表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/347

【終焉】

 カンナは目をぱちぱちと瞬きした後、今日一番の大声を上げる。


 『えぇぇぇレスタくんが遺跡を吹き飛ばした!?まさかさっきの爆発って!!』


 「おそらく、その爆発がそうでしょう。今から説明しますので聞いてください!」


 エリスは遺跡を吹き飛ばしたアイトの後ろ姿に見惚れながら、カンナたちに説明を始める。


 「‥‥‥‥‥‥」


 そしてアイトは耳を傾けることなく、ただ自分の行動を思い出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アイトとエリスは、ユリアを城に送った後に城の窓から空へ逃げ、そのまま遺跡に向かっていた。


 「アイト様、なぜまた遺跡に戻るのですか?」


 2人きりになると呼び方を変える相変わらず律儀なエリス。


 「え? あの遺跡壊そうと思って」


 「こ、壊すのですか?」


 「ああ。俺たちが侵入した痕跡が残ってるし、死体からエリスたちの力を探られてしまうかも。敵に知られるわけにはいかない」


 勇者の末裔エリス、無色眼のカンナ、呪術師ミア、毒魔法使いリゼッタは希少性が高い。


 捕まれば何をされるか想像するだけで恐ろしいとアイトは感じたのだった。そして何より自分の正体もバレたくない。


 「私たちのため、なんですね‥‥‥ありがとうございます」


 エリスが少し申し訳なさそうに、嬉しそうにアイトに言う。




 「よし、ここから狙うか」


 アイトとエリスは遺跡の真上、上空に浮いていた。


 「エリス、念のためカンナたちがどこにいるか確かめてくれ」


 「はい。‥‥‥」


 エリスが目を閉じる。魔眼の力でカンナたちの現在地を調べる。


 「‥‥‥いました!ここからかなり離れてます。全員脱出したみたいです」


 「よかった。これで心置きなく吹き飛ばせる」


 そう言ったアイトは片手を遺跡に向かって伸ばす。そして気づく。


 (ーーーあ。俺、吹き飛ばせるような魔法打ったことない)


 アイトは1年半前のラルド戦で自分が戦闘用の魔法を準備していなかったことを相当反省していた。


 ‥‥‥にも関わらず、今まで実用性がない(本人的には楽しめるため実用性がある)魔法しか練習してこなかった。


 遺跡を破壊しようと意気込んでいたくせに自分では壊すことができない。そのことをエリスに知られてしまうと間違いなくマズい。


 アイトはそう感じて勝手に焦った。


 (と、とりあえず色々混ぜればいいよな!?)


 アイトは両手を突き出して、手の指先に属性を帯びた魔力を発生させる。


 選んだ属性はアイトが使える属性である火、水、雷、氷、風、土、闇、光、振動、音。


 闇と光は希少性が高いが、他の属性は全て基本属性である。


 振動属性と音属性を選んだのは、指が2本余るのはもったいないからと理由だった。いわば数合わせである。


 それを両手の親指から小指に至るまで、合計10本の指で発動させる。


 各指で発生させた属性を帯びた魔力の小さな玉を中央に寄せて圧迫。各属性同士が反発し合って起こる衝撃と音。


 アイトは花火を作る時にこのくらいはよくあることだと慣れてしまっている。エリスが驚いていることにも気づかない。


 そして10個の属性魔力が混ざり合ったものは、真っ黒になっていた。そこから凄まじいエネルギーを帯びている。


 「やっ」


 アイトは格好のつかない声を出して、その真っ黒な魔力を両手から放出する。


 真っ黒な魔力はレーザーとなって遺跡に当たった瞬間、溶けたように錯覚する。しかしその直後。




 遺跡どころか、広範囲の地面が抉れるほどの衝撃と大爆発。


 「こ、これはっ‥‥‥!」


 発生した爆発音に、思わずエリスは両手で耳を塞ぎ耐える。


 爆風によって、アイトたちは凄まじい強風を浴びる。


 アイトは花火を破裂音を何度も聞いていたためか慣れており耳を塞がなかった。塞ごうと意思決定する余裕が無かったからかもしれない。


 (‥‥‥これ、完全にやらかしてしまった!!)


 そしてアイトの考えは、自身の失敗のことで頭がいっぱいになっていた。


 「す、すごい‥‥‥」


 (やべえよ消し飛ばしちまったよっ!?)


 こうして、遺跡どころか広範囲の地面にかなりの深さの巨大な穴ができてしまったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「‥‥‥ということなんです!すごかったです!!さすがレスタ様です!!」


 エリスはひたすら褒め称えた。


 アイトが放った魔法が凄まじかった、打つ後ろ姿に感服した、クールで最強の『エルジュ』の代表、自分たちはアイトに仕えることが光栄な事だと。


 ほとんど彼女自身の主観まみれになった出来事を、ターナたちに伝えた。


 アイトは自分のやらかしに気を取られていてエリスの話してる内容を全く聞いてない。


 『すごっ、こっちにまで爆発が聞こえたもん!さっすがレスタくん!』


 『あれってお兄ちゃんがしたんだ!!さすがお兄ちゃん!カッコいい♡』


 『レーくん、すごい、ばくはつ』


 『フン、そのくらいやってもらわねば代表失格だ』


 カンナたちも、それぞれアイトのやった事に反応を示す。


 「また詳しいことは後日教えます。レスタ様、任務は全て完了しましたよね?」


 「‥‥‥ああ」


 エリスの確認に対し、今のアイトは空返事しかできない。


 「というわけで任務完了です、お疲れ様でした。今日は拠点に帰って休みましょう」


 『ラジャ〜! おつかれ〜!!』


 カンナがそう言って魔結晶の接続を切る。


 「アイト様、私たちも帰りましょうか。アイト様は学生寮に戻りますよね?」


 「‥‥‥ああ」


 「それでは途中までお供致します。私は『マーズメルティ』に戻るので」


 「‥‥‥ああ」


 エリスがグロッサ王国目指して飛んでいくのを、ぼんやりしていたアイトが後を追う。



 こうして、王女救出作戦は終了する。



 (使い方、ちゃんと知ろう‥‥‥)


 アイトは魔法についてもっと知っておくべきだったと深く反省するのだった。


 そしてアイトは、自分の放った魔法をエリスに魔結晶で撮られていたことに気づかなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日、エリスが撮った魔結晶の光景は新組織『エルジュ』の拠点で放送される。


 そのことを知った元訓練生たちは自分たちの任務、勤務を早急に終わらせてアイトの放った魔法を見た。


 見た者たちから大歓声が上がる。凄まじい威力、神々しさ、自分たちの代表はここまですごいのかと改めて敬意を表した。そしてみんなが口を揃えて言う。


 代表が放った魔法は、まさに【終焉】に相応しいと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ