『黄昏』の実力、前編
アイトたちは、『エルジュ』の拠点から元ルーンアサイドの本拠地に転移した。
「急がないとな」
ルーンアサイドの本拠地はグロッサ王国の隣国、アステス王国にある。ここから目的地まで、かなり距離がある。
「メリナ、これを」
アイトは空間魔法【異空間】から、特殊な結晶を取り出す。それをメリナに渡した。
「戦闘が始まったら、それを俺たちと魔物が映るように地面に配置してくれないか? 君が適任だ」
「もしかして教官に言ってた、戦闘状況を見させるやつ?」
「エルジュの拠点には映像を移すための、大きな板があっただろ? それにその魔結晶を接続させておいた」
アイトは訓練生の成績発表が始まるまでのわずかな時間で、モニターのような役割を果たしそうな板を発見。それに魔結晶を接続しておいたのだ。
「さすがだね。うん、任せて」
その後にエリスとミアが賞賛するが、アイトはそれに反応する前に指示を出す。
「ここからかなり距離がある。目的地までこのまま移動するぞ」
「ミストぉ〜おんぶぅ〜」
「うぇぇ!!? アクアちょっ、やめっ」
アイトたち11人はルーンアサイドの本拠地を出て、凄まじい速度で目的地に向かうのだった。
◆◇◆◇
グロッサ王国周辺の村。
魔物の大群を確認したグロッサ王国所属の見張り兵が、村の人たちを避難誘導させた。
よって村には誰もおらず、村から数キロメートル前で魔物を迎撃する作戦である。
だが現在、グロッサ王国の主戦力が任務で出払っている。
「王国最強部隊『ルーライト』さえ、任務でなければ‥‥‥」
「なんでこんな時にっ」
そのため、急遽かき集められた戦力で戦うことを強いられていた。不足の事態である。
「ーーー皆さん落ち着いてくださいっ」
その中には‥‥‥王国の第二王女も魔物の迎撃に志願。周りは止めたが、彼女は聞かなかった。
「ユリア様! 危険ですのでお下がりください!」
「いえ、私が先頭に」
ユリア・グロッサ。グロッサ王国の第2王女。
銀髪ロングで青目の彼女は、今年から王立学園に入学する。
ユリアは兵士たちの前に出て話しかける。
「私は王族。国を守るのが王族の務め。時間を稼げば、お兄様と隊員の方々が戻ってきてくれるはずです! 私に皆さんの力を貸してください!」
ユリアの発言に、兵士たちの士気が高くなる。ユリアが慕われ、敬愛されている証だ。
ユリアは自分が戦わないという選択肢を放棄した。ユリアは責任感が強く、国民に分け隔てなく接しとても優しい。何より天真爛漫で可愛い。
その優しさと容姿から『白銀の聖女』と皆から慕われている。
「数で負けてる私たちに接近戦は不要、遠距離から魔法で迎撃します!皆さん、用意してください!!」
ユリアの指示は的確だった。とても15歳の少女とは思えない。
「き、来ますっ!!」
そして、大量の魔物がユリアたちの視界に見え始めた瞬間。
「‥‥‥えっ!?」
数十匹の魔物が、突然吹き飛ぶ光景が目に映るのだった。
◆◇◆◇
「ありゃ!? やりすぎちまった!!」
魔物の群れに突っ込んだカイルが、数十匹を拳の一振りで吹っ飛ばした。
「本当に力加減ができない脳みそしてる」
「ああ!? お前の攻撃だって目立つじゃねえかよ!?」
「カイル、ミア、落ち着け。最悪目立ってもいい。短時間で全滅させるぞ。お互いが攻撃に巻き込まれないように注意し各自、敵を殲滅しろ」
アイトはそう言って、魔物の群れに突っ込む。
(意外と緊張しないな‥‥‥)
アイトは1年半前のラルド戦以降。
宝石集めで各地を回っていた際に不本意ながら多くの戦いに巻き込まれてきた。
(やっぱ数こなすと違うな)
その度に戦闘経験を得たことで、ある程度の覚悟が定まったのだ。もう戦闘中に棒立ちになるほど恐怖したりはしない。恐怖する暇があるなら動けと考えるようになったのだ。
「ここだね。代表の言ってた場所」
メリナが手に持った魔結晶を、条件が揃った場所に設置する。
「いいよ代表! 思いっきり暴れちゃって!」
そして『エルジュ』本拠地から多くの者に見られている状態で、戦闘が始まった。
「ーーー行くぞ!!」
これから始まる彼らの戦いぶりに、多くの者は魅了されることになる。
◆◇◆◇
魔結晶を置いたばかりのメリナに、多くのゴブリンが襲いかかる。
「うわ、なんでこんなに多く来るの! 私、戦闘得意じゃないんだって!!」
メリナが手に持ったのは‥‥‥鞭。
勢いよくゴブリンたちに叩きつける。その鞭は魔力を通すことで、伸ばしたり縮めたりすることができる特殊な鞭である。
「雑魚なら私でも戦える!!」
ゴブリンたちと自分の距離を常に把握し、少しずつ動きながら鞭の攻撃で確実に減らしていく。
メリナは近距離、遠距離戦のどちらも得意ではなかった。
近距離戦は自分の反射神経が追いつかないし、遠距離戦だと魔法や銃、弓が全く当たらない。身体能力があまり高くないのだ。
むしろ、『黄昏』の平均身体能力の高さがおかしいのだ。常人ならメリナでも平均より高い方である。
「私に無鉄砲は通用しないよっ?」
メリナの評価された点は、頭脳と戦略性。
だから彼女は近距離、遠距離でもない中距離で戦う事に決めた。それを叶えられるのが、鞭。
相手と自分の間合いを常に計算し、相手の能力を瞬時に分析。それによって鞭での立ち回りを変える。
その戦法は頭脳明晰のメリナには合っていて、戦闘で役に立つ力を得たのだ。
「初めての実戦でも、戦えてるよ代表」
そうして苦手な戦闘分野を補い、最大の長所である頭脳を活かして‥‥‥序列10位に選ばれるほどになったのだ。
「よし、もうかかって来んな!」
しばらく経つとメリナの周辺にはゴブリンの死骸が転がっていた。
◆◇◆◇
「はぁ、はぁ、はぁ〜、アクア〜〜!! ちゃんと走ってくださいよぉぉ〜〜〜!!」
「んぁ? あ、魔物来た。それじゃね」
「うぇ!? 手伝ってくださいよぉぉ!?」
ミストの背中から降りたアクアが、別の場所へ移動し始める。
当然、取り残されたミストに襲いかかる大量のオーク。
「ひ、ひえぇぇぇぇ!!!? こ、来ないでくださいぃぃぃッ!!!」
ミストは‥‥‥涙目で弓矢を構えた。
そして、火属性を付与させた矢を放ちまくる。
「来ないでぇぇぇッ!!」
ミストの持ち味は元暗殺者としての軽やかな身のこなしと、弓矢の扱い。
ここで疑問が生じるだろう。元暗殺者なら、なぜ銃ではないのか。
『びぇぇぇぇぇぇッ!!!?』
答えは簡単。自分で打った銃声に死ぬほどビビるからだ。
『ルーンアサイド』時代は、演技で冷静を装っていたミスト。だが銃声には素の反応をしてしまう。
『これなら私でも扱えそう〜!』
だから弓矢を使うようになった。魔法で色々な属性、効果を付与した弓矢は単純に強い。
「きゃっ!? 後ろからなんて卑怯ですよっ!?」
そしてミスト自身、身体能力は高い。相手の攻撃を避け続け、弓矢で対応する。
一見地味だが強いその戦法で、序列9位に選ばれたのだった。
「や、やりましたぁぁ!!!」
喜ぶミストの前には、オークだった燃えカスが大量に散らばっていた。
◆◇◆◇
「あ、敵、きた」
指を差したリゼッタの前には、多くのコボルトが。
「えい、やっさ」
リゼッタは手から放出したのは‥‥‥大量の毒。
彼女の毒を受けたコボルトは呻き出し、すぐに絶命した。
「効いた」
リゼッタは毒使い。常人は毒魔法を使いすぎると使用者自身が毒に耐えられず、最悪命を落とす。
だがリゼッタは、信じられないほど毒の耐性があった。生まれ持った素質。
その耐性は、暗殺者として毒耐性向上の訓練を受けたターナとミストの‥‥‥約20倍。
その耐性を活かし、毒魔法を乱発するのがリゼッタの戦い方。扱いは適当だが彼女だけの強力な武器により、序列8位まで上り詰めた。
しかも、最年少の13歳で。
「ガアアアアアァァァァ!!!!」
「あ」
リゼッタは背後の声に振り向く。
彼女は回避が間に合わず、オーガの拳をを両手で抱きしめるように受け止めた。
「あ、今、いま」
するとリゼッタの全身が毒で覆われ、魔物の腕に付着する。
オーガが毒による苦痛で絶叫を上げるがリゼッタは手を振り解かない。その状態がしばらく続き、最後にオーガは絶命した。
その光景を見た魔物たちがリゼッタに恐怖し、逃げていくのだった。
「やった、勝ち」
◆◇◆◇
「僕、近距離戦苦手なんだけど、な!!」
オリバーは大量のガーゴイルに冷静に対処し、的確に頭を銃弾を当て絶命させていた。
「ふぅ、焦った」
オリバーは銃の達人である。
スナイパーライフルでの狙撃や銃撃戦、そして今のように、2丁拳銃で周囲の敵を仕留めることに長けている。
「弾は‥‥‥まだあるな」
オリバーは魔法が苦手で、身体能力もそれほど高くは無い。
だがそれを補うほどの卓越した銃の腕が評価され、序列7位に選ばれた。
「ふう。少し危なかった」
数分後、オリバーの周りに魔物はいなくなっていた。
◆◇◆◇
「ミアの所に来たんだ有象無象ども。さっさと死んでよ生きてる価値ないんだから」
ミアは右手を前に出して唱えた。
「【ムラサキ】」
手から紫の瘴気を浴びた塊が飛んでいき、ゴブリンたちに当たると苦しみ始めた。
「【クロ】」
ミアは自分の全身から黒い瘴気を発し、両手を地面につける。
するとミアの両手から、黒い影のようなものが地面に広がっていく。ゴブリンたちの足元を超えて、広範囲にまで真っ黒になる。
するとゴブリンたちの足元に‥‥‥黒い花が咲き始める。すぐに数え切れないほど花の数は増えていく。
「それじゃあ死ぬ時くらいは綺麗になってね?」
ゴブリンたちの足元に咲いている無数の黒い花がカタカタと不気味に動き始める。
「【百花繚乱】」
ミアが唱えた瞬間。
黒い花たちが、大きな無数の棘を一斉に伸ばした。ゴブリンたちは串刺しになって断末魔の声を上げていき、やがて生命活動を終えた。
「ほんと気色悪い」
これは、呪い。そう、ミアは呪術師。
生まれた時は魔法の素質があったが、壮絶な過去により‥‥‥魔力ではなく呪力を体に宿すようになる。そのため、ミアには魔力が全く存在しない。
魔法を全く使えないのは、『エルジュ』の訓練生にとって大きな足枷だった。
「意味不明なほど弱かったね〜?」
だがあまりにも危険すぎる呪力が高く評価され、彼女は序列6位に選ばれた。
「これで害虫は消えた。ミアがんばったよね‥‥‥お兄ちゃん♡」
精鋭5人は、魔物を次々に倒していった。




