変装というよりコスプレ
ユリア王女が拉致されたとされる‥‥‥古びた遺跡付近。
「‥‥‥ここか」
アイトたちは特殊戦闘服を着ているが、顔の変装は個性が出ていた。
アイトはいつも通りの銀髪仮面。
エリスは黒い布を口元に巻いて隠している。
カンナは普段のツインテールではなく、ポニーテールで伊達眼鏡。
ミアはいつも身につけている黒いフードを、目深に被っている。
そして、リゼッタはなぜか眼帯。
(変装ってなんだっけ‥‥‥?)
カンナとリゼッタは変装というよりコスプレである。銀髪仮面のアイトに、それを言う資格は無いが。
「‥‥‥エリス。あの方法を使う。ユリア王女がどこにいるか教えてくれ」
「わかりました」
エリスは以前見せた謎のポーズを取って、遺跡を注視する。
「いました。ここからだとーーー」
◆◇◆◇
「ん‥‥‥え? ここは‥‥‥」
グロッサ王国の第二王女、ユリア・グロッサは目が覚める。
「!? な、なにこれ!」
両手には手錠をされていて、牢の中にいた。すぐに自分が捕えられている事に気がついた。
「っ、魔力がっ‥‥‥」
すぐに魔法を使おうとするが、魔力を練ることができない。
「この手錠‥‥‥」
ユリアは、魔力封印の手錠を掛けられていると悟る。
「ーーーやっと目が覚めたか、グロッサ王国の王女よ」
すると、牢の外に‥‥‥覆面をつけた謎の男が現れた。明らかに普通ではない雰囲気を醸し出している。
ユリアは恐怖で身を縮こませるが、必死に口を動かす。
「だ、誰ですか!! どうしてこんなことを!?」
「君が知る必要のないことだ。もうすぐ準備ができるから、そのまま待っていろ」
「じゅんび‥‥‥?」
ユリアの声に反応せず、覆面人間はそのまま牢から離れていく。
「なんで、こんな事に」
ユリアは、なぜここに連れてこられたのか思い出す。
『それでは、また明日〜!』
夕方。
アイトと別れた後、彼女は1人で王都を歩いていた。
『?』
夕方にしては人が少ないと感じていた。だがあまり警戒していなかった。
『!?』
すると、謎の覆面が目の前に現れて‥‥‥彼女はそれ以降の記憶がない。
ユリアから見て体格や声などから、少なくとも自分を攫った犯人は女性だった。そして、さっき話した覆面人間とは別。
(共犯‥‥‥!! いや、もっといるかもしれないっ‥‥‥!!)
そんな考えに思い至り、ユリアは息を呑んで周囲を見渡す。
「!? きゃあ!?」
だが突然、ユリアは大声で叫んだ。
「な、なにこれっ!?」
自分の背中に現れた‥‥‥謎の空間。とてつもない吸引力で、身を捩っても吸い込まれていくのみ。
「きゃぁぁぁぁぁッ!!!?」
そして、ユリアはその中へと完全に吸い込まれていくのだった。
「なっ、なんだ!?」
駆け付けた覆面の男は、全く対応できずに固まっていた。
◆◇◆◇
銀髪仮面の少年が、右手をわきわきと動かして何かを確かめている。
「‥‥‥よし、人が入った感触がある。ユリア王女を【異空間】に保護できた」
アイトは空間魔法【異空間】に、ユリアを吸い込んだのだ。エリスの魔力探知で、彼女がどこにいるかを正確に教えてもらう事で。
つまりターナの弟であるヨファを救った時と、全く同じ事をしたということ。
「あとは発動した【異空間】の元に行って、ユリア王女を救出するだけだ」
アイトたちの目的が定まる。
遺跡の中に入って安全を確保し、ユリアを解放する事。
「はいレスタくん! 質問です!」
すると、カンナが興味津々とばかりに手を挙げる。
「【異空間】って自由にどこでも物を出し入れできるよね? じゃあユリア姫をここに出すことはできないの?」
そして、率直な疑問をアイトへ尋ねた。
アイトは目を丸くするも、苦笑いを浮かべて話し始める。
「確かにそうなんだけど、それは重量が比較的少ないものに限られるんだ。人間の重量だと、その場に留めておくことが限界」
なるべく簡潔に、質問への答えを提示した。
「へぇ〜そうなんだ! じゃあ早く助けないといけないんだね!」
「ああ。だから俺は最優先で【異空間】の元に向かう。エリスにも来てもらいたい」
「もちろんです。急いで向かいましょう」
【異空間】を発動したアイトと、勇者の魔眼で場所が分かるエリス。
「じゃあ私たちの役目は、レスタくんとエリスを援護する事だね!」
カンナが言う通り、残りは2人が目的地に辿り着くための援護。
「そういうこと。みんな、頼めるか」
「よろしくおねがいします」
アイト、エリスは【異空間】の座標へ向かい、ユリア王女の救出。
「もっちろん! そうだよね2人とも!」
「その女は心底気に食わないけど、お兄ちゃんのお願いなら」
「もろ、ちん」
カンナ、ミア、リゼッタは2人の援護。
「それじゃあ、みんな行くぞ!」
明確に役割が決まったアイトたちは、さっそく移動を開始した。
「うわ、なんでこんなに魔物がいるんだ」
アイトは眉を顰めて声を漏らす。
遺跡の前には、まるで門番のように大量の魔物が待ち構えていた。
「さき、いって。レーくん」
するとリゼッタが前に出て、先へ行くように促す。
「でも、リゼッタ1人だと」
「毒、あるから、へいき。レーくん、いそぎ」
アイトは心配そうに尋ねるが、リゼッタの意思は変わらない。
「‥‥‥ありがとう。リゼッタ、任せた。空を飛んで突破する! エリス、ミアを頼む」
アイトはお言葉に甘えて遺跡に侵入すべく、エリスへ指示を飛ばす。
「了解です!」
「きゃ!? 何すんのよ金髪女!!?」
「うぇ!? レスタくん!?」
アイトは勢いよくカンナを抱え、風魔法の応用【飛行】を発動。エリスも同じようにミアを抱え、後に続いた。
「いってら、がんば」
残ったのはリゼッタと、大量の魔物たち。
「とう、ばつ、はじめ」
リゼッタは、意気込むように独り言を呟く。
アイトたちは空を飛んで魔物をくぐり抜け、遺跡の入り口に到着。すぐにカンナを下ろす。
「びっくりした〜‥‥‥でもありがと!」
「羨ましい‥‥‥羨ましい‥‥‥羨ましい!!!!」
エリスに降ろされたミアが、怨念の声を上げる。
「まあまあ、また機会があったらしてあげるから。今は救出が先だ」
アイトはミアを軽く受け流す。彼女の扱いには妙に慣れている。
「レスタ様。ユリア王女は地下4階にいます」
「よし、行くぞ」
アイトたちは気を取り直して、遺跡の中に侵入していく。
1階。大きな広間。
「あそこに、地下へ繋がる階段があります!」
エリスの誘導を頼りに、アイトは先頭を走って広間を駆け抜ける。
「!! お兄ちゃん!!」
すると、アイトに向かって火の玉が飛んできていた。ミアが咄嗟に呪力を飛ばして、それをかき消す。
「ーーー我らの邪魔をする愚者ども。今ここで全員消してやる」
そう言ったのは、新たな覆面人間。覆面には謎のハートのマークが。見てわかる通り、すっごくダサい。
「は? 黙れカス。お兄ちゃんを狙うなんて脳みそ入ってないの??」
真っ先に怒りを露わにし、足を止めたのはミアだった。全身から瘴気を発し始める。
「あ〜あ、これだからお兄ちゃん以外の生物は‥‥‥害は全て消してやる」
そして、明確な殺意を宿して覆面と対峙した。
「ミア‥‥‥任せた」
アイトは彼女に任せ、階段を降りて地下へ向かう。エリス、カンナも後に続く。
ミアが妖艶に微笑みながら舌舐めずりをし、対峙する相手を見据える。
「ふふっ、害は1人1人消していかないとね♪」
「小娘が。邪魔をするな!!!!」
地下1階。
「反応が近い、あともう少しです!」
アイト、エリス、カンナは階段を駆け下りる。
そして、3人が廊下に差し掛かった時。
「!? だ、誰だ貴様ら!!!」
廊下には、また別の覆面人間がいた。覆面には星形のマークが書かれている。
「あ。ここは私の出番だねっ!」
カンナが走る速度を上げて先頭のアイトを追い越し、星形覆面へと迫る。
「やあっ!!」
カンナは手首につけていたヘアゴムを外し、右手の親指でぐるぐる回す。
するとヘアゴムの形状が変化した。その形は、まるで小さな剣。
キィィンッ!!
カンナの擬似剣の攻撃を、星形覆面がナイフで受け止める。
アイトとエリスはその瞬間、壁走りで通り抜けていく。
「カンナ、頼んだ」
「先に行きますね」
アイトたちは声を掛け、廊下を走って奥へと突き進んでいく。
「任せといてっ!! 後で追うから!」
カンナの声を背中で聞きながら、アイトとエリスは先を急ぐ。
「こっちです!」
「近いな」
そして更に階段を降りて‥‥‥2人は地下3階へと向かうのだった。




