


「ねー、どうしたんだろうね」


 アイトが頭を掻いて困惑しているが、カンナは特に驚いてはいなかった。まるで、こうなることが分かっていたかのように。


「‥‥‥ねぇ、レスタくん」


 カンナは少し不安げに話しかける。アイトが「ん?」と言葉を返す。


「せっかくだし、いこ‥‥‥?」


 すると彼女は右手でアイトの裾を掴み、視線を下げた。今の彼女は白いワンピースを着ており、外に出る気満々といった格好だった。

 これほど分かりやすい彼女の願いに気づかなければ、アイトは後でターナに殺されるだろう。


「‥‥‥そうだな。カンナ、手を出して」


 アイトは穏やかに微笑むと手を差し出す。そしておずおずとカンナが伸ばした左手を、優しく握って歩き出す。


「えっ‥‥‥」


「ゆっくり歩くけど、逸れないようにな」


 驚くカンナの声を背中に感じつつ、アイトは手を繋いだまま都市街へと出ていく。


「‥‥‥うん」


 顔を真っ赤にしたカンナは確かに握り返すと、2人は北地区を歩き始める。


「お前たちが最大の功労者だ。思う存分楽しんでこい‥‥‥2人とも」


 建物の陰から覗いていたターナが、歩き出す2人を穏やかな表情で見送るのだった。

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