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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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何がなんでも

 シャルロットの提案に乗って、数分後。


「うぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァ!!!?」


 まるで放たれた大砲のように空を突き抜けるアイトは、死を覚悟したほどだった。だが結果として、自分では決して不可能な短時間での長距離移動に成功する。


「このっ!!!?」


 錐揉み回転しながら勢いよく建物に激突しそうになった瞬間、咄嗟に黒い魔力の球を空へ放出する。その反動で身体の勢いを緩め、かろうじて両足で建物の壁に着地した。


「やべっーーーいっ!?」


 だが勢いを緩めても、着地した建物の壁に穴が開いて背中から地面に衝突することになる。咄嗟に魔力を背中に纏わせることで衝撃を減らしたが、それでも痛いことには変わりない。


「つぅ‥‥‥魔力の気配は中央の方!!」


 背中を押さえて蹲っていたアイトは都市に戻ってきた意味を思い出し、痛みを堪えてすぐに立ち上がる。


(今行くぞっ、カンナ!!)


 こうしてアイトはシャルロットの協力により、ほぼ全快状態で交易都市に再び足を踏み入れたのだ。


 ◆◇◆◇


 現在。交易都市ベルシュテット、中央広場。


「レスタくんっ‥‥‥やっぱり、来てくれたッ」


 カンナが待ち望んでいた存在が、遂に姿を現す。いつも見ている銀髪仮面の少年を、見間違えるはずがない。


「当たり前だ。遅くなってごめん」


 『天帝』レスタことアイト・ディスローグは、右手に持った聖銀の剣を地面に突き刺す。


「すぐに治すから」


 そして左手で支えていたカンナの背中に、右手も添えようとする。


「ま、待って‥‥‥」


 しかし、掠れた声を出したカンナが止める。アイトは少し驚いた様子を見せる。


「カンナ?」


「私をち、治癒するためだけに、魔力解放はしないで‥‥‥レスタくんは、万全の状態のままで」


「別にそんなの気にしなくてもーーー」


「き、聞いてっ‥‥‥」


 アイトの言葉に割り込むように、カンナは声を振り絞る。そして、自分の左手をアイトの右手に添えた。


「カンナ‥‥‥?」


 すると彼女の手とは別の感触を感じ、アイトは声を漏らす。何か硬く、小さなものが添えられている。


「これってーーー」


 それを確認したアイトが目を見開いて驚くと、カンナは嬉しそうに微笑んだ。


「い、いつもお世話になってる、お礼‥‥‥も、貰ってくれると、嬉しいな‥‥‥」


 そして笑顔で呟くと、アイトからゆっくりと手を離す。いや、力が抜ける。


「い、いまっ、渡し、たかったから‥‥‥」


 カンナの瞳の焦点が徐々に合わなくなっていく。それに比例して、瞼が閉じていく。


「‥‥‥」


 アイトは、渡された物を強く握り締める。魔力を込めて、首元へ寄せる。そして、()()自分の首にかけた。

 数秒の間だけ地毛の黒髪に戻ったが、やがてすぐに銀髪へ色が移り変わる。それは、アイトが南地区の魔導具エリアで買うか迷っていた‥‥‥魔石のペンダント。

 カンナは、アイトが欲しそうなものをよく分かっていたのだ。


「‥‥‥ありがとう、カンナ。でも、ごめん」


 アイトは感謝を告げてから謝ると、全身から魔力が溢れ出す。そう、魔力解放状態になったのだ。


「どうしても、カンナを放っておけない」


 そして自分にできる最大限の治癒魔法を、発動した。瞬く間に傷が癒えていき、カンナは目を覚ます。


「ん‥‥‥ぁっ、レスタくんっ」


「大丈夫か? どこか痛む所は無い?」


「それは、無いけど‥‥‥」


 小さな声を漏らしながら、カンナはゆっくりと立ち上がる。


「‥‥‥ありがとう、レスタくん。でも、どうしてなの?」


 カンナは感謝はすれど、納得いかない様子を見せていた。


「どうして私なんかのために‥‥‥」


「え、そんなの決まってるだろ」


 アイトの返答を、カンナは不安混じりに待ち望む。だが、今の状況はそれを待ってくれない。


「部外者が邪魔しないでくれるかしらぁぁ!!?」


 今まで切断された右手をくっ付けることに注力していたアローラが、怒り混じりに血の槍を振り抜く。

 その真紅の槍は、アイトの背中を捉える。そして刹那の瞬間、カンナは全く別の事に驚くことになる。


「ーーー黙ってろ」


 完全に察知していたアイトは、迫り来る血の槍を両手で捌く。


「なっ!?」


 そして勢いをつけた左足をアローラの顔面に叩き込み、回し蹴りの要領で蹴り飛ばした。するとアイトはすぐに振り返り、目を見開いているカンナと目を合わせる。


「カンナを放っておけないから」


 そう呟いたアイトは剣を引き抜き、右手に持って笑う。仮面を付けているのに、カンナには彼の笑った顔がはっきりと見えていた。


「っ‥‥‥」


 いつのまにか彼女の目から涙が溢れ出す。するとアイトは安心させるように彼女の頭に左手を置いた。


「もう大丈夫だ。カンナを泣かせたあの女は、俺が絶対倒すから」


「ーーーこれは君に泣かされたんだけどねっ!?」


「そうなのっ!?」


 そして気づけば(?)、いつもの調子で会話が始まっていた。


「ーーー失礼します」


 すると突然、2人の間にニーナが割り込む。2人への敬意を見せるかのように、ニーナは深く頭を下げる。


「お2人の時間を邪魔したくないのですが、今はどうかお許しください」


「ななな何言ってるの!?」


「‥‥‥誰だ」


 明らかに狼狽するカンナとは対照的に、アイトは冷たく聞き返していた。


「ニーナと申します。これまではアローラの支配下におかれていたのですが、カンナ様に救われました。ですのでこの方に尽くしていくつもりです」


「あるじ!?」


「‥‥‥なに?」


 驚くカンナに対し、アイトは訝しげに目を細める。

 ニーナが吸血鬼である時点で、どんな話をされても胡散臭く感じるからだ。それを察知したのか、ニーナは間を作らずに話を続ける。


「信じられないのも無理ありません。ですが既にターナ様は解放いたしました」


「! ターナが」


 アイトが少し安心した様子で息を漏らすと、ニーナは勢いよく頭を下げる。


「どうか信じてください。カンナ様が大切に想っているあなたも、私にとって大切です」


「ささささっきから何を言ってるのかなぁ!?」


 顔を赤くして狼狽しまくるカンナを置いてきぼりにするように、ニーナは続ける。


「ですので私はあなたの指示に従います。なんでも仰ってください」


「自害しろって指示も従うのか?」


 冷たい視線を送って淡々と呟くアイトに、カンナは息を呑んで佇む。


「‥‥‥はい、それがお望みとあらば。あの女から解放してくれた時点で、私にとっては命の恩。その恩には必ず報いるつもりです」


 ニーナは微塵も躊躇せず、アイトを真っ直ぐ見つめて言い切った。


「そうか‥‥‥わかった」


 その意思に応えるかのように、了承の言葉を口にしたアイトは見つめ直す。


「俺はまだお前を仲間と認めてない。お前がどうなろうが興味無いし、何もしない」


「っ、それは当然だと思います」


「だから‥‥‥何がなんでもカンナを守れ」


 そう指示したアイトの声色は、どこか優しく聞こえた。カンナは『レスタくんらしいなぁ』と感じて嬉しそうに微笑んでいる。


「ーーーはいっ!」


 そしてニーナは真っ直ぐな気持ちで返事した。それを聞き受けたアイトは、踵を返して歩き始める。


「あとは俺がなんとかする。巻き込まれないように離れてくれ」


 2人とすれ違いざまにそう宣言し、アイトは歩みを進める。


「レスタくんっ」


「‥‥‥カンナ」


 カンナが何か言うよりも早く、アイトは割り込むように呟く。


「どうにか都市内の人たちを助けてあげてほしい。俺があの女を倒すから」


「レスタくんっ‥‥‥」


「行きましょう、カンナ様」


 カンナはニーナに手を引かれ、南地区へ向かって走って行く。もう、彼女が言うべき言葉は限られている。


「レスタくんっ‥‥‥気をつけてっ!!」


「‥‥‥ああ。もちろん」


 振り絞るようなカンナの声を背中で聞き取ったアイトは、今もうつ伏せに倒れるアローラへ近づく。そして、アイトの足が止まった。


「人間如きがぁっ‥‥‥!! カッコつけるんじゃないわよ!!」


 彼の前には、激昂して起き上がったアローラ。彼女と対峙したアイトは、どこか哀れんでいた。


「言葉の意味が分からないんだな、吸血鬼は」


「はっ、そんな安い挑発しても無駄よ!?」


「挑発? やっぱ意味分かってないんだな」


 至極冷静に呟いたアイトは、煽っているつもりなど微塵もない。つまり、心の底から正直に話しているということ。

 それは、客観的に見れば最大限の煽りであるということ。


「ーーー楽に死ねると思わないことねぇ!?」


 怒りを露わにしたアローラは生成した血の槍を握り締め、足を踏み込んで突きを放つ。

 彼女の血の槍は、確かな感触と共に()()()()()()()()()()

 アイトの右足が、血の槍を踏みつけている。低い位置を狙ってきた血の槍を、特に迷いも無く踏んだ。

 この一瞬で、力の差は明らかだった。槍を踏みつけられたことで身体が前のめりに傾いたアローラは、相手を見上げる形になる。

 そして対照的に、アイトは冷酷な目で見下ろしていた。


「覚悟しろ。この害虫が」


「っ‥‥‥調子にのるなぁぁぁ!!!」


 槍の形を解いて飛び掛かったアローラ。それを冷静に読んで半歩下がったアイトは、流れるように足払いを繰り出す。


「なっ!?」


 そして足を刈られて体勢を崩したアローラの腹に、容赦なく剣を突き立てる。

 アローラは腹に剣が突き刺さった状態で、無理やりアイトの肩を掴みかかる。


「人間っ、如きがっ!!」


「喋るなよ化け物如きが」


 アイトとアローラの声量は対照的だった。


 『天帝』レスタVS吸血鬼アローラ。


 その開戦を告げるかのように‥‥‥アローラは睨みつけ、アイトは冷酷に見つめ返すのだった。

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