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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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血風赤裸

 アムディスの魔燎空間『血風赤裸』。


「どうした。かかって来ないのか」


 吸血鬼アムディスは淡々と呟くと、赤い剣の形状を変えて遊び出す。そんなわかりきった挑発に、アイトは当然乗らない。


(魔燎創造は使用者が弱体化する代わりに空間内を支配する大技。普通なら今すぐ攻撃に転ずるべき、だけどーーー)


 アイトは額から汗を流して視界に入る光景に着目する‥‥‥見渡す限りの赤、赤、赤。

 まるで真っ赤な血でベタ塗りされているような空間であり、背筋が凍るおぞましさ。


(弱体化する短所デメリットを承知して発動したんだ。この魔燎空間には相当な仕様があるはず‥‥‥何があっても対応できるよう、奴の動きに注目してーーー)


「かかってこないなら、こちらから行くぞ」


 アイトの思考は、アムディスの言葉と行動によって遮られる。アムディスは、容赦なく突進して襲いかかって来たのだ。


「っ、このッ!?」


 自身に降りかかる赤い凶刃を、アイトは愛剣で受け止める。その後もアムディスの剣撃を果敢に凌ぐ。


(ーーーいける!!)


 そして咄嗟に見えた隙を好機と捉え、剣で反撃を繰り出した。アムディスは弱体化しているため、これまでよりも確実に防御力が落ちている。切り付けた彼の脇腹から剣に、確かな感触が伝わって来た。


「ッ」


 そして‥‥‥自分の脇腹に傷が入って出血する感覚も。


「グぅッ!?」


 アイトは突然の激痛に顔を歪め、咄嗟に距離を取って傷口を確認する。それは‥‥‥アムディスに攻撃した()()()だった。


「なん、でっ!?」


 アイトは魔力解放状態である今だけ使用可能な治癒魔法を自分に掛ける。


(やっぱりこの魔燎空間‥‥‥あいつが何か特殊な細工を施してる)


 傷を治癒する間、アイトは警戒を強めてアムディスを睨み付けていた。

 すると答え合わせをするかのように、()()()が勝手に修復されていくアムディスが話す。


「これが私の魔燎‥‥‥『血風赤裸けっぷうせきら』の効果だ。この魔燎空間内で私を攻撃をすれば、相手も同じ傷負う。まさに丸裸の肌に差し替かる血の香る風だ」


 アムディスが悠々と語ると、一気に距離を詰めて襲いかかる。アイトは咄嗟に剣で弾くが、相手の猛攻に対して防戦一方を迫られる。


「どうした? 攻撃してこないのか?」


(飄々と煽ってきやがって‥‥‥!!)


 アイトは歯を食いしばって猛攻に耐えるも、反撃の手が伸びない。反撃すれば、自分自身も同等の傷を負うことになる。

 魔燎創造の欠点である弱体化すら活かすアムディスの戦略に、アイトは戦慄していた。痛覚が鋭い人間である自分には考えられない、まさに吸血鬼の思考が組み込まれた魔燎空間。


(でもこのままじゃあ戦況は覆らないっ‥‥‥治癒魔法が使える魔力解放状態が切れるまでにやるしかないッ!!)


 アイトは覚悟を決めて一呼吸置くと、隙を突いて反撃を繰り出す。アイトの剣による一撃が、アムディスの左肩を切り裂く。


「ほう?」


「ぅぐっ‥‥‥!!」


 だが当然、アイトも自身の左肩に切り傷が付いて出血する。まさに今の状況は、自分の身体に剣を突き立てる自傷行為に等しい。人間なら当然感じる激痛に声を漏らす。だが、アイトは止まらなかった。


「ぐぅ‥‥‥ヴぁぁぁぁぁッ!!!!」


 無意識に声を出して自分を鼓舞し、アムディスの身体を切り裂いていく。当然、待っているのは顔を歪ませるほどの激痛と出血。


「ぅがっ‥‥‥」


 今のアイトは魔力解放状態による自強化により、魔力出力が上がっている。そして何より、アイトは魔力解放状態時のみ治癒魔法が使える。

 つまりアイトは‥‥‥自身の身体は治癒魔法で治せると割り切り、弱体化しているアムディスに攻撃して削るという考えに至ったのだ。だが当然、攻撃するたびに自身に返ってくる激痛は避けられない。


「大した決意と精神力だ。人間は痛みに過敏な生物だ。自分が痛い思いをするのはそう耐えられるものではない。いくら治癒魔法が使えるとはいえ、即断するとはな」


 アムディスは斬られた箇所が修復されていくのを確認すると、少しだけ微笑んだ。


「だからこそ、君を敵と認めた」


 そして勢いよく地面を蹴って、アイトに襲いかかる。アイトは胸に迫る剣撃は防いだが、死角からの蹴りをモロに受けて吹き飛ばされた。


「がっ!?」


 蹴られた箇所は右肩。明らかに骨に異常を感じるほどの衝撃。そのまま勢いよく蹴り飛ばされ、なす術もなく地面を転がる。


「ぃっ、くそがッ‥‥‥」


 起き上がったアイトは右肩を押さえて治癒魔法を掛けるが、治りが遅い。それを見たアムディスは、少し残念そうに見下ろしていた。


「人間はどう足掻いても吸血鬼(私たち)には敵わない。寿命は短く損傷した身体の修復は異様に遅く、少し傷ついただけで呆気なく死んでいく」


「うる、せえよ‥‥‥」


 アイトが警戒を強めて睨み付けると、アムディスは小さく息を吐いて話を続ける。


「君は()()()()()()マシな方だ。その魔力総量に魔力制御、そして最低限の身体能力。素質があると言ってもいい」


「そうかよッ‥‥‥」


「だが、人間として生まれてきたのは不運だ。人間は、生物の強さとしての限界が見えている」


 アムディスは心底残念そうに、眉を下げてアイトの右肩を見た。


「どんな魔法でも、扱うにはある程度の集中力が必要だ。だが痛みで意識が散漫となれば、本来の力を発揮できない。実際に今の君も、治癒魔法の効きが明らかに鈍くなっている」


「‥‥‥」


 アイトは何も返事をしない。アムディスの言う通り、治癒魔法の効き目が悪くなっているのは事実だった。


「吸血鬼は長寿で、人間とは比べものにならないほどの修復能力を有する。痛覚にも相当に鈍感だ。そこでどうだろう。私の血を飲んで君も吸血鬼にーーー」


「‥‥‥そろそろ無駄話は終わるか?」


 アイトは、アムディスの話を一蹴した。右肩の治癒を終えて立ち上がり、剣を強く握り締める。


「吸血鬼の方が人間よりも上? 優秀な種族? 心底どうでもいいんだよ。そんな事、誰にも決める権利なんて無い。お前にも、俺にもな」


「ほう?」


「ただ俺が今言えるのは‥‥‥お前の血を飲んで服従するくらいなら、死んだ方がマシってことだけ」


 アイトの意思は微塵も揺るがなかった。自傷行為をする羽目になっても、窮地に追い込まれても‥‥‥倒す事を諦めていない。全ては、カンナやターナを始めとする‥‥‥大切な仲間を守るために。

 その決意から滲み出る尋常ではない精神力を前に、アムディスは興味深そうに笑みを浮かべる。


「‥‥‥ふっ、面白い。死ぬ間際になっても意見を変えないかどうか、見せてもらおう」


「人の血を吸って喜ぶ変態に生まれ変わる気は微塵も無いな」


 お互いに煽るように呟いた後、鮮烈な衝撃が空間内に響き渡る。


「久しぶりに目覚めたんだ。楽しませてくれ」


「せいぜい楽しんでろよッ!!!」


 アイトとアムディスの戦いは、ついに最高潮に達しようとしていた。

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