悪くない悪くないむしろ良い
一方、生徒会室。
「ルーク先輩! どうして手配は城の中に侵入し2人だけなんですか? ルーク先輩が逃がした人たちは手配しなかったんですか!」
マリアがルークに詰め寄っていた。今は生徒会室にルークとマリアしかいない。
「どうしてって、昨日も説明したじゃないか」
「! 今捕まえると処刑されるからですか!?」
「そうそう。マリアは遭遇してないからわからないと思うけどなかなかの逸材ばかりだった。その中の1人は少しの時間だったけど僕に張り合ってきたからね」
ルークは自分の動きを模倣した無色眼の銀髪少女を思い浮かべる。
「! そ、そのような者が」
「さすがにレスタという銀髪仮面男と謎の女は手配せざるを得なかった。父が知っていたからね」
「‥‥‥」
「それとレスタが放った『破滅魔法』クラスの魔法については父には言わなかった。マリア、他言無用で頼む。他の隊員にも伝えておいた」
「それは、国の情勢を考えればわかりますが‥‥‥もし私たち以外の誰かにあの魔法を見られたら、大騒動になります。早くレスタとかいう者を始末しないと」
「うん、その通りだね」
口ではマリアの意見に同意しつつ本心は自分の部下にする気満々のルーク。
今そのことを言っても怒られるだけとわかっているため、ルークは話を合わせた。
「レスタや謎の女の正体はわからないけど、探し出せる余地はある」
「本当ですか!?」
ルークはニヤリと口角を上げ、こう言った。
「学園の生徒の中に、レスタの仲間がいる」
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アイトが『マーズメルティ』から学生寮に戻ってきた後の夜。
アイトは自室のベッドに寝転んでいた。
『聞こえるかレスタ殿、夜遅くに申し訳ない』
アイトにとって聞き覚えのある声が魔結晶から聞こえた。
「ラルドか? どうした?」
『貴公がメルチ遺跡に放った魔法を、魔結晶で見せてもらった。本当に素晴らしかった!!』
「‥‥‥は?????」
昨夜、アイトは魔法のやらかしを気にしていて注意が散漫としていた。そのためエリスが魔結晶で撮っていたことに気づかなかった。
『構成員たちにも見てもらった。とてつもない魔力量、そして魔法制御力!皆があの魔法を、【終焉】と敬称している!』
「しゅ、終焉?」
「魔法名が決まってなければ使ってもらいたい。まさに神の如き魔法!さすが私たちの代表である!』
「‥‥‥神のごとき??」
何勝手に見せてくれてんだという言葉が口から出る前に気になったことがあったアイトは思わず口にしていた。
(魔法制御力‥‥‥?確かに魔力量は自信があるけど制御力なんて何も特訓してないぞ?)
『10個の魔法を同時に発動するだけでなく、それを合成する魔法制御力‥‥‥感嘆に値する!』
「‥‥‥あ」
アイトは気づいてしまった。自分が気づいていなかった、突出していた能力に。
アイトは宝石集めを含め、多くの趣味を持っていた。その1つが、花火。
魔法で花火を作る際に最初の頃はアイトは苦労していた。手で2つの魔法を同時に発動すると何故か手に衝撃が生まれて魔法が発動しなかった。
それでもアイトは魔法で花火を作りたかったため、挫折することなく試行錯誤を重ねた。それも毎日毎日、飽きることなく熱心に。
自分の趣味であるため一切苦しいとは思わなかった。むしろ楽しみながら熱心に取り組んでいた。
数年間ほぼ毎日行い続けたことで魔法を同時に発動できるようになり、そのレベルがどんどん上がっていった。本人が全く気づいていない間に。
今では10個の魔法を同時に発動することはアイトにとって当たり前になっていた。
「‥‥‥ラルド。魔法の同時発動、何個できる?」
『む?私なら2個が限度だな。そもそも魔法の同時発動なんて危険極まりないものだ。常人なら2、3個が限度だろう』
「2、3個‥‥‥」
『だからレスタ殿の魔法制御力は、すでに私たちとは別次元にある。エリスもそう言って喜んでいた』
「‥‥‥へぇ〜」
アイトは乾いた声を出し、なんとか返事をする。
(エリスが昨日の魔法を見て驚いていたのは、威力じゃなくて魔法制御力だったのか!?)
アイトはようやく、エリスが驚いていた理由に辿り着くことになった。
『ともかくレスタ殿への敬意は前よりもさらに大きいものとなった!この私も含めてな!』
「え?なんで??」
『これからも、共にがんばっていこうぞ!!ではレスタ殿、夜遅くに失礼した!』
ほとんど一方的にラルドが話して連絡を切る。
アイトは再びベッドに横になる。
(‥‥‥俺への敬意が上がってどうすんだよ!?)
そして、両手で頭を抱えて悶え始める。
(俺、できるだけ穏便に代表を代わってもらおうと思ってたのに!!)
アイトの視線が天井にさまよう。ぼんやりしながら両手を胸の前に寄せて各指で魔法を発動。
そして、10個の魔法を余裕で制御してみせる。
(【終焉】‥‥‥カッコいい名前つけてくれるじゃん。
あの魔法の名前を考える時間を省略できた。
でも‥‥‥もう【終焉】は使いたくない!!)
アイトは指で発動していた魔法をやめて、手を元の位置に戻す。
(‥‥‥そうだ起きてしまったことを後悔しても意味がない、前向きに考えよう!)
アイトは、必死に逃避を始める。
(今まで何度も勘違いや誤算があった!今回もそのうちの1つで大したことない‥‥‥要は俺がレスタだとバレなければ何の問題もない!)
逃避は、続く。
(エルジュの活動はお酒をより美味く感じるための仕事みたいなもの!)
まだ続く。
(それに自分が生活しやすいように国を守るのも良いじゃないか!そう考えると新組織『エルジュ』悪くないかも!?‥‥‥悪くない悪くないむしろ良い!)
アイトは誰かに言い訳しているかの如く、前よりもひたすら前向きに考えるようにした。
そして眠る直前。
アイトはぼんやりしながら、こう考えていた。
『いつ、この地位から離れよう』と。