あなたのことを待っていた
外から入ってくる冷たい風が、窓のカーテンを大きく揺らす。
「‥‥‥くしゅんっ」
その風を寒いと感じたのか、室内の1人がくしゃみをした。可愛らしい声を出した少女は、眠っていたことに気付く。
「‥‥‥(ごしごし)」
両手で目元をゴシゴシと擦った少女は、自身がベッドに頭を寄せて眠っていたことに気がついた。
自分が座る椅子を限界までベッドに寄せており、そこから身体を前に倒して上半身をベッドに預けていた。その事に気づき、少女は顔を赤くしながら反省する。
「ーーーおはようございます」
そこで少女は自分に話しかけてくる声が聞こえた。寝起きで不明瞭だった視界がはっきりし始め、声の主の姿を捉える。
「‥‥‥ぇ」
少女は小さな声が漏れた。驚いているのだ。声が聞こえたこともそうだが、何より声をかけてきた相手を見て驚いている。
「‥‥‥アイ、くん?」
少女の声が聞こえたのか、声の主は少し気恥ずかしそうに頭を掻き始めた。彼らしいその反応が、夢ではないと少女を自覚させる。
「アイくんっ!!」
少女は大声を出し、上体を寄せて相手に近づいた。相手は少し気まずそうにしながら呟く。
「あ、あの、これはどういう状況ですか。いまいちよく分からないんですけど‥‥‥」
彼の言葉に、少女はようやく今の状態に気が付いた。嬉しさのあまり身体を寄せて、相手に抱き付きそうなほど近くなっている今の状態に。
「‥‥‥(はわわわっ!!!)」
少女は顔を真っ赤にして飛び上がった。座っていた椅子が少し下がるほどの勢いで立ち上がる。
「‥‥‥っ!」
「ちょ、シロア先輩ーーー!!!?」
そして、シロアは勢いよく走り去ってしまった。
(‥‥‥なんとか、死なずには済んだのか)
試験中止から5日後‥‥‥アイト・ディスローグは意識を取り戻したのだ。
「アイトっ‥‥‥目が覚めてよかった!!!」
「ぐヴェっ」
だがアイトは早々に意識を手放しかけていた。シロアの報せによって駆け付けたマリアが飛び込んできたからである。
この世界での実姉に全力で抱擁され、嫌な気持ちが勝っていた。まるで締め技と言わんばかりに抱擁を続けたマリアは、ゆっくりと離れて目線を合わせる。
「大丈夫っ? どこか痛いところは無い!? 何か困った事があったら何でもお姉ちゃんに知らせてっ!」
(今まさしく痛くて困ってるよ‥‥‥)
アイトは内心でこう思いながらも両肩を全力で揺らしてくる姉に対し、苦笑いを浮かべて誤魔化していた。とても正直に言える雰囲気ではなかった。
「‥‥‥(ぎゅっ)」
近くに立っていたシロアがアイトの手を掴んで頭を下げる。すると彼女の肩が小刻みに揺れ始めた。
「シロア先輩‥‥‥心配をかけました」
「‥‥‥(ぶんぶん)」
シロアは顔を横に振って現存する。だが隣のマリアが口を挟んだ。
「シロアは優しいから違うって言ってるけどね、私と交代であんたを見守ってたのよ? だからアイト、シロアには感謝してもし足りないわ」
その言葉を聞いたアイトは目を丸くする。だがすぐに咳払いして、2人に向かって頭を下げた。
「姉さん‥‥‥シロア先輩、2人とも心配かけてごめんなさい。それと、本当にありがとう」
そして、誠心誠意の謝罪と感謝を伝えた。それを聞いたマリアは「言うのがおそい!」と嗜め、シロアは両手をブンブンと振って謙遜していた。
その後、アイトは2人と色々な会話をした。
「あ! そういえばね、シロアが私の前で声を出して話したの!」
「‥‥‥ぁぅ」
マリアの言葉に反応し、シロアが顔を赤く染めて恥ずかしがる。アイトは驚きながら話を聞いていた。
「あ、でも別に無理してしなくていいからね? シロアが声に出して話せると思った時で充分だから。あの時、シロアが割り込んでくれて本当に嬉しかった」
「‥‥‥ゎたしも、とめられて、よかった、です‥‥‥」
「ーーーあ〜もうっ、好きっ!! シロアほんと超可愛い!!」
マリアは息を荒げてシロアに飛びつき、熱く抱擁する。アイトはそれを苦笑しながら見守っていた。
「ね、シロア。やっぱり私の義妹にならない!? シロアなら喜んでアイトとの結婚を認めるわ!!」
「はっ!?」
「‥‥‥っぴ!?」
だが突然のマリアからの爆弾発言により、アイトは動揺で固まってしまう。シロアも素っ頓狂な声を出して顔を真っ赤にしていた。
「あの姉さん、それはさすがに‥‥‥」
「‥‥‥(ぶんぶんぶんぶん!!)」
アイトが気まずそうに呟き、シロアは目を閉じて必死に両手を振りまくっていた。それを見たマリアは少し残念そうに息を吐き、気を取り直して話を変えようとする。
「‥‥‥あのねアイト。少し言いづらい事があるんだけど、あんたの事で今少し揉めててーーー」
「それは私から説明させてもらうわ」
するとこれまで聞かなかった第三者の声が室内に響き渡り、マリアは咄嗟にアイトを隠すように前に立つ。声を出した女性は、少し眉を下げて悲しそうな目をする。
「‥‥‥目が覚めて良かったわ、アイトくん。マリアを始め、皆があなたのことを待っていたのよ」
「エルリカさん」
今もベッドに座るアイトが相手の名前を呼ぶ。エルリカ・アルリフォンは微かに頷くと、少しずつ歩いて近づきながら話し始める。
「あなた自身、なんで今の状況になっているかは分かってると思う。そして‥‥‥ルークのことをどう思っているかを」
「‥‥‥」
エルリカの言葉に対し、アイトは返事を返さなかった。近くに立って見上げてくる彼女に対し、ただ真顔で視線を合わせるのみ。
「いったい何をするつもりですか」
「‥‥‥(ぐっ)」
アイトを守るように、マリアとシロアが側に寄って身構える。だが、次に起こしたエルリカの行動は皆を困惑させることになる。
「ーーー彼に代わって、私が何度でも謝る!! だからおねがい‥‥‥ルークを許してあげて欲しいのっ!」
エルリカは声を振り絞り、アイトの目の前で土下座して謝罪したのだった。




