幕間 黄昏のクリスマス
12月25日、一般的にはクリスマスと称される聖夜。
(今日呼び出されたのは、さすがに意味があるよな)
アイト・ディスローグは王都ローデリアの南地区に足を運んでいた。目当ての店に辿り着き、慎重に扉を開ける。
「うわっ!?」
すると視界に飛び込んできたのは、パーティ用に鳴らすクラッカー。その音と衝撃に、アイトは思わず声を上げた。
「「「メリークリスマ〜ス!!」」」
そしてその反応を見て嬉しそうに、予め準備していた少女たちが笑う。この場にいるのは全部で7人。そのうち声を合わせたのは3人で、他の2人は別々に言葉を呟く。
「ん、メリクリ〜。これでやっと食べられるー」
1人は欠伸をしながら呑気に呟く青髪の少女。
「メリークリスマスっ、おにいちゃん!!! ミアずっと会いたかった〜♡」
そしてもう1人は猪突猛進と言わんばかりに距離を詰め、きゃぴきゃぴと喜ぶ少女。白と黒がまばらになった髪が特徴的な少女だった。
「「‥‥‥」」
残りの2人は何も言わない。ちなみにどちらも暗殺者である。だが‥‥‥サンタの格好は全員がしていた。 それぞれ少しずつデザインが違い、服の色も各自で違う。だが全員、サンタ服がとても似合っている。
「気合い入ってるな‥‥‥」
アイトはそんな感想を呟くと、この場にいる少女たちを一瞥する。
「ターナ、カンナ、アクア、ミア、リゼッタ、ミスト、メリナ‥‥‥わざわざありがとう。嬉しいよ」
そして名前を呼び、精一杯の感謝を伝えた。
「やった〜!!!」
するとミニスカ赤サンタ衣装のカンナが、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。跳ねるたびに彼女の健康的な太ももが露わになり、アイトは気まずくなって目を逸らしながら話しかけた。
「エリスはともかく、カイルとオリバーは? あの2人はいないのか?」
「どちらも、ぎるど。だからかえり、おそくなる」
アイトの質問に答えたのはリゼッタだった。赤いサンタ服を着てちょこんと座っている彼女は、誰から見ても可愛らしい。
「数少ない男組がいなくて残念だったな。いや、むしろ良かったのか? クリスマスにハーレムだからな」
「あの、ターナさん? 棘のある言葉かけるのやめてもらえない?」
アイトが気まずそうに言葉を返すと、黒のタイツで肌の露出を意識して控えている黒色サンタ衣装のターナは鼻で笑って目を逸らした。だが逆に黒のタイツに覆われている足を組んでいることで、艶かしくも見える。
「じゃあ参加しないでもらえる黒髪チビ? おにいちゃん、あんな性悪なんて気にしなくていいからね?」
すると愚痴をこぼした直後に猫撫で声を出したミニスカ黒サンタのミアが、アイトの腕に抱き着いて上目遣いで見つめる。そして‥‥‥黄昏随一である巨乳を、自らの意思で押し当てていた。
「あーうん、気にしてないから大丈夫」
アイトは冷静を装って話すが、内心は焦りっぱなしだった。自分を『お兄ちゃん』と慕うミアから感じる強烈な胸部に、罪悪感を覚えて必死に耐えているのだ。
「あ、あの〜そろそろ始めませんか? 早くしないとアクアの瞼が閉じちゃいます」
「ミストの膝枕ぁ〜‥‥‥久しぶりの感触ぅ‥‥‥」
夢心地で目を閉じかけているアクアの頭を太ももに乗せて、困った様子で話すミスト。
ミストはターナと似て露出は少ないが色が違って赤のサンタ衣装。アクアは黒色のロングスカートが特徴的なサンタ衣装だった。
「ミストの言うとおりだね。せっかくの豪華な料理が冷めちゃう。だから代表、乾杯の音頭を」
そして黒のサンタドレスを完璧に着こなしているメリナが、微笑んでアイトにグラスを渡した。それを見て他の皆も、それぞれ飲みたい物をグラスに入れて手に持つ。
「そ、それじゃあ‥‥‥みんないつもありがとう。メリークリスマス」
「「「「「メリークリスマス〜!!」」」」」
こうして、黄昏のクリスマスが始まった。
「んまぁ〜。おいしぃ〜」
「もう、行儀が悪いですよアクア」
見境なく食べ続けるアクアの口元を、眉を下げたミストが仕方無いと言わんばかりにナプキンで拭き取る。
「こんなに豪華な料理と店内の装飾‥‥‥結構な費用がかかったんじゃないのか?」
その光景を見ていたアイトは、ふと気になったことを呟いていた。すると近くで更に料理を取り分けていたカンナが微笑む。
「まあそれなりにかかったよ〜! でもこの前の臨時報酬があったから全然大丈夫!」
「それって‥‥‥あの騒動の時の魔物討伐のこと?」
アイトが聞き返すと、カンナは正解と言わんばかりにピースして笑った。
「あれってミストが間違えて受けちゃったギルドの任務だったんだけど、無事に達成できたから報酬金がすごかったの!」
「ちなみに、どれくらいか聞いていい?」
アイトが興味本位でいくらか尋ねると、カンナが『ニシシ』と歯を見せて手招きする。そしてアイトの耳打ちし、小声で伝えた。
「ーーーそんなに!?」
それを聞いたアイトが目を合わせて驚くと、カンナは嬉しそうにダブルピースする。すると近くに座っていたリゼッタも同様にピースして会話に参加した。
「はんぶんは組織、はんぶんのはんぶんはクリスマス。のこり山分け」
「リゼッタが言った通り、クリスマスで日々の頑張りを祝おうと思ったんだ〜」
そう呟いたカンナはリゼッタと目を合わせて微笑み合う。
「ねぇおにいちゃ〜ん。ミアだって今日の準備がんばったんだよ〜?」
するとしっかり隣に座っていたミアが嫉妬した様子で話しかける。
「もちろん分かってるよ、ありがとう」
「〜〜〜ぁぁ♡」
アイトが苦笑いしながら褒めると、ミアは夢心地となって会話をやめた。ターナは黙々とコーヒーと苺ケーキを楽しんでいるし、メリナも上品に食べている。
こうして皆がクリスマス会を楽しみ、しばらく時間が経った後。
「ーーーすいませーん」
店の扉が3回ほど叩かれ、外から声が聞こえてくる。アイトたちは即座に会話を止め、外の存在に警戒を高める。
「とりあえずレスタくんは控え室に隠れてて。1人だけ男子がいたら怪しまれるかもっ」
カンナがそう言ってアイトの背中を押していく。その時、なぜかミアもアイトにくっついて移動していったが。
「私が開けるね」
メリナがそう言って周囲を一瞥すると、反対する者はいなかった。理性的で大人びている彼女に任せるのが最善だと皆が判断したのだ。
メリナは椅子に掛けていた自身の上着を羽織ると、息を整えながら扉に近づいていく。彼女は当然のこと、他の皆も緊張と警戒を高めている。
「ーーーお待たせしました。なんでしょうか」
やがてメリナは扉を開け、声を出すと同時に相手の顔と服装を確認する。そして、相手の外見に違和感は感じなかった。
一般的な中年の男に見える。ただ少し気になるのは、男が手に持っている少し大きめの箱。
「夜分遅くに申し訳ない。今日こちらに届けて欲しいと送り主の方から依頼を受けまして。これがその品になります」
男はそう呟くと、メリナにその箱を手渡す。
「運搬料金は事前に送り主の方から戴いてますので。それではご利用ありがとうございました」
男は用事が済んだのか、特にこれ以上何も話す事なく店の扉を閉めていった。
「‥‥‥ただの配達だね」
メリナが肩透かしと言わんばかりにため息を吐いて呟くと、店内の空気に安堵が訪れる。ただ、1人だけは違った。
「でも、今日は別に配達なんて何も頼んでないんだけど‥‥‥」
それは店舗マーズメルティのオーナー代理、カンナである。彼女の言葉に、皆はメリナが持っている箱に再度警戒を強めていた。
「ーーー俺が開ける。みんなは少し離れてて」
すると控室から出てきたアイトがそう宣言した。自分が開けると言ったのには、理由がある。
(もしかしたらルーク王子が何か勘付いて送ってきた罠かもしれない‥‥‥カンナがこの店にいるってことや、俺が定期的にこの店を出入りしてることを王子が把握してれば、可能性はある)
それは今のアイトにとっては警戒せざるを得ない状況。いつ明らかな攻撃が来てもおかしく無いからこその、疑心暗鬼。
「代表‥‥‥わかった」
そんな代表の確かな覚悟を感じ取ったのか、メリナはそれ以上何も言わずに箱を手渡し、少し離れる。
「大丈夫なのっ、おにいちゃん!」
ミアが心配そうに尋ねるが、彼女の肩をメリナが叩いて落ち着かせる。『代表に任せよう』という意思が感じられた。
「じゃあ‥‥‥開けるぞ」
アイトが意を決して慎重に開けていく。すると中には‥‥‥アクセサリーのような物が10個ほど入っていた。中央に添えられた手紙と共に。
「手紙?」
アイトは訝しげに手紙を手に持ち、封を開けて中を確認する。そして、この送り主の名前を呟いていた。
「‥‥‥エリスからだ」
「えっ!!」
真っ先に反応したカンナが声を出した後、他も同様に驚く。そしてアイトは手紙に書かれていることを読み始めた。
『アイ、黄昏のみんな。元気にしてる? 私はーーー』
◆◇◆◇
同時刻、人の気配が微塵も感じられない魔の森。
「今日はクリスマスだから、いっぱい買ってきた」
翼をはためかせて舞い降りたのは、天使という希少種族であるシャルロット・リーゼロッテ。
「ほら、美味しそうなクリスマスケーキ。最近キャンプ用の机と椅子も買ったし、今夜くらいは楽しく過ごそう」
眩いほどの長く綺麗な金髪とまるで人の理想と言わんばかりに浮世離れした容貌は、天使という種族に相応しい。
その姿と魔王を討伐した勇者一行の1人という抜きん出た実力で、人々に『使徒』と呼ばれるに至った生きる伝説である。
「そんなこと言って、昨日も街でたくさん買ってきたでしょ?」
そう呟いたのは椅子に座る金髪ハーフエルフの美少女。彼女が秘密組織エルジュの序列第1位、エリス・アルデナである。アイトたちから離れた彼女は、シャルロットの弟子として遠く離れた地で修行を続けていた。
「修行なら、食べるものも自給自足でもーーー」
「栄養のあるものを食べないと筋肉は付かない。短い期間で強くなりたいなら尚更」
シャルロットが突然真面目な事を話すため、エリスは軽く面食らう。普段は少しだらしない素振りが目立つシャルロットだが、たまにこのような底が見えない一面を目撃するため侮れない。
「それに、美味しいものは正義。生きる上で大切」
‥‥‥こうして印象が良く変わるのがシャルロット・リーゼロッテである。
「‥‥‥ほんとお金遣いが荒くて食いしん坊なんだから。よくその美貌を保ってられるわね」
エリスは皮肉を込めて呟くと、シャルロットは不機嫌そうに頬を膨らませた。
「エリスのいじわる。そもそも外見は別に意識したことないもん」
「大半の女性を敵に回す発言だわ‥‥‥」
エリスが呆れて息を吐いている間も、慣れた所作でカップを2個取り出す。そしてコーヒーを淹れ始めると、シャルロットが感心した様子で眺めていた。
「いつも思うけど上手だね。エリスの淹れるコーヒーはとても美味しい」
「自然に身に付いただけよ。普段は喫茶店『マーズメルティ』のオーナーとして毎日淹れていたから」
「そっか。やっぱり、大切な場所なんだね」
シャルロットがそう呟くと、エリスの手がぴたりと止まる。だがそれも一瞬。
「‥‥‥そうね。大切な場所よ」
エリスは微笑みながらコーヒーを淹れる。2個のカップに淹れた所でシャルロットが口出しした。
「砂糖、砂糖っ。たっぷりの砂糖」
「ほんとよく体形維持できるわね‥‥‥」
エリスは度々呆れつつも、要望通りに多めに砂糖を入れてシャルロットの前に置く。
「クリスマスと言えば、そろそろ届くころだね。エリスが2ヶ月前に準備したプレゼント」
シャルロットがカップを口元に近づけて呟くと、エリスは感慨深そうに微笑む。
「ええ‥‥‥無事に届いてるといいわ」
「そういえば手紙も送ってたけど、なんて書いたの」
シャルロットはカップを置いて尋ねると、エリスは満面の笑みで応えた。
「絶対に教えない。あれはアイたちに送った手紙だから」
◆◇◆◇
「ーーー以上、エリス・アルデナより」
アイトが手紙を読み終えると、皆はそれぞれ異なる反応を見せている。その大半は嬉しそうに笑っていた。
「うわこれかわいい〜! さすがエリスだね〜!」
カンナは箱に包装されていた10個のアクセサリーを眺めていると、メリナは顎に手を置いて呟く。
「代表と他の『黄昏』分のプレゼント‥‥‥だね。だから10個で、皆で選んで欲しいってことじゃないかな」
「じゃあカイルとオリバーがいないから、また後日に集まった時だね!」
カンナが納得した様子で箱を閉じると、少し懐かしむように目を細める。
「エリス‥‥‥いつ修行を終えて帰ってくるのかな」
そんな彼女の言葉は、店内の空気を静かにするには充分だった。少し湿っぽくなっている。
「‥‥‥待つしかないさ。そもそも天使さんの弟子入りを薦めたのは俺で、皆で送り出したんだ。だから、待とう」
アイトの言葉に、カンナを始めとする他の皆も頷いていた。するとアイトは頭に手を当て、少し冗談めいたように呟く。
「まあ、早く帰ってくれるといいんだけどな」
そんなアイトの言葉で、カンナたちは笑い合う。店内の空気は次第に、クリスマス会の開始直後まで戻っていった。
「っ‥‥‥」
だが、1人だけを除いて。その人物はアイトの言葉を聞いて、胸が苦しくなったのだ。
「どうしたのミスト。何かあった?」
「! い、いえ。何でもないです」
話しかけられたミストは咄嗟に笑顔を作って上手く誤魔化す。だがその後、アイトを見つめて少し寂しそうにするのだった。
(エリスが戻って来たら‥‥‥代表を降りるのかな)
こうして、黄昏のクリスマスは幕を閉じる。




