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【50万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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悲鳴の嵐

 東地区、闘技大会。


「おっとッ、これはすごいッ!! 観客たちがいっせいに叫び出したぁ! まさに凄い悲鳴の嵐だぁ!」


 司会を務めていた女性‥‥‥いや、女吸血鬼が実況しながら血の雨を降らす。


「このイフォリンが引き起こす観客の血の雨で、悲鳴は徐々に鰻登り! さあ、まだまだ盛り上がっていくぞぉ〜!!」


 イフォリンと名乗った吸血鬼は、桃色の髪を血まみれの手で縛り始める。

 髪の一部に血をまばらに付着させて髪を縛り終えると、両手から赤い線を射出した。


「果たして、このイフォリンの凶行を止める命知らずは現れるのでしょうかぁ〜!? それとも、このまま全滅してしまーーー」


 イフォリンがニタリ顔で観客を見下していると、突然頭に衝撃が入る。

 背後に回った何者かに、頭を蹴り飛ばされたのだ。


「っ〜! おっと現れたようですねぇ! 状況が読めてない命知らずがぁ〜!?」


 体勢を立て直したイフォリンの視界に入ったのは、ホワイトブロンドの長い髪を靡かせる女性。


「じゃあ解説してもらおうか? 吸血鬼の君を倒す、スカーレット・ソードディアスの勇姿を」


 そう言ったスカーレットは、嬉々とした表情で殴りかかる。


「ソードディアス‥‥‥! まさか帝国名家のーーーっ!?」


 イフォリンが驚いた瞬間を見逃さず、スカーレットは鋭く右拳を振り抜くのだった。


 ◆◇◆◇


 西地区、吸血鬼の脅威は、収まることを知らない。


「ネルっ、吸血鬼を何とかしないと!」


「えぇ〜。私の最高級永眠枕ぁ〜‥‥‥」


「今はもうそれどころじゃないの! 一刻も早く吸血鬼を全て倒して、この都市の混乱を沈めないと!!」


「え〜? ちょーど〜でもいいんだけどぉ」


「もうっ、行くよ馬鹿ネル!」


 黒髪おさげのメガネ少女は、空返事を繰り返すダークブラウン髪のポニテ少女の手を引っ張る。


「引っ張らないでよディルちゃ〜ん」


「わがまま言わないっ! まずはカンナさんと合流して、これからどうするか方針を決めないと!」


「どうするって、どうするのさ〜」


「それを考えるのっ!!」


 意味の無さそうな会話を続ける2人は、カンナと合流すべく行動を始める。その数分後、秘宝探しの景品を置き場に差し掛かった。


「あ、枕あるかも〜」


「ちょっ、ネル!?」


 するとネルが手を振り解いて一目散に宝箱へ走り出し、ぺたぺた触りながらどうやって開けるか模索し始めた。


「もう、今はそれどころじゃーーー」


 ディルフィの言葉は続かなかった。突然近くの建物が崩れ、その騒音に驚いて口が止まったのだ。


「ゔぇぇぇんッ、お母さぁぁん〜!!」


 すると崩れかけた建物の中でしゃがみ、泣いている少女を発見する。そして、それを冷徹な瞳で見下す紫髪の男。明らかに、この状況を作り出した側の雰囲気だった。

 ディルフィが目を見開く間にも、男は右手に持った赤く尖った物を振り下ろす。


「ーーー危ないッ!!!」


 半ば無意識に駆け出したディルフィは、間一髪で少女の手を引き寄せて転がり、男の凶撃を回避した。 


「なぜ助ける、赤の他人だろ?」


 男は不機嫌そうに呟き、手に持っていた赤い槍を半分に折って両手で持つ。その行動は明らかに、先ほどよりも殺意が高まっている。


「ゔぇぇぇ〜‥‥‥! お母さん、助けてぇ〜‥‥‥!」


「大丈夫、私が見つけてみせるから。ね、今から一緒に探そ?」


 泣き崩れそうな少女の頭を優しく撫でながら、ディルフィは男を睨んだ。


「なんだその目は」


 男は淡々と呟いて構えを取ると、ディルフィは少女を自分の背後へ隠す。


「吸血鬼、なんでこんなことをするの」


「どうでもいいことだろ。今から死ぬお前には、至極どうでもいいことだ」


「そう、話す気が無いならいい。消す」


「そんな子どもを庇いながら勝てるとでも? ーーー思い上がるなよ、下等な種族がッ!!」


 男は左手の砕けた赤い槍を強く握り、投げ飛ばす。


「しゃがんでっ!!」


 ディルフィは少女の肩に手を置く。そして力を入れることで少女をしゃがませた。


「うっ‥‥‥!!」


 だが、自分は回避に間に合わなかった。辛うじて身を捩ったことで肩を掠める程度に済んだが、体勢は大きく崩れる。


「ーーー死ね」


 その隙を狙っていたといわんばかりに、男は右手の砕けた槍を投げ飛ばした。そう、しゃがんだままの少女に向けて。


「っ、逃げてッ!!」


 ディルフィは自分が倒れかかっているにも関わらず、無我夢中で叫ぶ。

 非情にも、赤い槍が少女の眼前に迫るーーー。


「っ‥‥‥!!」


 その瞬間、ディルフィは見逃してしまう。背中から地面に倒れたことで視線がずれ、見えなかったのだ。


 だが当然、彼女はすぐに視線を戻す。悔しさと怒りを噛み締めた顔付きで、状況を確認するべく。すると、ディルフィの感情は大きく変貌した。

 少女の眼前で、男が投げた赤い槍が宙に留まっている。まるで、何かの力で止めたかのようなーーー。


 「‥‥‥なに?」


 男はそんな異変に声を漏らす。だがそんな動揺も一瞬。すぐに距離を詰めて2人を殺すべく足を踏み出す。


「なんだ、これは」


 だが足が思うように動かず、重いように感じたのだ。それに変な感覚があった。まるで、足を何かに引っ張られているようなーーー。


「っ」


 すると、男は自分の背後に人の気配があることに気づいた。そして、両足に何かが巻き付いていることも。


「ーーーネルっ!」


 男の疑問に答えるかのように、ディルフィは視界に映った人物の名を叫ぶ。


「も〜、なんで私がこんなことぉ」


 ネルは細い糸のような物を両手で懸命に引っ張り、男の動きを封じ込めているのだ。


「魔力の帯びた細い糸、貴様の仕業か」


 強引に足を動かそうとしても進まないのか、男は身じろぎしながら首を逸らし、後ろにいるネルを睨んでいた。


「ディルちゃん早くしてぇ〜。こいつヤバいよぉ、全然抑えられないよおぉ」


 ネルは両手を震わせるほど強く握り締め、弱気な言葉を漏らす。その言葉を裏付けるかのように、男の足が少しずつ動き出していた。


「なかなか面白い芸当だが、もういい」


 男は両手を横に伸ばして血を排出し、赤い弓矢を作り出す。さきほどの赤い槍も今の赤い弓矢も、血によって作られていたのだ。


「いやそれはだめだってぇ」


 ネルはめんどくさそうに呟き、両手から新たな糸を持ち出す。そして男の両手に絡めて引っ張り始めた。

 これで、男は両手両足を拘束された状態になる。


「この女っ‥‥‥」


 男は眉を顰めながら、身体を振って拘束を解こうとしていた。


「ちょ、さっきよりきついんだけどぉぉ」


 ネルの両手はさらに震えていた。額から汗が落ち、必死な様子であることが伺える。


「ネルっ!! 私が攻撃するからーーー」


 痺れを切らしたディルフィは、魔力を手に集めて魔法の発動を試みる。


「‥‥‥ディルちゃんッ!!」


 するとそれをやめさせるかのように、ネルは声を出した。


「な、なにっ?」


 ディルフィが驚きつつ聞き返すと、ネルは早口で捲し立てた。


「効率悪いの嫌い、中途半端はもっと嫌いぃ。だからディルちゃんはその子の保護を優先してぇぇ」


「で、でもーーー」


「ディルちゃんより私の方が強いぃ。私よりディルちゃんの方が他人思いぃ。だから効率よく動きたいのぉぉ。そうじゃないと、余計に気が散るのぉぉッ」


 ネルは少しキツい言葉を言ったかもしれないが、ディルフィは反論せずに深く頷いた。

 エルジュ戦力序列14位、天才肌のネルを信頼しているからである。


「‥‥‥わかった。私、この子を連れて一旦離れるから! 私が戻ってくるまでは任せるからね!」


「こんな奴、1人で余裕だしぃぃ」


 ネルの返事を聞いて完全に決心がついたディルフィは、少女を立たせて手を握る。

  

「さ、早く行くよっ!! 絶対、お母さんを見つけようねっ」


「う、うん‥‥‥! あ、あのっ、糸のお姉さん! 本当にありがとうっ!!」


 少女に2人の気持ちが届いた。少女は泣き止み、ネルにお礼を言う。

 その姿に感心したディルフィは少女の頭を撫で、手を引いてゆっくり走っていく。僅か一瞬だけ、ネルの方を向いて。



「‥‥‥さぁ、こっからかぁ」


 ネルは2人の姿を見届けると、糸を持つ手が緩む。握力に限界が来たのだ。

 当然、男はその隙を見逃さない。強引に糸を引きちぎって、ネルの方を向いた。


「人間という種族を改めて理解したぞ。まさに、自己犠牲の塊で出来た生物だとな」


「ふぅ〜キツかったぁ。うわ、手ぇ痛ぁ〜」


 ネルは、男の発言を全く聞いていなかった。それどころか視線も向いておらず、自分の両手に息を吹きかけている始末。


「‥‥‥お前、バカにしているのか」


「え、何が。ああ、難しい言葉知ってるね〜。でもね、自己犠牲って言葉の使う場面が違う」


「ぁ?」


「だって、単純に効率良かっただけ。ディルちゃんなら子どもの世話できるし、私なら勝てるし。だから判断しただけ。たぶん、『取捨選択』が正しいと思うよぉ」


 ネルは思ったことを口にすると、男は視線を下げながら、弓矢を斧へと変貌させる。


「‥‥‥殺すッ」


「え、教えてあげたのになんで怒ってるぅ」


 ネルは全く自覚が無いまま、男の殺意に堂々と対峙するのだった。

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