目当ての魔導具はどこに
南地区、魔道具エリア。
アイト、スカーレットは魔導具専門店に入る。彼女の母セレーナに頼まれたという、目当ての魔導具を手に入れるためだ。
「お母さまに頼まれた魔道具があるか聞いてみるから、その間は好きにしててくれ」
「あ、はい。じゃあ色々見てます」
スカーレットが手を振って奥へ入っていくと、アイトは手前のに並べられている棚に目をやる。
(見たことない魔導具がこんなにも‥‥‥)
そこにはこれまで見たことない魔道具が多く置かれており、非常に興味を惹きつけられる。
そしてアイトはふと、気になる物を見つけた。石ころほどの小さな魔石が組み込まれたペンダントである。
(ん、これってーーー)
アイトは無意識に手を伸ばす。実際に持って詳しく確かめるために。
「「わっ」」
すると、魔道具を自分とは違う手が重なる。そしてアイトは相手と同じタイミングで声を上げる。
すると、そこには青年が立っていた。ダークブロンドの柔らかい髪が特徴的で、顔つきは中性的。背はアイトよりも少し高い。そして最も意識が向いたのは、彼の透き通った眼だった。
明らかに、彼の容姿は人目を惹いている。
「あ、すいません!」
「いや、俺の方こそ」
ハッとしたアイトと青年は互いに頭を下げる。そして気まずくなる前に、話しかけたのはアイトだった。
「ーーーあの、これに付与した魔法ってどれくらい続くかわかりますか?」
アイトが会話のきっかけを作ったことに感謝したのか、青年は微笑んで返事する。
「おそらく半永久的に持続すると思う。でも攻撃系の魔法は付与するとペンダント自体が壊れてしまうから付与する魔法はかなり限定されると思うよ」
「へぇ〜、勉強になります。ありがとうございます」
アイトは魔石のペンダントを手に取ると、青年に手渡した。
「え?」
すると、驚いた様子で目を見開く青年。アイトは思わず話しかけていた。
「あれ、欲しかったんですよね?」
「まあそうだけど、君も欲しいんじゃーーー」
「俺は興味本位で見ようとしただけなんで、大丈夫です」
アイトがそう伝えると、青年は苦笑いを浮かべた。その理由がわからずアイトは少し首を傾げる。
「実は俺も興味あった程度だから。だから、困らせて申し訳ない」
青年がそう言うと、静寂が訪れる。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
アイトと青年は、お互いに顔を見つめている。
「「フッ、ハハハハッ!」」
そして、2人はどちらからとなく笑った。その笑い声すら完全に息が合っている。
「気が合いますね。なんか他人な気がしませんよ」
「それ、俺も思った。せっかくだし、名前聞いてもいいかな? 見た感じ、どこかの学生に見えるけど」
青年に聞かれたアイトは、即座に名乗った。
「俺はアイト・ディスローグです。グロッサ王立学園の1年生で」
「やっぱり学生だったか。よろしくアイトくん。俺の名前はーーー」
そう言葉を続けようとした青年の口が、突然歪む。
「ったく何してるのよ」
彼の後ろに現れた女性が、頭を叩いたからだ。アイトはその黒髪ショートボブの女性に視線が向く。切れ長の眼と雰囲気で、とても気が強そうに見える。
「っ!? な、なんでここに? 魔導具眺めたいから、後で合流するってーーー」
「私がすぐ来てあげたのに、気づいてないあなたが楽しそうだったから意地悪したくなってね?」
そう言った黒髪女性は微笑んでいるが笑ってはいない。明らかに内心は穏やかではない。彼女を見て、アイトは『しっかりしてそうな綺麗な女性だなぁ』と感じていた。
「早く行くわよ。時間は限られてるんだから」
すると黒髪女性は背を向けて歩き出す。青年はすぐにペンダントを元の場所に戻してアイトに向き直って手を合わせる。
「ごめん、あの人怒らせると面倒なんだよ。じゃあまたどこかで、アイトくん」
「あ、はい。またどこかで!」
青年は黒髪女性の後をついていった。アイトは気の合う人と偶然巡り合って嬉しかったのか、離れていく2人に声を出す。
「彼女を大切に〜!!!」
アイトの声が聞こえたのか、青年は振り返って手を振りかえす。だが彼は黒髪女性の手刀を受けて、前を向き直りながら行ってしまった。
アイトは仲睦まじい(???)2人を見送る。
「‥‥‥なに叫んでるんだ?」
すると戻ってきたスカーレットにそう尋ねられ、アイトはいたたまれない気持ちになる。
「あ、あの見つかりましたかっ!?」
アイトは手に持った魔導具を、元にあった場所に戻して必死に誤魔化す。するとスカーレットは少し顔を下げながらアイトの肩に手を置いた。
「無かったよ。どこにあるか店主に話を聞いたんだが、全くの予想外だ」
「じゃあ他の店にーーー」
「そうじゃないんだ。お母さまにしてやられたよ」
スカーレットは愚痴を溢した後、続きを話した。
「どうやらお母さまが頼んできた魔導具は、明日この都市で開かれる行事の景品らしい」
「‥‥‥え? お目当ての魔導具はどこにあるんですか?」
アイトが聞き返すと、スカーレットは肩を掴む手に力を込めた。
「どうやらお母さまがご所望の魔道具はS級。それを賞品として開かれる闘技大会の、優勝賞品。店主に聞いた時、驚きながら教えてくれたよ」
その意味を理解するのに、アイトは数秒を要した。
「つまり‥‥‥勝ち上がって私たちの実力を証明しろということだ」
「え、俺もですか??」
アイトが思わず話しかけると、スカーレットは当然と言わんばかりに腕を組む。
「2人で出た方が優勝の可能性が上がるだろ。それとも、君はレディだけを戦わせる気かな?」
「はい、出まーす‥‥‥」
アイトは遠い目をして呟く。完全にスカーレットの説得を諦めていた。そして優勝賞品を要求してくるセレーナは、やはり2人の母親だと強く実感したアイトだった。
◆◇◆◇
「ちょ、どこまで引っ張るんだよ」
南地区、雑貨エリアまで引っ張られたダークブロンド髪の青年は声を上げる。
「黙りなさい」
黒髪ショートボブの女性は睨みながら青年をそのまま路地裏まで引っ張ると、人目がない所でやがて手を離した。
「なに正直に名前を名乗ろうとしてるの? 私が止めてなかったら名乗る気だったでしょ?」
「だって相手の名前聞いたからこっちも名乗るのが礼儀で、軍人なら身分をわかりやすく簡潔にーーー」
「今のあなたは『月蝕』第ニ支部所属の諜報員。名前は組織の仲間以外に明かすことは許されない。いい加減わかった? 組織番号8、セシル」
そう注意されると‥‥‥青年ことセシル・ブレイダッドは、ため息をついて愚痴をこぼした。
「いや俺なんてただの新人軍人でしかなかったし、気づかれないと思うんだが」
セシルは渋々文句を呟き、抵抗した。
「そういう問題じゃない。気づいてないの? あなた、顔だけは人目を惹くんだから。特に女性に対して。私は全く理解できないけど」
「そんなこと言われても生まれつきだからな。でもナナさんのお目には敵わないようで」
セシルは少しわざとらしく呟くと、ナナが不機嫌そうに目を細めて腕を組む。
「は? 外見だけで好みを選ぶなんて浅はかだわ」
「けっこう自論あるんだな」
セシルが思ったことをなんとなく呟くと、ナナは咳払いをして話を戻す。
「とにかく、不用意に目立たない。それに余程のことがないかぎり、自分の名は名乗らないこと。新人でも、諜報員としての意識は守りなさい」
「‥‥‥ナナは他の人にも名乗ってるじゃないか」
セシルはせめてもの反撃と言わんばかりに、納得していない様子で小言を挟む。するとナナがどこか勝ち誇った顔で返答した。
「本名じゃないもの。7番のナナ、それだけ」
「えっ、本名じゃないのか?」
「新人同然のあなたに教えるわけないでしょ」
「いや組織の仲間には教えてもいいってーーー」
「あなたは例外よ。お人好しも大概にしなさい」
ナナははっきりと言い捨てると、淡々と続きを話し始めた。
「それで、情報は?」
「いや、それとなく店の人に聞き込んでいるけど全然だ。情報源が明確じゃない以上、嘘なんじゃーーー」
「情報を聞きつけたのはメイだけど? 今の発言、とりあえずあいつに伝えておくわ」
「‥‥‥やめてくれ。支部長に告げ口は怖い」
セシルはナナの様子を伺いながら懇願する。
2人はアステス王国諜報機関『月蝕』、第二支部所属の諜報員。組織番号7番のナナ、8番のセシル。
そしてメイという少女は組織番号4の第二支部長であるため、セシルたちの上司である。そんな人に自分の失言を知られるのは恐怖そのものなのだ。
「発言には注意しなさい。余計なことを話す諜報員は早死にするわよ」
「はい」
セシルが首を縦に振るのを確認すると、ナナは背を向けて歩き出した。
「一刻も早く詳細を突き詰めないと。もしあの女の情報が真実なら、事態は深刻よ」
ナナは、都市内の賑やかな光景を見ながら口を開く。
「この都市はアステス王国との交易も盛んで、経済を回すのに必要不可欠。もしここが滅べば、国は大打撃を受けるわ」
「‥‥‥わかってる。だからメイさんから指示されたんだろ? アステス王国を守るためなら、なんだってやるさ」
彼女の忠告を聞いたセシルは言葉を返すと、気を取り直して情報収集を再開するのだった。




