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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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死闘と因縁

 交易都市ベルシュテット、南地区。


「これはひどい‥‥‥すぐに処置する」


 ターナが負傷した人の腕を確認し、針を取り出して人体のツボを刺激する。物資や医療者の不足が際立つ中で、ターナの存在は確実に救いとなっていた。


「ここが怪我した人たちが集められてる場所‥‥‥」


 そして彼女に付いてきたシャルロットは僅かに目を細めながらも、視界に映る光景を焼きつける。吸血鬼の仕業で崩壊した都市と、決して少なくない負傷者を。


「ーーーあっ!! シャルロット様だ!!!」


 すると1人の少女が驚いた様子で声を出す。彼女の声に皆が反応してシャルロットの出現に驚き、やがて歓喜に変わる。


「伝説の魔法使いだわっ!」


「これで、私たちは助かるのね‥‥‥!!」


 シャルロットの存在は、不安でいっぱいだった人たちの心を癒す。すると近くにいた少女が、母親の手を離してシャルロットの足元までやってくる。


「天使さま、おねがいします。この都市を救ってください。どうか、おねがいします」


 そして少女はたどたどしい言葉遣いでも、伝えたいことをはっきりと伝えた。それを聞いたシャルロットはしゃがみ込み、少女の頭を撫でながら応える。


「ごめん、今の私は吸血鬼の力を止めるだけで精一杯。でもね、私の知り合いが吸血鬼と戦ってくれてる」


「その人って、強いの?」


 少女が素朴な疑問を呟くと、シャルロットは僅かに微笑む。


「強いよ。誰よりも心が強い。だからその人のこと、応援してあげて」


「天使さま‥‥‥うんっ、応援する!」


 少女がニコッと笑って返事をすると、シャルロットは名残惜しそうに手を離して歩き始める。


「そういえばなんでこの都市から逃げないの」


 そして彼女はターナに近づきながら話しかけた。当然、ターナは少し不可解そうに言葉を返す。


「なんでって、本土へ繋がるヴィオラ大橋が壊されて隔離されてるからですよ。知らなかったんですか」


「いやそうじゃなくて。なんで()()()()()ってこと」


「直すって、そんなことできるわけがーーー」


 ここでターナの口が止まる。この状況で不可能なことをわざわざ呟くのか。そもそも、彼女はまるで不思議そうに言っていること。

 察しの良いターナは、すぐに1つの可能性に辿り着いた。


「ーーーもしかして直せるんですか!?」


 それは、シャルロットがヴィオラ大橋を直せる可能性である。


 ◆◇◆◇


 煙漂う、中央広場。


「ーーーッ!!」


 セシルはアステス王国軍の最高戦力、大佐ソニア・ラミレスの光魔法【シャイニーズ】を模倣する。瞬時に距離を詰め、右手に持ったミリタリーナイフを振り下ろす。


出鱈目でたらめな人間もいる者だな」


 それを目前で躱したアムディスは、諜報員セシル・ブレイダッドの事をそう評価していた。



 セシルは魔力解放状態のみ、『無色眼』が発動して模倣コピーが可能となる。魔力解放の持続は時間制限がある代わりに、彼の無色眼の模倣には()()()()()


「シッ!!!」


 さらに彼自身の固有魔法【衝撃インパクト】によって、模倣した技の威力を上げる。それはまさに無法とも言える組み合わせだった。


(これはあの狂人女の動きーーー)


 アムディスがそう気づいた瞬間、セシルの振り抜かれた右足が捉えていた。アムディスが咄嗟に割り込ませて防御姿勢を取った両腕に。


(だがあの女の動きには目が慣れている。それを模倣しても脅威にはならない)


 蹴りを防いだ瞬間にアムディスから飛び散った血が、静電気を放出する。


「っ‥‥‥!!」


 その血はセシルの左肩付近で炸裂し、鈍い痛みを与えていた。僅かに眉を歪ませたセシルは、果敢にも距離を詰めてナイフを振る。

 だが、アムディスは難なく躱し続ける。もはや完全にセシルの攻撃は見切られていた。


「素質は認めてやる。ただ、それだけだ」


 アムディスが少し残念そうに呟き、迫るナイフを容赦なく掴んで引き寄せる。


「その程度の経験値で、この私に挑んだのが間違いだったな」


 そう呟きながら繰り出されたアムディスの左拳が、セシルの脇腹に直撃する。そして勢いよく振り抜き、セシルを後方へと殴り飛ばした。


「っ‥‥‥!」


 血が噴き出す噴水の端に背中から激突し、セシルは思わず呻き声を上げる。だがすぐに起き上がると勢いよく走り出す。何度でもアムディスへ挑むかのように。


「懲りないようだ」


 アムディスは呆れた様子で呟く。だが次の瞬間、僅かに呆気に取られる。セシルは倒れているスカーレットを抱えると、踵を返して距離を取り始めたのだ。


「懲りていたようだな」


 アムディスがわざとらしく言ってほくそ笑む。だが当然、わざわざ見逃すはずがない。全速力の吸血鬼アムディスと脱力した女性を抱えて走る人間セシル。みるみる距離が縮まっていく。


「恥だな」


 並走したアムディスがそう呟いて剣を振り下ろす。スカーレットを抱えていて両手が塞がっているセシルには、防ぐ術は無い。


「ーーー」


 セシルが視界を埋め尽くす赤い剣を見届ける刹那、火花が散ると同時に押し留まる。

 アムディスは目を見開いた。周囲に漂う煙で見づらくなっているが、煙の先から見える剣先を見間違うはずがない。


「やっと来たか。そんなに殺されたいのか」


 アムディスが剣を勢いよく横に振り、煙を取っ払う。そこにはもう、セシルとスカーレットはいなかった。


「ーーーああ、どうしてもお前を殺したくてな」


 ただ‥‥‥待ち遠しい5分を乗り越えた『天帝』レスタが現れた。これまでの長い死闘と因縁に、終止符を討つために。

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