これで、ばんざい
ユリアが捕らわれている、遺跡前。
「えい」
リゼッタは毒を撒き散らし、大勢の魔物に浴びせていた。魔物は、残り半分。
「ふう、きつきつ」
毒に対する耐性が高いリゼッタでも限界は存在する。その限界を超えるとリゼッタ自身も危険に晒される。
「りーと、『エルジュ』と、レーくん、のため」
リゼッタは昔‥‥‥忌み子として、周囲から恐れられていた。
『おぎゃぁぁ!! おぎゃーー!!』
なぜなら両親は不明で、リゼッタは赤ちゃんの時に‥‥‥毒沼に捨てられていたから。
でも毒沼に浸かっていても、リゼッタは元気に泣いていた。その光景を見た人たちは、リゼッタを引き上げるのにも苦労したようだった。
『ここ、どこ?』
その後にリゼッタは、とある孤児院に預けられる事になる。環境は劣悪で、ほとんど読み書きを教えられることなく育った。
現在も話すことが苦手で、今も勉強中。
『出てく、いく』
やがてその孤児院から追い出されてしまう。でもリゼッタはその事を恨んでいない。恨むという考えがなかったのだ。
『いくら、でしか』
リゼッタは毒に突出した素質があったため、子供の時から魔物を討伐し、取れた素材を僅かなお金に換金して食材を食べる。そんな生活をしばらく続けていた。
『おなか、ぐう』
だが、それは安定しなかった。どんどんリゼッタは痩せて、限界を迎えそうになっていた。
そして、今から1年前。
「ーーー大丈夫!?」
アイトは宝石集めの最中で、偶然にもリゼッタと出会う。
「だ、れ?」
彼女が竜に食われそうになっていたところを、颯爽と助けた形で。
「!? 君、大丈夫!?」
アイトは急いでリゼッタを抱えて、話しかける。
「だい、じょぶ」
リゼッタはずっと何も食べておらず痩せ細り、体は傷だらけだった。
「‥‥‥だれ?」
「えっと、俺は‥‥‥レスタ。いやそんなことよりも安全な場所へ」
アイトは彼女を抱えて、すぐに宿屋を目指すのだった。
「はい、これ」
「お、ふろ」
リゼッタに宿屋で風呂に入ってもらい、自分が昔着てた服を渡す。
「それと、はい」
アイトは【異空間】から取り出したパンを、リゼッタに食べさせ、水も飲ませた。
「‥‥‥おい、しい」
「よかった〜! 次は手当てしないと」
アイトが慣れた手付きで手当てを始める。何度も出かけて魔物と戦う内に、包帯の巻き方なども覚えていたのだ。
リゼッタは、ふと疑問に思った。
「‥‥‥なん、で」
「なんでって、何が?」
「なん、で助けて、くれるの?」
それは、自分を助けてくれた理由。優しいおにいさんが、なぜ助けてくれたのか。
「ん〜‥‥‥さすがに人としてほっとけないだろ?」
「ほっとけ、ない?」
「うん。それに俺、食べるもの色々持ってたし。困った時はお互い様、それだけ」
リゼッタは首を傾げる。誰かを助けて、また誰かに助けてもらうという発想が無かった。
他者は、自分を忌み嫌っていたから。
「君、名前は?」
「‥‥‥りーは、リゼ、ッタ」
優しく話しかけてくる彼に対し、リゼッタは素直に応える。
「リゼッタか。お家に送っていくよ。今の君をここに残すのはできないから」
「おう、ち? おうち?」
リゼッタは、またしても首を傾げる。
「え? 帰る場所」
「‥‥‥ない」
顔を下げて、苦しそうに呟く。
「ない‥‥‥? それじゃあ今までどうしてたの?」
「魔物、狩って、お金、それで」
リゼッタは聞かれた事に対して素直に話してしまう。自分を助けてくれて、気にかけてくれるアイトを信頼している。
「え、まだ幼い君が魔物を!? すごいじゃん! 魔法使えるの?」
「‥‥‥どく」
またしても、リゼッタは苦しそうに応える。アイトの態度が変わらないか、そんな不安に駆られる。
そして、アイトの態度は一変した。
「毒って、毒魔法!? 絶対強いじゃん! 虫とか退治するのに便利そう。いいなぁ俺も使ってみたい!」
興味津々とばかりに身を乗り出し、尊敬の眼差しを向けてきたのだ。
「‥‥‥うえ?」
自分の毒魔法を、生まれて初めて褒められた。今まで恐れられ、忌み嫌われていた自分の魔法を。
「こわく、ないの?」
「怖い? まあ強そうだから、敵からしたら怖いんじゃないかな。でも毒って絶対強いから凄いよっ!」
自分に関心を持ってもらえることが、こんなにも嬉しいなんて。
リゼッタ自身、今まで気づいてこなかった。
「‥‥‥うぅ、うれしい」
感情が溢れたリゼッタは、生まれて初めて涙を流した。
「泣くほど、大変だったんだね‥‥‥君は偉いよ。1人でよくがんばったね」
アイトが優しく頭を撫で始める。
「‥‥‥いい、もっと」
「もっと?」
リゼッタは少しも嫌じゃなかった。むしろ、もっと触ってほしいとさえ思った。
「‥‥‥じゃあさ、帰る場所ないなら俺と来る? 保護してもらえると思うよ」
「行くっ、どこ?」
リゼッタは、もう完全にアイトのことを信頼していた。初めて頼ってもいい相手だと感じていた。何より、もう好きだった。
「それは、来てからのお楽しみ。でも、すっごく広い所だから」
アイトは痩せ細ったリゼッタを抱え、空を飛んで移動を始めた。
その後。
「ここ。設備も物資も揃ってるんだ」
「すご、おおきっ」
アイトはリゼッタを抱えたまま『ルーンアサイド』の本拠地に到着。
そして彼女を保護してほしいと、ラルドに頼みこんだ。
「ここなら色々学べるし、強くなれる。リゼッタ、君は人生はまだ長い」
アイトはこう思っていた。リゼッタには自分の意思で、自由に生きてほしいと。
「きょう、かん。強く、なりたい」
「強く?」
「うむ。レーくんと、一緒にいたい」
リゼッタは当時まだ12歳だったが、自分の意思で訓練生になることを志願する。
そこで多くの訓練生たちと交流した。個性派集団の集まりであるため、リゼッタの毒魔法を忌み嫌うものなどいなかった。
「いい、人たち。レーくん、ありがと」
人の温かさを知った。厳しい訓練を乗り越えた。
「ほんとに、ありがとう」
そして現在、13歳になったリゼッタは立派に成長した。
◆◇◆◇
「ふう。これで、ばんざい」
そして、リゼッタは大量の魔物を1人で討伐。
リゼッタが自分の意思で努力を重ねた、毒魔法。
それは『黄昏』、いや組織全体でも‥‥‥指折りの破壊力を誇っていた。
「今から、レーくんたちに、追いつく」
そう言って、遺跡の中に入っていくリゼッタ。小柄な彼女が、精一杯足を動かして走る。
「はぁ、はぁ、レーくん」
彼女がこれからどう成長していくのかは、まだ誰も知らない。




