反逆者と標的
交易都市ベルシュテット、中央広場。
「たっ、たっ‥‥‥ターナぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
戦いの最中にも関わらず、カンナは号泣しながら仲間の少女に飛びつく。
「おい急に抱きつくなっ!? なんだこれは!?」
ターナは勢いよく抱擁され、ますます現状が分からなくなる。とりあえず無条件でカンナは引き剥がそうとしたが。
「チィッ!!!」
予想外の展開に舌打ちしたアローラは、殺意を込めて血の刃を投げ付ける。
「今はそれどころではありません!!」
すると2人の前に回り込んだニーナは、血の壁を作ることでアローラの攻撃を防ぐ。
「うにゃっ!?」
その攻防の間に、ターナは押し飛ばす勢いでカンナを引き剥がしていた。
「ターナ様、話があります」
「た、ターナ様?」
ターナは一歩下がると相手への困惑を隠さない。だがニーナは気にせず、淡々と話の続ける。
「あなたはアローラと戦ってはいけません。あの女の血を受ければ支配下に置かれます。魔力の少ないあなたに、抗う術はありません」
「昨夜、お前にやられたようにか?」
ターナが嫌味を込めて聞き返すと、ニーナの表情が曇る。当然その間にも、アローラの猛攻は続く。ニーナは血の壁を更に大きくし、血の投擲を防いでいた。
「この件が終わり次第いくらでも謝罪します。どんな罰でも受けます。誓います。ですからどうか、今は私のことを信じてください」
「あんな事したお前のことを信じろと?」
ターナが淡々と言い返したことで、ニーナはより慎重に言葉を選ぶ。
「カンナ様陣営にとって貴重な戦力である、あなたを失うわけにはいかないのです」
「私陣営ってなに!?」
2人に割り込むように疑問を訴えたカンナ。するとターナは諦めたように息を吐き、片目を開けて呟く。
「‥‥‥仕方ない。今は忠告を聞いてやる。だが、この騒動が終わったら覚悟しておけ」
「はい、ありがとうございます」
そしてカンナの声は見事に無視され、2人は互いに会話を終わらせていた。
「ボクは都市内に残った人の救援に向かう。カンナ、後で詳しく話を聞かせてもらうぞ」
「えっ? 私も全然分かってないんだけど!?」
カンナの本音に応えないのは、ターナに余裕がないのかわざとなのか。ターナは特に反応せず、アローラとは逆方向へ動き始める‥‥‥と思いきや数歩先で足を止め、ニーナに話しかける。
「それと裏切り吸血鬼‥‥‥1つ間違ってるぞ」
「あの、その呼び方は傷つきます。それに早く行ってくれませんか」
ニーナは不満を漏らしながらも、懸命にアローラの攻撃を捌き続けていた。するとターナは不敵に笑う。
「こいつが慕ってる男がいるからな」
「ちょっ!? なに言ってるのターナぁ!!?」
それだけ言い残すと、今度こそターナの背中は見えなくなった。これで噴水広場に残ったのはカンナ、ニーナ、アローラの3人となる。
「と、とにかく力を貸してくれるってこと!?」
「今さらですか。私にとってはあの女を殺す事が悲願なんです」
2人は、アローラが生み出す血の嵐に立ち向かうことになる。
「いいのニーナぁ!? 今もかろうじて生きてるあんたの父親が惨めに死ぬことになってもぉ!?」
アローラは取っておいた人質を最大限生かすために存在をちらつかせながら大声で煽る。だがニーナは嘲笑を浮かべると、わざとらしく言い返した。
「私が何も手を打ってないとでも? この都市を嗅ぎ回ってた諜報員らしき女に、あの趣味の悪い監禁部屋の存在をちらつかせたわ」
「っ!?」
(この子、すっごく切れ者だ!!)
カンナが自分に出来ない芸当に驚く間も、ニーナの話は続く。
「それにさっきお前が北地区にいるリベルアから連絡を受けていたのも知ってる。盗み聞きしてたからよく聞こえたわよ? 『前市長が逃げた』ってね!!」
そしてニーナが気持ちよさそうに言い返すと、アローラは怒りを隠さずに眉を顰める。そして彼女は反逆者ニーナと標的カンナへ、意気揚々と言い放った。
「あんたたち程度が私を倒せるとでもっ!? 心底失望したわよ!! 二度とその顔を見せないでちょうだい!!!」
激昂したアローラが作り出した血の雨が、辺りを真っ赤に染め上げる。
「っ!? この速さはーーーがっ!?」
目を見開くニーナは、続きを言うよりも早く吹き飛ばされた。地面を数回転がり、うつ伏せに倒れ込む。
「ニーナ!!」
カンナは心配するように名前を呼ぶが、返事は帰ってこない。その光景を見たアローラは、相手を馬鹿にするような嘲笑を浮かべた。
「ほんと馬鹿ねニーナ。まさか私の力を把握していたとでも? そうだとしたら読みが甘いわね。あんたの前で一度も見せたことないわよ?」
「アローラっ‥‥‥!!」
カンナが反抗的に睨みつけると、アローラは冷たい視線を送り返す。
「もうあんたには何も期待してないわ。器だから今まで生かしてあげたけど、もういい。また他の器を見つけるからねぇ!!?」
そう宣言した瞬間、アローラから無数の血が針のようになって飛び散った。
◆◇◆◇
はるか遠くの盆地。
「じゃあ、行くよ」
白い翼が生えた天使、『使徒』シャルロットは右手を銀髪少年の背中に添える。
「【飛んでいって】」
彼女が呪文のように慎重に唱えると、触れていた相手が瞬時に消える。少年の姿は、シャルロットの視界からはるか彼方。大砲のように飛んでいったからだ。
何か叫ぶような大声が聞こえた気がしたが、シャルロットは気のせいだと判断した。
「上手く着地できるといいな、あーちゃん」
そして彼女は魔法を発動した張本人とは思えない祈るような発言をし、翼をはためかせ飛び立つのだった。




