『同盟国交流戦』各学年代表選手
終業式の日。グロッサ王立学園はクリスマスの前日に終業式をするという通例がある。
(ん‥‥‥? なんだ‥‥‥?)
アイトは普段通り学園に登校すると、掲示板付近で人が溢れていることに気付く。その大部分が学生であることは彼らの制服を見れば分かる。
「おはよ、ローグくん」
するとアイトは背後から声を掛けられた。振り向くとそこには、灰色髪のレイヤーボブが特徴的な少女がいた。同じく学園に来たばかりのユニカ・ラペンシアである。
「あ、おはよう。あの人混み、何か知ってる?」
「知らないわ。でも他の所でも多く殺到してるらしいわよ。何か重要な知らせでもあるんじゃないかしら」
アイトとユニカはどちらからともなく歩き出し、学生が集まっている掲示板に近寄る。多くの学生に揉まれながらも、なんとか見える距離に到達する。
「ぁ‥‥‥」
先に声を漏らしたのは隣にいるユニカだった。掲示板に張り出されている大きな紙に書かれた内容を理解したのだ。その反応が気になったアイトも、目を凝らして確認する。
『同盟国交流戦』各学年代表選手発表
真っ先に目に飛び込んできたのはそう人間言語で書かれた文字だった。アイトは早速、その続きに目を凝らす。
・5年 ルーク・グロッサ
・4年 マリア・ディスローグ
・3年 ステラ・グロッサ
・2年 ユキハ・キサラメ
・1年 システィア・ソードディアス
ジェイク・ヴァルダン
アヤメ・クジョウ
アイト・ディスローグ
1年は新人戦のため4名(うち1名は控え)とする。
「‥‥‥は???」
アイトは目を零れ落ちそうなほど見開き、素っ頓狂な声を漏らす。裾で目を擦って何度見ても、自分の名前がしっかりと刻まれている事が分かる。
「お、おめでとう?」
ユニカが一応の言葉を送るが、アイトは一点を見つめたまま返事をしない。完全に現実逃避していた。
◆◇◆◇
時は少し遡り、アイトが目を覚ます2日前。
「僕に何か用かな」
生徒会室の椅子に座るルークは、自分を見下ろす相手に声をかけた。その相手は、藍色の長い髪が特徴的な少女。
「1年Dクラス所属、クラリッサ・リーセルです。ルーク先輩に伝えたい事があって来ました」
クラリッサは慣れた所作で頭を下げる。貴族出身の彼女にとって、これくらいは当たり前の教養だった。
「そんな畏まらなくてもいいよ。それで、君の伝えたい事って?」
和ませるためかルークがわざとらしく微笑んで尋ねると、クラリッサは間髪入れずに発言した。
「1年の代表選手選考の件、辞退させてください」
そして彼女が発言した内容は、ルークが軽く了承できるものではなかった。ルークの顔から笑顔が消える。
「なぜだい? この前の試験で何があったかは知らないけど、あれは中止扱いになった。また別の試験をするから辞退する必要なんてーーー」
「いいえ、それを言うなら試験をする必要がありません」
「‥‥‥どういう意味かな?」
ルークが少し訝しげに問いかけると、生徒会室の扉がノックされる。そして、1人の少女が入ってきた。
「まだ入っていいとは言ってないんだけど?」
「申し訳ありませんお兄様。でも、私もクラリッサさんと同意見ですから」
その少女はルークをお兄様と呼んだ。彼をそう呼ぶのは1人しかいない。少女の銀髪が歩くたびに靡く。
「1年Aクラス所属、ユリア・グロッサ。私は交流戦の1年代表選考を辞退します」
そして、ユリアは真剣な表情で宣言した。その宣言を聞いた隣に立つクラリッサも頷いて後に続く。
「1年の代表選手は新人戦のため4人。そしてその候補が6人。私とユリアさんは辞退しますので、もう選考を行う意味はありません」
「クラリッサさんの言う通りです」
さすがのルークも、2人の発言には驚いて思考が止まった。だがすぐに思考を切り替えて話し出す。
「選考を行う意味が無いかを決めるのは君たちじゃない。それに、いったい何が目的なんだい?」
ルークが少し眉を顰めて問いかけると、応じたのはクラリッサだった。
「別に目的なんてありません。私は純粋に辞退を申し出ているだけです」
「だからそれはなぜ?」
「今回の試験中に、実力不足を痛感したからです。あの謎の魔物に私は手も足も出なかった。そして、あの魔物をシスティア、アヤメ、ジェイクくんの3人が倒した。それが明確な差で、辞退を考えた理由です」
クラリッサが話した理由は至極真っ当なものだった。そのため、ルークも反論できない。
「それじゃあ、ユリアは?」
そこでルークは聞く相手を変える事にした。ユリアは一歩前に出ると、息を吸って口を開ける。
「理由の大部分はクラリッサさんと同じです。私も自分の力不足を痛感しました。そして‥‥‥自分の甘さにも」
ユリアは視線を床に落として唇を噛む。その様子から只事ではない雰囲気が感じられる。
「‥‥‥今の私に、学園の代表を担う資格はありません。ですから今回は現実を受け止め、来年は必ず代表になってみせます」
そう言ったユリアの表情は晴れやかだった。だが瞳は確かな意志と覚悟が籠っている。そしてそれはクラリッサも同じだった。
「‥‥‥そんな目をされちゃあ仕方ないね。2人とも、その話を受け入れる。来年に期待しているよ」
「「はいっ!!」」
こうして、ユリアとクラリッサの辞退が決定した。そのことで残りの1年生は、代表選手として正式に確定することになったのだった。
◆◇◆◇
そして時は現在に戻り、1年Dクラスの教室。
「アイトくんっ、代表入りおめでとうございます!!」
「やったなアイト!!!」
魂の抜けたアイトが中に入った瞬間、先に登校していたポーラ・ベルとギルバート・カルスに祝福される。その後、多くのクラスメイトに囲まれて鼓舞された。
(まだ事実を受け入れられない。クラリッサとユリアが選考から落ちて、なんで俺が受かった?)
アイトはその事が腑に落ちていなかった。代表に選ばれたからにはその責任を果たすつもりでいる。だが、あの試験の中で自分が選ばれる理由を持ち合わせていない。
「おめでとう、アイト」
すると、人混みを割って入ったクラリッサが微笑んで手を差し出す。アイトはその清々しい笑顔に、考えていたことがどうでもよくなった。
「‥‥‥うん。ありがとう、クラリッサ」
アイトはクラリッサの手を掴み、握り返す。同じ交流戦の代表候補だった彼女が何の屈託も無く応援してくれる。その気持ちに応えるのが自分のすべきことだと自覚した。
(もう露骨に力を隠してもルーク王子には逆効果だ。だったら同盟国交流戦‥‥‥黒の魔力以外の出し惜しみはしない)
そして終業式が終わり、冬休みに突入する。
『天帝』レスタの名が世界に轟く‥‥‥大変な出来事が起きるとも知らずに。




