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呼び出された理由、もう1人を添えて。

 マリアに連行されたアイトとユニカは、足を止めた場所で思わず声を漏らしていた。


 「ここって‥‥‥」


 「生徒会室、ですか?」


 「そうよ。さ、2人とも入って」


 マリアは微笑みながら扉を開けて2人に入るよう促す。ユニカはともかくアイトは逆らえない(姉が怖い)ため、恐る恐る中へと入っていく。



 当然、室内には生徒会に関係のある人が集まっています。


 「ごめんね2人とも、急に呼び出したりして」



 真っ先に口を開いたのは、学園の生徒会長であるルーク・グロッサ。



 アイトとユニカはどちらからともなく軽く頭を下げる。


 「とりあえず座ってよ」


 ルークの言葉に甘え、2人は用意された椅子に腰を下ろす。


 マリアが扉を閉めて何かの準備を進めている間に、アイトは生徒会役員を横目で確認していた。


 その中には当然顔見知りである、副会長のスカーレット・ソードディアスがいた。


 だが招かれたアイトたちと同様に、生徒会に関係ない者がいた。それはアイト自身も知っている、同級生。


 「え、なんでシスティアさんがここに?」


 アイトは思わず、その驚きを声で表現していた。するとアイトは相手に睨まれる。


 「こっちのセリフよ。なんでお前がいるの?

  それにお前の隣は誰か知らないし、いったいなに?」


 システィアは明らかに不機嫌な様子だった。やがて彼女はため息をついて、アイトではない別人を睨みつける。


 「あそこにいる形だけ副会長が私の教室まで来て

  無理やり連れてこられたの。本当、いい迷惑よ」


 システィアの視線は、彼女の姉であるスカーレットに向けられていた。


 すると不機嫌そうなシスティアを自分と同じ境遇と捉えたのか、アイトは反射的に声を出していた。



 「俺と同じだ! お互い、強かな姉を持つとーーー」


 「ーーー持つと? 私がいるとどうなのかしら?

  続きを、お姉ちゃんに教えてもらえる?」


 だが気づけば背後に立って微笑むマリアに肩を触られる。そして、彼女の手からは少量の雷が伝わっていた。



 「ーーーも、持つとこっちも負けないように

  がんばろうって気持ちになるよな

  システィアさん!! ねぇシスティアさん!?」


 「うっさい」


 危機を察知したアイトは一瞬で濁し、会話を終わらせた。システィアもぶっきらぼうに言葉を返す。


 そしてマリアは『次はないわよ?』と言わんばかりに肩を撫でると、静かに作業へ戻っていく。



 (ローグくんって‥‥‥けっこう苦労人なのね)


 そして一部始終を見ていたユニカは、まるで傍観者気分で同情し始める。


 するとこの空気感に耐えられなかったのか、システィアは椅子から立ち上がる勢いで前のめりに声を出した。


 「あの!! 私に用ってなんですか生徒会長!」


 「システィア、王子であるルーク先輩に失礼だぞ?」


 「姉貴は黙ってろ!!」


 スカーレットの忠告に言い返すシスティア。そんな緊張した空気の中で、ルークは話し始めた。


 「ごめんね、もうすぐ準備が終わるから。

  マリア、そろそろ準備はできたかい?」


 「はいっ。大丈夫です」


 マリアは意気揚々と返事をした。そしてアイト、ユニカ、システィアに資料を配り、ルークの近くの椅子に座る。


 アイトたちは配られた資料の表紙を見ると、首を傾げていた。



    「『グロッサ王立学園 見学会』‥‥‥?」



 その中で声を漏らしたのは、編入したばかりのユニカ。


 その反応が合図となったのか、ルークは満を辞して話し始めた。



 「君たちに渡した資料に書いてある通り、

  もう少しで来年の新入生のために行われる

  恒例の見学会があるんだ」


 「え、そんなのあるんですか?」


 するとアイトは話の腰を折りかねない発言をかます。それを見た姉のマリアは額に手を置いて「あんたねぇ‥‥‥」と呆れていた。


 「マリアに聞いてたけど、君は去年あった見学会に

  参加してなかったんだよね。それなら知らなくても

  仕方ないよ。希望者しか参加しないからね」


 ルークが優しくフォローすると頭を下げていたのはアイト本人ではなくマリアだった。


 「あ、わかりました」


 そしてアイト本人は単純な返事をする始末。そんなディスローグ姉弟の反応を見たルークは笑いながら話を進める。


 「それで今年も見学会を実施する。

  来年の新入生を獲得する宣伝としては

  最も分かりやすく、重要なんだ」


 「あの? そろそろ要件を話してもらえませんか?」


 次に話の腰を折ったのは不機嫌そうなシスティア。彼女の全く臆さない態度にルークは小さく息を吐きながら、視線を合わせた。


 「君たちに、見学者の案内係をしてもらいたい」


 「‥‥‥はい?」


 「は?」


 アイトとシスティアは、どちらも呆気に取られた反応を見せる。そんな2人に、ルークは理由を話し始めた。


 「マリアとスカーレットに聞いたんだけど

  アイトくんの妹さんとシスティアさんの弟くん。

  どうやら来年、新入生になるそうだね。

  だったら、君たちに案内係をさせては

  どうかと君たちの姉から打診があったんだ」


 アイトとシスティアは少し目を見開いた後、それぞれの姉へ目線を向ける。嘆きや恨みを込めて。



 (ドヤッ!)


 「フッ‥‥‥」



 片方の姉は自信ありげにニッコリと笑い、もう片方の姉はニヤリと口角を上げていた。


 (なんてことしてくれたんだ‥‥‥)


 (ふざけんじゃないわよクソ自己中‥‥‥)


 当然、アイトとシスティアの内心など各々の姉が気づくわけもなく。


 そして、ルークは苦笑いを浮かべながら話を続ける。


 「案内係が見学希望者の身内だと、

  他の人も話しやすいと思うんだ。

  それに君たちとは歳が1つしか変わらないから、

  見学者の緊張も少なくなると思う」


 「え、でもーーー」


 「待ってディスローグくん」


 アイトは反論を述べようとしたが、隣にいたシスティアによって阻まれる。


 発言を止めたシスティアは、どこか図ったような表情で口を開いた。


 「‥‥‥それなら、私からも1つ提案があります。

  ただ見学者を案内するだけなんて、つまらない。

  だから、見学案内を全て済ませた後にーーー」


 システィアは一度言葉を切ると、隣を指差した。



 「私とディスローグくんの一騎討ちを見学者に

  見せるというのはどうでしょう?」



 「‥‥‥はあ!?」


 驚きの声を上げたのは当然、名指しをされた主人公。何の意味もなく突然巻き込まれたら、驚くのも無理はない。


 だが、周囲の反応は意外と悪くなかった。



 「‥‥‥なるほど、ただ学園内を案内するだけでは

  少し面白みに欠ける。そういった意味では、

  案内係の君たちの試合を見せるのは良い刺激になる」


 ルークは顎に手を当てながら、僅かに賛同の意見を述べる。


 「賛成っ、大賛成!!」


 そして立ち上がりそうな勢いで声を出して賛同したのは、マリアである。


 その他の役員の反応も悪くない。ただ、1人を除いて。



 「‥‥‥私は少し賛同しかねるな」



 それは副会長のスカーレット。彼女が腕を組みながら呟いた反対の言葉に、突っかかったのはマリアだった。


 「ど、どうしてよ!?」


 「この際だからハッキリ言うが、

  私と君は目立つ傾向にある。

  『ルーライト』に所属する君の弟、

  生徒会副会長である私の妹も同様にな」


 (いや、先輩が目立ってるのは

  もっと違う理由でしょ、自覚無しかよ‥‥‥)


 アイトは呆れるが、話を折るわけにもいかないため何も言わない。


 「そしてシスティアと後輩くんは間違いなく

  『同盟国交流戦』での1年生選抜候補。

  学年はおろか、全学年が注目している」


 (え、そうなの!?)


 当事者のアイトが驚く間にも、スカーレットの話は続く。


 「もしこの2人が試合なんかすれば、

  間違いなく交流戦に対する評価の査定になる。

  それは贔屓と思われるかもしれない。

  『ルーライト』隊員である君と、

  仮にも副会長である私の身内贔屓とな」


 「‥‥‥!」


 マリアは何も言い返せない。しばらく生徒会室は沈黙に包まれる。



 (す、スカーレット先輩‥‥‥!!!)


 この時、アイトは反対の意見を述べたスカーレットが救世主に見えていた。助け舟を出してくれた彼女に感謝を仰ぐ。


 そんな彼の隣では、不機嫌そうに目を細めたシスティアが姉のことを鋭く睨みつける。


 スカーレットは妹の視線に気づいていた。そして、妹の考えさえもーーー。



   『アイト・ディスローグと戦う機会が欲しい』



 これがシスティアの本音だった。聞こえのいい言葉や理由を並べたが、それはただ本音を誤魔化すための嘘。



 そしてそれは、姉のスカーレットも同じだった。


 (後輩くんのことを、広く知られるのはもったいない。

  マリアですら気づいていない事なんだ。

  知っているのは、私や妹を始めとする少数でいい)


 今と変わらず彼の秘密を独占したいという気持ちから、ただ反対の意見を述べただけ。


 当然、スカーレットの真意は他の人に分かるわけもなく。



 「‥‥‥そうだね。とりあえず試合のことは保留にして、

  案内だけでも考えてくれないかな?

  すぐに決断しなくていいから、返事を待ってるよ」


 会長であるルークの決定に、試合の件には待ったをかける結果となった。それに対してマリアを始めとする他の人は何も言えない。



 「あ、あの〜‥‥‥発言してもいいですか。

  私って何で呼び出されたのでしょうか?」


 ただ、未だに呼ばれた理由を説明されていないユニカを除いて。


 彼女の質問にルークは「あ、そうだったね」と忘れていたような発言をした後、簡潔に説明した。


 「君は最近、編入したばかりで学園のことを

  あまり詳しく知らないよね?

  だから君も見学会に参加してもらおうと思ってね」


 「‥‥‥あ〜、そういうことですね」


 ユニカは理解を示す返事をしたが、内心ではこう思っていた。


      (‥‥‥これ、私が戦犯になるわね)



 そんな彼女の思いも知らず、発言したのはマリアだった。



 「アイト! この子と同じクラスなんだから

  案内係になってあげなさいよ!

  あんたがいればアリサのことも任せられるし!」


 そしてユニカの予想通り(?)、アイトが案内係に推される大義名分ができてしまう。


 「‥‥‥(おい、巻き込まれたんだが?)」


 (し、仕方ないでしょ‥‥‥!?)


 この展開は仕方のないことだが、アイトは恨めしく視線を送っていた相手はもちろん、苦笑いを浮かべる編入生である。



 「‥‥‥まあ試合は嫌ですけど、案内くらいなら。

  それがアリサのためにもなるなら、やります」



 結局、アイトは了承する選択肢しか無いのだった。



 その後、なぜかシスティアも「弟のためなら」と案内係を引き受けることになる。


 そんな彼女の視線はアイトへと突き刺さっていたが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「はぁ、なんで私が見学会に参加できないの!」


 「いや、4年生がいたら見学者が緊張するでしょ」


 「ルーク先輩と同じこと言わないのっ。

  あんた、ちょっと先輩に似てきたわね?

  あの人みたいになっちゃ、絶対ダメだからね!」


 「ええ‥‥‥?」


 生徒会室を出た後、アイトは姉のマリアに引っ張られ(連行され)、4年生の廊下を歩いていた。


 そして今、マリアの忠告に戸惑っている最中である。


 「‥‥‥アイト、ありがとね」


 「え? なに急に」


 さらにいつもより控えめに話しかけられたことで、アイトはますます困惑していた。


 だが、マリアはそのままの口調で話し始める。


 「アイトが案内係になってくれてよかった。

  これで、アリサの事も‥‥‥」


 「え? アリサがどうかした?」


 アイトは不思議そうに聞き返すとマリアは少し間を置いてから、ゆっくり口を開く。



 「あの子ね‥‥‥違う学校に行きたいって言ってるの」


 「そうなんだ。それで、アリサが行きたいのは

  どこの学校か姉さんは聞いてるの」


 アイトは何の憂いもなく質問すると、マリアは顔を下げて答えた。


 「‥‥‥それが、分からないの。

  ただ『グロッサ王立学園だけは行きたくない』って」


 「‥‥‥なんで? ってうわ!?」


 アイトの困惑した様子に痺れを切らしたのか、マリアが胸ぐらを掴みかかって声を荒げる。


 「まだ分からないの!?

  アリサは私たちが嫌って言ってるの!!!」


 「な、なんで? アリサがそんなことーーー」


 「最近届いた手紙にハッキリ書かれたわよッ!!

  『姉さんたちとは別の学校に行きたい』って!」


 マリアは、完全に気が動転していた。アイトの胸ぐらを掴む手を振るわせながら、目に涙を浮かべる。


 「ねえ‥‥‥アイトは、私のこと嫌い?

  こんなお姉ちゃんがいるの、嫌‥‥‥?」


 完全に弱気な姉の発言に対し、アイトは即座に言い返す。


 「考えたことない。いるのが嫌とか、

  俺たちを産んでくれた両親に失礼だから。

  でも、俺はあの家で過ごして幸せだったよ」


 「‥‥‥」


 マリアはゆっくりと、胸ぐらを掴んでいた手を離して距離を取った。


 「‥‥‥私、時々あんたのことが分からなくなるの。

  私たちに似てるようで、全然似てない。

  『本当に私の弟で、アリサの兄なの?』って」


 「‥‥‥何言ってるんだよ」


 マリアは、今まで隠していた事を打ち明け始めた。


 「あんたは、見ててどこか危なっかしいの。

  人の意見に流されやすいように見えて、

  確固たる強い意志を持ってる。

  目を離すと消えちゃうんじゃないかって

  不安になるの。私の弟なのに‥‥‥」


 「そんなふうに見えるの、俺?」


 「そういう発言をする所とか、まさにそう!!

  飄々としてるように見えて、芯のある所とか!

  何もできないように見えて、何でもできる所とか!

  不器用な私とは、まるで対極なの!!」


 マリアは、完全に真意を曝け出していた。


 「だからアリサも‥‥‥そうなるんじゃないかって。

  幼いころからあんたを見てるアリサなら、

  あんたに憧れてるかもしれないって‥‥‥」


 「いや俺、そんな大層な人間じゃーーー」


 「あんたのお姉ちゃんだから、私には分かるのッ!」


 (分かるか分からないかどっちだよ!?)


 アイトが内心でツッコむ間も、マリアは話すのをやめない。


 「だから、アリサはあんなことを

  言い出したんじゃないかって思ったの。

  私から、離れていくんじゃないかって‥‥‥!!」


 「‥‥‥そういうこと」


 アイトは尋常ではない姉の不安を知り、他人事ではいられなくなった。むしろ、自分に責任があるのではないかと感じた。



 「わかった。それなら俺がアリサに聞いてみる。

  見学会の時に、理由を聞き出してみせる」


 「アイト‥‥‥ごめんね、頼りにならないお姉ちゃんで」


 マリアが頭を下げると、アイトは困惑した様子で咄嗟に話し出す。


 「いや強気の権化な姉さんにそんなこと言われると

  違和感あるから、早く元に戻ってくれるとーーー」


 「〜〜〜ッ、うるさいわよッ!!!!!」


 「グォェッッッ!!?」


 そしてアイトは、いつものように(?)殴り飛ばされるのだった。

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