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【50万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
9章 交流戦代表選抜試験

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幕間 帰省 後編

 時刻は深夜。当然だが家の周辺には誰1人としていなかった。


「今は雪、降っていないわね」


 白い息を吐いたマリアが足を止めて振り向くと、左手に持っていた木剣を投げる。そして、右手に持った自分の木刀を構える。


「‥‥‥」


 アイトは無言のまま飛んできた木剣を掴み取り、腰に置いた。


「姉さん‥‥‥いったいなんのつもり?」


「わざとらしいわね。既にわかってるくせに」


 マリアがぶっきらぼうに呟くと、木刀を強く握る。


「クリスマス会の後、ルーク先輩から聞いたわ。あんたが力を隠してるのを白状したこと。そして、それは私がいるからだって」


(あの王子めっ‥‥‥)


 アイトが内心でルークに愚痴をこぼす。当然その間にもマリアの話は続く。


「あんたが寝てる間に調べさせてもらったわ。明らかに鍛錬を積み重ねて来た筋肉の付き方だった。それも学園()()じゃ身に付かないほどのね」


「‥‥‥」


 アイトは何も言い返せない。何を言っても、マリアには言い訳に聞こえてしまうのを分かっていたから。


「私がいるからって何? 姉の顔を立ててくれたとでも言うつもり? それとも‥‥‥私を嘲笑ってたの?」


 マリアは渇いた笑みを浮かべ、自虐気味に呟いた。


「違うっ!! 俺はただっ、平穏に過ごしたいから目立ちたくなくてーーー」


「何が目立ちたくないよ!? 女の子とたくさん交流してるくせにっ、代表にも選ばれてるくせに!!」


「それは本当に成り行きで‥‥‥」


 アイトの言葉は嘘ではない。これまでの学園生活と行事から、ユリアを始めとする同級生の女子と交流が多く、代表に選ばれたのも2人が辞退したから。

 だがそんな言葉は、怒るマリアには届かない。


「‥‥‥今はもう、そんな事どうでもいいの。言葉なんて要らない。ただ、あんたの本気を見たいだけ」


 マリアは殺気を宿した瞳でアイトを睨み付ける。これ以上、何も話す意味は無いと示しているようだった。


「‥‥‥わかった」


 アイトはもう、戦うしかないと察してしまった。淡々と呟き、右手で木剣を握り締める。そして、告げる。


「姉さんの無茶振りに応えるんだ。だからどんな結果になっても納得してくれ」


「‥‥‥へぇ? 言うじゃないの。じゃあ1番わかりやすいように、魔法は一切無しで攻撃は物理のみ。じゃあ‥‥‥準備はいいわね」


 マリアが刀を構えて尋ねると、アイトは特に気にした様子も無く、頷いた。


「ーーー来い」


 その一言が、マリアを突き動かす。彼女はカッと目を見開くと、地面が抉れるほど足を踏み込んで突進する。


「ハァァァァッ!!」


「‥‥‥」


 マリアとアイトはまるで対照的だった。声を出しながら勢いを付けて突進するマリアに対し、ただ構えをとって何も言わずに待ち受けるアイト。

 当然、2人の距離は瞬時に縮まる。戦いの幕が上がる。


「はぁッ!!」


 マリアが勢いよく振り下ろした木刀を、アイトは木剣で受け止める。だが鍔迫り合いは一瞬で終わる事になる。


「なっ!?」


 アイトが勢いを受け流したことにより、マリアは声を出して体勢を崩す。彼女はすかさず体勢を立て直して、木刀の連撃を繰り出した。


「このッ!!」


 右上段斬り、左薙ぎ払い、斬り上げ。マリアがどんな攻撃をしても、アイトは悉く攻撃を捌く。まるで刀の打ち合い稽古でもしているような光景に見える。


「シッ!!!」


 痺れを切らしたマリアが一歩踏み出して斬り込む。だがアイトはそれに対応するように身体が動き、マリアの木刀を目前で躱す。

 そしてマリアの懐に入り込みながら素早く背後を取ると、アイトの蹴りがマリアの背中を捉えていた。


「ぐっ‥‥‥がぁッ!!」


 背中を蹴飛ばされたマリアは気合いで体勢を立て直し、着地したと同時に再度突進する。次は声が出ないほど意識が研ぎ澄まされた、木刀の突き。


(ーーー突きか)


 だがアイトは背中を逸らして躱すと同時に、そのまま両手を地面に着いて勢いよく両足を振り上げる。そう、バク転だった。


「っ!!」


 そしてアイトはバク転の勢いで木刀を蹴り上げた。マリアの手から離れた木刀が無惨にも回転しながら真上に飛ぶ。


「なんなのっ、その動きは!!?」


 憤慨したマリアは跳躍すると、宙を舞っていた木刀を掴んで急降下。そして勢いよく背を逸らして振りかぶり、全ての膂力をアイトにぶつける算段だった。


「‥‥‥すぅ」


 アイトはただ木剣を握り、息を吸って待ち構える。別にわざわざ待たなくても、距離を取って回避してから攻撃に転ずることも充分可能だった。

 つまり、あえて待っているのだ。心身ともに、マリアを叩き伏せるために。そして、急降下するマリアがアイトに近づく。


「これで終わりよ!!!」


「ーーーはぁッ!!」


 マリアとアイト。2人の声が出すと共に、勢いよく振り下ろされた木刀と、下から掬い上げるように迫る木剣が衝突する。確かな衝撃と音が、周囲に響き渡る。


「ぁっ‥‥‥」


 2人の視界に映るのは木の欠片。着地したマリアは、木刀が完全に砕けたことを悟った。そしてアイトは、少し割れた木剣を手に持っている。


「私の、負けね」


 力が抜けたように膝から崩れ落ちたマリアは、目の前の事実を口に呟いていた。まるで目前で自分を見下ろす、アイトの姿を目に焼き付けているかのように。


「‥‥‥ああ」


 アイトはもう何も言い訳しようとは思わなかった。勝者が敗者にかける言葉など、何も無かった。


「あんた‥‥‥いったいどこまで強いのよ。どうやって、なんで‥‥‥そんな力を?」


 マリアは強い。学生の身分で王国最強部隊『ルーライト』の隊員になるほどで、その実力は確か。

 だがエルジュの代表『天帝』レスタとして多くの困難を経験したアイトを、現時点の彼女は凌駕し得なかっただけ。それが真実。


「‥‥‥機会があったら話すよ。でも今は約束を守ってもらう。じゃあ、おやすみ」


 アイトはそう呟くと、マリアに背を向けて家に戻っていった。もはや、これ以上この場にいる意味は無かった。


(あんたって‥‥‥やっぱり、あのレスタなの?)


 マリアは不安そうにその背中を見届け、しばらく呆然とする。アイトの背中が、やけに恐ろしく見えた。


 ◆◇◆◇


 それから数日が経ち、朝早く。


「じゃあまたね〜! 春になったら私も学園に入学するから〜!」


「2人とも体調には気を付けね。いつでも帰ってらっしゃい」


「‥‥‥元気でな」


 アリサ、カアラ、アレクは2人を見送るべく扉の前に立つ。


「ありがとう、いってきます」


「また戻ってくるからね!!」


 アイトとマリアは手を振りながら歩き出す。アリサとカアラは満面の笑みで手を振りかえしていた。

 そして3人の姿が見えなくなり、王都への道のりが始まる。


「‥‥‥」


「‥‥‥」


 だが、2人とも黙り込んでいた。決闘の終えてから、2人きりで会話は一度もしていない。


(うわ超気まずい‥‥‥でも、ああするしか無かったし気がするしなぁ‥‥‥)


 アイトは足元を見つめながら歩いていた。マリアと目を合わせて会話をする勇気が無かったのだ。


「‥‥‥フっ!!!」


「ーーーあイタァっ!?」


 だが突然、マリアが勢いよくアイトの背中を叩いた。予想外の一撃に、アイトは素っ頓狂な悲鳴を上げる。


「決めたわ。私、絶対にあんたを超える。そうすればどんなことがあっても万事解決だから。たとえあんたがーーーなんでもない」


「急に何の話!?」


 アイトが背中を摩りながら聞き返すと、マリアは真剣な表情で見つめ返した。


「うじうじ悩むのは私らしくない‥‥‥これ以上、姉として恥ずかしい姿は見せられないから!」


「姉さん‥‥‥」


 アイトが目を見開いて驚く姿を見て、マリアは誇らしげに目を閉じる。


「だったら人前で遠慮なく構ってくるのやめて」


 だが、アイトの口から容赦無い言葉が飛び出すのだった。


「ーーー普通そこは謙遜するところでしょうが!!?」


 理不尽なマリアの張り手が、アイトの背中を捉えて大きい音が鳴る。それも、アイトの呻き声が聞こえないくらいに。


「話せない事情があるなら別に話さなくていいわ。だって今は力づくでは聞けないってわかったもの」


「‥‥‥」


 アイトが黙り込んで見つめる間も、マリアはびしっと指を差して宣言した。


「だったら弟の隠し事くらい、お姉ちゃんがすぐに暴いてやるから覚悟しなさい!」


「何その意味不明な宣言!?」


 アイトが声を出して反応するが、マリアは止まらない。


「だからぁ‥‥‥あんたは今まで通りでいい。だから私が何しようと文句は言わせないってこと!」


「えぇ‥‥‥」


 アイトがドン引きしていることにも気付かず、マリアは前を向いて満足げに笑う。発言や行動原理が、姉弟で似ているのは皮肉なものである。


(やっぱり考えて悩み続けるくらいより、行動に移した方が私らしいわね。たとえアイトがどんな存在であっても、憎たらしい弟なんだから)


 そしてマリアは、どこか清々しい気持ちで窓の外を眺めるのだった。

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