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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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東地区の勝者

 交易都市ベルシュテット東地区。スカーレット&ジャックVS女吸血鬼イフォリン。


「ゴフッ!!!?」


 辺りに飛び散る鮮血。口から溢れ出る血が止まらない。


「なんなのっ‥‥‥この2人っ!!」


 攻撃を受けて愚痴を零すのは、女吸血鬼イフォリンの方だった。そう、彼女は今完全に押されている。


「どうした!?」


 接近戦だと、スカーレットが前に出てくるため戦いづらく。


「逃げんなよ」


 距離を開けて攻撃しようとすると、ジャックの魔法によって封殺される。完全に劣勢に立たされたイフォリンは、焦りとイライラが止まらない。そして何より、彼女が腹を立てる要因はーーー。


「もういいんじゃないかお嬢さん! 素手だけで俺より先に倒せるとは思えないけど!?」


「いいや私が先に倒す。君がどんな手を使っても私が仕留める。殴り飛ばしてやる」


 言い合う2人には自分が全く映っておらず、まるで賭け事のように扱われていることだった。


「こんのっ‥‥‥腐れ外道がぁ!!!!」


 イフォリンは怒りのあまり自身の桃色髪を僅かに血で染めながら、赤い線を射出。周囲の建物に引っ掛けることで飛び回る。


「このイフォリンをどこまで怒らせれば気が済むんだこの2人はぁ!!? 楽には死ねないことが既に確定しているぞぉぉぉ!!!?」


 怒りながら実況風に話す彼女は、2人の真上まで飛び上がる。


「ぶっ!?」


 だが空間が実態を帯びたように、イフォリンの頬に衝撃が走った。


「うるさいから静かにしてくれるか?」


 それは真下で人差し指を動かすジャック。彼の魔法『無限大』が、イフォリン周辺の空間を支配しているのだ。


「なんだこのふざけた魔法はぁぁぁ!!? 人間が扱っていい代物じゃないではないかぁぁ!!」


「だからうるさいって」


 ため息をついたジャックが人差し指を下へ振った瞬間。


「ごっ!?」


 イフォリンの背中に衝撃が走り、まるで何かを叩きつけられたような錯覚に陥る。真下へと伝わる衝撃を受け、イフォリンは上空から急降下。まるで上から叩き落とされたような光景。


「ったく、やっと私の番が回ってきた!」


 スカーレットは頃合いを見計らって跳躍。落ちてくるイフォリンと同じ高さに調節する。


「さあ、私に倒されてくれよ?」


 彼女は狂気的な笑みを浮かべながら一心不乱に頭へ掴みかかる。そしてそのまま、イフォリンを下にして地面に叩きつけた。


「がはっ‥‥‥」


「ようやく君を殴れる」


 そう言って馬乗りになったスカーレットは、嬉しそうに笑いながら勢いよく殴り始めた。


「〜〜〜〜っ!!!」


 拳の雨に、もはや声すら出せないイフォリン。ただひたすらに攻撃を受ける。


「やっぱ吸血鬼ってのは硬いな!! 殴り甲斐があって気持ちいいっ!!」


 スカーレットは両手を赤く染めながら、嬉しそうに声を漏らす。


「ちょ、お嬢さん? 倒した方が勝ちとは言ったが少しやり過ぎなんじゃないか??」


 その刺激的な光景を見届けるジャックは困惑しながら話しかける。だが、スカーレットは手を止めない。


「やり過ぎなのは吸血鬼こいつらの方だ。関係無い私たちを巻き込んで迷惑かけたんだからな。その鬱憤を晴らさせてもらう」


「いやどうみても楽しそうに殴ってるだろ」


 ジャックが小言を漏らす間も、スカーレットは拳を止めない。もはやその光景は刺激的どころか猟奇的だった。


「ふう、少し興が乗ってしまった」


 やがてスカーレットは、真っ赤に染まった両手を止める。


「‥‥‥」


 イフォリンは、もはや白目を剥いて意識が無いようだった。だが、彼女はまだ微かに息がある。


「なあお兄さん、これはもう私が倒したってことでいいよな?」


 スカーレットは動かない相手に指を差しながら、隣に立つジャックへ話しかける。


「うーん、どうだろうな。まだそう思うのは早いんじゃないか」


「なに?」


 彼の返事を聞いたスカーレットは、眉を顰める。ジャックは、頭を掻きながら呟く。


「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()


 イフォリンの身体が、ビクンと跳ねる。馬乗りになっていたスカーレットが再度拳を振ろうとした瞬間。


「イフォリン、大復活ぅぅぅ!!!」


 周囲に飛び立っていた血が破裂する。


「っ!!」


 その爆風に呑まれたスカーレットは、遥か上空へと吹き飛ばされた。起き上がったイフォリンの周囲には、血の粒が定期的に流動を繰り返している。

 それを後退しながら眺めていたジャックは、顎に手を置いて口を開いていた。


「なるほど。あらかじめ空間に抵抗を与えておくことで、俺の魔法の影響も減らすと」


「これがイフォリンの考えた、渾身の策!!」


 褒められたためか、血塗れのイフォリンは自信満々に言い放っていた。ジャックは残念そうにため息を漏らす。


「これなら確かに俺の攻撃は届きそうにないな」


「ふっふっふ、お前は2回戦として戦って上げます!! 先にあの女をぶち殺してーーー」


()()()()()()()


 そう呟いたジャックは、一瞬でイフォリンとの距離を詰める。


「はーーー」


 そして彼女が声を上げる間もなく、ジャックは()()()()()()左手で殴り込んでいた。


「がぁっ!?」


 鳩尾を殴られたイフォリンは、後方へ吹き飛んで建物の壁へ激突する。そのまま座り込んだ彼女は、恐怖を感じていた。


「俺、女を殴るの趣味じゃないんだよなぁ。だから魔法で攻撃してたんだけど、仕方ないよなぁ」


 吸血鬼である自分が苦しむほどの一撃を叩き出す、黒髪のキザな男に。


「あ、この包帯? 別に怪我なんてしてないぞ。こうすれば左手は使えないって油断してくれるだろ?」


 別に聞いてもいないのに、へらへらと笑いながら情報を漏らすジャック。それを見たイフォリンは確信していた。

 

(この男っ、こんなにもペラペラとっ‥‥‥)


 簡単に口を割るということは、相手に対する油断や余裕を意味する。


(こいつ‥‥‥私の事を格下に見ている!!)


 つまり、吸血鬼である自分を()()()()()()()()()()()()()と。

 その事に気付かされたイフォリンは、足の震えが止まらない。純粋な力の差に、寒気すら覚える。


「あれ、どうした寒い? ってそりゃあ血塗れだったら寒いよな。いや吸血鬼って寒いとか感じるのか?」


 ジャックの飄々とした声を聞くたびに、イフォリンは戦慄する。そして彼のことを意識しているうちに、思い出した。


(そ、そうだった‥‥‥こいつが持ってた結晶は黒だった、、()()()()()()()()()()、濁った黒っ!!)


 そしてイフォリンは、戦う意志が消えていた。


「お嬢さんも戻ってこないし、そろそろ俺がやらせてもらおっか」


 だが、ジャックは止まらない。魔導具『鏡越しの記憶(ミラー・メモリー)』所有の賭け勝負に、イフォリンの討伐を掛けているからだ。

 だが、イフォリンはそんな彼の言葉を聞いて‥‥‥1つだけ、打開策を思いついた。


「お前は後で相手してあげますっ!!!」


 精一杯強がったイフォリンは‥‥‥射出した赤い線を建物に引っかけ、高く跳躍する。

 飛び上がった先には‥‥‥空中に投げ出されて落下中のスカーレットがいた。


『女を人質にとって、男との戦いで優位を取る』


 それがイフォリンの思い付いた最後の策だった。イフォリンはほくそ笑み、落ちてくるスカーレットに赤い線を射出する。

 空中で動きの付かないスカーレットは、瞬く間に左腕を赤い線に絡め取られる。


(これでこの女を半殺しにして、人質にすれば‥‥‥イフォリンにも勝機があるっ!!)


 イフォリンは意気揚々と、赤い線を振り下ろす事でスカーレットを地面に叩き付けようとする。


「っ、? 思うように、動かないっ」


 だが彼女が手に持った赤い線には、明らかに抵抗があった。それは、赤い線を絡めさせた相手の存在。


「私の方へ来てくれるとはなっ!!」


 スカーレットが、自分の左腕に絡まった赤い線を引っ張っているからだ。


「なっ!? 正気ですかこの女はっ!? 嬉しそうに引っ張るなんて狂気の沙汰っ!!」


 イフォリンは目を見開きながら、負けじと引っ張る。


「あ、実況が復活したな。じゃあ、そのまま続けてくれ」


 嬉しそうに呟いたスカーレットは、ますます引っ張る力を強めていく。


「私と君の、純粋な力勝負をなっ!!」


 彼女の発言通り。スカーレットとイフォリンは、空中で赤い線を引っ張り合うことになる。


「このイフォリンに人間の女が勝てるとでも! 負ければ地面に叩きつけられる、勝負ありだぁ!!」


 イフォリンの声には自信が溢れていた。吸血鬼である自分が、人間の女に単純な力で負けるはずがないと。


「ああ、その通りだ」


 そんな声が聞こえた瞬間、イフォリンは目を疑う。


「ーーーは?」


 線を握っていた自分が引っ張られ、スカーレットの目の前に迫った事に。


「じゃあ私が上で、君が下な」


 意地の悪い笑みを浮かべたスカーレットは、唖然とするイフォリンの頭を掴む。イフォリンの身体を下にして、スカーレットは上に乗る。

 落下速度は凄まじく、瞬く間に地面との距離が無くなっていく。


「は‥‥‥はっ? なんで私が人間の女に力で負けてーーー」


「そんなの決まってるだろう」


 2人は、勢いよく地面に叩きつけられた。相応の衝撃と騒音が周囲に響く。巻き上がる土煙の中上に乗っていたスカーレットがゆっくりと起き上がる。

 そして彼女は、下敷きになった吸血鬼に言い放つ。


「私は、男にも負ける気はないんでね」


 白目を向いた吸血鬼は身体が朽ちて、すぐに灰となっていく。修復機能が停止するほど削られ、遂に生命活動を終えたのだ。


「マジかよお嬢さん‥‥‥正気じゃねえよ」


 駆け寄ったジャックが素直な感想を呟くと、スカーレットは満面の笑みを返した。


「ああ、それが私だからな」


「うわ‥‥‥やばこいつ」


 東地区の勝者‥‥‥スカーレット&ジャック。

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