答えのない償い
最高幹部のみが許される椅子に座るのは、黒髪サイドテールの少女。とある記事を机に置き、静かに目を通している。
「ふむふむ‥‥‥歌姫さんの事について
特に記載なし。あ〜、助かりましたかぁ」
「珍しいじゃん、クロエが殺し損ねるなんて」
偶然にもその場に居合わせた小柄で茶髪の少年が、本を読む片手間で話しかける。すると少女は嬉しそうに机を叩いた。
「あ、リッタん! 聞いてくれます〜!?
ノエルんは多くを敵に回して重傷ですし、
エレミんはノエルんを助けることを
優先して手を貸してくれませんでしたし!
ウチは1人で頑張ったんですよぉ〜!?」
「ふーん」
「それに見てくださいよこの右腕!
誰かに銃で撃たれたんですから!
健気なウチは必死で任務に挑んだんですぅ!」
「へぇ〜」
クロエが嘘泣きをしながら包帯が巻かれた右腕を見せつける。だが少年の視線は本へと向いていた。
「リッタんってほんと失礼ですよねぇ〜!
そんなんだから第四席のままなんですよぉ!」
クロエの発言に対し、最高幹部『深淵』第四席、リッタ・カストルは本を机に置いて目を細める。
「君に失礼って言われたくないな。
それに最高幹部の席にさえ座っていれば、
順番の違いに興味はないね」
「ほんっと可愛くない子どもですねっ!
もうっ、リッタんなんて知りません!」
「ぼくだって知らないよ」
この会話を最後に、2人の間に数分間の沈黙が訪れる。
「相変わらず、クロエは任務に熱心だね」
その沈黙を破るかのように声と共に割り込んだのは、笑みを絶やさない銀髪の青年。
「あ、エレミん! 遅かったですね〜!」
クロエは嬉しそうに椅子から立ち上がると、青年へ勢いよく抱きつく。
青年は表情を変えないまま、ゆっくりとクロエを引き剥がした。
「さ、もう少しで会議が始まるよ。
ノエルがいない分、気を引き締めないと」
「ぶ〜。エレミんって意地悪ですよね〜。
あ、会議が終わったらノエルんのために
何か買いに行きません? 2人で♪」
クロエが耳元で囁くと、エレミヤは半歩下がって微笑んだ。
「そうだね、せっかくだしそうしようか」
「やった〜! さっすがエレミん!
まずは一緒にご飯食べて、
歩きながら服を見て、それからーーー」
「ノエルが好きな果物とかって知ってる?
なるべく食べやすい物の方がいいよね?」
「‥‥‥知りませ〜ん」
クロエがそっぽを向くと、エレミヤは首を傾げる。そしてリッタは黙々と本を読み続ける。
そんな時間が、数秒過ぎた後。
『ーーーエレミヤ、クロエ。ご苦労だった』
机の真ん中に置かれた大きい魔結晶から声が響く。
エレミヤたちは魔結晶の方を向くと、それぞれが頭を下げた。
「いえ、僕は何もできなかったので」
「総帥〜! ほんとに大変だったんですよぉ!」
エレミヤが謙遜するのに対し、クロエは素直な気持ちを口にする。それを見たリッタは内心呆れていた。
『わかっている。ノエルの容態を聞いた。
思い通りに計画が運ばなかった事もな。
だがそれは、第三者の介入が原因で
お前たちのせいではない』
「さっすが総帥〜! 上司の鑑ですね〜♡」
クロエは媚びた声で褒めながら椅子に座る。全員が姿勢を正して座ると、やがて魔結晶越しの人物が話し始めた。
『当初の目論見通り、バスタル・アルニールと
ルビー・ベネットの殺害は失敗した。
だがあれほどの騒ぎを起こした事で
アステス王国の内政はかなり響いただろう』
「あの『魔導会』の爺さんは
全然隙が無かったので諦めました!
でも女の方はあと一歩だったんですよ〜。
彼女の執事らしきお爺さんが邪魔で
殺し損ねましたけど〜」
クロエが勝手に合いの手を入れるが、話は続く。
『ノエルは重傷で暫く休まざるを得ない。
それにパナマとアンノーンは死んだ。
戦力的にも、少し間を置く必要がある』
「ま、あの口だけの老害と名無しちゃんは
役立たずだったので寧ろ嬉しい限りですよぉ。
名無しちゃんの死にざま、見たかーーーッ」
突如、クロエの声が止まる。
喉から血が飛び散り、声が出せなかったからだ。
「クロエっ」
「うわ、総帥は容赦ないな」
エレミヤは椅子から崩れ落ちるクロエに駆け寄り、リッタは本を閉じて目を逸らしていた。
『まさかお前がアンノーンを殺したのでは
ないだろうな、クロエ。
私は、連れ戻せと伝えたはずだ』
魔結晶越しの声は、明らかに怒気を含んでいた。
「まっ、まさかぁ‥‥‥
そんなわけ、ないじゃないですかぁ〜。
ウチは、総帥ラブ♡ なんですからぁ‥‥‥」
クロエは今回の騒動でアンノーン(ユニカ)を殺そうとしたことをひた隠し、いつもと変わらない口調で話す。
「それに、詳細は、エレミんが‥‥‥」
クロエが血まみれの口角を上げると、エレミヤは深く頷いた。
「総帥、僕とノエルは見たんです。
あの子は、僕たちの敵である彼に
剣で刺されて、魔力の渦へ消えた瞬間を」
『‥‥‥そうか。レスタとかいう、あの男か』
声が低く響いた直後。
「ーーーおっ!」
クロエは元気な声を出して立ち上がる。喉の切れ目が、消えている。
「もぉ〜総帥ったらお茶目なんですからぁ♪
冗談言っただけで死にかけましたよぉ〜!」
『それは悪く思うが、度が過ぎた冗談は控えろ。
あの子は替えが聞かない存在だったんだ。
もし部下が殺したという疑念を感じれば、
重く罰せざるを得ない』
「‥‥‥はーい、以後気をつけま〜す」
クロエは小さく返事しながら、机に肘を置いて頬杖をつく。
ようやく話が一区切りつくと、次に声を出したのは、リッタだった。
「ぼくとクロエとエレミヤだけだと
少し動きづらいかな。
ノエルが重傷で動けない今、
大多数を相手に立ち回れるのはエレミヤだけだ」
「そですね〜。最近は『エルジュ』とかいう
組織と衝突して、失敗ばかりですし〜。
そのトップであるレスタさんに、ノエルんは
こっぴどくやられましたしね〜」
クロエが両手を広げて首を傾ける。
『そうだな。少し急ぎすぎたのかもしれない。
しばらくは各自、力を蓄えることに専念しろ。
少なくともノエルが動けるようになるまでは。
そして、空いた幹部の席を埋める』
総裁という人物の発言に、真っ先に喜んだのはクロエだった。
「わ〜! ついに覆面ちゃんたちの中で
3人が覆面を取れることになるなんて!
補充されるのも久しぶりですよね〜♪」
「そうだね。最後に幹部が補充されたのはーーー」
エレミヤが顎に手を当てて思い出していると、リッタが答えを言うために口を挟んだ。
「アリスティア・ルーライトが死んだ一件。
その時に以前の第一席から第三席までが
死んだからだね。ま、相手が相手だったし」
「それでウチとリッタん、あと名無しちゃんが
選ばれたんですよねぇ! あー懐かしぃ〜♪
あの総力戦は、とっても痺れましたぁ〜♡」
クロエが両頬に手を当てて懐かしむ。明らかに愉悦に浸った表情で。
『過去のことはどうでもいい。あともう一つ。
あの子の代わりを作らなければならない。
実験を本格的に再開し、成功するまで続けろ。
たとえ、どれだけ失敗が生まれてもな』
「次は従順な子に成功して欲しいですねぇ〜♪
名無しちゃんのように宝の持ち腐れだけは
勘弁してほしいですもんね〜」
「ノエルが回復して幹部の人選が終わったら?
総帥、次はどうするつもりなの?」
リッタの質問に、魔結晶越しの声は答えた。
『国盗りだ』
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アイトたちがアステス王国を出て数日。
「あ〜! 見えてきたでございまする〜!!」
リルカが指を差した方向に、ベルトラ皇国が見えていた。
皇都へと続く街道を馬車で通過していき、やがて門が見え始める。
「荷物を確認する。止まりなさい」
門番の指示で御者台に乗っていたカイルが馬車を止めると、検問が始まる。
門番が馬車に近づき、中を見るとーーー。
「門番さん! お勤め、お疲れさまですます!」
「お、お疲れさまです‥‥‥」
リルカが満面の笑みで、ミルラが恥ずかしそうに声を出していた。
「なななな!? ミルラ様、リルカ様!?
ど、どうして国外からの検問に!?」
(内緒だったのか‥‥‥)
(無断だったのね‥‥‥)
アイトとユニカが呆れている間も、門番の話は続く。
「王家の勅令で、国外への外出はーーー」
「務めを果たしたまで、ですぞ!
それじゃあ、通りますですぞ〜!!」
リルカの掛け声と共に、馬車が動き出して門を通過する。
「お、お待ちくださいぃ〜!!」
門番の悲観じみた声を置き去りにして、馬車は門を突破した。
大聖堂前。
扉の前には長く美しい修道服姿の金髪の女性が立っていた。誰か来るのを待ち望んでいるのか、少し落ち着かない様子で周囲を見渡している。
そんな彼女の前で馬車が止まる。真っ先に飛び出したのはミルラだった。
「お母さま!! ただいま戻りました!」
「おかえりなさい、ミルラ!」
ミルラは笑顔で母のアストリヤに抱き着く。アストリヤも娘の帰還を喜ぶかのように、強く抱き締めた。
「戻りましたぞ母上〜!」
リルカは2人を見て微笑みながら、元気よく馬車を降りていく。
「リルカもおかえりなさいっ。
大丈夫だった? 何か粗相はしなかった?」
「はは、心配の方向性が胸に刺さりまする〜‥‥‥」
笑顔の母に頭を撫でられたリルカは、目を逸らして苦笑いを浮かべた。
「それで、歌姫さんのライブは見れた?」
「控えめに言って最高でしたッッ!!!」
「すっごく良かったですぞ〜!!」
(教皇さん、2人の外出に同意してたのか‥‥‥
勅令を無視して娘を優先させるあたり、
なかなか豪胆な人だな‥‥‥)
家族3人の会話が続く中、馬車に乗っていたアイトは内心、苦笑いを浮かべていた。
すると、双子娘に手を引かれたアストリヤが馬車の中へ入り、皆と視線が合う。
「まあっ、アイトさんにユニカさん!
お二人もご一緒だったのですか!」
「えっ、あ、はい」
「はい、とても楽しかったです」
戸惑うアイトに対して、微笑みながら相槌をうつユニカ。それを見たアストリヤはますます嬉しそうに微笑む。
「アイトさんにユニカさん、それに馬車で
ここまで送ってくださった皆さん。
本当に、ありがとうございました」
そして、深々と頭を下げる。
「ありがとうございましたっ」
「ありがとうございました〜!!」
ミルラとリルカも後に続く。
「いえ、こちらこそ!」
「お世話になりました」
アイトたちが謙遜していると、口を挟んだのはアストリヤだった。
「皆さんのご恩は忘れません。
私たちにできることがあれば何でも
言ってください。手を尽くします」
「いえ、お二人にはもう充分すぎるほど
手を貸してもらいましたから!」
「はい、むしろこちらが恩を返さなければ
いけないほどですので、お気になさらず」
やんわりと断るアイトとユニカに、アストリヤは少し困った様子を浮かべた。
「そうですか‥‥‥お二人は誠実な方ですね。
私たちの出会いは、聖天使エルフィリア様の
ご導きだと深く感じます。
もし近くに来られたら、いつでも教会に
足を運んでください。娘たちも喜びます」
「お母さまのいう通り、いつでも来てください!
お二人は私たちの恩人で、かけがえのない
友達ですから! また会いたいです!」
「マブダチですぞ!
また一緒に楽しく観光しましょうぞ!」
3人の言葉に、アイトとユニカは「はいっ」と笑顔で頷いた。
そして、馬車が動き出す。
「本当にありがとうございました」
「ありがとうございましたぁ〜!!!
アイトさーん! ユニカさーん!
いつでも皇国に来てください〜!!」
「次会う時が楽しみですぞぉ〜〜〜!!!」
3人に見送られ、アイトとユニカは手を振りかえす。
それは、お互いが見えなくなるまで続いたのだった。
「さあ、ここからが本題だ」
カイルの一言で、馬車内の空気が一変する。
今、馬車の中にいるのは‥‥‥アイト、ユニカ、カイル、オリバー。
アクアは御者台で馬車の手綱を握っていた(アイトに頼まれたため、渋々)。
明らかにカイルとオリバーの雰囲気が変わっている。車輪が地面を走り、揺れる音しか聞こえない。
迸る緊張感にアイトは、一呼吸置いてから口を開く。
「‥‥‥これから、何を話せばいい」
「おまえは話さなくていい。もう知ってる。
だから、これから話すのはーーー」
「私、ってことね‥‥‥」
割り込むように話したユニカに、カイルは無言で頷いた。
その後、訪れる静寂。だがユニカは引かずに声を出した。
「私を、あなたたちの仲間にしてください」
その言葉の刹那。
オリバーの拳銃が、ユニカの額に突きつけられる。
「ーーーっ‥‥‥」
アイトは一瞬驚くが、声を発さずに息を呑む。自分の出番は無いと悟ったからだ。
「怖がらないんですね」
オリバーの言う通り、ユニカは全く臆した様子も見せない。そう、顔には一切出ていない。
「‥‥‥怖いわよ。今の一瞬で、凄みが分かる。
あなたの鋭くて、凍て殺すような殺気が」
「なるほど、僕もあなたの顔を見れば分かる。
レスタさんが、助けたいと思った理由を。
でも、申し訳ありません。
僕には私情があるんですよ。
憎悪といっても差し支えない、私情が」
オリバーは無表情のまま、引き金に指をかける。ユニカは、少しも視線を逸らさない。
「‥‥‥ごめんなさい、とは言わないわ。
ただ上っ面だけで謝るなんてしない。
あなたの私情を聞いて、理解して、
考えて、精一杯謝りたいの。
そして、少しでも信じてもらいたいの」
「‥‥‥」
「引き金を引きたいなら、引いても構わない。
ローグくんに助けられたから、私は今生きてる。
答えのない償いを少しでも果たせるのなら、
ここで死ぬのも悪くない」
「‥‥‥そんな強がりを」
「強がるのはもうやめた。
心に蓋をするのは、もう疲れた。
彼と会って、初めて人に助けられて、
他人ともっと関わってみたいと思った。
心のままに生きてみたくなった。
ただーーー今殺されるなら、
最期に心の底から謝りたかった」
彼女の言葉に、誰も反応できなかった。
オリバーはゆっくりとーーー拳銃を下ろした。
「‥‥‥ったく。イカれてるんですか。
そんな言葉に、微塵も嘘が感じられない。
呼吸も、顔色も、何も変わらない。
どんな生き方をすれば、ここまで」
「聞きたいなら話すわ。
最後まで聞けたらの話だけど」
「‥‥‥はぁ、降参です。僕の私情というのは
尊敬してる人が命を狙われ、
目を抉られそうになったことです。
僕は、奴らを絶対に許さない」
オリバーは唇を噛みながら拳銃を震わせる。その様子を見て、ユニカは申し訳なさそうに視線を下げた。
「‥‥‥私ーーー」
「でもあなたが加担していたら、
レスタさんが許すわけありませんよね。
ただ奴らと同じ空気を吸ってただけで、
奴らと同種というわけじゃない。
だから問答無用で撃つことはできませんね」
オリバーはそう言って微笑むが、明らかに本性を隠しきれていなかった。
内側に宿した殺意が、瞳から漏れ出ている。
それを、ユニカは見過ごすことができなかった。
「でも、私はその凶行を止められなかった。
だから同罪よ。あの化け物たちと。
私は関係ない、何も悪くないって言い聞かせて
奴らの凶行から目を背けてた。
だから、本当にごめんなさい‥‥‥」
ユニカは精一杯頭を下げて謝るとーーー。
ダァンッッ。
空気を切り裂くような音が馬車内に響き渡る。
オリバーの拳銃から、煙のみが立ち昇っていた。
「くう、ほう‥‥‥?」
「ったく、つくづく腹が立ちますね。
そんな顔されたら、撃ち殺せない。
これまでの事情を聞き、覚悟を聞き、
人柄を知った上で殺せば、僕が悪だ」
「オリバー、さん‥‥‥」
「オリバーでいいです。
あなたの覚悟は充分わかりました。
これからは行動で示してください。
‥‥‥『エルジュ』の新人さん」
そう言ったオリバーは、何の憂いなく微笑んだ。
「ありがとう‥‥‥オリバーさんっ‥‥‥」
ユニカも、涙を浮かべながら嬉しそうに微笑む。
「ったく、オリバーが認めたなら
他の奴らも大体は納得すんだろ。
ま、それでも大半はお前の加入に
疑念を感じるだろうけどな。
それとお前を加入させた自己中代表にもな」
(じ、自己中代表‥‥‥)
アイトは思わず口を挟みそうになったが、今は自分の立場を弁えて堪える。
その我慢が身を結んだのか、何事もなくカイルは続きを話す。
「俺やオリバーよりも気の強いやつもいるし、
お前を絶対に認めないやつもいるだろうよ」
「今エリスさんはいないですけど、
あなたのことを知ればどうなるか
想像したくもないですね。怖すぎる。
それにターナとミア、ミストあたりも
あなたに対する好感度は相当低いかと」
オリバーが名前を挙げながら説明すると、ユニカは首を横に振って、気にしていない事を示す。
「これから新しい人生が始まると思えば、
なんてことない。むしろ、ありがたいわ。
人間関係の構築が楽しみに思えるもの」
「フン、口だけじゃねえことを祈ってるぜ」
「‥‥‥はいっ、よろしくお願いしますっ」
不機嫌そうなカイルに対し、ユニカは頭を下げて元気いっぱい声を出した。
(‥‥‥よかったな、ラペンシア)
無事に一件落着を迎え、これまで空気だったアイトは心の中で呟いていた。
だが、次のカイルの一言で空気ではなくなる。
「おまえを見捨てられないって理由で
この野郎は俺を半殺しにしやがったんだ。
だからその意味を、ちゃんと噛み締めろよ」
「え、その巻かれた包帯って‥‥‥」
「おい!?」
アイトは声を上げるが、時すでに遅し。
「はっ、自業自得だろうよ自己中代表。
無自覚カッコつけには当然の報いだぜ」
仕返しとばかりに言い切ったカイルは、すぐに足を組んで寝始めた。
これで馬車内は、わなわなと震えるアイトとやり過ごそうと微笑むオリバー。
「‥‥‥もしかして私、口説かれてる?」
「自惚れなさんなッッ!!?」
そして、困惑を表情を浮かべる新たな仲間。
「うるさいなぁ〜。あーしは疲れてるのにぃ〜」
手綱を握るアクアの独り言は、馬車内で突如始まる言い合いにかき消されるのだった。