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空白の15秒

 ユニカが合流した、ルビー救援サイド。


 「私は何をすればいいかしら!?」


 ユニカはアクアの隣に座り、様子を伺う。


 「そだね〜‥‥‥あ、じゃあーーー」


 アクアは抑揚のない声で、簡潔に伝えた。それを聞いたユニカは目を開いて困惑する。


 「‥‥‥え? なんでなの?

  それで、ルビーさんが助かるの?」


 「説明してる余裕ない〜」


 短い返事を聞いたユニカは『彼女は血を止めるのに必死なんだ』と解釈し、口を挟むのをやめた。


 本当はアクアがただ説明したくないだけだったのだが、初対面のユニカに分かるわけがない。


 「あーしがこれ続けるから、あとはよろ〜」


 アクアは軽い口調で話しかけると、ユニカは強く頷いて立ち上がる。


 「わかった。すぐに連れてくるから!!」


 そして、踵を返して路地裏から出ていく。


 そんな一部始終を見ていたセバスは、負けじとアクアに話しかける。


 「わ、わしは何をすれば良いのじゃ!?

  お嬢さまのためなら、どんなことでもーーー」


 「それじゃ、あーしの肩揉んで〜」


 「は?」


 帰ってきた彼女の要求に、セバスは開いた口が塞がらない。


 「はやく〜。これ、死んでもいいの〜」


 「不謹慎なことを申すな!!!?」


 声を荒げるセバスだったが、渋々アクアの肩をとんとんと叩き、揉み始める。


 「あ〜いいかも〜。じーさん、慣れてるぅ」


 「本当に意味あるんじゃろうな!?」



 ちなみに、彼女の肩は全く凝っていなかった。


 (あ、そういえば名前聞いてないかも)


 そして、力の抜けた様子で魔法を継続するアクアだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 とある建物、2階。


 一般の販売フロアである場所が、今は破片が飛び散っている。


 「ぐぁっ!?」


 呻き声と共に、背中から商品棚に激突するのは銀髪仮面の男。



 エルジュ代表『天帝』レスタこと、アイト・ディスローグである。



 四つん這いになって呼吸を整えていると、彼の前方から破片を踏み砕く音が響く。


 「おい、俺のこと馬鹿にしてんのか???

  少しは反撃してこいよ。ナメてんのか?」


 赤髪の竜人、カイルが這いつくばるアイトに言い捨てる。


 「‥‥‥お前と戦う気はない。

  この戦いに意味は無いんだよ。

  俺は、ルビーさんを助けなきゃいけないんだ」


 「あ? 何を言ってんだテメェは?

  目の前の俺は眼中に無ぇってか??」


 かろうじて立ち上がったアイトが紡ぐ言葉に、カイルは神経を逆撫でされた気がした。


 そしてカイルは床を蹴って突進し、剛速の右フックを炸裂する。


 反応が遅れたアイトは咄嗟に左手を折り曲げて防御姿勢を取るが間に合わず、脇腹に直撃する。


 「がはっ‥‥‥」


 またも背中から近くの壁に激突し、座り込む。


 「なんだこの体たらくはァ!?」


 そんな彼の頭を蹴飛ばすつもりで、カイルは追撃のつもりで左足を振り抜いた。


 直後、鈍い音が響き渡る。


 アイトが、交差した左手で受け止めていた。



 「今、ルビーさんが重傷なんだよ!!

  だからユリアの治癒魔法に頼ろうとした!

  このまま何もできなかったら、

  俺とお前のせいで彼女は死ぬんだよッ!!!」


 そしてアイトは、焦りのあまり大声を出していた。


 「なんだと‥‥‥?」


 そんな並々ならない様子に、さすがのカイルも攻撃をやめて眉を顰める。


 すると、沈黙を破るかのようにアイトの魔結晶が光り出す。


 「っ!」


 アイトは無我夢中で魔結晶を手に取る。すると、魔結晶から相手の声が響く。


 『あるじ〜疲れたよ〜』


 「アクア! 何かあったのか!?」


 アクアからの謎の報告を無視し、アイトは話しかけて来た理由を尋ねる。


 すると、アクアとは違う声がアイトの耳に届いた。



 『もう大丈夫よ、間に合った!

  ルビーさんの治癒は無事に終わったわ!!』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アイトの魔結晶が光る10分前。


 「いつまでこれを続けるのじゃ!?」


 「ん〜、これが終わるまで〜」


 「お嬢様を『これ』と呼ぶなっ!?」


 アクアの肩を叩くセバスが、説教を始めるが如く大声を出した頃。



 「連れてきたわっ!!」



 声と共に、3人の足音がアクアの前で止まる。


 1人はアクアに指示された通りに行動した、ユニカ・ラペンシア。


 「そ、その傷はっ‥‥‥!!」


 「歌姫さまが大変ですぞっ!!!」


 あとの2人は鮮やかな金髪が特徴的な、双子姉妹。


 『聖天教会』教皇の娘、ミルラとリルカである。


 セバスは目を見開いて驚き、アクアは口を少し開けて感心していた。


 「お〜よく連れてきた。やるじゃん新人〜」


 「2人とは面識があったから!

  ていうか地味に上から目線ね!?」


 ユニカは愚痴をこぼしつつも、双子姉妹の手を引いてルビーの近くにしゃがみ込む。


 「ミルラさん、リルカさん。

  王国軍に保護されてた所を強引に

  連れてきてごめんなさい。

  でも今、あなたたちの力が必要なの」


 ユニカが頭を下げ、言葉を続ける。


 「ルビーさんを助けるのに、協力してほしいの」


 そう言い切った彼女に、ミルラとリルカは強く頷いた。


 「もちろんですっ。謝ることじゃないです。

  もう同じ事を繰り返したくありませんっ!!」


 「その通りですぞ! やりますぞ!!

  少し危ないですので、離れて下されっ!」


 リルカが忠告した直後、ユニカとセバスはすぐに壁際へと動く。


 「え、肩揉みは〜?」


 だが話を聞いていなかったのか、アクアはその場から動かない。それどころか肩揉みを要求する始末。


 「〜もう、早く離れなさい!!」


 「ちょ、痛いよ〜」


 痺れを切らしたユニカは再度近寄ってアクアを強引に引っ張って移動させた。


 「リルカ」


 「やりましょうぞ」


 するとミルラとリルカは互いを見つめ合い、手を握る。2人は繋がっていない外側の手でルビーに触れた。



 「名目は」


 「『歌を通じて多くの者の心を癒し、

   寄り添い、そして救ってくれました』」


 「呼び方は」


 「『こちらの少女』、次からは『少女』」


 ミルラが呟く問いかけに、リルカが相槌を打つように答えていく。


 「願いは」


 「『御身をお救いください』」


 詠唱の確認を終えた2人が膝立ちになると同時に頷き、お互いの手を強く握り直して目を閉じ、息を合わせる。


 そして、唱えた。



 「「聖天使エルフィリア様。

   『聖天教会』教皇アストリヤ・ミストラルの

   代理である私たちが、お願い奉ります。

   こちらの少女は歌を通じて多くの者の心を癒し、

   寄り添い、そして救ってくれました。

   その多大なる恩に報いるため、

   どうか少女の御身をお救いください」」



 一言一句違わない完璧な2人の詠唱により、【聖天の祈り】が発動する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ルビーさんが、助かった‥‥‥のか?」


 アイトは信じられないと言った様子で息を呑み、魔結晶越しに返事を待つ。


 『ミルラさんとリルカさんの特別な力で

  ルビーさんの傷は癒えたわ!

  まだ意識は戻らないけど、もう大丈夫よ!』


 『ねぇ、あーしもがんばったけど〜?』


 聞こえてくるのは確かな応答と謎の対抗心。アイトは安堵のあまり、深く息を吐く。


 「よかった‥‥‥本当に、ありがとうっ‥‥‥」


 そして、僅かに声を振るわせながら感謝を伝える。


 『‥‥‥それは、がんばった2人に直接言って?

  今、力を使った反動で眠ってるけど』


 『ね〜、あーしもがんばったから〜。

  あるじがちゃんと返してね〜?』


 普段と全く変わらないアクアに、アイトは思わず笑ってしまう。


 「‥‥‥ああ。本当にありがとう」


 再度感謝を伝えて、アイトは魔結晶の接続を切った。


 そして、自分の前に立ち尽くす大男カイルに視線を合わせる。


 「‥‥‥おい、知らねえ女の声が聞こえたぞ。

  今、アクアの近くにいる女は誰だ?」


 カイルは何がなんだか分からないと言った様子で呟く。アイトはゆっくりと立ち上がり、真剣な表情で口を開く。


 「‥‥‥それも含めて、これから全部話す。

  今度は、聞いてくれるよな?」


 「ああ。テメェの言い訳、聞いてやる」


 カイルの横暴な返事にも、アイトは何も言い返さない。


 「‥‥‥場所を変えよう」


 「近くに人目につかなそうな森がある。

  そこで、テメェの言い訳を聞いてやる」


 念には念を入れて、全く人のいない場所へ移動するのだった。




 王都から離れた2人は、偶然小さな森へ足を踏み入れる。


 「さ、話してもらおうか。

  今回の騒動の真相ってやつを」


 2人は対峙する形で距離を取っている。


 「ああ、全て話す」


 カイルの質問に、アイトは自分に話せる全てのことを話しだす。




 ・魔闘祭の一件で『ゴートゥーヘル』の最高幹部の1人、ユニカに正体を知られたこと。


 ・そのことを脅しに、『エルジュ』に加入したいと交渉されたこと。


 ・加入するための条件として、ゴートゥーヘルが計画していた『パレードでの教皇暗殺』について知ったこと。


 ・その計画を阻止するべく、先に行動して暗殺騒動を起こすことで教皇のパレード参加を止めたこと。


 ・だがパレードではルビー・ベネットが狙われ、最高幹部のノエルと対峙したこと。


 ・ユニカに裏切られた形となったが、逆にそれを利用して最高幹部の老人を始末したこと。


 ・これまでの言動と行動から、ユニカは信用に足ると確信したこと。




 簡潔にまとめても長い説明を、アイトは少しも省かずに誠心誠意話した。


 そんな話を聞いたカイルが呟いた、最初の言葉は。



    「‥‥‥その女、助ける意味あんのか?」



 ユニカの存在をよく思わないという意図が詰まっていた。


 それを薄々予想していたのか、アイトはすぐに言い返す。


 「あいつは嫌々、奴らといたんだ。

  俺は実際に、その扱いを見た。

  酷いなんて言葉で片付けられないほどだった」


 「そうだとしても、信用ならねえだろ!

  奴らの情報を持ってることを踏まえても、

  マイナスの方がはるかに多いだろうが!!」


 「っ‥‥‥だったら、放っておけって言うのか!?

  何の後ろ盾も無い、孤独に苦しむあいつを

  見捨てろって言うのか!?」


 「見捨てる? そんな危険なことできるかよ」


 「なに‥‥‥?」


 アイトは意味が分からずに眉を顰める。だが、すぐに理解することになる。


 「殺せばいいんだよ。奴らの仲間だったんだ。

  別に悪い話じゃねえだろ?」


 「カイル、お前ッ!」


 アイトは咄嗟にカイルの胸ぐらを掴み上げる。だが、カイルは微動だにしない。


 「俺たちには何の関係も無いじゃねえか。

  どんな経緯があったとしても、

  奴らの仲間だった女を救う意味があんのか?」


 「‥‥‥!」


 「その女の過去を知って殺せないなら、

  俺が代わりに殺してやる。それで良いだろ。

  厄介ごとに頭を抱える必要もない。全て解決だ」


 「ッ‥‥‥!!!」


 アイトは無意識に、胸ぐらを掴む手を強めていた。だが、カイルも引かない。


 「お前は甘えんだよ。特に他人にな。

  自分に対しては厳しいくせに、意味わかんねえ」


 「俺は、ただ自分のためにーーー」


 「そう言うところがお前の悪い癖だよ。

  タチの悪い、無自覚なカリスマ性がな」


 「カリスマ‥‥‥? 俺にそんなものはーーー」


 アイトの反論を、カイルは腕で制して止める。


 「なんでお前の周りには勝手に人が集まるんだ?

  お前が人を惹きつけてるからだろうが。

  その根拠は確実にあるぜ。

  エリスやカンナ、ミアの視線に

  お前は微塵も気づいてねえのか?」


 「は‥‥‥? 何のことだよ」


 「はぁ〜。鈍いって次元じゃねえな。

  あれは完全に信頼しきってる目だ。

  『どこまでもついていく』って顔してるぜ」


 カイルの発言を、アイトは全く理解できなかった。


 「なあ、カッコつけんのも大概にしろよ。

  いくら悲惨な過去があるにしろ、

  同情できるにしろ、怨敵の仲間だった女だぞ。

  助けなくても別にいいだろうが。

  見捨てても、誰もお前を責めやしねえよ」


 「はぁ!? 俺がそんなお人好しに見えるか!?」


 「ああ見えるねっ!!

  全員が首を縦に振るだろうぜ!!」


 頑なに否定されたアイトは、沸点を超えた。


 「俺は、ただ後悔しそうだから助けたいだけだ!

  ラペンシアの過去を知った今、おいそれと

  見捨てるなんて気分が悪くなるだろ!!

  ふとした時に思い出して、悩むことになる!

  そんな日常を、俺は過ごしたくない!!」


 「それが甘いってんだよ!!

  そんなのは、馬鹿げた理想論だ!!

  生きる上で後悔しない奴なんていねえよ!!」


 「そんなの分かりきってる!!!

  俺だってそうだ!! ずっと後悔してる!

  俺の不注意でターナが傷付いたあの瞬間を、

  いつまでも忘れることができないんだよッ!!」



 我を忘れて言い叫ぶアイトは、自身の発言の記憶を反芻していた。 


 「ッ‥‥‥!」


 それは夏休みに入ったばかりの出来事。


 自分を庇って麻痺を受けたターナが拉致され、腕を斬り落とされた苦渋の記憶。


 そのことを思い出すたび、ケジメとして一度斬り落とした腕の患部が熱を放ち、ジリジリと痛む。


 傷はとっくに完治しているのだが、アイトは未だに忘れることが出来なかった。いや、これからもずっと忘れられない。



 「‥‥‥もう二度と、あんな思いをしたくない!!

  だから俺は見捨てるなんてできないんだよッ!!」


 アイトは後悔と苦い記憶を追い払うかのように、勢いに任せて言い切る。カイルはわざとらしいため息をついた。


 「ったく、なんて頑固な野郎だ。

  他人思いに見えて、実は自分本位。

  そのくせ他人には甘い部分もある。

  そして腹が立つほど無自覚なお人好し。

  お前のことがますます分からなくなったぜ」


 「‥‥‥だから言ってるだろ。俺は自分勝手だって」


 我に帰ったアイトは、気まずそうに愚痴をこぼす。


 「でもお前がそういう奴だから、

  エリスやミアは慕っているんだろうな。

  だが、俺は別にお前を尊敬してるわけじゃねえ」


 するとカイルは、自分の胸ぐらを掴むアイトの手首を掴み返す。


 「そもそも俺は以前、お前に負けたから

  下について自分を鍛えてるんだよ。

  面白え奴も多いが、別に名残惜しくもねえ。

  お前に勝てば、もう『エルジュ』に用は無え」


 そして、アイトの手を強引に振り解いた。


 「これ以上、話し合っても無駄だ。

  俺はお前の話を受け入れるつもりはないし、

  お前も俺の話を受け入れる気がない。

  なら、()()()決めるしかねえ」


 そう呟いたカイルは、魔結晶を取り出す。


 「おう、オリバー。俺だ。

  悪いんだが、今すぐ来てくれねえか?

  場所は‥‥‥ああ、わりいな」


 連絡終了後、カイルは両手に【血液凝固】を発動し、深く構えた。


 「‥‥‥なんのつもりだ」


 「オリバーに証人となってもらうんだよ!

  俺とお前、どっちが勝ったかなぁ!」


 カイルは意気揚々と、アイトを指差す。


 「エルジュ戦力序列5位の俺は、

  今からお前に決闘を申し込む。

  序列0位、最高位の『天帝』レスタにな!!」


 「‥‥‥本気か?」


 アイトが淡々と呟くと、カイルは意気揚々と拳を握る。


 「序列の高い方が自分の理屈を通せる!!

  だが今のお前の指図なんて死んでも聞かねえ。

  所詮口だけで、何も証明してないお前をな」


 「ーーーだから、戦ってみせろと?」


 「ああ、だが勘違いすんな。

  負けるつもりは微塵もねえぞ!!

  俺はお前に勝って、俺の意地を通す!!

  だがもし、お前が俺に勝ったら

  お前の話を無条件で呑んでやる。

  助けた女を『エルジュ』に引き込むのも

  止めやしない、敗者にその権限はねえ。

  それに、今までと変わらず残ってやる!

  俺に勝ったお前を、倒すためになぁ!!」



 要するに、戦って勝った方が自分の意地を通すことができる。


 『力を証明しろ』、そう言わんばかりだった。



 「‥‥‥おまえ、俺と戦いたいだけだろ」


 アイトが呆れた様子で口を開くと、カイルは不敵な笑みを浮かべる。


 「おまえと戦う機会なんて、滅多にないからな!

  それに、今の俺はおまえを倒す自信がある!!」


 「‥‥‥わかったよ」


 アイトは渋々といった様子で愛剣、『聖銀の剣』を鞘から抜き取る。



    「ーーーでも、後で言い訳するなよ」



 そして、睨み殺しそうなほどの威圧感を放つ。殺気の篭ったその目は、完全に皆が畏怖する『天帝』そのもの。



 「‥‥‥ハッ、言うじゃねえか」


 カイルは腕を武者震いさせながら嬉しそうに笑い、大声で叫ぶ。


 「さあ、始めようぜ『天帝』さんよぉぉ!!?」


 まるで、死闘の幕開けと言わんばかりに。




  「‥‥‥さっきの魔力解放で消耗が激しいな」


 だが、アイトの意識は別の方を向いていた。


    「‥‥‥今の俺だと、もって15秒か。

     でも一騎討ちなら、使えるーーー」


 独り言を呟くアイトは、並々ならぬ気配を醸し出していた。


 その事に気づかずに、カイルは全速力で突進する。



    顔を上げたアイトは、小さく呟いた。



       「魔燎創造 ーーーー」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 (なんでカイルは要件を伝えないんですか、

  しかも大急ぎって、まったく‥‥‥)


 パレード道中で『ゴートゥーヘル』の行方を調べていたオリバーは、悪態をつきながら移動していた。



   そう、カイルに伝えられた小さな森へ。



 (あれですね。早くカイルと合流しないと)


 やがてオリバーは【血液凝固】を発動させ、遠くに見える森の様子を伺う。


 「‥‥‥えっ!?」


 そして、驚きの声と共に移動の足を速めた。



 オリバーは、異様な光景を目撃した。



 「ぐっ‥‥‥ガハッッ‥‥‥」


 自分を呼び出したカイルが、血まみれで仰向けに倒れている姿。


 「はぁ、はぁ、はぁ、っ‥‥‥」


 そして、対峙するアイトが剣を地面に刺して片膝をついている姿を。


 「い、いったい何があったんですか!?」


 オリバーは真っ先にカイルの元へ駆け寄り、様子を伺う。


 「‥‥‥へっ、憎たらしい奴だっ。

  今回は、お前の勝ちだ、レスタ‥‥‥」


 そう呟いたカイルは、意識を失う。


 「お、オリバー‥‥‥カイルを頼む。

  俺は、もう少し休んでからーーーヴッ!?」


 そしてアイトは頭を抑えながら、身体の重心が崩れる。銀髪も元の黒髪へ戻り、うつ伏せに倒れて動かなくなった。


 「な、何があったんですか2人ともっ!!!?」


 残ったのは、状況についていけないオリバーだけだった。

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