放課後の茶会 中編
スカーレットは不敵な笑みを浮かべ、空いていた椅子に座っていた。まるで自分も参加者であると見せつけるようでもある。
「姉貴には関係ないんだけど。さっさと自分の部屋に行ったら?」
その行動に対してシスティアが吐き捨てるように呟くと、スカーレットは立ち上がる。一瞬、言うことを聞いたのかと誰もが思い込む。
「もう少し早く来れたら私が淹れたのにな」
だが実際は食器棚から取り出したカップに紅茶を注ぎ、さも当然のように椅子に座り直しただけ。紅茶のカップを口に運んで眉を下げたスカーレットは、いかにも味に満足していなさそうだった。
「さっきカレンとすれ違った。顔を真っ赤にして走り去っていったぞ? 『酷いよティア姉さん〜』って」
「‥‥‥チクリやがったなあいつ。もっと分からせないといけないわね」
システィアが小声で苛つきを口に出す間、スカーレットは問いかける。
「それに私に聞かれたくないと言うのは嘘だな? わざわざ家に友人を呼んで話をしようとしてたんだ。むしろ私にも参加して欲しかったんじゃないのか」
「‥‥‥あ〜はいはい。自意識過剰な傲慢女は放っておいて、さっそく本題について話すわよ」
心底不満そうに発言するシスティアに対し、クラリッサたちは全員こう思っていた。『お前がそれ言う?』と。
「言っとくけどここでの話は他言無用だから」
当然そう思われると知らないシスティアは話を続ける。忠告を踏まえた上で、彼女はついに切り出す。
「アイト・ディスローグは天帝レスタだと思う?」
彼女の問いかけは、沈黙を生む。皆が神妙に視線を下げ、誰も話そうとしない。
「面白そうな議題じゃないか」
‥‥‥スカーレットを除いて。クラリッサたちが困惑で発言できない中、彼女だけが意気揚々と声を出したのだ。
「君たち様子からして、1年の代表選抜試験で何かあったんだな? なぜか関係者以外には情報が降りてこないから気になってたところだ」
スカーレットの言う通り、1年の代表選抜試験の結果や詳細は関係者以外、誰も知らなかった。知っているのは試験を受けた1年生たちとルークやエルリカのみ。実際、マリアはアイトの姉であるため知っているのだが、スカーレット視点だとその事は当然知らない。
そのため、スカーレットは目の前にいる妹と1年生たちから聞きたいことが山ほどあったのだ。
「‥‥‥先に言っとくけど、私たちは試験の終わりに『誰にも話すなって』って口止めされてる」
「へぇ? それは誰から?」
システィアの忠告に、スカーレットは興味深そうに尋ねる。システィアはもはや後の展開は分かりきっていたが、一応応えた。
「ルーク先輩」
「それはますます聞きたくなってきたな」
そして彼女の予想通り、スカーレットはますます乗り気になっている。システィアは呆れてため息を吐いた。妹だからこそ、姉の性格は熟知している。
「‥‥‥絶対に、誰にも言わないでよ」
「ああ」
スカーレットは即答した。もはや知りたくて仕方がないといった様子。システィアはまた呆れて、口止めされていた情報を開示する。
「ルーク先輩がディスローグくんを天帝レスタだと疑って剣で切った。その後、謎の組織『エルジュ』の構成員らしき者に撃ち抜かれて、今も昏睡状態」
「なんだそれは‥‥‥そんなに面白いことが起きていたのかっ」
話を聞いたスカーレットは嬉しそうに笑っていた。その様子を見て割り込んだのは、アヤメだった。
「ーーー何が面白いんですかっ!! アイトくんは重傷を負って傷付いてるんですよ!?」
彼女は年上であるスカーレットに噛み付く。このままでは口喧嘩になりかねない。スカーレットは少し頭を下げて詫びを入れた。
「いや、すまない。言葉が足りなかった。彼が傷付けられた事が面白いんじゃなくて、混乱を極めている状況が起きていたという事実が面白くてな」
「それも、どうかと思いますけど‥‥‥」
彼女の言葉に、アヤメは思うところがあったが責めるほどの理由は無くなった。怒りが抜けた事で伸ばしていた背をゆっくりと戻す。
スカーレットはどこか腑に落ちたようにほくそ笑んでいた。
「後輩くんが医務室で目を覚まさないのは知っていたが、『魔物に襲われたから』だと先生が言っていたからな。まさかそこまで情報操作がされていたとは」
「それほど、今回の一件は知られたくないってことだと思います」
言葉を返したのはジェイクだった。机に両肘を突いて口元で両手を握る。
「正直‥‥‥あの時のルーク王子は恐ろしかったです。いくら叛逆者レスタの可能性があるからと言って、親しい人の弟をあそこまで攻撃するということが」
「それは、私も同感‥‥‥ユリアさんがいなかったら、アイトは間違いなく死んでた」
ここまで黙っていたクラリッサも便乗したことで、議論は白熱していく。
「君たちが話してくれたから私も少し情報を開示しよう。この前あった学園の見学会での話だ」
スカーレットが話し出すと、皆が口を閉じて続きを待ち望んだ。
「騒動の中、私は天帝レスタらしき男と殴り合いをした。正直、痺れたよ。あれほど楽しい時間がすぐに終わってしまって残念だった」
「ただの感想で情報なんか無いし」
システィアが『聞いて損した』と思った瞬間、スカーレットは言う。
「そういえばその男の体格は、彼と同じくらいだった気がするな?」
彼女の言葉は、皆に悟らせるのは充分過ぎた。
「やっぱり‥‥‥ディスローグが、天帝レスタかもしれないな」
「私の言葉取らないでくれる???」
ジェイクが呟いたことに対して、眉を顰めるシスティア。だが、2人の意見は一致している。
「アイトくんが‥‥‥天帝レスタ? そ、そんなわけない‥‥‥だって魔闘祭のこと、思い出してよ!!」
アヤメは声を振り絞って反論を告げる。
「私たち学生が固まってた場所にレスタが現れた時、アイトくんも確かにいたわ!!」
感情論かと思いきや、意外にも説得力のある理由だった。実際、その時は確かにアイトがいた。正確にはアイトに変装していた怪盗ハートゥだったが。
「確かにそうだ。だがこの世界には知り尽くす事ができないほどの魔法が溢れている。誰かと同じ姿になる魔法くらい、あってもおかしくない」
反論を出したのはジェイクだった。少し説得力には欠ける内容だったが、システィアが言葉を付け足す。
「そういえばその少し前、マリアさんが『アイトがいない』って騒いでたわよね? 実際、少し時間が経った後に出て来たけど、逆に言えば空白の時間もあった。その間に何かしていた可能性もあるでしょ?」
「そ、そんなの言いがかりよ! たまたま見失ってただけかもしれないし、根拠しては弱いわ!!」
必死に反論を続けるアヤメに対し、システィアは小さく息を吐く。そこで彼女は少し攻め口を変える事にした。
「だったら逆に、彼がレスタだと思う根拠を挙げていくわ。私にはその情報がある」
システィアはそれが切り札といわんばかりに、堂々とアヤメに言い告げるのだった。




