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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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吸血鬼の血

「いったい、何が起こってるの!!?」


 アイトが銀髪女性スカーレットに殴り飛ばされた事、それに至る所から聞こえる悲鳴。カンナは驚きの声を上げていた。


「カンナ様っ、来ます!!」


 だが彼女も他を気にしている余裕が無い。ニーナが声を出した瞬間、自分の眼前に怨敵アローラが現れる。


「私の前で随分と余裕じゃない!?」


 アローラの赤い槍を、カンナはギリギリで躱す。だが赤い槍を固定することで繰り出されたアローラの蹴りが、カンナの頬を捉えた。


「ぐはっ」


「さっきの勢いはどうしたのぉ!?」


 勢いよく蹴り飛ばされ、カンナは幾度も地面を転がる。それを読んでいたのか、先回りして待ち構えていたニーナが受け止め、カンナをしっかりと抱き抱えた。


「あれはアローラの仕業です。都市内に入る際に門番から受け取った結晶。あれは人間を吸血鬼にすべく血が混ぜられたもの」


「‥‥‥そう、だった。すっかり忘れてた」


 カンナは軽く手を振って大丈夫な事を示すと、ニーナが抱擁を解く。


「ですが、都市内の全ての人間が一斉に操られ始めたわけではありません。吸血鬼の血に対する抵抗には、個人差があるのです」


 ニーナが話を続ける間も、アローラの執拗な追撃が始まる。2人はそれをなんとか躱し、距離を取った時にニーナが話を再開する。


「それは体内の魔力総量。吸血鬼の血は魔力に浸透しづらいのです」


「つまり魔力総量が多い人は抵抗が強く、少ない人は抵抗が弱いってこと?」


 カンナが簡潔に質問すると、ニーナは頷いて手短に説明する。牽制ともいえるアローラの遠距離攻撃、赤い線を躱しながら。


「はい。ですからレスタ様や『使徒』シャルロット・リーゼロッテは吸血鬼にならない、いわば天敵。先ほどレスタ様を殴った女性は、魔力量が少なかったと考えられるかと‥‥‥」


「‥‥‥つまり、さっきから聞こえる悲鳴も」


 カンナの質問に、ニーナは複雑な表情で頷く。言葉に出さずとも、カンナには痛いほど伝わっていた。


「あの吸血鬼とアローラを倒せば、それに伴って血も消失します。血が馴染んでいない人なら、きっと元に戻せます」


 ニーナはそう呟く。今、自分たちが何をすべきかを示しているかのように。


「‥‥‥わかった。絶対、私たちでアローラを倒すんだ」


 カンナの言葉に対し、ニーナは深々と頷く。2人の意思は同じ。


「作戦会議したって無駄よ!? あんたたちは欠陥品なんだからねぇ!!!」


 アローラを、一刻も早く倒すことだった。


 ◆◇◆◇


 同時刻、東地区。


「いったいなんなの、これは‥‥‥」


 システィアは自分の目に映る光景に驚愕の声を漏らした。ジェイクとアヤメに至っては、碌に声すら出ないほどである。

 都市内の人間の一部が、まるで正気を失ったかのように他者へ襲いかかっているのだ。それに伴う恐怖と悲鳴は、目と耳を塞ぎたくなるほどの地獄。


「気でも狂ったの!? 人間同士で何やってるの!!」


 システィアは怒りに満ちた声を上げると近くの男を投げ飛ばし、襲われそうになっていた女性を助ける。


「ぼ、暴力はやめてください!! 私の夫なんです!!」


「はぁ!?」


 女性の言葉に、システィアは耳を疑った。夫婦である男女の痴話喧嘩にしては、殺意が高すぎる。まして男の方は、完全に正気を失っているように見える。


「どういうことよ!? 詳しく説明しなさい!!」


「さ、先ほどまでは安静にして休んでたのに、急に見境も無く暴れ出して‥‥‥夫の他にも」


 女性が指差した方向を見ると、システィアは先ほど見た光景を再度目に入れる。

 するとここでようやく、ジェイクとアヤメが駆け寄って合流した。


「す、すまない‥‥‥驚きのあまり動けなかった。何が起こってるか分かったのか」


「今聞いてる途中よ!!」


 システィアの一喝によって場は静まり返る。女性が少し怖がった様子で思い当たることを話し始めた。


「お、夫の具合が悪くなったのはあの結晶が割れてからで‥‥‥私は今も特に大事ないんですが」


「結晶‥‥‥上空で女吸血鬼が言ってた」


 システィアが無意識に声を漏らす。するとジェイクとアヤメがハッとした表情で見つめ合い、やがてアヤメが口を開いた。


「そういえば気掛かりな情報があるの。私とヴァルダンくんが1人の女吸血鬼に負けた時なんだけど」


「は? 初耳なんだけど」


 システィアが声に出して反応する間も、アヤメは話を続ける。女吸血鬼ニーナに戦いを挑んで敗北し、意識を刈り取られる直前に聞いた話を。


「その女吸血鬼が妙なこと言ってたの‥‥‥色のついた結晶は吸血鬼の血に対する耐性を示してるって」


 アヤメの言葉にジェイクも頷いて同意を示す。当然、驚いたのはシスティアだけである。


「はぁ!? そんな重要なことをなんでもっと前に話さないの!!?」


「色々ありすぎて忘れてたの! それより続きを聞いて。女吸血鬼はこう言ってた‥‥‥その結晶の色は耐性の弱い順から白、黄色、青と続いていくって」


 アヤメの話を聞き、システィアは息を呑んだ。そして答え合わせと言わんばかりに、助けた女性に問いかける。


「まさかお前の旦那が持ってた結晶はーーー」


「‥‥‥白、でした。まさか、そんな意味があったなんて」


 答え合わせは完了した。アヤメとジェイクが聞いた情報に、確かな真実味が帯びた。


「じゃあ白の奴らは既に操られてる可能性がある、って、こと‥‥‥」


 システィアはそう呟いた直後、ふと目線を下げて顔色を変える。やがて唇を震わせ、顔は青ざめていた。


『‥‥‥白だ』


 彼女が思い出していたのは、この都市内に入った直後の会話。興味無さそうに変化した結晶の色を呟いた、彼女のーーー。


「姉貴‥‥‥うそでしょ」


 システィアに、かつてないほどの不安が襲いかかる。そんな彼女が漏らした言葉の意味に、アヤメとジェイクも同時に気が付いた。


「ーーーっ、とにかく僕は土魔法で操られてる人を傷付けずに動きを封じる。今はとにかく自分にできることをやろう」


 ジェイクは咄嗟に話を切り替え、行動を始めた。不安そうなシスティアを過度に刺激しないよう彼なりに考慮した結果である。


「‥‥‥システィア。さっきの話は仮説で、確定したわけじゃない。まだ未確定の段階で怖気づくなんて、あなたらしくないわよ」


 そしてアヤメは、システィアの性格を理解した前提である言葉を投げかける。


「アヤメ‥‥‥」


 心配しつつも少し煽るという、システィアの気の強さを知っている上で。


「それに、あなたのお姉さんは強いんでしょ?」


 そして、姉のことが大好きであるというシスティアが必死に隠している要素を織り交ぜて。結論、アヤメの鼓舞は絶大だった。


「‥‥‥そうよ。あんな捻くれた奴、常識なんて通用しないっつうの!!」


 システィアは普段の気の強さを取り戻し、愚痴をこぼしながら顔を上げた。そして少し気まずそうにアヤメから視線を外すと、小声で呟く。


「‥‥‥ヴァルダンくんの言った通り、とりあえず操られてる人たちを無力化するわよ。どこか安全な場所を作らないと」


「はいはい、そうですね捻くれ者その2」


「はぁ!?」


 最後のアヤメの一言により、システィアは完全に普段の調子を取り戻した。窮地であるからこそ、互いの信頼が強固になることもある。

 1年生の3人は、確かに結束を強めたのだった。

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