『黄昏』の実力、後編
「うらぁぁぁぁぁ!!!!!!」
筋肉隆々のカイルは、自分の何倍も大きいトロールを殴り飛ばす。
「へっ!!! 【血液凝固】を使うまでもねえ」
カイルの持ち味は、竜人族特有の類稀なる身体能力と馬鹿力。そして、彼自身が恵まれた肉体。
また、ラルドから教わった【血液凝固】に高い適性を持っていた。
「男なら堂々と戦えッ!!」
カイルは魔法を全く使えない。それはミアと同じだが、理由が違う。
カイルは自分の体で生成した魔力が自動で全身に流れ込んでしまう特異体質。そのため魔力は全身に流れているが出力ができず、魔法を全く使えない。
だがその特異体質で、髪の毛や肌、内臓に至る全てが‥‥‥魔力で覆われ続けている。
そのため、あらゆる魔法への耐性が高い。
「うらァァッ!!!」
そして鍛え上げた肉体を活かして敵をぶん殴る。それだけで、カイルは序列5位になった。
「おらぁぁぁ!!!! もっと来いやぁぁぁ!!」
彼の周辺にいたトロールは、とっくに絶命していた。
◆◇◆◇
「うわこっち来た。めんどくさー」
目を擦るアクアは、接近してくる大量のガーゴイルを見据える。
「よいしょー」
そして‥‥‥彼女は水の槍を無数に飛ばした。ガーゴイルは、水の槍に抉られる。
「ちょっと疲れたー」
アクアは水に愛された女。
彼女は水魔法を極めており、また自然にある水を自由自在に操ることができる。
「眠い〜」
武術や座学は目を当てられないほど苦手だが、それがどうでもよくなるほどの水の使い手だった。
攻撃にも防御にも自由自在に使える、水の汎用性の高さ。結果、彼女は序列4位に選ばれた。
「はあ、疲れた。ミストどこ〜?」
大量のガーゴイルの死骸には目もくれず、アクアは彷徨うように歩き出した。
◆◇◆◇
「う〜ん。全然良い技ないなあ」
大量のオーガの攻撃を避けながら、カンナはそんな事を考えていた。
「まあ、もういっかっ!」
カンナは左手で輪っかを作り、その穴に右手を通す。そして攻撃をスライディングで避けながら、オーガの股下へ。
「【打ち上げ花火】!!」
打ち上がる花火がオーガを巻き込み、共に上空に吹き飛んでいく。そして、爆発と共に爆ぜた。
「あ、やっば!! 目立つのダメなんだった!」
カンナは少し反省しながら周りを見渡す。
「あり??????」
さっきのオーガの悲惨な最期を見た魔物が恐怖し、カンナの周りからいなくなっていたのだ。
「え〜!1匹しか倒してないよ〜!!これ、怒られちゃうじゃん!!」
カンナは‥‥‥相手の技を模倣することができる。それを可能にしているのは、彼女の両眼。
『無色眼』。魔眼とは、また別の特異体質である。
色が無いその目は見た物を鮮明に記憶し、視神経から脳にその光景が送り出される。
そして、見た物の再現が可能になる。
それは魔法も同じで、カンナ自身が原理や構成が全くわかってない魔法でも模倣することが可能。しかも無色眼の特性のため魔力は全く消費しない。
なぜ魔法まで模倣できるのかは全く不明である。
【魔眼】は聖者の血による遺伝で現れることがあるが、【無色眼】は遺伝でない。
完全に突然変異でしか現れない代物。またその理由も不明。
「ふうっ、こんなものかな」
そして、無色眼を持つ者は限りなく少ない。魔眼と同じ価値を持つとさえ言われている。
その希少価値の高さ。まるで神から与えられたような能力。
眼を持つ者は、宗教団体や謎を解き明かしたい者たちから執拗に狙われ続ける。
「早くみんなの加勢に行かないと!」
そう言ったカンナの瞳に少しだけ澱みが生まれる。そしてその直後。
「ーーーうっ!? はあっ、はあっ‥‥‥!!」
カンナが苦しみ出した。両手で体を抱きしめ、膝をついて息を乱す。
「やっぱ、レスタくんの魔法は‥‥‥」
それは、レスタの魔法を模倣したから。
模倣を使うと瞳が淀んでいき、視界が狭くなっていく。模倣を多用すると、代償として瞳が全て淀んでしまう。
「まだ、視界は開けてる‥‥‥」
そして、しばらく目が見えなくなってしまうのだ。
また、カンナ自身に合っていない動きや技、魔法を模倣すると後で拒絶反応が出る。体に大きな負担がかかるのだ。
カンナの身体に合っていない技や魔法、動きの度合いが大きいほど‥‥‥後の負荷は大きくなる。
「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥」
だが模倣という反則に近い能力、そして一芸に突出はしてないが総合力が高いことから、彼女は序列3位に。
「はあっ、はあっ‥‥‥すっごい疲れたっ! レスタくんってやっぱりすごいやっ!」
カンナは笑顔で、その場に座り込むのだった。
◆◇◆◇
多くの多種族の魔物たちから、鮮血が飛び散る。
「ーーー」
未だに魔物たちは、近くにいる1人の少女を認知できていない。一方的に殺され続けている状況だ。
魔物たちは恐怖を感じる間もなく、次々と絶命していた。
「‥‥‥ふぅ」
周辺の魔物が全て死んだところで、黒髪ショートの少女が黒いローブを風で揺らしながら姿を現した。
「なんでボクが、レスタの下につかなきゃいけないんだ。まったく」
ターナは新組織『エルジュ』に加入してからも、着々と実力を伸ばし続けた。それは元同僚のミストを凌ぐほどに。
ターナの持ち味は、暗殺技術と隠密性。敵に姿を見せることなく、暗殺することが誰よりも得意。また、短剣や暗器などの技術も突出している。
「こんな雑魚は造作も無いな」
正面戦闘は黄昏の中で得意な方ではないが、彼女の突出した持ち味が高く評価され序列2位に。
だが、『天帝』レスタことアイトを‥‥‥今でも全然認めていなかった。
「お気に入りのだったのに‥‥‥レスタとエリスの馬鹿っ」
それに1年半前の、『ルーンアサイド』の騒動。
その時、アイトとエリスに貸した愛用の短剣‥‥‥それがボロボロになって、返ってきたことをまだ許していなかった。
「ったく、なんでボクがこんなこと‥‥‥」
もちろん張本人の2人はすっかり忘れている。
◆◇◆◇
「もう終わりですか? 拍子抜けですね」
金髪ハーフエルフの魔眼持ち美少女は、歩きながら大量の魔物を一撃で仕留め続けた。
1年半の間に新調した、愛用の長剣を振り下ろしながら。
「ーーー遅い」
大勢に囲まれても、一撃も攻撃をくらわない。
全く物怖じしない胆力。そしてそれを実行し得る実力。まさしく勇者の末裔として成長していた。
エリスは1年半で、ラルドの訓練の他にも新組織『エルジュ』拡大のため‥‥‥多くの任務をこなして来た。
序列7位のオリバーは彼女の事を尊敬し、エルジュに加入した1人である。勇者として、カリスマ性も磨かれていたのだ。
「呆気ない」
そして、幾度の戦闘経験を重ねて自分を鍛え続けた。そしてエリスは魔眼の力を前よりも開花させた。相手の動作の先読みができるようになる。
【剣戟】。
相手の動きを先読みして、流暢な動きで圧倒する。まさにその名前にふさわしい圧倒的な彼女の剣技。
「他愛もないですね」
エリスは全ての項目においての圧倒的実力。魔眼の数多くの特性により、他の訓練生を全く寄せ付けなかった。
魔眼のことはアイトとラルドと黄昏以外には隠している。だがそれでも彼女が序列1位になると誰もがわかっていた。
短剣の件で恨んでる元暗殺者や脳筋、アイトに長年仕えていたことに嫉妬している少女という例外を除いて。
エリスの周辺の魔物は、戦意を喪失する。
「逃しません」
エリスは両目を元の赤色よりもさらに濃い真紅に輝かせる。すると一瞬だけ、両目の瞳に勇者の聖痕が明滅する。
「ッ!!!」
エリスから突風が発生し、魔物たちを通過した。
「ガ、ァ‥‥‥」
周囲の魔物は外傷が全く無いにも関わらず‥‥‥生命活動を終えた。
「‥‥‥ふぅ」
これが1年半で身につけた魔眼の力で、最も強力な大技‥‥‥【魔戒】。
魔眼に集めた魔力が勇者の聖痕に反応し、空気圧を生み出す。それには勇者の聖痕に記憶された、エリス自身の強さが反映されている。
エリスに実力で全く及ばない者たちは、その凄まじい魔力を帯びた風気圧を肌で感じとってしまう。
そして細胞一つ一つが絶対に勝てないと悟り、その信号が脳に直接作用する。
そして何億、何兆も存在するといわれる細胞がそれぞれ異常信号を脳に伝達することで、脳がその処理に耐えきれず停止する。
これは勇者の魔眼を持つエリスにしかできないことだった。
「やっぱり、まだ慣れてないですね」
この技は強力だが実力が近しい、もしくはエリスより強い者には全く効かない。そして、その判断が難しい。
また、凄まじい魔力を消費する。魔力全快状態のエリスでも、2回しか使うことができない。
「とりあえず、魔物は終わりですね」
しかし格の違いをこれ以上ないほど見せつけたエリスである。
◆◇◆◇
「‥‥‥‥‥‥」
アイトは聖銀の剣を、魔物で試し切りしながら『黄昏』の戦闘を眺めていた。
(この10人‥‥‥やばすぎる)
アイトは理解した。エリスたちの実力を。
(ラルド‥‥‥お前ちょっと本気でエリスたちを鍛えすぎたって)
アイトは現実逃避した。彼女たちの、あまりの強さに。
(‥‥‥俺が、そんなすごい人たちの代表??)
そして、アイトは絶句していた。




