王女が、2人もいる‥‥‥
「あ、あれっ‥‥‥?」
目を覚ましたアイトは、学園の医務室にいた。割と本格的に意識を失っていたのだ。
「しかもいないし‥‥‥通り魔かよ」
そして、マリアはもういなかった。その後アイトは渋々、寮の自室へ帰宅した。
(いきなり殴られたから、理由がわからない‥‥‥)
アイトはなんで殴られたのか、全く理解していなかったのである。
翌日。
(今度こそ平穏な学園生活を送るんだ!)
朝早くに起きて制服に着替え、寮で朝食を食べて外に出る。
「‥‥‥‥‥‥(ジロ)」
学園付近を歩いていると、門の付近で仁王立ちしている自分と同じ黒髪黒目の女の子が。
「げっ」
アイトは昨日のことを思い出し、しゃがみ歩きで穏便に通り過ぎようとする。
「ーーーお姉ちゃんが待ってるのに無視すんな!!!」
「グェッッ」
だが首根っこを勢いよく掴まれ、アイトは呻き声を出しながら引き戻される。
「え? 俺を待ってたの?」
「そうに決まってるでしょ!! お姉ちゃんが守ってあげるって約束忘れたの!?」
「‥‥‥?」
本気で思い出せないアイト。
しかも昨日自分を倒した張本人に言われても、違和感しかない。そして、周りの視線が痛い。
「ほらっ、教室まで送ってあげるから! 1年Dクラスよね!」
「はい、そうです‥‥‥」
もはや、なんで自分のクラスを知ってるか。もう聞く気力すら湧かないアイトだった。
「着いた! それじゃアイト、また後でね!」
「は〜い‥‥‥はぁ」
マリアが教室前から去っていった。アイトはすでに目立ちまくったおかげで気が萎えている。
そして、クラスメイトと話をする事も無かった。
魔法や歴史学の授業などが終わって、正午。
「ーーーアイト、来たわよ!」
「な、なに?」
当然のようにマリアが姿を現す。
「私の友達が、あんたと話してみたいって! しかも向こうの妹がね、あんたと同じ新入生らしいわよ!」
「いや、そんなことどうでもーーー」
「早く行くわよ!!」
「話聞いてっ!?」
姉に腕を力強く掴まれ、泣く泣く引っ張られていくアイトだった。
食堂。アイトたち4人は目立ちまくっていた。
「あ、アイト・ディスローグです。1年Dクラスです。よ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いしますね。では次は私が」
目立つのは仕方なかった。
(グロッサ王国の王女が、2人もいる‥‥‥)
そして、アイトは戦々恐々としていた。
「ステラ・グロッサ。3年Aクラスです。マリア先輩には、いつもお世話になっています」
「ふふん、そんなことないでしょっ」
笑顔で振り下ろされたマリアの手を、ステラが華麗に躱して優しく微笑む。
「あなたの事はよく聞いていたので、ぜひお話ししてみたかったの。よろしくお願いしますね♪」
「は、はい。よろしくお願いします」
アイトはとりあえず返事するだけで精一杯。
ステラ・グロッサ。グロッサ王国の第一王女。
水色の綺麗な髪を背中あたりまで伸ばし、綺麗な水色の目をした超絶美人。平穏を望むアイトにとって、間違いなく関わりたくない相手の1人である。
「ごめんなさいね。兄さんは今日任務に出ているの。ぜひお会いしてもらいたかったのだけど」
ステラが申し訳なさそうに言う。
「いやお気遣いなく」
アイトは苦笑いを浮かべて手を振る。ちなみに、彼の本心はこうである。
(聖騎士の魔眼持ちの王子に会ったら、もうっ‥‥‥終わりだ!!)
血の涙を流しそうなほどの、感情の濁流。
「ルーク先輩は今、単独任務だから仕方ないわね。隊員の私も出番無しだし。先輩、ちゃんと休めてるかしら」
「ーーーへ?」
すると、マリアから穏やかじゃない発言が飛び出た。アイトは思わず、机を叩いて見つめてしまう。
「ちょっと待って?? 姉さんが隊員?」
「‥‥‥あんた知らなかったのね? 私が『ルーライト』に所属してるってこと!」
「‥‥‥ルーライト??」
素直に聞き返すと、マリアが呆れた様子を見せる。
「あんた‥‥‥そんなことも知らないの? 『ルーライト』はね、ルーク先輩が隊長を務めてる、王国内の実力者で構成される精鋭部隊よ」
「‥‥‥うぇ???」
アイトは全く知らなかった。いや、部隊の事は知っていた。
知らなかったのは、姉のマリアが王子の精鋭部隊に所属していることである。
(もしかしてすごいことでは??)
「今はそんなことよりステラ、あんたの妹ちゃん紹介して!」
アイトがもっと聞こうとしていた矢先、話をぶった斬るマリアである。
「ほらユリアちゃん、ご挨拶」
ステラの隣に座る銀髪少女が、意を決した様子で口を開く。
「は、はい! ユリア・グロッサです! 1年Aクラスです、よろしくお願いします!」
(いや新入生代表してたから知ってるよっ?)
ユリア・グロッサ。グロッサ王国の第二王女。
銀髪ロングで綺麗な青い瞳。そして今年の新入生代表。とにかく同級生の中で、アイトが1番に関わりたくない相手。
「ユリアちゃん、新入生代表だって? さすがステラの妹ね」
「!?」
ステラ王女のことを呼び捨てにする姉のマリア。
それにアイトが戦慄する間にも、3人の会話は続く。
「それは試験は魔法が重視されてたからです。わたし、すっごく運動苦手なんです!」
「そんな謙遜しなくてもいいわ。アイト、あんたも私の弟なんだから負けてられないわよ!」
「マリア先輩からは魔法の扱いがお上手だと話は聞いています。ぜひ機会があれば見せて欲しいです。アイトくん、これからユリアと仲良くしてあげてね?」
「は、はあ」
かろうじて返事をするアイトだが、内心は穏やかではない。
(え‥‥‥もしかして魔法のことバレてる? いつ見られた? まさか姉さんって勇者の魔眼持ちか?)
そんな疑いを抱く間にも、ユリアに話しかけられる。
「あ、アイトさん。よろしくお願いします」
「は、はい。お願いしますユリア様」
「様はやめてほしいです、同い年ですし、これから仲良くしたいですから」
アイトの頭は既に情報過多で限界を超えている。
「わ、わかりましたユリアさん」
「ありがとうございます! 姉さん、初めて友達ができました!」
「よかったわね、ユリアちゃん。マリア先輩に頼んで正解だったわ♪」
(俺のここに呼んだのは、あんたの策略か)
逆らえないアイトは、心の中でしか姉に悪態をつけない。姉弟という関係が身に染みている。
「あんたたち緊張しすぎよ。とりあえず好きな異性の好みでも話したら?」
(鬼か!!? いやもともと鬼だったわ!!)
これ以上居続けると本音が口から出てしまうと察し、アイトは咳払いをしながら落ち着こうとする。
「あ、そろそろ昼休み終わるから。俺は戻るよ」
そして、急いでこの場から離れようと立ち上がった。
「あ、あの! 次の授業って何ですか?」
だがユリアに話しかけられ、無視して去るわけにもいかなくなる。
「え、え〜と、王国史ですね」
「わたしも一緒です! A、Dクラスの合同授業、わたしも一緒に行っていいですか!」
合同授業。他のクラスと友好関係を築いたり、また切磋琢磨するために行っている授業。
(まさか次の授業が被っているだなんて! ど、どうする‥‥‥断ったら俺が嫌がってるみたいじゃん!)
実際に嫌がってるのだから、当然である。
(しかもステラ王女が笑顔で見てくるし!)
第一王女の眼差しを浴びて‥‥‥アイトは、顔を下げて息を吐く。
(こんなん、逃げ道ないでしょ‥‥‥)
そして、精一杯笑顔を作りながら、ユリアへ優しく話しかける。
「い、行きましょうカ。ユリアサン」
「!! はいっ!」
まるで花が咲いたような笑顔を見せるユリア。
こんな笑顔見せられたら、アイトにはもう断れなかった。
(俺の学園生活、平穏とはかけ離れてる‥‥‥)
エルジュ代表『天帝』レスタ。今は翻弄され続け、全く良いとこなしである。
「よろしくおねがいしますね!」
「あ、ハイ」
結局、次の授業はユリアの隣で受けることになり、周囲の視線の嵐に全身を晒されることになった。
「‥‥‥‥‥‥」
アイトの学園生活、既に平穏とは無縁である。




