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幕間 グロッサ王家、婚約事情

 グロッサ王国、王都ローデリア。


 小さな馬車が地下を通り過ぎていき、やがてグロッサ城へと辿り着く。


 すると馬車が止まり、扉が勢いよく開く。


 「ただいま戻りましたぁ!!」


 「ユリアちゃん、慌てて転ばないように〜」


 それは第二王女ユリア・グロッサと第一王女ステラ・グロッサ。


 「あ、ちょっと待って!?

  まだ報告が終わってないから!!」


 そして焦った様子で馬車から降りる『ルーライト』隊員エルリカ・アルリフォン。



 こうして、グロッサ王国の王女姉妹がアステス王国から無事に帰還したのだった。




 「兄さん、ただいま戻りました」


 「ただいまお兄さま〜!!」


 ステラとユリアは兄のルーク・グロッサの部屋へ入っていく。


 「2人ともおかえり。大丈夫だったかい?」


 椅子に座って資料に目を通していたルークが顔を上げ、穏やかに微笑む。


 「はい! エルリカさんとギルドの皆さんの

  おかげで、楽しい公務になりました〜!」


 「ユリアちゃ〜ん? 兄さんが聞いてるのは

  そういうことじゃないでしょ〜?」


 「こ、言葉の綾ですよっ?」


 笑顔で注意するステラと気まずそうに目を逸らすユリア。



 その様子を見たルークは椅子から立ち上がり、思わず2人の頭を撫でていた。


 「に、兄さんっ」


 「なんだか懐かしいですね!」


 少し顔を赤くするステラと、笑顔で撫でられるがままのユリア。


 「アステス王国の一件を知ってたから、

  ステラとユリアが心配だったんだ。

  だからいつもの2人を見て、つい手が」


 ルークはゆっくりと手を離しながら、苦笑いを浮かべていた。彼自身、自分の行動に驚いていたのだ。



 「やっぱり、君は妹には素直なんだね」


 そんな場面を、扉付近で眺めていたエルリカは目を細める。


 するとルークは少し目を見開いて面食らっていた。


 「エル、そこにいたんだ」


 「最初からここにいたけど!?」


 「それじゃあ向こうでいったい何があったのか

  詳しく聞かせてもらおうかな。

  ステラとユリアにも聞いていいかな」


 「君、絶対わざとだよね!?」


 大声で異議を唱えるエルリカに反応しないルークは、2人の妹に話を聞き始めるのだった。




 その後、ステラとユリアの話を聞いたルークはベッドに腰掛けて小さく息を吐く。


 「‥‥‥突然の煙にパレードは大混乱。

  来賓席からは煙の中で何が怒ってるか

  分からなかった。でも只事ではなかったと」


 「はいっ。何か騒動があったと思います!

  過剰な魔力を複数感じたので!」


 ユリアの発言に、ルークは言葉を出さずに深く頷く。


 ユリアは賢者の聖痕を両眼に宿している。つまり賢者の魔眼持ちであるユリアは、魔法に関することなら誰よりも素質がある。


 当然、魔力探知も群を抜いて優れている。


 だからルークは、彼女の発言を絶対的に信頼していた。


 「だとすれば、ユリアの探知した

  複数の魔力のうちの1つはーーー」


 「レスタ様だと思われますっ!!」


 そう強く進言したのは、ユリアではなくステラだった。


 「お、お姉さま?」


 突然の姉の行動に、ユリアは困惑している。


 「う、うんそうだね」


 「ど、どうしたのステラ?」


 それはルークとエルリカも同様だった。


 だが、ステラは止まらなかった。


 「あの方は突然、来賓席に現れて

  ユリアちゃんを攫おうとしたんです!

  私が身代わりになろうと提言したのですが、

  その願いは聞いてもらえず‥‥‥!!

  いったい、私ではなくユリアちゃんの

  何を求めていたんでしょうか!!?」


 そう言ってステラはどこか悔しそうに、ユリアの肩に手を置く。


 そんな妹を見た、ルークは。


 「‥‥‥まさか、ユリアが賢者の魔眼持ちだと

  見抜かれてる? そうだとしたら‥‥‥」


 ‥‥‥小さく呟きながら、浮かび上がった疑問に思考を巡らせていた。


 (いや、なに冷静に推察してるの!?

  ステラの様子が明らかに変でしょうが!?)


 そしてエルリカが唖然とする。


 「る、ルーク? ステラの様子がーーー」


 それは思わず、肩を揺すって話しかけてしまうほどである。


 「うん、わかってる。ステラ」


 するとルークは悲壮感漂うステラに視線を合わせ、話し始める。



 「ユリアを守りたい気持ちは分かるけど、

  ステラ自身が危険な目にあったら本末転倒。

  だから身代わりになるよう交渉なんて、

  僕は認めないよ。ステラの身も大事だ」


 ルークは、ステラが大切だと伝えるように話しかける。


 (ちょっ!? たぶん論点が違うでしょ!?

  全然わかってないじゃないバカルーク!!)


 だが、今のステラに対しては完全に答えを間違えた。


 エルリカが何か話そうと様子を伺うがーーー。


 「‥‥‥はは、そうですよね

  ありがとうございますにいさん」


 ステラは、ただ目を細めて棒立ちする。完全に感情が籠ってない感謝を義務のように口にしていた。


 「あ、あ〜!? すっかり忘れてましたぁ!

  まだ報告してないことがありましたぁ〜!!」


 そんな空気に耐えかねてか、ユリアは不自然な振る舞いをしながら話を変え始めようと試みる。


 そして、それは色々な意味で功を奏した。彼女の口にした話が、1人に衝撃を与えたからだ。


 「グロッサ王国とアステス王国の同盟関係を

  より強固なものにするためにと、

  シルク王女がお兄さまとの婚約の提案を!」


 「なっ!?」


 呻き声を上げたのは当事者であるルーク‥‥‥ではなく、エルリカだった。


 「シルク王女がそんなことを?」


 対して、ルークはその話にあまり驚いていなかった。むしろ淡々と詳細を聞き返している。


 その後、ユリアから詳しい話を聞いたルークは表情を変えなかった。


 「婚約の話、悪くないかもしれないね」


 「なっ!?」


 腹から振り絞るような呻き声を出したのは、誰か言うまでもない。


 「る、ルークってシルク王女に、その、好意が」


 「好意? 今の時点では特にないよ。

  全然会ったことないし、話したこともない」


 「だ、だったら無理に婚約なんてーーー」


 「最近の国政を考えると、ちょっとね」


 そう言って苦笑いを浮かべるルークに、エルリカは何も言えなかった。


 『魔闘祭』での一件が、今も尾を引いている。


 国と王族への疑心、このままで大丈夫なのかという不安。


 そんな国民の不信感が確実に目に見えているのだ。



 「あ、あの兄さん」


 すると、放心状態から回復したステラが控えめな様子でルークに話しかける。


 「ん? なんだい?」


 「あの、それってやはり王族としての責務‥‥‥

  兄さんがもし婚約するということは、

  私とユリアちゃんもいずれは‥‥‥」


 ステラはこう言いたいのだ。


 『王国の跡継ぎを残すための手段として、

  誰かと結婚することになるのか』と。


 だがルークは首を横に振りながら、優しく断りを入れる。


 「心配しなくていい。ステラとユリアは大丈夫。

  もちろん、結婚して世継ぎが生まれたら

  王家の安泰は確実なものとなるけど、

  それは王位継承権第一位である僕の役目だ」


 「兄さん‥‥‥いいんですか?」


 「うん。そもそも父上の兄、

  つまり僕たちの叔父も自由恋愛だった。

  王位継承権を父上に譲って、

  相手と駆け落ちしたくらいだよ?

  だからもし意中の相手がいるなら

  思いを馳せても構わないと、僕は思う」


 「兄さん‥‥‥ありがとうございます」


 「そうなんですかお兄さま!

  でも恥ずかしながら、私はそういう事を

  考えたこともなくて、全く予定無しです!」


 絞り出すような声で感謝を述べるステラと、能天気な声で自虐的に話すユリア。


 そして、エルリカは何も言わずに視線を外していた。


 「まあ、シルク王女との婚約については

  慎重に検討を重ねるから、結論は

  まだまだ先だけどね。実際、以前の

  婚約者候補だったエマ・ベネットさんには

  向こうから断られたくらいだし。

  婚約なんて、僕もまだ想像つかないかな」


 (‥‥‥まだ、先‥‥‥)


 その発言を聞いて、表情が少し晴れた者が1人だけいた。だがそれに気づいたのは、本人を含めて誰もいなかった。


 すると、ステラの目つきが変わる。


 「‥‥‥それでは、意中の相手がいれば

  積極的に行動してもいいのですか」


 「まあ、その相手がどんな人かは調べられると

  思うけどね。例えば人柄や身分、経歴とか」


 「それは‥‥‥相手によっては認められないと

  いうことですか? そういうことですか?」


 ステラは念を押しながら質問を続ける。そうすれば、さすがのルークでも妹の真意に気付く。


 「‥‥‥ん? もしかしてステラ、好きな人が?」


 「ほ、本当ですかお姉さま!?

  私たちにとっても国にとっても

  重要なことですよっ!

  だ、誰ですかっ! とっても気になります!」


 ユリアが興奮した声を出して質問すると、ステラは顔を真っ赤にして指をいじいじ触り始める。


 「そ、それはぁ‥‥‥まだ言えませんっ。

  で、でもミステリアスでクールで

  芯が強くて仲間想いで

  王女である私にも臆さずに叱ってくれて

  とってもカッコよくてぇ‥‥‥♡」


 言えないと言いつつも、もはや少数に絞れそうなほどの内容を惚気ながら話していた。


 「目が♡になってますよぉ!?」


 「はは、ステラにもそんな相手がいるんだね。

  僕は応援してるよ。何かあったら相談して」


 (ミステリアスで芯が強くて仲間想い‥‥‥?

  どうやってそんな人と出会ったの??)


 案の定、エルリカには違和感を感じられていた。



 その後もステラの好きな人についての話は止まららない。ユリアは熱心に、ルークは微笑みながら聞き続ける。


 (‥‥‥まさか、あの男じゃないでしょうね??

  あいつは、この国の敵なのよ???)


 そして、心当たりに対して戦慄するエルリカ。



 グロッサ王国の婚約事情は、まだ誰にも進展がない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 同時刻。


 「‥‥‥っ、くしゅんッッ!!」


 「うわ、あるじの膝枕が揺れた〜」


 遠く離れた別の馬車で、謎のくしゃみに連続して襲われる人がいるのだった。

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