血溜まりの中
アイト・ディスローグが血溜まりの中で昏倒し、彼を知っている者は冷静ではいられない。
「アイトくんっ!!!!」
「うそ、でしょ‥‥‥?」
「ディスローグ!!?」
「あ、あぁ‥‥‥」
「何よこの状況‥‥‥」
1年生たちはそれそれ声を漏らしてアイトの元へ駆け寄る。エルリカは絶句を続け、ルークですら困惑のあまり声が出ない。
(これが、ミストさんの言ってた合図‥‥‥っ!!)
だがそんな中でただ1人、ユニカ・ラペンシアだけは空白の時間の中でも行動できた。
『ラペンシアとリゼッタには策の内容を話すな。話せば2人は反対するから』
それは、ミストから伝えられた伝言。つまり、アイトの言葉。察しの良いユニカはその答えを知り、怒りのあまり歯を噛み締める。
(ほんっとにバカなんだから‥‥‥!!!)
そして木から降りて着地すると、両手両足から火花のような音を走らせる。教官のラルドから教わっていた、身体能力向上の秘術【血液凝固】。
それを惜しみなく発動させ、目的遂行のため全力で駆ける。
「ーーー誰だっ!!!」
いち早く気配を察したルークが声を荒げるも、ユニカはそれを無視して四角から近づいていく。そして目撃者全員の視界に入る直前で、自身の力を解き放つ。
「【炎に紛れた呪い!!】」
両手から魔力と呪力の融合物、魔呪を放出する。魔力部分が炎属性を浴び、赤く染まって熱を持つ。それを死角からルークへ放った。
ルークが超人的な反応で対処している隙を付き、ユニカは倒れている相手を抱えて、その場を離れる。当然、近くに寄ったため全員に姿を見られていた。
「あの仮面っ‥‥‥!!?」
「まさかレスタ!!?」
そう、今のユニカは以前アイトから取ったヒビ入りの仮面を付けていた。そして染色魔法を解いた黒い髪に特殊戦闘服。学園での彼女とは似ても似つかない。 ユニカは一目散にその場を離れようと、駆け抜けて行く。
「ーーーさすがに逃がせないな」
だが先回りしていたルークと対峙する。ユニカは1人抱えていているため速度が落ち、追いつかれたのだ。つまり戦える状態でもない。人を抱えた状態で格上のルークと戦うなど、自殺行為である。
「まさかその子だけ助けようとするとは思わなかったよ。彼はいいのかい?」
ルークの言う通り、ユニカが抱えているのはカンナのみ。アイトは今も血溜まりの中で倒れている。
「‥‥‥は? なんで知らない学生を助ける必要があるの? せっかくあなたを暗殺できると思ったのに」
ここでユニカは息をするように嘘を付いた。それがアイトの願いだと理解していたからだ。誰もが聞いても冷たく感じるような口調ではっきりと言い捨てる。
それにはさすがのルークも、思わず困惑した。
「ふっ、大した名演技だね。詳しい話は捕まえてからじっくり聞くとすーーーっ!!?」
突然、ルークが少し仰け反る。銃声が響くと共に跳んできた銃弾が、彼の頬を掠めたのだ。ルークは少し嫌そうに眉を顰める。ユニカは意地悪い笑みを浮かべ、完全に悪人面をした。
「動くと学生の頭が撃ち抜かれるわよ? それでも良いなら追いかけてきてもいいわよ。あ、学園の後輩を傷付けることなんて別に気にしないものね?」
「っ‥‥‥」
「邪魔するなら、まずはあなたの妹さんから撃ち抜いて貰おうかしら?」
ユニカは淡々と言い捨てると、カンナを抱えたままその場を離れて行く。ルークは‥‥‥ついて行かなかった。
「‥‥‥みんな、今はしゃがんで遮蔽物に隠れてくれ!! 相手の銃の腕前は相当なものだ、迂闊に立っていれば撃ち抜かれる!!」
ルークは悔しさを押し殺しつつ、エルリカと1年生へ話しかける。
「‥‥‥‥‥‥了解。みんな、今はとにかく危険だから狙撃されないようにしゃがんで!!」
聞きたいことは山ほどあったが、エルリカは1年生たちの安全を最優先した。ルークの指示に従い、自分も声に出して促す。
「しっかりしろディスローグ!!」
「あんたが簡単に死ぬわけないわよねっ!?」
そしてアイトは‥‥‥ジェイクとクラリッサにより木の裏にまで運ばれていた。その後はシスティアが周囲の状況を注意して眺めつつ、ユリアが治癒魔法の詠唱を始める。
「ユリア王女っ、私がなんでもするので彼を治してください‥‥‥どうか、おねがいしますっ!!」
「わざわざ頼まれるまでもありません。私の全力を持ってアイトくんは‥‥‥必ず助けます」
泣きじゃくるアヤメにそう返事したユリアは、1秒も集中を欠くことなく治癒魔法を続ける。
(絶対に死なせません‥‥‥絶対にっ!!)
その後、アイトの治癒と周囲の安全を兼ねて最後の銃声から約1時間、ルークたちは隠れつづけた。
「アイトくん‥‥‥早く、目を覚まして‥‥‥」
ユリアは血塗れのアイトの手を握り、治癒魔法が全て終わった後も祈り続ける。するとエルリカがおずおずとルークに話しかける。
「ルーク‥‥‥さっきのは、いったい」
「話すと長くなるから、後でいいかな。当然、マリアも含めてね」
「‥‥‥わかったわ」
エルリカは、即答されたルークの提案を受け入れた。それは、彼女自身も考える事が山ほどあるからだ。
こうして、1年の代表候補選抜試験は中止という形で幕を閉じる。




