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【50万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章前編 交易都市ベルシュテット

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海に囲まれた都市

 冬休みに突入してすぐにクリスマス。少し後には年末。そして気づけば、年が明けていた。異世界でも正月とは少し違うが、それに似た文化が存在していた。

 実家に帰ってゆっくりと過ごす者。冬だからこそできる遊びに全力で投じる者。冬ならではの美味しい物を食べ過ぎて、俗に言う冬太りをしてしまう者。

 限られた冬休みをいかに過ごすかは本人の性格で決まると言っても過言ではない。

 年始から数日が経ち、いよいよ冬休みも指で数えるほどになった頃。



「後輩くん。私の恋人として付き合ってくれ」


「ーーーは??」


 突然呼び出され、告白される者もいる。それはアイト・ディスローグという、数奇な運命に翻弄される少年の話。


「スカーレット・ソードディアスの恋人に」


「はっ???」


 そして、全く恥じらいもせず笑うスカーレット・ソードディアスの話。



 王都、西地区。冬休みが残り7日を切った頃。


「ただいま帰った」


「おかえりなさい。それで、この方が」


「ああ、私の恋人だよ。お母様」


 アイト・ディスローグは、ソードディアス家に(半強制的に)訪問していた。


 ◆◇◆◇


 数時間前。男子学生寮前。


「はっ? こ、恋人ですか?」


 スカーレットに呼び出され、いきなり告白されたアイトは、これ以上ないほど固まっていた。


「ああ。正確には恋人のふりだが」


「な、なぜにっ??」


 語尾が変になっていたがアイトは気にする余裕もない。スカーレットは苦笑いを浮かべて説明を始めた。


「‥‥‥お母さまだよ。お母さまが私に見合いしろってしつこいんだ。もう20歳間近なのに、浮かれた話がないのは何事だと。まったく、いい迷惑だ」


(それはこっちなんですけど‥‥‥?)


 真っ先にそんな感想が浮かび上がったが、アイトは聞くことに徹した。


「だから恋人をいることにすれば誤魔化せると思って。すると交友がある異性は君かルーク先輩しかいないことに気づいてね」


「は、はあ」


「当然、王子であるルーク先輩にこんなこと頼めば大騒ぎになる。だから私には君しかいない。以上だ」


(なんでこっちが詳しい説明を求めたみたいな態度?)


 アイトの感想はどんどん浮かび上がるが、かろうじて話の腰を折らずに聞き続ける。


「もちろん相応のお礼はする。それにこの事がマリアにバレたら厄介だ。だから絶対に誰にも話さない。一度私の家に来て、話を合わせてくれるだけでいい」


「‥‥‥あの、断る選択肢は」


 アイトが慎重に言葉を選んで断ろうとすると、スカーレットは片目を閉じて呟く。


「受けてくれればシスティアが君へ探りを入れるのを私自ら注意しようと思ったんだけどなあ〜」


「ーーー喜んで務めさせていただきます」


 余りにも大きすぎるメリットに、まんまと釣られたアイトである。そして、了承した数分後には既に後悔していた。


 ◆◇◆◇


 時は戻り、現在。アイトは椅子に座らされ、そして机を囲むように他の4人が座っている。


「固くなるなと言いたいが、せめてもう少し()()()()()雰囲気を出してくれ」


 アイトの隣には小声で呟くスカーレット。そしてアイトの対面側にはーーー。


「初めまして。母のセレーナ・ソードディアスです」


 スカーレットの母親、セレーナ・ソードディアスが座って微笑んでいた。スカーレット、システィアの母親と言うことだけあり、間違いなく2人はこの人から生まれたのだと確信する美しさ。

 髪色は娘たちと同じホワイトブロンド。髪型はまっすぐに下ろしたストレートロング。大人らしさが群を抜いており、それは娘の2人よりも濃い魅力でもある。


(うわ若っ! え、この人本当に母親!? まるで綺麗なお姉さんじゃん!)


 アイトが感じた感想は、こんな感じだった。まるで美人を見た外野の反応である。


「あ、アイト・ディスローグです」


 とりあえずアイトは、最低限の自己紹介を済ませて頭を下げる。


「ーーーは? 知ってるわよ。なめてんの??」


 すると斜め前から割り込んでくる低い声。それはスカーレットの妹、システィア。彼女は心底嫌そうな顔で文句を言ったのだ。

 だがその態度が許せなかったのか、母のセレーナが淡々と叱る。


「こらシスティア、無礼ですよ。恥知らずですか」


「‥‥‥ごめんなさい」


(あのシスティアさんが素直に謝った、だと‥‥‥)


 素直に謝るシスティアを見て、アイトは動揺を隠せない。ちなみに隣で見ていたスカーレットは口を押さえてケタケタ笑っている。


「ごめんなさいねアイトさん。この子ったら本当にお姉ちゃんっ子で。まったく、こんな癖が強い姉のどこがいいんだか」


「はあっ!? お母さまの勘違いでしょ!?」


「お母さまは私のことなんだと思ってるんだ?」


 ソードディアス母娘の会話を聞いていたアイトは、一つだけ確信した。


(ーーーやっぱり2人の母親だわ。そっくりだ)


 そして既にセレーナに対して苦手意識が生まれ始めていた。



 その後も、アイトはセレーナと話を続ける。


 「ディスローグということは、あのマリアちゃんと関係あるのかしら?」


 知っている名前を聞いて、アイトはポカンとした顔で素直に答える。


「えっ? 俺の姉さんですが」


「まあ! あなた、マリアちゃんの弟さん!?」


「姉のこと、知ってるんですか?」


 アイトがなんとなく聞き返すと、セレーナは椅子を倒しかねない勢いで前のめりになる。


「知ってるも何もマリアちゃんはスカーレットの唯一の親友ですから!!」


「は、はあ」


 アイトが少し驚いて狼狽している間も、セレーナは止まらない。


「家には何度も遊びに来てますし、とても活発でいい子ですよ。この子が学園の話をする時は必ずマリアちゃんのお話ばっかりですもの。それも楽しそうに」


「おいお母さま? 戯れが過ぎるんじゃないか?」


 突然暴露されたスカーレットは両手を組んで嗜めるが、セレーナは止まらない。


「あの子の弟さんなら、私も安心できます。これからもこんな我の強い娘ですが、どうかよろしくお願い致します」


「は、はあ‥‥‥」


 アイトは驚きの連続だった。マリアがそれほどスカーレットと仲が良かったこと。そしてスカーレットが家で学園生活のことを楽しそうに話すこと。


「‥‥‥」


 腕と足を組んで座っているスカーレットが、珍しく視線を逸らしている。あながちセレーナの言うことは間違ってないのだ。



「ーーーねえ、一つ聞きたいんだけど」


 すると、頬杖をついていたシスティアがアイトに話しかけた。


「な、なに?」


「お前、本当に姉貴と付き合ってるの? 学園で微塵もそんな素振り見なかったけどね」


 システィアの疑問に、セレーナも反応する。


「それは本当ですか? ‥‥‥まさか」


(そりゃあそうだ!! 数時間前の関係だし!)


 痛いところを突かれたアイトは反応に困る。当然、事前の準備など何も無い。


「なんだ。そんなことか」


 すると、スカーレットが助け舟を出す。


「馬鹿馬鹿しい。人目があるところでイチャイチャしてるのを見せなきゃ付き合ってるとは言えないのか?」


「なっ、別にそんなこと言ってないでしょ!?」


 システィアがムキになって突っかかると、スカーレットは逆に椅子に深く座って両手を振る。


「残念だが私は痴女になる気はないんでね。そんなの見せるわけないだろう?」


 そして、真顔で呟いた。


「2人の逢瀬は誰にも邪魔されたくないに決まってる」


 助け舟というよりは、凄まじい爆弾発言を。


「なっ!?」


「まあっ」


 当然、システィアは驚きながら立ち上がる。セレーナは口に手を当てて微笑んでいた。ちなみにアイトはただ静観中。


「姉貴はこいつのどこを好きになったのっ!?」


「言葉で説明して納得するのか? 彼の好きな所は、私だけ見えていればいい」


 スカーレットはサラッとした口調で大胆過ぎる発言を繰り返す。システィアはもちろんのこと協力者のアイトでさえ絶句していた。

 何も詳しいことは言っていないのに、妙に堂々としている。嘘をついているにも関わらず。


 それが逆に、恋人の演技として芯を食っていた。システィアはわなわなと震え、セレーナは感心したようで頷いている。


「これはカレンに席を外してもらって正解でした。あの子にはまだこの話は刺激が強すぎます」


 セレーナがシスティアの隣、空いていた椅子を見ながら言う。


 スカーレット、システィアの弟であるカレン・ソードディアスは今、ソードディアス家にいなかった。

 理由はセレーナが言った通り。実際は姉が嘘をついてるだけなのだが。


「ところでアイトさん、明日から何かご予定は?」


「え、まあ特に無いですけどおっ!?」


 アイトは突然語尾を強める。隣に座るスカーレットに指で太ももを捻られたからだ。そんな彼女は目を細めてアイトを睨んでいる。


「まあっ! それでしたら、ぜひこれを」


 するとセレーナが嬉しそうに懐から取り出した物をアイトの前に置く。勘付いたスカーレットは完全にため息をついていた。


「ーーー交易都市ベルシュテットでの割引券?」


 アイトが確認して声を出すと、セレーナは笑顔で答える。


「知り合いから頂いたのですが、私は使い道がなくて。交易都市ベルシュテットは海に囲まれた都市、アイトさんもご存じですよね?」


「は、はい。有名ですから」


「そうですよねっ!」


 アイトの言葉に、セレーナは待ってたと言わんばかりに反応する。


「とても発達していて様々な物が販売されていて掘り出し物も多いとか。買い物には最適です」


「そうですね‥‥‥ん??」


 アイトは何か引っかかっていた。だが、もう遅かった。


「それに街並みも綺麗ですし、観光名所も多い。ぜひスカーレットと一緒に遊んできてください」


(‥‥‥あ、さっき先輩が捻ってきたのって!?)


 アイトはようやく、さっきのスカーレットの行動を理解した。


 『なに正直に話してるんだ。やめろ』と。



 アイトが隣を見ると、微笑みながら眉をぴくぴく動かしているスカーレットがいた。


(やばいやばいやばいやばい)


 アイトは冷や汗をかきながら、セレーナの方を向く。そして、断ろうと声を出す。


「あ、あ〜そういえばまだ冬休みの宿題がーーー」


「それに私の欲しい物もあるので、2人で観光に行くついでに買っていただければなと思いまして」


 アイトの発言を、セレーナは巧みに阻止する。自分の欲しい物が交易都市にあるという大義名分まで付けて。


(使い道、あるじゃんっ!!)


 アイトはそんな抵抗しかできなかった。もちろん口には出さず心の中で。


「‥‥‥暇だし行こうか? なあ彼氏くん???」


 微笑んだスカーレットはアイトの肩をミシミシと掴む。完全に心中は微笑んでいない。


「ひゃ、ひゃい‥‥‥」


「ふふ、ありがとうございます。スカーレットと、楽しい()()()を♪」


 一部分を強調して微笑むセレーナ。だが、アイトは確実に苦手意識が強まっていた。


(やってしまった‥‥‥)


 こうして冬休み終了間近、アイトの予定は急遽埋まってしまった。


「‥‥‥」


 システィアの鋭い視線に、気づく余裕すら無いのだった。


 ◆◇◆◇


 一方、人の気配が微塵も感じられない、魔の森。


「はあっ、はあっ、はあっ」


 片膝をついて息を乱す金髪美少女のハーフエルフ。それを白い翼が生えた金髪女性が見下ろしていた。


「おつかれエリス。今日はこれで終わり。明日からは私が戻ってくるまで1人でさっきの特訓」


「1人で? その間シャルはどこに? この森にいると魔眼が機能しないからどこにいるか魔力探知できないんだけど」


 エリスに愛称で呼ばれた天使は、僅かだけ微笑んだ。


「いろいろ必要な物が少なくなったから、近くの都市で買ってくる」


「近くの都市で?」


「ここから海近いしたぶん良いものたくさん売ってる。それにもう寒い時期だし、美味しいものもある」


 シャルロットが次々と理由を述べると、エリスは少し納得してない様子で息を吐いた。


「‥‥‥それはいいんだけど、買いすぎないように。シャルはいつも気になるものは爆買いするんだから」


「‥‥‥わかってる。私はもう十分反省した」


「いっつもそんなこと言って、買いまくるでしょうが」


 シャルロットは自分を戒めるように言うが、エリスはそれで納得していない。まるで駄々を捏ねる子供を叱る母親のようだった。


「もし買うなら気になる物は2つまで。いい?」


「エリスのいじわる」


 シャルロット・リーゼロッテは一瞬拗ねたような顔を見せた後、翼をはためかせ空へ舞う。


(戻ってくるまでにもっと成長して見返してやる)


 エリス・アルデナは拗ねた彼女をを見送った後、再び修行を再開した。


「ここから近いのは‥‥‥交易都市かな」


 『天帝』と『使徒』。2人の向かう先が、偶然にも重なることになる。

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