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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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人間の気持ち

 吸血鬼という種族は、生に対する執着が薄い。


 まず数えることを諦めるほど寿命が長く、痛覚も鈍いため危機感も育たない。純血の吸血鬼から生まれたアムディスも、その一般論の範疇だった。

 好物の人間の血を啜っている時から感じていた。なぜここまで人間は脆いのか。何のために生きているのか。そんな烏合の衆が魔法を使えたところで、吸血鬼(自分たち)の餌でしかないと。

 だが、彼は強く自覚することになる。自分の考えは間違っていた。自分はただ、何も知らなかった井の中の蛙。


「やっぱり吸血鬼は、一筋縄じゃいかないな」


 圧倒的な強さを見せた、銀髪の女性によって理解させられたのだった。


 ◆◇◆◇


 片膝を突くアイトは、勝利を確信する。


「レスタくんっ‥‥‥!! レスタくんッ!!!」


 すると感極まったカンナの感情の爆発が止まらず、勢いよくアイトに抱き付く。


「ゔっ!? カンナ痛いっ、ホントに痛いっ!! マジで死ぬほど痛いから力入れるのやめてっ‥‥‥」


 だがアイトが苦しそうな声を出したことで、カンナは脱兎の如く身体を離した。無い左腕に右肩の重傷、そして胸元の出血。そんなアイトの状態を思い出し、すぐに不安が募り始める。


「待っててレスタくんっ、すぐに治癒魔法を模倣してーーー」


 カンナがすぐに肩を回して支えようとすると、戸惑いながら動きを止める。


「私が、短命な人間に二度も敗れるとはな」


 首だけとなったアムディスが声を出したからだ。驚いて警戒するカンナに対し、アイトは淡々と見下ろす。


「‥‥‥やっぱり、前に戦った人ってアーシャのことだったんだな」


 そして躊躇なく、自分の師匠の名を出す。真相を確かめるために。


「アーシャ‥‥‥?」


 カンナが気になった様子で無意識に呟くが、その答えは得られない。


「名前は知らん‥‥‥だが眩い銀髪に理不尽な魔法‥‥‥その時の損傷で暫くは忘れていたが、思い出してからは忘れることができないほどの衝撃だった」


 アムディスの返答に、アイトは心の中で『やはり』と納得した。銀髪と理不尽な魔法で答えは出ている。


「ごく稀に、いるらしい‥‥‥種族の垣根を超越した紛うことなき怪物が」


「‥‥‥」


「貴様からはその女と似た動き、雰囲気を感じた‥‥‥あの女と関わりのある人間に敗れるとはな」


 アムディスは諦念を感じられる声の低さで話を続ける。もう、訪れるはずのなかった死が間近に来ていることを悟って。


「なんでアーシャに負けて、あんたは生きてるんだ」


 アイトはずっと感じていた疑問をぶつける。アムディスは「聞く意味があるのか」と前置きを置いてから、説明し始めた。


「あの女が周囲を吹き飛ばす何かを発動した時、私は自らの首周辺を自切して地中に潜り込んだ。地上に残った首の無い損傷の激しい胴体を見て、死んだと勘違いさせた」


「あんたが、まさかそこまでするとはな」


「貴様に私の何がわかる」


 アムディスが一蹴すると、苛立ちを露わにして息を吐く。


「天災が如き理不尽な怪物に遭遇し、抵抗せずに潔く死のうと思うか?」


「‥‥‥なら、あんたに殺された人間がどう思っているか考えなかったのか」


 アイトが冷たい目で見下ろしながら言葉を挟むと、アムディスは目を見開く。


「‥‥‥そうか。こういう気持ちだったのか。恐怖とは、底知れない闇のようだ」


「じゃあ、あんたは今何を思う」


 アイトは淡々と言葉を返すと、右手に持った剣を掲げる。もはや朽ちて死ぬことが決まっているアムディスに、情けをかけるつもりも無く。


「恐怖と、後悔だ。もっと上手くやれたのではないか。貴様を楽に殺せることもできたんじゃないかと」


「確かに紙一重の戦いだった。逆の結果でも全然おかしくなかった」


 もしアイトの魔力があの時に回復してなければ。もしアムディスが剣を破裂させずに持っていれば。そんな要素が1つでも違っていれば、結末も変わっていたかもしれない。


「でも今の光景が結果だ。どれだけ納得していなくても、受け入れるしかないんだよ」


 アイトは諭すように呟いた。今の結果だけが全てである事を強調して。


「そんな理不尽な世界に、俺たちは生きてるんだ。少しは人間の気持ちが分かったか」


「ーーーまさか、貴様はっ」


 アムディスは声を震わせて気付く。アイトがここまで話を続けた本当の理由を。

 それは吸血鬼であるアムディスに、人間の感情を理解させ‥‥‥死の間際で恐怖のドン底を味わせること。これまでの自分の行いを後悔させるように。


「貴様はっ、どこまでも非情なっ‥‥‥」


「吸血鬼に言われるとは思わなかったよ」


 自虐気味に呟いたアイトは剣を握り直す。今から起こる結果に、口出ししても意味は無い。剣を振り下ろす側の気持ちは、もう凍てついている。


「‥‥‥死にたくない。私は、死にたくないッ!!」


 アムディスは無我夢中で叫んでいた。意味が無いとは頭では分かっていても、やめられない。


「あんたがどれだけ叫ぼうが、懇願しようが結末は何も変わらない。これまであんたに殺された人間と同じように」


「やめっ、やめろォォォォォッッ!!!!」


 アイトは顔色一つ変えず、淡々と剣を振り下ろした。縦に真っ二つに斬られたアムディスは思考が停止し、瞬時に朽ち果てていく。


「レスタくん‥‥‥」


 一部始終を隣で見ていたカンナは、冷や汗をかきながら話しかける。するとアイトは、自虐気味に笑いながら口を開く。


「‥‥‥ごめん、怖かったよな」


 それは、アイト自身も反省するほどの後悔だった。


「でも、これでもう終わった‥‥‥全部、かたづいた、から‥‥‥」


 するとアイトは意識を失い、全身を脱力させる。アムディスを倒した事で限界まで張り詰めていた緊張が解け、重傷と疲労困憊の身体が意識を飛ばしてしまったのだ。

 左肩から下が何も無く、右肩も刺し傷で重傷。そして胸元は心臓付近まで穴が空いており、今も出血が止まらない。


「レスタくんっ!! すぐに治癒するから!!!」


 カンナは意識の無いアイトを仰向けに寝かせると、限界近い眼の力を使う。ユリア・グロッサの治癒魔法を模倣し、アイトを癒していく。


「君だけは絶対にっ、絶対に死なせないから!!」


 今のカンナたちは、仲間となったニーナを除く全ての吸血鬼を倒した。そして交易都市を守ったという事実を喜ぶ余裕すらない。傷付いた者の治療、被害の確認、やらなければいけない事が山程ある。


「ーーーカンナさまっ!!!」


 そして大声を出しながら駆け寄ってくるニーナによって、衝撃の内容が告げられる。


「この都市はあと数分で消し飛びますッ!!!!」


 それは都市内にいた吸血鬼たちが仕掛けていた‥‥‥最後の罠だったのだ。

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