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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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行方不明者の噂

 飛び散る鮮血に、何が起こったか分からないジェイク。シャルロットは目を見開き、何が起こったのか鮮明に理解していた。


「グィっ!?」


 人の姿をした何者かが、ジェイクの目前で殴り飛ばされたのだ。そして殴り飛ばしたのは、ジェイクの前に勢いよく割り込んだ第三者。


「まだ若いな、少年〜!」


 それは左手に包帯を巻いている黒髪の青年。彼の名はジャック。闘技大会で注目を集めた実力者。


「あの男は昨日の酒場の‥‥‥」


 疲労で碌に動けないシスティアは、ただ観察して呟くのみ。するとシャルロットは作業を止め、彼の方を向く。


「ーーー君は」


「おっと『使徒』さま? 今は橋の再現に集中してくださいよ。それはあんたにしか出来ないんだからさ」


 ジャックが被せるように発言したことで、シャルロットは話しかける機会を失う。


「それに少年、そこの嬢ちゃんを放っておいて大丈夫か? どう見ても重傷だぞ?」


「! クジョウっ!!」


 そして忠告されたジェイクは動揺を振り払い、急いでアヤメの元へ駆け寄る。彼女は口から止めどなく血を漏らし、胸元を押さえて苦しんでいた。


「俺も脱出したいからさ。早いとこ橋の再現頼みますよ」


「‥‥‥君には話がある。後で面を貸して」


 飄々と話すジャックに対し、シャルロットが目を細めて冷たく呟く。伝説の魔法使いである彼女にこんな態度を取られたら、普通は恐怖で身体が震えてもおかしくない。


「うわ怖」


 だがジャックは小言を呟いて苦笑いを浮かべるのみ。明らかにシャルロットを怖がっていない。


『前市長のルードです。吸血鬼アローラによって都市が支配され、多くの皆様に多大なーーー』


 するとここで前市長ルードによる都市内放送が始まる。彼から聞かされたのは、都市の崩壊まで一刻の猶予もないこと。


「なんてこった。全員の命はあんたの両手に掛かってるわけだ。というわけで橋の再現に集中してくださいよ?」


「君に言われるまでもない。ほんと生意気だね」


 シャルロットが不機嫌そうに目を細め、勢いよく両手を伸ばす。固められた土が徐々に形を成していく。


「んじゃ、俺はあの面白そうな奴の相手してますんで」


 ジャックは不敵に微笑むと、今ようやく立ち上がった襲撃者と対峙する。赤みがかった茶髪、頬にある深い切り傷、そして常人離れした体格と鋼の肉体。

 この周辺に住んでいる人なら誰もが知っている有名人だった。


「あれって‥‥‥アルスガルト帝国軍の将軍では!?」


「ドレイク・ロバーツ少将!! 龍の神子と呼ばれる帝国の軍人がどうして!!?」


 襲撃者の正体をを知っている周囲の人間が悲鳴じみた声を上げた。それほどの力の持ち主とも言える。


「ガァァァァァァァァァァ!!!!」


 ドレイク・ロバーツ。国力と兵力、共に世界最大のの超大国であるアルスガルト帝国で5本の指に入る傑物。

 先祖が龍神族だったためか、彼の身体には龍が宿っている。そのため身体の一部を変化させて龍と同等の力を扱える。


「グィっ、グィィィ!!!」


 だが龍への変身は精神が呑み込まれる危険性があるため、普段の彼は基本的に身体の半分以上は人間部分を残す。


「ゴァァァァァァァァッッ!!!」


 だが今のドレイクは完全に理性を失っている。まだ身体の一部を龍に変身していないにも関わらず。


「なるほど? 帝国で多発している行方不明者の噂は本当だったわけか。あんたほどの男が、吸血鬼に操られているなんてな」


 ジャックの言葉に、周囲の人間たちは息を呑む。いや、悲鳴を上げる者もいた。


「これが吸血鬼たちの置き土産ってわけか」


 ジャックの考えは正しかった。


 以前、アローラが不意を突いてドレイクを拘束。アムディスの血を混ぜて時間を置き、馴染ませる。ドレイクは魔力総量が少なく、吸血鬼の血に対して耐性が無かったのだ。

 その結果‥‥‥アムディスを始めとする都市内の吸血鬼が死滅しても、吸血鬼化が解けないほど血が全身へと馴染んでしまっていた。


「フゥッ、フゥッ、フッ!!!」


 するとドレイクは鋭い息遣いをしながら、両手足を龍の爪へと変形させる。正気を失っている彼は、交易都市そのものを滅亡させてしまうほどの脅威である。


「どおりで殴った手が痛いわけだ」


 右手を振りながら苦笑いを浮かべたジャックに対し、ドレイクは4足歩行で飛び掛かる。その速度と勢い、まさに龍の突進。


「はや」


 少し驚いたジャックが左手の人差し指を動かした瞬間、ドレイクの突進が()()()。いや、正確には押し留めているのだ。


「んじゃ『使徒』さま、俺が遊んでる間に逃がしてくれよ。飛び火しても知らないからな!」


 そう言い放ったジャックが狂気的な笑みを浮かべ、左手を強く張り出す。その直後、頭を殴り飛ばされたようにドレイクが後方へと吹き飛んだ。他の人からすれば、ドレイクは何もされてないのに吹き飛んだようにしか見えない。

 

「声出してる場合じゃないっての」


 響き渡る人間たちの歓声を背中に浴びながら、ジャックは仕方なさそうに息を吐く。そして吹き飛んでいったドレイクと()()べく、瞬時にその場から姿を消す。


「‥‥‥やっぱり、あの子で間違いない」


 一部始終を横目で見ていたシャルロットは無意識に呟くと、遂にヴィオラ大橋の再現に成功。入場門の端に繋ぎ、本土へと脱出経路を作り出す。


「早く逃げて。ここは危険だよ」


 シャルロットが淡々と呟いた直後。無数の歓声が沸き上がり、次々と橋を渡っていく。


「僕がクジョウを担ぐ! ソードディアスは1人でも歩けるな!?」


「歩けるけどっ、姉貴がまだーーー」


「君の姉だぞ!? 絶対に後で渡ってくる!! それに今の君は向かったら帰って来られなくなる!!」


「‥‥‥わかってるわよっ!!」


 ジェイクは重傷を負ったアヤメを抱え、システィアは重い足取りで橋を渡るべく移動を開始する。


「おそい‥‥‥何やってるんだレスタっ、カンナは。ディルフィとネルも一体どこにっ!!」


 だがターナは、アイトたちが来るまで土の橋を渡るつもりは無かった。


「私も、さっきの子追いかけたいのに」


 シャルロットも名残惜しそうに、橋の維持を継続しなからその場で立ち尽くすのだった。

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