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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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良い匂い

 うつ伏せに倒れたカンナの胸元から、大量の血が溢れ出す。


「ガぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」


 アイトは怒りや憎悪、全ての負の感情を乗せてアムディスに立ち向かう。


「最後の悪あがきか」


 アムディスは微塵の油断も無く待ち構える。ここまで自分を消耗させてきたアイトを、敵として認めているからだ。


「それとも人間特有の行動原理、仇討ちか?」


「黙れぇェェッ!!!」


 アイトは剣を横薙ぎに振るうが、アムディスに難なく防がれてしまう。直後、アムディスの赤い剣による反撃がアイトの左肩を切り裂く。


「ァァァァッ!!」


 だがアイトはまったく怯むことなく、必死にアムディスへ剣撃を行う。もはや感情の荒波が、痛みに蓋をしていた。


「それでこそ、少しは殺しがいがあるものだ」


 だが以前のような油断が無いアムディスは、剣においてアイトの上をいく。アイトの足や脇腹などを何度も赤い剣が掠める。


「足掻け。悩め。苦しめ」


 アムディスはアイトの連撃を悉く捌きながら、至近距離で呟く。諦めず果敢に攻撃を続けるアイトに対して、少しずつ反撃で削っていく。


「これから貴様の心を挫く。摘み取る。掠め取る‥‥‥貴様は全てに絶望して、そして死ね!!」


 ーーーバチッ。


 アイトは突然、剣を持っていた手が弾かれて体勢が崩れた。またしてもよく分からない現象に、アイトは歯を食いしばる。

 だが次の瞬間、アムディスの凄まじい蹴りが腹に直撃した。


「ぐはッ‥‥‥」


 その蹴りの勢いは凄まじく、アイトは後方に吹き飛ばされて背中から地面に倒れ込んだ。息も絶え絶えで仰向けになりながらも、剣を握る力だけは無くさない。


「カン、ナ‥‥‥」


 だが偶然にも、アイトは彼女の近くに吹き飛ばされていた。全く動かない彼女が視界に入り、力が抜けそうになる。


「‥‥‥ごめん、本当に、俺のせいでごめんッ」


 アイトは彼女の亡骸に駆け込んで泣き崩れたい衝動に駆られるも、前を向いて必死に立ち上がる。


「でも、このままだと供養すらできないんだ‥‥‥あの吸血鬼を倒さないと、嘆くこともできないんだ」


 アイトはカンナの亡骸に背中を向けたまま、言葉を続ける。


「それにこの都市にはターナ、ディルフィ、ネル‥‥‥お前の大好きな仲間がいる。代表の俺が、仲間を見捨てて諦めるわけにはいかないよな‥‥‥」


 アイトは溢れ出た一筋の涙を袖で拭い、呟く。


「こんな不甲斐ない代表を、どうか許してくれ‥‥‥カンナ」


 僅かに言い訳するように発した後、アムディスに向かって剣を構える。


「貴様という人間は‥‥‥相変わらず癪に障るっ!!」


 アムディスが殺気立って距離を詰め、赤い剣を振り下ろす。アイトは最大限警戒を高め、その攻撃を迎え撃とうとした。



       「ーーー良い匂いがするのう」



 だが突然、アイトは尻餅を付くように後ろへ倒れる。いや()()から身体を引っ張られ、引き寄せられたのだ。座り込んだアイトの身体に、蛇のように誰かが抱きつく。

 アイトは当然のこと、アムディスも突然の事態に困惑する。


「っ!?」


 驚いたアイトは瞬時に相手を確認しようと顔を向けた瞬間、頬に付いていた血を()()()()()()()()()()


「っ、ちょ!? なに、を‥‥‥」


 アイトは声を荒げて相手の顔を見た瞬間、自分の目を疑った。


「あ〜美味し♪ やっぱ()()()()()()()は格別じゃのう」


 映るのは、銀髪が特徴的な可憐な少女‥‥‥ただ、歯が異様に発達している。まるで、何かを噛む事に特化したように。

 だがアイトは相手の姿を見て驚愕し、目を潤わせている。


「カン、ナ‥‥‥?」


 死んだはずの少女が、はっきりと自分に抱きついているのだから。


五月蝿うるさいのう。少し黙っておれ」


 だがカンナらしき少女は、一心不乱にアイトの血を舐める。これまでの死闘で出血した箇所を、念入りに舐める。


「なぜ‥‥‥心臓を貫いたはずなのに、人間が生きているだと?」


 アムディスは少女の生存に混乱を極め、攻撃の意思が緩みそうになる。だがそんな状況だからこそ、不穏な存在を消そうとアムディス手が動いた。

 すると()()()はギロリとアムディスを睨み、呟く。


「ーーー先ほどから頭が高いぞ。痴れ者が」


 そして()()()()()から伸びた赤い鞭のようなものが、アムディスの身体を薙ぎ払った。


「がっ!?」


 アムディスはうめき声を出しながら後退してよろめき、片膝をつく。今の状況に、アイトも全くついていけない。


「やっぱ一舐めしたくらいだと、このくらいの出力かの。もっと美味い血を吸って、力を蓄えねばな」


 ()()()は少し考え込むように独り言を呟いた後、アムディスを睨みつける。


「そういえば今の感触、やはり()()か。無礼な奴もいたものじゃ」


 そう呟いた彼女は不気味に微笑み、アイトを抱き締める力を強める。

 そして『同種』という言葉を聞いたアムディスは、目を見開いて驚愕した。


「まさかっ‥‥‥アローラが固執していた()が、実在していたでも言うのか!?」


 その言葉に、アイトは当然全くついていけない。ただ1つ分かるのは、自分が倒したアローラという女吸血鬼の名前のみ。


「我ら吸血鬼の始祖‥‥‥リリスが、復活しただと」


 アムディスが冷や汗を流しながら独り言を呟く。


「おぉ、呼び捨てにするとはいい度胸じゃな?」


 するとカンナらしき少女は、アイトを強く抱きしめながら不敵に笑う。


「ま、起きたばかりで身体がダルいから見逃してやるぞよ。()()なんぞに興味はない」


 カンナらしき少女‥‥‥いやリリスは欠伸をしながらアムディスを一瞥する。


「別におぬしらの戦いを邪魔するつもりは無い。栄養補給してから退いてやるから、少し待っておれ」


 彼女はそう忠告すると、我慢できないと言わんばかりにアイトへ舌を伸ばすのだった。

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