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楽しい帰り旅

 陽射しが顔を照らす。


 「ん‥‥‥」


 呟いた無意識の声が、耳に届く。


 黒髪の少年は上体を起こして周囲を確認すると、そこは部屋の一室だった。


 (ここは‥‥‥ていうか、身体が動きづらーーー)


 少年が視線を下へ向けると、やがて自分の腰付近あたりで止まる。


 「zzz‥‥‥」


 「はっ?」


 そこには、長い青髪の少女が布団に顔を埋めて眠っていた。



 「あ、アクア?」


 「zzz‥‥‥んぁ? ああ〜んぅ?」


 少年が名前を呼ぶと、少女はゆっくりと顔を上げる。口からは涎がたらりと垂れている。


 「何その格好!?」


 少女が着ている『服』と呼べるものは、ヨレヨレの白いTシャツのみ。裾からは水色の下着が見え隠れしていて、言うまでもなく無防備。


 「‥‥‥あ、おはよ〜」


 少女は気軽に挨拶すると、少年の胸元に頭を埋めた。当然、動揺の声が響く。


 「あ、アクアさん? 寝ぼけてますよ?」


 「もう起きてるからぁ、寝ぼけてないよぉ〜?」


 「さ、さいですか? あ、あのアクアが?

  1日の半分以上は寝ぼけてるあのアクアが?」


 少年がアクアの肩を叩きながら話す。するとアクアは少年の胸元から顔を離し、じ〜っと見つめる。


 「ふぁ〜。いいじゃん別にぃ、細かいなあ。

  あるじって、ほんと失礼だよね〜」


 「いやアクアがそんなこと言う!?」


 心外だと言わんばかりに反応した少年。アクアは全く意に介さずに口を開く。


 「もういいからぁ。3日前のご褒美として

  はやく頭撫でろぉ〜。あ、膝枕でも可〜」


 「3日前のご褒美‥‥‥?」


 アクアの発言に何か引っかかり、少年は物思いに耽る。


 「ねぇ、はやく〜はやくしろ〜」


 アクアの催促ジト目にも気づかないほどに。


 そして、少年にはもうひとつ気づいていない事があった。


 

 「清々しいほど快適な朝を迎えられたみたいね

  ほんと気持ちよさそ〜気分爽快よねー」


 それは扉付近に立っていた、灰色髪の少女の存在である。そう、人と認識していないような目を向ける少女。


 「ら、ラペンシア!? いつからそこに!?」


 灰色髪の少女ことユニカ・ラペンシアは口に手を当てながら、いたずらっ子のように微笑む。


 「確認に来たけど、お邪魔だったかしら〜。

  その様子だと元気そうだし、イロイロねぇ?」


 「そんな視線向けるのやめてくれない!?」


 「あるじうるさぃ〜」


 「アクアは黙ってて!?」



 こうして、アイト・ディスローグは目覚めのよい(?)朝を迎えたのだった。




 それから数分後。


 「‥‥‥」


 眠るアクアを引き剥がし、ベッドの端に腰掛けたアイトは、近くの椅子に座るユニカへ視線を向ける。


 「そんな機嫌悪くしないでよ。

  私が何かしたみたいじゃない」


 「その発言の時点で自覚あるよね??」


 思ったことを口に出したアイトを見て、ユニカは目を細めてにんまりと笑った後、わざとらしく咳払いした。


 「コホン、まあ冗談はこれくらいにして

  ローグくんに色々話さないとね」


 「おい、さっきのくだり必要あったか?」


 アイトの不躾な発言に対してユニカは答えず、話を進めていく。


 「まずあなたが知りたそうな事から話すわね。

  ルビーさんは無事に意識を取り戻した。

  そしてパレードで披露できなかった曲を

  昨日、即席ライブで国民たちの前で歌って

  感謝を告げながら、この国からでたわ」


 「ほ、ホントかっ!? よかった、無事で‥‥‥」


 「ええ、本当に無事でよかった。

  それにホント楽しかった、ああ最高だった」


 ユリアの感想に、アイトは疑念を抱く。すると、彼女の顔がやけに幸せを発していることに気が付いた。


 「‥‥‥おまえ、ライブ楽しんでたな?」


 「‥‥‥護衛のついでよ。ええ、ついで。

  歌姫のルビーさん、あとミルラとリルカが

  誰かに襲われないか、護衛を兼ねてね。

  2人といっしょに見に行っただけ。

  私、無事に3人を守りきったわ(ニマ〜♪)」


 「じゃあその余韻に浸ってる顔は!?」


 「‥‥‥続きを話すわよ」


 アイトの追求を、ユニカは全く聞き入れなかった。


 「まずあなたは3日間、意識を失ってた」


 「ーーーは?」


 アイトは意味がわからないといった声を出す。


 ユニカは間髪入れずに、話を続けた。


 「その3日で、他に色々あったのよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 パレードの翌日、つまりアイトが目を覚ます2日前。


 アステス王国、王都。


 1人の少女が大勢に向けて、頭を下げていた。やがて頭を上げ、ゆっくりと話し出す。


 「今回のパレードでの騒動、

  まことに申し訳ありませんでした。

  伝統あるパレードに参加してくれた

  この国の民の皆さん、来賓の方々。

  期待に応えられず、多大な不安を

  与えてしまったこと。王女として

  深くお詫び申し上げます」


 シルク・アステスは発言の後にまた深々と頭を下げる。いつも強気で豪胆な彼女が、か細い声で謝罪を述べたのだ。


 その誠意に、国民たちは責めることができなかった。むしろ、励ましの声が聞こえてくるほどだった。


 それは、騒動で国民が誰一人傷付かなかったことが大きかったかもしれない。



 「ってぇ〜‥‥‥あの野郎、次は絶対倒す」


 そんな中、身体のあちこちに包帯が巻かれている赤髪の大男が小声で独り言を呟く。


 「1日だけでもう動けるなんて‥‥‥

  やっぱり竜人は頑丈なんですね」


 隣にいた緑髪の少年が呆れた様子を浮かべる。赤髪の大男は首を横に振る。


 「ハッ、それは違えよオリバー。

  俺が頑丈なだけだぜ!!」


 「あ、はい。もうそういうことでいいです」


 少年は心底どうでもよさそうに言った。



 カイルとオリバーは、シルク・アステスの様子が気がかりで足を運んでいたのだ。



 「おいオリバー、アクアはどうした?」


 「あの方の看病をすると言って部屋から

  出てきません。今もいると思いますよ」


 オリバーの発言に、カイルは眉を顰めてため息をつく。


 「あいつはただ隣で寝るだけじゃねえか‥‥‥

  なんで放置してんだ、お前らしくもない」


 「水飛ばされそうになったので諦めました」


 「おまえ、意外とテキトーだよな‥‥‥」


 「それに、()()()()も看病すると言ってたので。

  2人きりには、できないでしょう?

  なにかあっても、アクアが対処してくれます」


 「‥‥‥やっぱしっかりしてるわ、おまえ」


 カイルにそう言われたオリバーは、不敵に笑っていた。


 その後、2人が会話を続けていると。



 「今、少し時間大丈夫かしら」


 カールのついた茶髪女性が2人に話しかける。オリバーは少し目を見開き、カイルは声を出していた。


 「エルリカ・アルリフォン‥‥‥なんでここに?

  ていうか、王女たちの護衛はいいのかよ」


 「今はソニアさんの近くにいるから大丈夫。

  それで、あなたたちに話があるんだけど」


 エルリカの言葉に対し、カイルとオリバーは無言の肯定を示す。すると、彼女は話し始めた。


 「ユリアとステラの護衛なんだけど、

  帰りは私だけで大丈夫よ」


 彼女の言葉に、カイルとオリバーは呆気に取られる。するとオリバーは、かろうじて聞き返していた。


 「なんで、ですか?」


 オリバーは、彼女に『必要ない』と言われたように感じ、思わず眉を顰めていた。


 「あ、ごめんなさい言葉が足りなかったわ。

  そういう意味じゃないの、むしろ逆」


 するとその視線の意味を理解したエルリカは手を振りながら誤解であることを示し、少し早口で話す。


 「昨日『聖天教会』の第9代教皇、

  アストリヤ・ミストラルの双子娘が

  アステス王国軍に保護されたの。

  どうやら秘密裏にベルトラ皇国を離れ、

  アステス王国のパレードを見にきたらしくて」


 「‥‥‥そうなんですか」


 オリバーはもちろん知っていたが、今知ったという程で話す。カイルは自分がボロを出さないように黙り込んでいた。


 「そこで、グロッサ王国ギルド所属の君たちに

  ベルトラ皇国までの護衛を依頼したいの」



 これが、エルリカの発言の真意だった。


 オリバーは少し思案した後、話し出す。


 「それは全然かまいませんが、

  僕たちだけで護衛に付いてもいいんですか?

  所詮、僕たちは稼ぎ最優先の冒険者ですよ」


 ギルド所属者としての意見を述べると、エルリカは即座に頷いた。


 「これまでの評価と今回の一件で

  あなたたちのことは信用してるつもり。

  実力も申し分ないし、それにーーー」


 一瞬、口が止まるエルリカ。だが、意を決したように続きを話す。


 「‥‥‥アステス王国軍が、動けそうにないの」


 カイルとオリバーは目を見開き、やがて意味を理解する。



 パレードでの騒動。


 アステス王国軍はソニア・ラミレス大佐と新人の二等兵を除き、軍人としての責務を全うすることができなかった。


 偶然にも軍の主力である大将や中将などがそれぞれ別件で出払っていたという事情があるとはいえ、国の一大事に責務を全うできなかった。


 また‥‥‥パレードが狙われる可能性を軽視して軍の調整が疎かになっていたのではないかと軍の上層部に対する不満が出始めていた。


 そのことが王国軍に対する国民の不信感を買い、騒動に対する非難は王家だけではなく、むしろ軍へと向けられたのだ。




 エルリカはアステス王国の現状を説明すると、本題に戻った。


 「‥‥‥だから今、アステス王国軍は

  国外へ動くことができない。

  もしそれで教皇の子たちを護衛したことが

  バレたら、ますます非難を集めることになる。

  王国軍は他国を守る方が大事なのかってね。

  だから、ソニア大佐は私に頭を下げてきたわ。

  あの人は、何も悪くないのにね」


 エルリカは悔しそうに唇を噛む。国は違えど似たような立場である彼女は共感しているのだ。


 そんな彼女の話を、オリバーは無視することができなかった。


 「事情は理解しました。そこまでされれば、

  断るわけにはいきませんね。引き受けます」


 「っ! ありがとうっ。あなたたちのおかげで

  同盟国の頼みを無下に断らずに済むわ」

  

 エルリカは悩みが晴れたように微笑む。だがすぐに表情が切り替わり、カイルの方を向く。


 「ん? なんだよ」


 「‥‥‥昨日はユリアを助けてくれてありがとう。

  あなたがいなければ、ユリアがあの男に

  攫われていたかもしれなかった」


 「‥‥‥ああそのことか。礼なんていらねえぞ」


 カイルは目を逸らしながら無愛想に呟く。



 カイル自身、あれはユリアを助けるための行動ではなかった。


 ただ、ユリアを連れ去ろうとする()()に怒っただけだったのだ。


 それなのに礼を言われたため、カイルは申し訳なく感じてエルリカの顔を見れなかったのだ。



 だが、相手の顔を見てないのはエルリカも同様だった。


 「‥‥‥私、何もできなかった。

  あの時、ユリアが危険な目に遭うかも

  しれなかったのに、身体が動かなかった。

  もし私が動いてユリアが傷付いたら

  どうしようって、動けなかった‥‥‥!」


 彼女は視線を地面に向け、唇を震わせる。


 それに気づいたカイルは、頭を掻きながら口を開く。


 「別に間違いじゃねえだろ。

  むしろあの時、俺は王女もろとも

  ぶん殴ってたかもしれねえ。

  そうなったら、完全に俺の方が悪い」


 「っ、それはそうだけど、でもーーー」


 「なら、次は俺より完璧に救えるように考えて

  鍛えていけばいいんじゃねえか?

  だっておまえ、すげえ強えし」


 (カイルが考えるって言葉を使いますか‥‥‥)


 カイルの言葉を聞き、横にいたオリバーは内心呆れていた。


 だが、エルリカは違った。


 「‥‥‥そうね! この後悔を次に活かす!

  いつまでも悩むなんて私らしくない。

  それに馬鹿ルークに心配させちゃうし」


 「ば、馬鹿ルーク?」


 カイルが間抜けな表情で声を漏らす。それに気付いてないエルリカは清々しく微笑んだ。


 「本当に色々、ありがとう」


 「おう」


 「いえ、これからもよろしくお願いします」


 カイルとオリバーが同時に答えると、エルリカは片方と視線を合わせた。


 「カイルくん、『ルーライト』に入らない?

  あなたならルークも喜んで了承すると思うけど」


 「っ、勘弁してくれ。

  俺には国の誇りなんて微塵もねえ」


 「そう‥‥‥残念。ま、また考えてみて」


 エルリカは一瞬だけ眉を下げた後、気を立たせるように話を変えた。


 「それじゃ私はステラとユリアと共に

  今日この国を出るから、あとはお願いね。

  教皇の双子娘さんはまだいるらしいから

  長くなるけど、よろしくおねがいします」


 「え? あ、ああ」


 「わかりました、お気をつけて」


 2人に返事をされて安心したエルリカは、踵を返して去っていった。



 「‥‥‥そっちは今日出るのかよぉぉ!!?」


 「‥‥‥エルリカ・アルリフォン。

  ルーク王子と付き合いが長いだけあって、

  意地悪さな所が彼に毒されてますね。

  これは手強い、今後も要注意ですね」


 その場に残ったのは叫び声を上げるカイルと、1人冷静に分析するオリバーだけだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 3日間にあった経緯を話したユニカは、端的にまとめる。


 「‥‥‥ってことでユリア王女とステラ王女、

  エルリカ・アルリフォンの3人は既に

  この国から出て、グロッサ王国へ向かってる。

  彼女たちにあなたのことは知られていない。

  もしここで休んでたことを知られたら、

  あなたが疑われることに繋がるでしょ?」


 「‥‥‥そうだな、ステラ王女とエルリカさんに

  知られるとまずい。だから助かった」


 「それならよかったわ」


 「ちなみに、カイルとオリバーは?」


 アイトが聞き返すと、ユニカは両手を顔の前で広げる。


 「ミルラとリルカの観光に同行してる。

  あなたが目を覚ます、今この時まではね」


 「え、それはどういうーーー」


 アイトは疑問を抱くと、突然扉が開く。


 「無事ですか!?」


 「おお〜元気に目覚めてますなぁ〜!!」


 入ってきたのは話に上がっていた双子、ミルラとリルカだった。


 「え!? ふ、2人ともいったい何でーーー」


 「それはこっちのセリフですぞ!

  騒動の際に突然はぐれたと思ったら、

  傷まみれで発見されたと聞いて驚きましたぞ!」


 「リルカの言う通りです!!

  しばらくは目を覚まさないって聞いて、

  すごく心配したんですからぁ〜!!」


 涙目で叫ぶミルラの頭を、リルカは優しく撫でる。


 「ユニカちゃんに連れ出してもらって

  ルビーさんの生歌を聞くまで、

  ミルラはずっと泣きじゃくってましたぞ!

  アイトくん! 謝ってくださいませ!」


 「‥‥‥そう、だったのか。‥‥‥ごめん」


 アイトの謝罪は、2人()()に向けられたものではなかった。それに気付いたのは、発言者のアイトとその相手のみ。


 当然気づかなかったリルカは、首を傾げながら話しかけていた。


 「アイトくん、いったい何があったのです?

  騒動の中、誰かに襲われたのです?」


 「‥‥‥まあ、そんな感じ。

  でも大丈夫、もう元気だから」


 「なら、本当に良かったですぞ〜!

  それとアイトくんに話すことがありまして!

  我々、グロッサ王国のギルド所属の方に

  送っていただけることになりましたぞ〜!」


 「え? 俺も?」


 「いえ、ユニカちゃんもですぞ!

  お二人は確かグロッサ王国出身です?

  なのでギルドの方が()()()に送ってくださると!」


 「なのでアイトさんが目を覚ますまで

  私たちも待ってたんです。

  お友達と楽しく帰りたいので!」


 双子姉妹が和気藹々と喜んでいる中。


 (‥‥‥そういうことか)


 アイトは、既に勘づいていた。


 ミルラとリルカをベルトラ皇国まで送り届けた後、他の目が届かない馬車の中で()()あることを。



 1時間後。


 「皆さん、準備できましたか?」


 「できましたぞ〜!!」


 オリバーの問いかけに、答えたのはリルカ。隣のミルラは妹の目立ち具合に、恥ずかしさを感じて顔を赤らめている。



 「‥‥‥よろしくおねがいします」


 「‥‥‥おう」


 そして、アイトはギルド所属という表向きがあるカイルに一礼した。返事をしたカイルも、ぎこちなかった。


 「それじゃ、皇国までは俺が手綱握るわ。

  アクア、オリバー。その後はおまえらの

  どっちか、手綱握るの代わってくれ」


 カイルは頭を掻きながら淡々と呟くと、馬の状態を確認し始める。


 「それじゃあ皆さん、行きましょうか」


 オリバーは頷いた後、すぐにミルラたちへ優しく話しかける。


 「は、はい」


 「楽しみですなぁ〜!」


 ミルラとリルカは高揚した様子で声を出していた。


 「アイトさん、ユニカさ〜ん!」


 「早く行きましょうぞ!!」


 だが話しかけられたアイトとユニカは、どこか神妙な顔を浮かべていた。


 「‥‥‥あなたの仲間に歓迎、されてるのかしら」


 「それは、わからない。でも乗るしかない」


 小声で話したアイトとユニカは、少し重い足取りで馬車に乗る。


 「zzz‥‥‥」


 「さ、どうぞ」


 すると中ではアクアが既に眠っており、オリバーは最後に乗るのかアイトたちの後ろに控えている。


 やがてカイルを除く全員が馬車の中に入ると、パチンっと何かを弾く音が小さく響く。


 カイルが御者台に座り、馬の手綱を握ったのだ。馬車は少し揺れた後、やがて動き出す。



    「さあ、楽しい帰り旅の始まりですぞ〜!!」



 そして始まりを告げるかのように、馬車の中でリルカの声が響き渡るのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アステス王国、王都。


 『アステス王国のパレード、謎の襲撃者により

  開催中止。王国軍の課題が浮き彫りか?』


 見出しがついた新聞記事が、瞬く間に国中で広がっていた。


 それはやがて、城にも届く。


 「‥‥‥」


 シルク・アステスは記事に目を通し始める。


 「ーーーっ、なんですってッ‥‥‥」


 彼女が手を震わせ、涙を溜めて嗚咽を漏らす。



 それは端の方に小さく記載された、とある内容。



    『アステス王国軍、死亡者一覧。


     セシル・ブレイダッド二等兵


           以上     』



    「セシル‥‥‥なんで、あなたがっ」



 今回の騒動で、アステス王国は多くの問題が浮き彫りになるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アステス王国軍、軍基地。


 「アラン中将、手筈通りになりました」


 「ご苦労、下がってよいぞ」


 「はっ!」


 中将と呼ばれた男は部下が退出するのを見届けてから、魔結晶を取り出す。


 「俺だ。これで動きやすいだろう?

  彼も、お前たちも。あとは任せるぞ」


 『はい、ありがとうございます〜!

  ちょうど人員を補充したかったので

  至れり尽くせりですよ、さすが中将!

  まさか、そんな子を差し出してくれるなんて!』


 魔結晶越しの声は、可愛い女の子の声だった。


 「かまわん。あの存在が明るみになった以上、

  もう軍には置いておけない。

  それに、あの力はお前たちの方が必要だろ」


 『中将の言う通り、さすが中将!

  ナナにもしっかり話しておきますね〜!』


 「‥‥‥もう切るぞ。こちらも忙しいんでな」


 『え、急に態度変わってわかりやーーー』


 男は無断で魔結晶の接続を切る。



 軍の中でも少数しか知らない者たちの中で、秘密裏に何かが動き始めていた。

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