王女のための異世界式即日配達
地下3階。
「この先の牢屋です!」
「よし!!」
アイトとエリスは、遂に目的地に到着しようとしていた。
「!! レスタ様!!」
エリスがそう言った瞬間。
アイトに飛んできた火の玉を、彼女は咄嗟に剣で掻き消した。
「ちッ!!」
舌打ちしながら現れたのは、素顔を晒した中年の男。
「貴様ら、我々の邪魔をするな!!」
「こっちのセリフよ。この下衆ども」
エリスが一瞬で男の背後に回り込んで、足払いを掛ける。
「なっ!?」
そして驚く男の胸に、躊躇なく剣を突き立てた。溢れ出す鮮血を、エリスが勇者の魔眼で躱す。
「ガッ‥‥‥!!! な、なんだ今の速さっっ‥‥‥」
「黙れ」
エリスが勢いよく剣を振り払う。一切の容赦は無い。男は壁に吹き飛ばされ、もたれかかるようにして動かなくなった。
「時間の無駄よ」
相手はカンナやミアが戦った覆面たちと、互角以上の強さを持っていたはずだった。
だがエリスとの力の差がありすぎたため、一瞬で勝負がついてしまった。
(ちょっと、やばくないですか‥‥‥?)
アイトはその光景を見て驚く。剣を納めたエリスが、いつもの笑顔で優しく振り向く。
「レスタ様、早く行きましょう!」
「あ、ああ」
エリスはまさに、鬼神の如き強さだった。
(間違いなく俺よりエリスの方が強い!? ど、どうしよ‥‥‥俺勝てるのか!?)
アイトは悩みの種を増やしながら、一目散に走り出した。
「ここです」
そして、アイトとエリスは目的地の牢に到着した。
「【異空間】」
アイトは空間魔法【異空間】を発動。空間が裂けて別次元が映り出す。
「ーーーきゃああ!!」
そしてそこから‥‥‥手錠をつけられているユリア王女が飛び出てきた。
「おっと」
ユリアをお姫様だっこの形で受け止めるアイト。その光景を見て、エリスは朗らかに笑っている。
アイトは悪寒が走る。
「え? あなたは‥‥‥」
「‥‥‥【鍵】」
アイトは気を取り直して、自作の魔法で鍵を作り出す。ユリアの手錠の鍵穴に差し込み、鍵を外す。すると、手錠が床に落ちて音を立てた。
こうして、ユリアは魔力封じから解放された。
「あ、ありがとうーーー」
「【スプーリ】」
アイトは睡眠魔法【スプーリ】を発動。感謝を告げる途中だった彼女を、問答無用で眠らせた。
「ふう、これで後はここから出るだけだ」
「さすがですねレスタ様。それでは行きましょう」
ユリアを抱えたアイトと、笑顔のエリスが牢から出る。
「あ! いたよ2人とも!」
「お兄ちゃ〜〜ん!!!」
「レーくん、エリス、はっけん」
そこでカンナ、ミア、リゼッタと合流を果たす。
彼女たちを見つめ、アイトは少し安堵の息を漏らして話しかける。
「みんな無事か。見ての通り、王女は救出できた。みんな、本当にお疲れさま」
アイトが労いの言葉をかける。1人では迅速に助け出す事が不可能だった事を悟っている。
エリスたちが嬉しそうに微笑む。ミアに至っては恍惚とした表情を浮かべていた。
「さてと‥‥‥とりあえず王女を城へ届けないとな。なるべく早く、安全に」
まるで、現代の配達員のようなことを話すアイト。王女を完全に貴重品のような扱いをしている。
「レスタくん、どうするの?」
「ん〜‥‥‥まず王女を抱えて王都の中を歩くわけにはいかない。さすがに目立ちすぎる」
「そうだよね‥‥‥」
「でも急がないと城は騒動真っ最中だろうし‥‥‥」
アイトはカンナと会話しながら、どうしようか頭を悩ませる。カンナは口を尖らせて考え込んでいた。
「では、この方法はどうでしょうか?」
するとエリスが手を挙げて、考えた案を話し始める。アイトは少し目を見開いた。
「‥‥‥よし、時間も無いしそれでいこう。じゃあ3人とも、ここを探索した後に戻ってくれ」
「OK〜!それじゃあ探索しよっか2人とも!」
「命令すんな銀髪女」
「ミア、げきおこ、こわい」
カンナ、ミア、リゼッタが付近の牢屋を見て回る。
「エリス、行くぞ」
「はい!」
そして、アイトとエリスは階段を駆け上がっていく。
(迅速に、安全に、慎重に!!)
こうして、王女のための異世界式配達が始まる。
◆◇◆◇
グロッサ王国の王城。
城の中はユリア王女が行方不明であることで大混乱に陥っていた。
国王ダニエル・グロッサは、玉座に座ったまま歯を噛み締めていた。
「ええいっ!! まだ見つからんのか!?」
王国最強部隊『ルーライト』の隊員たちに調査させるが、未だ見つからず。
「ユリアっ‥‥‥どこにいるのだっ」
ダニエルは不安そうな顔で、どんな手を打つべきか考えていると。
「報告します! ルーク様が帰られました!」
「なに! 本当か!!」
「ーーー本当ですよ、父上」
颯爽と現れたのは、グロッサ王国の王子ルーク・グロッサ。
「ただいま戻って参りました。父上」
「よく戻った! 帰ってきたところ悪いが事情は知っているな!?」
ダニエルが即座に緊急事態であることを促す。息子であり、最も頼りになるルークに。
「はい、ユリアが行方不明だと。いてもたってもいられず、任務を終わらせて戻ってきました」
「うむ、さすがだ」
「そのことですが、実はもう調べは済んでいます。場所を特定したので、先に隊員を向かわせてます」
「そうか!!」
ルークは首を縦に振り、淡々と話す。
「はい。おそらくメルチ遺跡にいます。僕もこれから向かいますので」
「では頼んだぞルーク!」
「はい。では失礼します」
ルークはお辞儀をした後、颯爽と出て行った。
「こちらルーク。これからメルチ遺跡に向かう」
グロッサ王国最強部隊『ルーライト』の隊員たちは、隊長のルークが帰還するまで各自ユリアの調査を進めていた。
そして場所を特定し、隊員たちは一足先に向かっていた。その数、5人。
「誰が最初に着くかな?」
ルークは足早に動き出す。妹がいるメルチ遺跡へと。
「ユリア‥‥‥無事でいて!!」
そして、隊員の中には‥‥‥アイトの姉、マリア・ディスローグもいた。
◆◇◆◇
「やばい。このままだと、代表たちが王子の部隊と鉢合わせるっ‥‥‥なんとかしないと!!」
城に潜入していたメリナは焦っていた。
グロッサ王国最強と言われるルークと戦闘になれば、苦戦は免れない。最悪の場合、捕まるという可能性すらある。
「こりゃ早く行かないと!!」
メリナは急いで、先行するルークの後を追うのだった。
◆◇◆◇
『こちらメリナ! みんな、聞こえる!?』
「どうしたのメリナ?」
メリナの魔結晶からの呼びかけ。それに答えたのはカンナだった。
『ユリア王女がそこに捕えられていたことがバレた! あと少ししたらルーク王子がそっちに着く!』
「ほんと!?」
『ああ! だから早くその場を離れて!』
「それは大変だねっ‥‥‥了解っ、連絡ありがと〜。ミアとリゼッタも一緒にいるから安心してっ!」
「え? 代表とエリスは?」
「あ、それが今2人は‥‥‥」
カンナはポリポリと頬を掻き、苦笑いを浮かべながら説明を始めた。
◆◇◆◇
グロッサ城。
城の中は少しずつ落ち着きを取り戻していた。王国最強であるルーク王子が、妹のユリア王女の救出に向かった事で。
「ルークなら必ず、ユリアを助け出してくれるっ‥‥‥!!」
だが、その安堵も長くは続かなかった。
バリンッ!!!
突然、城の窓ガラスが割れる。静寂からの騒音により、城内で混乱が巻き起こる。それも2階の窓から。
「急ぎましょう」
窓ガラスを粉々に蹴破ったのは、黒いフードで顔を隠している謎の少女。
「ああ」
その後、中に入ってきたのは‥‥‥ユリア王女を抱えた、銀髪仮面の謎の男。
「レスタ様、国王はこの先だと思われます」
「ああ、急ごう」
2人は最短距離を高速で滑空。魔力を大幅に消費したが、仕方なし。
次に、障害物である城の窓を割る。跡形もなく割る事で、後に通り抜けるユリアが怪我をしないように。
「やはりレスタさまって優しいですよね。ユリア王女の身を案じるなんて」
「よしてくれ。窓を破って侵入してる時点で、優しくないよ」
こうして異世界式配達、現地へ到達。
「失礼するわ」
エリスが扉を開ける。
広間には多くの兵士と宰相‥‥‥そして、国王ダニエル・グロッサがいた。
「な、何者だ!? 敵襲ーーー!!!」
兵士がそう叫ぶと、アイトたちの周囲を囲い始める。当然の反応である。
「落ち着け。この少女が目に入らないのか」
アイトは少し演技がかった声で、両腕を軽く揺する。
「っ、ユリア!!」
「!? ゆ、ユリア様!?」
ダニエルと兵士たちが大声を出す。謎の男に抱き抱えられている、意識の無いユリアを見て。
「そうだ。この女は謎の遺跡の中に捕らえられていた。それをわざわざ連れてきた。こっちが襲われる道理はない」
アイトは真下の床にユリアを下ろす。王女を床に下ろすのは失礼な事だが、今回はやむを得なかった。
そもそも、窓を蹴破って侵入している時点で失礼どころの話では無い。
「それでは失礼する。これからはもっと王女の警備を厚くするんだな」
「貴様が犯人だろ!!!」
そう言った1人の兵士が、アイトに剣を向けて走り出す。
「レスタ様のご厚意に背くとは。恥を知れ」
そう言ったエリスが兵士の腕を難なく掴む。
「! 殺さなくていい!」
アイトは咄嗟に叫んだ瞬間、エリスが兵士を自分の方に引き込んで、勢いよく投げ飛ばす。
「本当に優しいですね」
そしてエリスが‥‥‥宙に浮いた兵士へ回し蹴りをぶち込む。それを一瞬の内にやってのける。
「ぐぼぉぁぁっ!!!」
兵士は錐揉み回転しながら床を転がり、微塵も動かなくなった。
「「「ひっ‥‥‥!!」」」
(えっ、殺してないよね!?)
国王や周囲の兵士はその光景を恐れを抱いた。ちなみにアイトも恐怖していた。
「忠告する。レスタ様と私の邪魔をするなら、次はこの程度では済まない。城を吹き飛ばされる覚悟をしろ」
(いやそんな物騒なこと言うのやめよ!?)
エリスの恐喝を聞いてビビりまくるアイト。そしてアイトよりも恐怖する城の人たち。
「それではレスタ様、行きましょう」
「‥‥‥ああ。戻るぞ」
話しかけられたアイトは素を出してはいけないと、必死に演技じみた声を出す。
そしてアイトとエリスは破った城の窓から、空へ飛び出す。
(胃に穴空きそう‥‥‥)
これにて王女のための異世界式即日配達、完了。




