初の完全敗北
「レスタ様、いつでも来てくださいね」
「レスタくんじゃあね〜!!」
「お兄ちゃん泊まっていってよ〜」
「また、来て」
「うん、また来るよ。任務がんばってね」
聞きたいことを全て聞いたアイトは、店舗『マーズメルティ』の裏口から静かに出て行った。
男子禁制の店から正面から堂々と外に出ると間違いなく目立つ。
ここに来る機会がありませんようにと願いながら去っていくアイト。
彼はすぐに学生寮に戻る。
明日はいよいよ王立学園の入学式のため、アイトは早いうちに眠った。重大なことを忘れている事にも気づかず。
4月の初め。ついに入学式が始まる。
アイトは学生寮から出て、学園内に入り掲示板に載っているクラス表を見に行く。
1年生のクラスは8クラス。AからHクラスまであり、成績順でクラスが決まる。Aが最高ランクというわけだ。
アイトは平穏な生活を所望しているのでまず目立ちたくないと考えているが、悪い成績を取って両親に心配はかけたくない。
だから真ん中付近の成績を収めようとアイトは思った。でも入学前にあったクラス分け試験の平均値が全くわからないため全体の半分くらいの点数になるように調整した。
そして魔法実技では他の人の魔法を見て考慮しながら挑んだ。
クラス分けを見るとDクラス。アイトはEクラスを狙っていたが仕方ないと感じた。間違えてAやBに入っていないだけまだ大丈夫だ。
アイトはDクラスの教室に入り、指定されていた席へ座る。
その後Dクラス担当の先生が色々説明し、講堂に移動して入学式があった。
入学式の新入生代表は銀髪の女の子。
(へ〜、王女か。俺には関係ないんだけど)
次に生徒会長の挨拶。出てきたのは金髪で黄色の目をした超絶美男子。
「生徒会長のルーク・グロッサです。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
(うげっ‥‥‥あの人がこの国の王子)
アイトは思わず顔をしかめた。グロッサ王国の中で1番関わりたくない人物だったからだ。
ルーク・グロッサ。
グロッサ王国の国王ダニエル・グロッサの息子で、第一王子にあたる。
つまり最有力の国王候補になる。国王の男系の子供はルークしかいない。
でもアイトがルークをそれだけで毛嫌いしてるわけではない。毛嫌いしてる理由はルーク本人にある。
ルークは、聖騎士の聖痕を宿した魔眼持ち。聖騎士の末裔だった。これはグロッサ王国領内に住んでる人は誰でも知っていること。
20歳の身ですでにグロッサ王国内で最強と言われている。体術や武術、魔法など全て完璧。非の打ち所がない。
今は彼自身が選出した精鋭部隊を率いている。身分は関係なく実力で決めていると話題になっている。
絶対に関わりませんようにと祈り続けていたアイトは会長の挨拶を全く聞いていなかった。こうして学園の初日が終了。
アイトがまっすぐ学生寮に帰宅中の時。
「アイト!!!」
後ろから声が聞こえたので振り向くと。
「あ、姉さん! 久しぶり!」
姉であるマリア・ディスローグがいた。
3年ぶりにあった姉は背がかなり伸びており、18歳の女子にしては高い方だとアイトは思った。
自分と同じ黒髪黒目も変わってない。それにおそらく前よりも美人になってる、気がしていた。
姉が自分の方に走ってきたので、アイトはそれを待っているとーーー。
「ヴォェッッ」
突然、鉄拳が振り下ろされた。
「この3年間‥‥‥なんで家に手紙送ってるのに1通も返してこないの!?普通返すのが礼儀でしょ!?」
マリアは、勢いよく叫ぶ。
「アリサと仲良くやってたんだ!?こっちは忙しくて全然帰れなくて、寂しかったのに!!」
マリアの言葉は、まだまだ続く。
「なんでよ!! お姉ちゃんのこと嫌いなの!?2人ともお姉ちゃんのこと嫌いになったの!?ねえ答えてよっ、答えなさいアイトぉ!!」
マリアの説教は、アイトの耳に全く届いていなかった。
マリアの一撃は凄まじく、前よりも確実に強くなっていた。そして弟であるアイトは、まさかいきなり攻撃してくると思っていなかった。
アイトはマリアの一撃で意識を刈り取られ、白目を剥いて昏倒している。
学生寮付近でこの騒動、もちろん目立ちまくってしまったアイト。しかも姉のマリアが王立学園で有名人であることから余計に目立った。
早くも平穏な生活が脅かされそうになった。
アイトが忘れていた重要なこと‥‥‥それは気の強い姉をずっと放置していたことだった。
エルジュ代表『天帝』レスタ、初の完全敗北。




