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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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完全決着

 交易都市ベルシュテット、中央地区。


「はぁ、はぁっ‥‥‥アローラめ。また逝ったか。もう召喚はできないというのに」


 息を乱して肩を上下させる吸血鬼アムディスは舌打ち混じりに呟く。アローラを駒としか思っていないことが丸分かりな発言。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、カンナたちがやってくれたみたいだな」


 そして彼以上に疲労を見せるアイトは、状況が好転したことで不敵に笑う。今まではカンナたちの安否を気にして戦っていたが、もう気にする必要は無い。


「じゃあ、あとはお前を倒せば一件落着って訳だっ‥‥‥!」


「成し遂げればな」


 周囲のお膳立ては済んだ。もう彼らを除いて都市内での戦闘は行われていない。

 アイトVSアムディス‥‥‥遂にどちらかが死ぬまで終わらない死闘が再開される。


「魔力すら使えない満身創痍の貴様に、何ができる」


「何ができるか、見せてやるよ」


 アイトは淡々と言い返すと、大きく足を踏み込んで距離を詰め、聖銀の剣を振り下ろす。それをアムディスが難なく受け止めると、どちらからともなく剣撃の衝突が始まった。


(カンナや天使さん‥‥‥皆が頑張ってくれたんだ。もう疲労や後遺症なんて言い訳にならない!!)


 強く歯を噛み締めたアイトは、剣を振るいながら声を出す。


「今持てる全ての力で、お前を倒す!!」


「まるで主人公だな」


 アムディスが呆れた様子で呟くと、互いに剣撃の激しさが増していく。決意や怒りだけでは言い表せない強い感情が、互いの剣に乗せられているようだった。


「っ‥‥‥!!」


 だが、その均衡が遂に破れる。アイトの剣が、アムディスの無防備な左肩を斬った。アーシャに教えられ、これまでの苦難の中で磨き続けてきた実戦的な剣術が‥‥‥長寿である吸血鬼の剣を上回ったのだ。


(これまでの困難は、無駄じゃなかった‥‥‥!!)


 アイトは心の中で強く実感すると、迷いが無くなる。これまで歩んできた自分自身を信じて、アムディスという強敵に立ち向かう。


「ーーー()()()の剣筋を私に見せるなッ!!!」


 だがそれはアムディスにとっての逆鱗だった。大声を出すと共に力が跳ね上がり、気迫でアイトの剣を返していく。


(あの女の剣筋‥‥‥!?)


 アイトは徐々に押されつつも、その言葉が脳裏をよぎる。だが当然、そんなことを長考する間もないほど剣撃が苛烈になっていく。


「いっ‥‥‥!?」


 すると突然、アイトは剣を持っていた右手が痛み、一瞬だけ痺れる。アムディスが意図的に放出した静電気を金属であるアイトの剣に当て、痺れさせたのだ。

 そして当然、一瞬の痺れもこの死闘では大きな隙。


「ぬぅらッ!!!」


「っ‥‥‥!!」


 大きく踏み込んだアムディスの赤い剣が、アイトの右肩を貫通する。そしてアイトが声を上げるよりも早く傷口を回すように抉り、無理やり持っていた剣を落とさせた。


「っ、、グぁぁぁぁッ!!!」


 想像を絶する右肩の激痛に対し、アイトは自分を鼓舞するように大声を出して精神力で堪える。そして赤い剣を持つアムディスの右手に渾身の肘鉄をぶつけ、赤い剣を手放させた。


「このっ」


「ヴがァッ!!」


 アイトは激痛の余り大声を叫びながらアムディスを蹴飛ばす。そして右肩に刺さっている赤い剣をーーー躊躇いなく引き抜いた。


「ゔぁぁぁッ!! フーッ、フ〜‥‥‥!!」


 そして眉を歪ませながら必死に呼吸を行い、赤い剣を無意識に手放す。


「バカめっ!!」


 だがアムディスがそう呟いた瞬間、地面に落ちた赤い剣が勢いよく破裂。アイトの両足に容赦なく傷を付けた。


「ぐっ‥‥‥!!?」


 足に力が入らず四つん這いの状態になってしまったアイトだが、それでも諦めずに左手で聖銀の剣を掴む。


「しつこくて気持ち悪い」


 だがアムディスはどれだけ優勢になろうとも、決して油断はしなかった。すぐに距離を詰め、四つん這い状態のアイトが苦しそうに顔を上げた瞬間に膝蹴りをぶちかます。


「ぶッ‥‥‥!!」


 それが顎に直撃し、後方に吹き飛ばされるアイト。満身創痍で仰向けに倒れながらも、左手に握った聖銀の剣だけは放さなかった。


「終わりだっ、天帝!!」


 両手に血の集めて魔力で強化したアムディスが、ふらふらしながら立ち上がるアイトに殴りかかる。右肩から大量に血を流して両足も切り傷だらけのアイトに対し、アムディスは一切の油断もしなかった。

 ‥‥‥アイトの()()が、唐突に全身から溢れるまでは。


「っ!!」


 その姿を見たアムディスは警戒し、拳を下げて様子を伺う。今まではアイトから魔力が全く感じられなかったため、一方的に攻めていたのだ。

 今までのアイトは魔燎創造の代償である魔力の使用不可状態だった。過度に負荷が掛かった魔力の源である魔核が自動的に活動を停止させることで起きる現象。

 そのクールタイムが解け、通常通り魔核が活動を始めた事でアイトの全身から魔力が溢れて出ているのだ。


(ーーー何をしてくる)


 アイトの魔力総量は桁違い。それは師匠であるアーシャにも褒められるほど。そんな魔力が突然顔を見せれば、アムディスであろうと警戒して身構える。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに気付かずに。


「ーーー使わねえって言ってんだろ‥‥‥」


 アイトが無意識に呟くと、咄嗟に体勢を低くしながら繰り出された足払いがーーーアムディスの両足を捉える。


「っ!?」


 アムディスは油断した訳では無かった。隙を見せたつもりもなかった。だが予測し得ない現象が起きた際に、強者としての勘が働いてしまった。その結果、隙をともいえる空白を無意識に作り出してしまった。

 目を見開いて声も出ないアムディスは、両足を刈られたことで尻餅をつく。


「文句無いよな」


 アイトは冷たく呟いた。左手に持った聖銀の剣をアムディスの両足に突き刺し、立たせなくする。


「貴様っ!?」


 ようやく声を出したアムディスが血を固めて飛ばそうとするも、その前にアイトが胸ぐらを掴む。そして無理やり正座させると、両足の傷で身体を崩したアムディスが、前のめりに首を出す。


「はぁッ!!!」


 そして左手に持ったアイトの剣が、アムディスの首に振り下ろされる。両足が動かない上に、修復不可能なアムディス。勝敗はついたように見えた。


「ぐッ!!!?」


 だが次の瞬間、アイトの左腕が肩の付け根から破裂。アムディスは身体に溜めていた静電気を全て放出し、人体が吹き飛ぶほどの威力を捻り出したのだ。


「っ‥‥‥!!!」


 聖銀の剣を持っていた左腕ごと宙に舞い、それぞれが離れた場所に落ちる。もはや今のアイトにとって唯一とも言える武器が、自分から離れてしまった。


「文句は言うなよ!!?」


 アムディスがわざとらしく言い放つと、両手に集めた血に魔力を乗せる。そして座った体勢からアイトの心臓を抉り出そうと手を伸ばした。


「レスタくんッ!!!!!」


 刹那の瞬間、アイトに届く少女の声。無意識に声がした方を向くと、そこには今回の戦う理由そのものであるカンナ。


「うぅーーーやッ!!!」


 満身創痍である彼女は離れた場所に落ちている聖銀の剣を拾い、勢いよく投げた。


「ーーー言うつもりは無いよ。最高なんだから」


 アイトが笑いながら血まみれの右手を伸ばし、飛んできた聖銀の剣の柄を掴み取る。勢いよく振り下ろすアイトの剣と、勢いよく振りかぶるアムディスの拳。


「ーーーーーー」


 アムディスの首が、その場に落ちる。()()()()血を溢れさせ、片膝を付くアイトの足元に。


「レスタくんっ!!!!」


 カンナは重い足取りながらも必死に駆け寄る。無い左腕に右肩の重傷、そして胸元の大量出血。そんなアイトの状態に涙を浮かべる。


「ーーーだい、じょうぶだ」


 アイトは精一杯笑って声を出した。胸元は出血しているが、()()()()()()()()()()


「っ、じゃあ‥‥‥それじゃあッ‥‥‥!!」


 涙を溢れさせるカンナはアムディスの落ちた首を確認する。そんな彼女の言葉に応えるように、アイトは堂々と呟くのだった。


「‥‥‥ああ。俺たちの勝利だ」


 吸血鬼との死闘、ついに完全決着。

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