正義の味方
ユリア救出から夜が明け、学園が再開する。
アイトは学生寮の自室から学園に向かう。昨日の魔法のやらかしを気にして何も眠れなかったのだ。
そして学校の中では生徒たちの中である話題で持ちきりになっていた。それは昨日の件の一部について。
『城に侵入した2人組がいる。城から逃げてメルチ遺跡を破壊した。1人は銀髪仮面の男、名前はレスタ』
『もう1人は黒いローブの女、名前は不明だがレスタの側近と思われる。情報求む』
このような記事が王都で配られていた。
ユリアの拉致事件は書かれていなかった。そしてアイトとエリスはすぐに手配された。一躍有名人である。
アイトは心の中で自分だとバレていないか心配で仕方がなかった。
アイトは授業をなんとか集中して受け、放課後。アイトは荷物を持って1年Dクラスの教室から出る。
放課後に『マーズメルティ』に来て欲しいと昨日エリス言われたため向かっている最中。
「アイトくん! 待ってました」
「!? ゆ、ユリアちゃん?」
教室を出た瞬間に廊下で待ち伏せしていたユリアに、腕を掴まれて連行される。
「話したいことがあるの」
「は、はあ。それでどこに?」
「誰にも聞かれない場所です」
そう言って、ユリアに引っ張られて移動する。
「え??? ここ??」
「はい。あの、ダメでしょうか?」
着いた場所は、女子学生寮のユリアの自室前だった。
学園が終わったばかりのため学生寮内は誰もいないのだが、場所が場所なだけにアイトは警戒していた。
「‥‥‥いいよ、ここで」
「そうですか、ではどうぞ!」
アイトは男子生徒憧れであるユリアの部屋に入る。
ドキドキするかと思ったがすっごく殺風景な部屋で全くドキドキしないとアイトは感じた。
「それで、話って」
アイトが話を促すとユリアは緊張した様子で頭を下げる。
「アイトくん、昨日は‥‥‥助けてくれてありがとうございました!」
「‥‥‥は?????」
アイトは頭を鈍器で殴られたのではないかと錯覚した。それほどの衝撃だった。
「な、何のことだか」
アイトは、とりあえず誤魔化すことにした。
「とぼけなくても大丈夫、誰にも話してません。髪色を変えて仮面をつけてたのは正体がバレたくなかったってことですよね」
「!!!!!!!!!」
ユリアの発言から、レスタ=アイト・ディスローグであることがバレていると確信した。
「‥‥‥」
アイトは上手く言葉が出なかった。何を発言すればいいか迷っている。
「あ、なんでわかったか気になりますよね。実は秘密なんですけど、アイトくんの秘密を知っちゃったから教えます。あ、見せた方が早いですね」
ユリアはそう言うと目の色が変わっていく。
アイトはこの状況にとてつもない既視感を感じていた。間違いなく良くない既視感を。
ユリアの目の変色が終わる。水色の瞳が最終的に変わった色は青色。そして両目の瞳には。
「わたし、【賢者の魔眼】持ちです」
そう、彼女には賢者の聖痕が宿っていた。
「賢者の魔眼は自分や相手の魔力の波長がわかるの。だからわたしを助けてくれた銀髪仮面さんを見た時にアイトくんだってわかっちゃいました」
「‥‥‥へえ」
嬉しそうに言うユリアの言葉が耳を通り抜ける。
バレてしまってどうしようとひたすら思考するアイト。それでも聞きたいことは聞くことにした。
「なんで隠してたんだ? ルーク王子は聖騎士の魔眼を持っているとみんなに知られているなら別に言ってもいいんじゃないか?」
アイトの質問に対し、ユリアは手を握って口を開く。
「‥‥‥そう簡単に言えないのです。お兄様は男性で他に男系の兄弟はいません。すなわち次期国王になるのはお兄様です」
「う、うん」
「そんなお兄様が聖騎士の魔眼を持っています。これほど後を継ぐのに相応しい人はいません」
「お、俺もそう思う」
アイトが相槌をうつと、ユリアは続きを話す。
「ですがわたしも魔眼を持ってると知られると、わたしに王位を継がせようとする家臣たちがいるかもしれません」
「あ‥‥‥」
「そんな不必要な王位継承の争いを、する必要はありません」
「‥‥‥悪い。俺の考えが甘かった」
アイトは素直に謝罪した。軽く聞くようなことではなかったと、事情を知ってから気付く。
「あ、アイトくんが謝ることじゃないです!それにわたし、王位とか興味ないので!お兄様に継いで欲しいと思ってますし!」
ユリアは必死に手を振って気にしないでと促す。するとアイトは空気を変えるべく、新たに質問する。
「あ、ちなみにユリアの魔眼を知ってる人は?」
「お父様とお母様、あとお兄様とお姉様!」
「つまりユリアの家族だけ知ってるわけか。あ、もしかしてステラ王女も魔眼持ってる!?」
「いえ、お姉様は魔眼を持っていません。わたしの時みたいに正体がバレることはないですから!」
アイトはホッと息を吐く。これ以上魔眼持ってます宣言をされたくないと強く思っていたからだ。
「あ、あの。昨日の件なんだけど」
「安心してください、絶対に言いませんから!お兄様にしつこく聞かれましたが『覚えてない』としつこく返しました」
「え、なんでそんな」
「助けてもらったのに当たり前です!」
ユリアは少し声を張る。信じて欲しいと言わんばかりの口調で。
「それに万が一のことがあれば、私の魔眼の件を言っても構いません。その覚悟があるくらい、絶対に言わないので!」
「もちろん言う気はないけど、なんでそこまで」
「アイトくんは、私の初めての友達ですから!最後にもう一度言わせてください。助けてくれて、本当にありがとうございました!」
ユリアは天使のような笑顔をアイトに向ける。
アイトは、疑っていたことを恥じた。
「‥‥‥ユリアちゃん。こちらこそありがとう。俺も絶対に言わないから」
「これからはユリアでいいです!秘密を共有した仲、同士ですから!これからもよろしくね!」
「あ、ああわかった」
ユリアの感謝の言葉と笑顔。
全て自分のためではあったが、ユリアを助けるための行動は間違ってなかったのだと実感する。
そう思うことで、昨日の魔法やらかしのことをあまり気にならなくなった。
「それにわたし、正義の味方が大好きなんです!」
「‥‥‥ふぇ?」
だが、ここで少し雲行きが怪しくなる。
「昨日のアイトくん、『正義の味方』って感じでした。悪を懲らしめ、困っている人を助ける。まさにそんな感じですよね!」
「いや、別にそんなんじゃなくてーーー」
「昨日いたもう1人、確か金髪の美しいハーフエルフだった気がします!すっごい魔力を感じました!もしかしてアイトくんの仲間ですか!?」
「え、え〜っとそれは」
「まさかアイトくんって何か使命を持ってるんですか!?それとメルチ遺跡を吹き飛ばした時にどんな魔法を使ったのですか?見せて欲しいです!」
「‥‥‥機会があればね?」
ユリアが目を輝かせながらマシンガントークの連発。アイトは適当に返事するしかないのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ということで、ユリア王女に俺の正体を知られてしまった」
王都での《エルジュ》潜伏拠点『マーズメルティ』。
ユリアの部屋から目にも止まらぬ速さで飛び出し誰にもバレないように女子寮を抜け出したアイトは、予定通り『マーズメルティ』に足を踏み入れたのだ。
「えっ! 大丈夫なのレスタくん!」
そう言ったのは今日はいつも通りのツインテールだが髪を黒く染めているメイド服を着たカンナだった。
「ああ、彼女は信頼できる人だから大丈夫。っていうかなんで染色魔法で髪染めてんの?」
「これはね〜もしものための変装っ!実は昨日、王子に顔を見られたのでしたっ!」
「え‥‥‥大丈夫か?」
「なぜか手配はされてないんだよね。メリナは姿を見せてないから手配されないのは当然だけど、私、ターナ、ミア、リゼッタは姿を見られたのに」
(え、めっちゃヤバいじゃんそれ)
「私なんか顔見られて【無色眼】がバレたのに、手配されてたのはレスタくんとエリスだけだし。よくわからないけどたぶんOK〜!」
(全然OKじゃないわ!?)
アイトは戦慄としつつも、店内での会話は続く。次に口を開いたのは目を細めたターナだった。
「ボクは名前までバラされたけどな」
「うっ、ターナっ。その件は誠に申し訳なく!」
「冗談だ。もう気にしていない」
「も〜! ターナが言うと冗談に聞こえないっ!」
カンナの発言でアイトたちはその通りだと思って笑い始める。ターナは恥ずかしそうにそっぽを向く。
「そういえばターナ、ここに潜伏するのか?」
アイトは突然話しかける。
ターナが『マーズメルティ』にいるのを初めて見たため、少し気になったのだ。
「違う。昨日の件で情報共有しようと思ってな。それが終わったらボクはすぐに出ていく」
「そうそう。黒髪おチビちゃんはさっさと出てってよ」
「言われなくても用が済んだら出て行くさ。さっきの話聞いてなかったのか?相変わらず自分勝手なお子様だな」
「は??????????」
ターナとミアの衝突で空気がどんどん悪くなっていく。リゼッタがガタガタと震え出す。
「2人とも落ち着いてください。レスタ様に貴重な時間をいただいたのですから手短に済ませましょう」
エリスがそう言うとターナとミア、お互いが同時に視界に入れないように反対側を向く。ある意味息ピッタリだった。
そのあと、アイトたちは話し合った。
まずはターナが戦ったルークの強さ。
次にカンナ、ミア、リゼッタが遺跡を調査した結果を話す。
犯罪組織『ゴートゥーヘル』の一員が、今回のユリア拉致を行っていたこと。
目的はルークの妹であるユリアが魔眼を持っているか確認。
もし持っていれば実験を施そうとしていたことが判明した。そのことからユリアの姉であるステラも狙われるかもしれないという意見を共有した。
その後はルークが総隊長を務める最強部隊『ルーライト』の隊員情報を、物知り博士のメリナが話した。
会議を終え、日が暮れ始める。
「じゃあボクは行く。レスタ、油断するなよ」
ターナは王都から離れて独自で動き始める。
「なんなのあの黒髪チビっ!?」
「まあまあ落ち着いて!」
椅子から立ち上がった怒るミアを、カンナがやんわりと慰める。
「ユリア王女が無事で、よかったですね」
それを穏やかな目で見守りながら、エリスは話しかける。
「‥‥‥ああ。平穏が戻って何よりだよ」
アイトは、僅かに笑って返事をしたのだった。