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【50万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
9章 交流戦代表選抜試験

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あなたの事が大嫌い

 3日後、秘密組織『エルジュ』の本拠地。一般的には休日とされる日。


「朝にはリゼッタに会って、昼からは私ですか。やっぱりあなたは天然女誑しの素質がありますね」


「事情分かってるのにそんなこと言うのやめてくれない‥‥‥?」


 アイトは序列9位の構成員、ミストの部屋へ足を踏み入れていた。顔を合わせて早々に罵倒され、アイトは困ったように視線を逸らす。


「ええ、知ってますよ? 私以外に作戦を伝えなかったことに腹を立てて拗ねていましたから。あなたが謝ってもさぞ拗ねていたことでしょうね」


「やっぱり分かってるじゃん‥‥‥」


 アイトが文句ありげに小声で呟くと、ミストはわざとらしく咳払いして口を開く。


「突然メリナに託した()()として今の時間帯と私の部屋を指定してきたんですよ? それも私の了承も無しに。男が一方的に女子の部屋へ上がり込むと」


「うっ、確かにその通りなんだけど」


「そして私は意思に関係なく自室に突撃されてるんですよ? 少しくらいは悪態を吐いてもいいと思いますが」


「返す言葉も無いんだけど、明らかに言い方に悪意あるよね‥‥‥?」


 アイトが困り果てたように顔を下げて呟くと、ミストは意地悪く微笑む。


「私、あなたのことが好きではありませんので」


「それも重々わかってるよ‥‥‥」


 仲が悪い2人が個室で対面しているのには訳がある。それはアイトがミストと交わした約束。


「‥‥‥でも、一度くらいは面と向かって話をした方がいいと思ったのは本当です。これまで私が言いたかったこと、あるだけ全てあなたにぶつけます」


「‥‥‥ああ、どんとこい」


 その約束とは、『2人きりで話し合う』というものだったのだ。



「組織があなたを代表にして変わると知った直後は、あなたの首をどうやって斬り落とそうか必死に考えてましたよ!!」


「あ、ああ」


「でもラルド教官にその魂胆を知られて何度も説教されましたし!!」


「そ、そうか」


「それでますます怒りが募って、一時期は煮えたぎるような憎しみに駆られてました!!」


 ‥‥‥最初のうちは、ミストが一方的に愚痴を零すという状態が続いていた。だがそれがいつまでも続くというわけではなく、やがてミストは疲れたのか息を吐いてコップに注いだ水を煽る。


「とりあえず、私がこれまで募らせてきた気持ちは全て発散しました。今は昔ほど、あなたのことを嫌ってるわけではありません」


「‥‥‥そっか。少し安心した」


 アイトは少し落ち着いたように微笑む。そして、喋り続けたことで息を切らすミストを見つめる。


「間違いなくミストが、俺が代表であることに最も不満と疑問を抱いていた」


「はい。それは自信を持って言えます」


「お、おう‥‥‥だから今から俺が話すことは、真っ先にお前に聞いてもらうべきだと思ったんだ」


 きっぱりと即答されてアイトは少し戸惑ったが、すぐに咳払いをして気持ちを整える。その様子から、ミストにも相応の緊張が走る。

 僅かに沈黙が室内を支配した後、アイトは重い口を開いた。


「‥‥‥そもそも俺が代表として結成された秘密組織『エルジュ』には、明確な目的など存在しない」


「っ‥‥‥」


 ミストが僅かに反応する間も、話は続く。


「もともと、俺が代表になったのは‥‥‥エリスの勘違いだったんだ」


 そしてアイトは自分自身にとって最大の秘密を暴露した。これまで必死に隠してきた、絶対に知られたくない事を包み隠さずにミストへ明かす。


「‥‥‥そう、だったんですね」


 そう言葉を返したミストの口調は落ち着いていたが、明らかに動揺して唇が震えている。自分たちの存在意義に関わる発言だったから仕方ないとも言える。


「ああ‥‥‥俺は勝手に用意された代表の座に座らされていた‥‥‥ただの人間だ」


 アイトは、無慈悲とも言える暴露を続ける。ミストが動揺していることを分かっていても、止められなかった。


「俺が学生を続けているのも、平穏な日々を望んでいるからだ」


「っ‥‥‥だから髪の色を変えて仮面を付けていたんですか!? 正体を隠すために!!?」


 ここで初めて、ミストは声を張り上げた。自分がこれまで感じていた代表への疑問に対する真実が見えたからだ。


「‥‥‥その通りだ。アイト・ディスローグとしての日常を、奪われたくなかったんだ」


「そんなっ‥‥‥」


 ミストは絶句する。さんざんアイトを代表とは認めていなかった。だが、アイトも代表になることを望んでいなかった。それを知ってぶつけようの無い怒りが込み上げてくる。だが、ミストは不意に思い浮かんだ考えを質問せずにはいられなかった。


「ぁっ、じゃあエリスとの関係はなんですか!?」


 昔からアイトと行動を共にしてきたエリスのことである。問いかけられたアイトは複雑な視線を向け、躊躇しながら口を開く。


「‥‥‥俺が言うのもなんだけど、エリスとの関係はあまりにも複雑なんだよ。確かに俺は昔、エリスを助けて一緒に時間を過ごして来た。でも、エリスはどこか俺を勘違いしてた」


「どういう‥‥‥意味ですか」


「あいつは最初から『俺に仕えさせてほしい』と言ってきたり、何か仕切りに高い目標を持ってた。そして‥‥‥暗殺組織『ルーンアサイド』の問題に介入した時には、既に俺を代表にするつもりだったんだろう」


 アイトの言葉に対し、ミストは最も疑問に感じたことを問いかける。


「あ、あなたは何でそのことを知らなかったんですか!!」


「問題が解決した時、俺はラルドとの激闘で意識を失っていた。その間に、エリスとラルドが意気投合して、組織を新しく作り変えることにした‥‥‥んだと思う」


 アイトの言葉には迷いがあった。後から知ったことであるため確信が無かったのだ。だが、次に呟くことには確かな確信があった。


「勇者の末裔であるエリスは、自分を助けてくれた俺に過度な信頼と期待を抱いた。別に俺は‥‥‥特別な存在でも何でもないのにな」


 そう言ったアイトは、もう何かを取り繕うという気は起きなかった。完全に、『天帝』レスタという仮面を取った普通の人間だった。


「俺とエリスのすれ違いの結果が‥‥‥今だ」


 アイトはもはや笑ってすらいた。自分には重すぎる秘密を誰かに話した事で、肩の荷が降りたのだ。


「それじゃあ‥‥‥これまでの事は、すべて嘘だったんですか?」


 ミストが目を涙で滲ませながら呟く。彼女の言葉を聞いて、アイトは我に帰った。


「ーーー違うっ。確かに最初は嘘から始まった皆との関係だった。でも時間が経つに連れて‥‥‥俺は」


 アイトは気付けば口から言葉が漏れていた。そして、アイトは自分自身の言葉に気付かされる。


「俺は‥‥‥この関係を大切に思ってたんだなっ‥‥‥」


 アイトは、自然と涙を流して笑っていた。全てを話した事で、何も混ざっていない自分の本心をようやく理解できたのだ。


「正直‥‥‥私は今の瞬間ほどあなたを憎んでいる時はありません。到底受け入れられない事実を聞かされ、私たちの存在意義を揺るがされて」


 するとミストは顔を下げたまま呟き始める。両手を強く握り締めて拳を作るほど、感情が溢れていた。


「やっぱり私はあなたの事が大嫌いです。心底嫌いです。もう口を聞きたくないほど嫌いです‥‥‥」


 顔を下げたままのミストは、ゆっくりとアイトに近づいていく。身長差があるため、アイトが彼女を見下ろす形となる。


「‥‥‥でも。今のあなたを見ると、どうしても怒ることができないんです」


 ミストは上目遣いでアイトを見つめて、微笑んでいた。止めどなく涙を流しながらも、微笑み続ける。


「あなたの事は嫌いです‥‥‥憎たらしいです」


 ミストは少し恥ずかしそうに視線を逸らして、いっそう微笑む。


「でも‥‥‥私たちの代表です」


 それは、アイトにとって最も感情を揺さぶる言葉だったかもしれない。勘違いの成り行きで代表であることになった事の罪悪感と、重責。


「っーーーあぁっ‥‥‥ぁ」


 自分を最も嫌っていた相手に、認められたこと。アイトは気付けば、両膝の力が抜けていた。両膝を床に付けて前のめりにしゃがみ込み、上半身が前に傾く。


「ありがとうっ‥‥‥ありがとうッ‥‥‥!」


 そして、感情の爆発と共に泣き崩れた。正面に立っていたミストがしゃがみ、アイトの頭を抱き締める。


「男の子がこんなに泣き崩れて‥‥‥もう、みっともないですよ‥‥‥?」


 アイトは初めて、これまでの自分の行いが報われた気がした。 



 だが、その数分後。


「‥‥‥」


「‥‥‥」


 落ち着いた2人は、お互いに気まずくなって黙り込んでいた。ミストに至っては自分の行動を思い出して顔を真っ赤にしている。

 やがてアイトは、意を決して口を開く。


「‥‥‥あの、それで。まだ話しておきたい事があるんだけど」


「え!! え、えぇ!! あぁはい話ですね!? 他にも何か重要なことが!?」


 ミストは明らかに声が上擦って動揺していた。まだ羞恥心が抜けきれておらず、あたふたしている。


「エルジュの今後に関わる話なんだ」


 だがアイトから聞かされた言葉に、彼女は血の気が引いていった。


「‥‥‥いったい、何の話でしょうか」


 ミストが真剣な口調で言葉を返す。もはや2人の間に気まずい空気は無い。そして、アイトは言った。


「ーーー俺は近いうちに、代表の座を降りる」


 それは、ミストを再び絶句させるには充分すぎる内容だった。

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