『黄昏』の実力、後編
「うらぁぁぁぁぁ!!!!!!」
カイルは自分の何倍も大きいトロールを殴り飛ばす。
「へっ!!! 【血液凝固】を使うまでもねえ」
カイルの持ち味は竜人族特有の類稀なる身体能力と馬鹿力、そして彼自身が恵まれた肉体。また、ラルドから教わった【血液凝固】に高い適性を持っていた。
カイルは魔法を全く使えない。それはミアと同じだが、理由が違う。
カイルは自分の体で生成した魔力が自動で全身に流れ込んでしまう特異体質。そのため魔力は全身に流れているが出力ができず、魔法を全く使えない。
だがその特異体質で、髪の毛や肌、内臓に至る全てが生まれてから今まで魔力で覆われ続けているため、あらゆる魔法への耐性が高い。
そして鍛え上げた肉体を活かして敵をぶん殴る。それだけでカイルは序列5位になった。
「おらぁぁぁ!!!! もっと来いやぁぁぁ!!」
彼の周辺にいたトロールは、とっくに絶命していた。
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「うわこっち来た、めんどくさー」
アクアは、接近してくる大量のガーゴイル相手に水の槍を無数に飛ばす。ガーゴイルは姿形がなくなるほど水の槍に抉られた。
アクアは水に愛された女。
水魔法を極めており、また自然にある水を自由自在に操ることができる。
武術や座学は目を当てられないほど苦手だが、それがどうでもよくなるほどの水の使い手だった。
攻撃にも防御にも自由自在に使える水の汎用性の高さから、序列4位に選ばれた。
「はあ、疲れた。早く休みたいー」
大量のガーゴイルの死骸の前でしゃがみ込み、独り言を呟くアクアだった。
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「う〜ん、全然良い技ないなあ」
カンナは大量のオーガの攻撃を避けながらそんな事を考えていた。
「もういっかっ! いくよ!!」
カンナは左手で輪っかを作りその穴に右手を通す。そしてオーガの攻撃をスライディングで避けながらオーガの股下へ。
「【打ち上げ花火】!!」
オーガが打ち上がる花火と共に上空に吹き飛んでいき、爆発と共に爆ぜた。
「あ、やっば!! 目立つのダメなんだった!」
カンナは少し反省しながら周りを見渡す。
「あり??????」
さっきのオーガの悲惨な最期を見た魔物が恐怖し、カンナの周りからいなくなっていたのだ。
「え〜!1匹しか倒してないよ〜!!これ、怒られちゃうじゃん!!」
カンナは相手の技を模倣することができる。それを可能にしているのは目。
【無色眼】。魔眼とはまた別の特異体質である。
何も色づいてないその目は見た物を鮮明に記憶し、視神経から脳にその光景が送り出される事により動きの再現が可能になる。
それは魔法も同じで、カンナ自身が原理や構成が全くわかってない魔法でも模倣することが可能。しかも無色眼の特性のため魔力は全く消費しない。
なぜ魔法まで模倣できるのかは全く不明である。
【魔眼】は聖者の血による遺伝で現れることがあるが、【無色眼】は遺伝でない。完全に突然変異でしか無色眼は現れない。またその理由も不明。
そして無色眼を持つ者は限りなく少ない。魔眼と同じ価値を持つとさえ言われている。
その希少価値の高さ。まるで神から与えられたような能力がために、宗教団体や謎を解き明かしたい者たちから執拗に狙われ続ける。
魔眼と違い、無色眼は染色魔法で色を変えることが不可能。その理由は一切不明。
「早くみんなの加勢に行かないと!」
そう言ったカンナの瞳に少しだけ澱みが生まれる。そしてその直後。
「!! うっ、はあっ、はあっ」
カンナが苦しみ出した。それはレスタの魔法を模倣したから。
模倣を使うと瞳が淀んでいき視界が狭くなっていく。短時間で模倣を多様すると瞳が全て淀んでしばらくの間、目が見えなくなってしまう。
またカンナ自身に合っていない動きや技、魔法を模倣すると後に拒絶反応が出て体に大きな負担がかかる。カンナに合っていない技や魔法、動きの度合いが大きいほど体への負荷は大きくなる。
だが模倣という反則に近い能力、そして一芸に突出はしてないが総合力が高いことから序列3位に。
「はあっ、はあっ、すっごい疲れたっ!レスタくんはやっぱりすごいやっ!」
カンナは笑顔でその場に座り込むのだった。
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多くの多種族の魔物たちから鮮血が飛び散る。
未だに魔物たちは近くにいる1人の少女を認知できていない。一方的に殺され続けている状況だ。
魔物たちは恐怖を感じる間もなく絶命していた。
周辺の魔物が全て死んだところで、黒髪ショートの少女が黒いローブを風で揺らしながら姿を現した。
「なんでボクがレスタの下につかなきゃいけないんだ。まったく」
ターナは新組織『エルジュ』に加入してからも実力を伸ばし続けた。それは元同僚のミストを凌ぐほどに。
ターナの持ち味は暗殺技術と隠密性。敵に姿を見せることなく暗殺することが誰よりも得意。また短剣や暗器などの技術も突出している。
正面戦闘は黄昏の中で得意な方ではないが、彼女の突出した持ち味が高く評価され序列2位に。
だが、アイトのことは今でも全然認めていなかった。
それに1年半前、アイトとエリスに貸した愛用の短剣をボロボロになって返ってきたことをまだ許していなかった。
「ったく、なんでボクがこんなこと」
もちろん張本人の2人はすっかり忘れている。
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「もう終わりですか? 拍子抜けですね」
金髪ハーフエルフの魔眼持ちの少女は、歩きながら1年半の間に新調した愛用の長剣で大量の魔物を一撃で仕留め続けた。
大勢に囲まれても、一撃も攻撃をくらわない。全く物怖じしない胆力。そしてそれを実行し得る実力。まさしく勇者の末裔として成長していた。
エリスはアイトから離れた1年半でラルドの訓練の他にも新組織『エルジュ』拡大のために多くの任務をこなして来た。
序列7位のオリバーは彼女を尊敬し、エルジュに加入した1人である。
そこで戦闘経験を重ね自分を鍛え続けた。そしてエリスは魔眼の力を前よりも開花させた。相手の動作の先読みができるようになる。
【剣戟】。
相手の動きを先読みして、流暢な動きで圧倒するその姿はまさにその名前にふさわしい。
エリスは全ての項目においての圧倒的実力、そして魔眼の数多くの特性により他の訓練生を全く寄せ付けなかった。
魔眼のことはアイトとラルドと黄昏以外には隠している。だがそれでも彼女が序列1位になると誰もがわかっていた。
短剣の件で恨んでる元暗殺者や脳筋、アイトに長年仕えていたことに嫉妬している少女という例外を除いて。
エリスの周辺の魔物は、戦意を喪失する。
「逃しません」
エリスは両目を元の赤色よりもさらに濃い真紅に輝かせる。すると一瞬だけ、両目の瞳に勇者の聖痕が明滅する。
その直後にエリスから突風が発生し、魔物たちを通過した。
すると周囲の魔物は外傷が全く無いにも関わらず生命活動を終えた。
エリスは魔法で両目を普段の水色に染色させる。
これが1年半で身につけた魔眼の力で最も強力な【魔戒】。
魔眼に集めた魔力が勇者の聖痕に反応して空気圧を生み出す。それには勇者の聖痕に記憶されたエリス自身の強さが反映されている。
エリスに実力で全く及ばない者たちはその凄まじい魔力を帯びた風気圧を肌で感じることで細胞一つ一つが絶対に勝てないと感じとり、その信号が脳に直接作用する。
そして何億、何兆も存在するといわれる細胞がそれぞれ異常信号を脳に伝達することで脳がその処理に耐えきれず停止するという恐ろしい技。これは勇者の聖痕を宿した魔眼を持つエリスにしかできないことだった。
この技は強力だが実力が近しい、もしくはエリスより強い者には全く効かない。そしてその判断が難しい。
また凄まじい魔力を消費する。魔力全快状態のエリスでも現在2回しか使うことができない。
しかし格の違いをこれ以上ないほど見せつけたエリスであった。
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「‥‥‥」
アイトはラルドから貰った聖銀の剣で、魔物の群れ相手に試し切りしながら『黄昏』のメンバーの戦闘を眺めていた。
アイトは悟った。この10人、国の権威を揺るがしかねないと。
ラルド、お前ちょっと本気で訓練生を鍛えすぎたと。
新組織『エルジュ』、やばすぎると。
そしてそんな組織の代表なんて、絶対大変だと。