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鮮血のパレード

 パレード道中。


 魔力解放を果たしたアステス王国軍二等兵、セシル・ブレイダッドは呪力のレーザーを相殺し、走り出す。


 「ははっ、まだ猛者がいたかっ!?」


 呪術集団 《ジ・ヴァドラ》頭領、ヴァドラ・ヴォンは嬉しそうに再度呪力を集める。



 「ーーーーーー」


 セシルは無意識に、これまでの人生で見てきた中から魔法を映し出す。


 (あれは私の‥‥‥!!)


 ソニアは思わず声を漏らしそうになる。


 彼女自身が使う光魔法【シャイニーズ】。


 セシルが光の如き速さでヴァドラに詰め寄った。



 「! アツいぜっ!!」


 セシルの左掌底がヴァドラの顎を撃ち抜いた。


 「っ!! グォっ‥‥‥」


 ヴァドラが呻き声を上げる。軍人とはいっても、まだ目立たない新人であるセシルの一撃がこんなにも重いはずがない。


 これは、セシル自身の固有魔法によるものだった。



 【衝撃インパクト】。


 攻撃の際による衝撃の強弱を魔力で調整できる。


 セシルはこの魔法以外、全く使えない。それは基本属性魔法でさえも。そのため軍では全く使い物にならないと噂され、浮いていた。



 だがソニアはこの時、それは違うと確信した。


 無色眼によるコピーと、それにセシル自身の魔法【衝撃インパクト】によって威力を引き上げる。


 反則といえるこの組み合わせを持つ代償に、属性魔法を使えなかったのだと。



 「やるじゃねえかっ!! 軍人さんよぉ!!」


 ヴァドラが呪力を纏った右腕で薙ぎ払う。セシルは無意識に【シャイニーズ】を使って背後に回り込むことで回避。


 「ヴラァ!!」


 セシルの横蹴りに、ヴァドラは背中から突進することで対抗。背中で力任せにセシルを吹き飛ばす。


 そして地面を転がり体勢が崩れたセシルに追い打ちをかけるべく、飛び込むのはーーーノエル・アヴァンス。



 (あの眼‥‥‥見過ごすのは惜しい)


 彼女は巻き込まれただけで戦闘に参加する気はなかった。セシルの眼を見るまでは。


 抉り取って、眼を持ち帰ろうと考えていることを彼女以外は知る余地もない。



 (抉りとるーーー)


 ノエルは倒れ込むセシルに対し、ナイフを振り下ろす。


 重力魔法を使わないのは、コピーされることを危惧したためだ。仰向けに倒れるセシルは意識が混濁しており、ノエルの攻撃に気づいていない。



 「【ライト・サークル】!!」


 すると2人の間に割り込むように光の円が出現。ノエルのナイフがその円に阻まれる。


 「っ! あの女」


 阻んできた張本人ソニアを狙いたいが、セシルの前で重力魔法が使えない。ノエルは舌打ちしながら、力任せに壊そうとする。



 「ーーーーをまも、る‥‥‥」


 無意識にセシルが言葉を漏らす。この後の展開を察知したソニアは2人の間の【ライト・サークル】を解除した。



 「っ! 【インフォージュン】!!」


 ノエルは咄嗟に自身の周囲に重力魔法を発動。それは攻撃ではなく、防御のため。


 セシルがコピーしたのは、ヴァドラが多発している【ヴォル・ヴァリ・バースト】。


 セシルの胸から放たれた呪力のレーザーがノエルを襲う。


 「くっ!?」


 ノエルの眼前で呪力が押し留められた状態のまま、そのまま呪力の質量で吹き飛ばした。


 その後、セシルは事切れたように動かなくなる。


 「セシルっ!!」


 ソニアが慌てた様子で駆け寄る。この時の彼女は、周囲の強敵の存在なんて頭から抜け落ちていた。


 (初めての魔力解放‥‥‥負担は計り知れない!)


 そんな不安を募らせながら意識のないセシルの容態を確認する。魔力解放の特性によって、外見に目立った傷は一切見られない。


 (なんで、腕が再生されているの‥‥‥?

  魔力解放は外傷を修復するのみで、

  無くなった箇所を生やすなんて出来ないはずーーー)


 ミルラとリルカによる【聖天の祈り】を見ていなかったソニアは、そんな疑問を思い浮かべる。


 だがとりあえず、命の危険は無いことを確認したソニアは胸を撫で下ろす。


 「おいおいっ!! これからだろぉ!?

  生きてる限り、全て燃やし尽くそうぜぇ!!」


 そんな空気を打ち壊すかのように、ヴァドラがまたも呪力を集めて、解き放つ。


 「【ヴォル・ヴァリ・バースト】!!」


 「っ、しまっ」


 反応が遅れたソニアは光魔法を発動できない。そんな2人に容赦なく襲いかかる呪力の塊。




         「【ブラックソード】」


         「【ツヴァイファイア】」



  ソニアたちの前に舞い降りた男女がそんな声を出す。


 銀髪仮面の男は黒くなった剣を呪力にぶつけ、連続で斬り払う。


 黒髪の少女は呪力と火属性魔力を混ぜたエネルギーを呪力の塊にぶつける。


 2人は【ヴォル・ヴァリ・バースト】を完全にかき消した。



        「っ!! あれはーーー」



 ノエルが2人の正体に気づき声を荒げる。2人とも、彼女にとっての怨敵だったからだ。


          「あ。あるじー」


     アクアが無表情のまま手を振り始める。


         (手を振るなっ!?)


        「あれ、あなたの仲間?」



       エルジュ代表『天帝』レスタ。


 元ゴートゥヘル最高幹部『深淵アビス』第六席、アンノーン。


 混沌とした状況に、またしても更なる混沌をもたらす。


 今この瞬間。偶然アステス王国に鉢合わせた各組織の最高戦力が勢揃いした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 パレード観覧用の高台。


 「あ、あれはーーー!!」


 グロッサ王国第二王女、ユリア・グロッサは目を輝かせてパレード道中に目を向ける。



 そこにはエルジュ代表『天帝』レスタ、アステス王国軍大佐ソニア・ラミレスを始めとした戦力が集まっていた。



 「どう見ても大規模な戦闘の匂いっ!!」


 「ユリアちゃん、落ち着きましょうね〜」


 「そういうお姉様こそ!!

  なんで飛び降りようとしてるんですか!?」


 グロッサ王国第二王女ユリア・グロッサは目を輝かせていた。


 それに対して第一王女で姉のステラ・グロッサは微笑みながら、高台から飛び降りようとしていたのだ。彼女の視線は、完全に一点を見つめ続けている。


 「ユリアちゃん、離して〜?」


 「いやいや危ないですよ!?

  本来は私が飛び込みそうな流れですよね!?」


 自分でも何を言っているか分からないユリアは、ステラを必死に抱き止める。


 「やめなさい! 離れるのは危険よ!」


 そんな2人を、『ルーライト』隊員エルリカ・アルリフォンが引き止める。


 「私じゃなくて、お姉様を!!」


 「ユリアちゃん、話して〜??」


 「ステラ!? 聞こえてないの!?」



 そんなほのぼの(?)した光景を、表向きは護衛であるエルジュ精鋭部隊《黄昏トワイライト》No.5、カイルは全く見ていなかった。


 彼の視線は奇しくも、王女姉妹と同じパレード道中。


 (くそっ、俺もそっちに行きてぇーーー!!!)


 カイルは拳を握り締めてヤキモキし始める。動きそうな足を必死に押さえていた。


 「皆さん、落ち着いてくださいまし!

  パレード道中には我が王国軍の大佐、

  ソニア・ラミレスが対処していますわ!!」


 アステス王国王女、シルク・アステスは指を差す。皆が指の方向を見る。


 (ーーーあれがグロッサ王国のレスタか。

  これまでの噂は逐一聞いている。

  さあ、君の力を見せてくれたまえ‥‥‥)


 そして近くにいた 『魔導会』の総代、バスタル・アルニールは興味深そうに眺めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「な、何者だっ!! なぜ私たちを助けたっ!?」


 ソニアは前に立つ銀髪仮面の男こと、レスタ(アイト)に話しかける。隣には黒髪の少女もいたが、明らかに不気味な方に意識が向くのは仕方ない。


 「それを話す必要はない。ここから離れろ」


 「何を言ってる!? 王国に仇なす襲撃者たちから

  おめおめと逃げるわけにはいかない!!」


 「‥‥‥俺が消す」


 尋常ではない声で言ったアイトに、ソニアは声が出ない。冗談でそんなことを言ってるわけではないとはっきり理解できた。


 「おいおいっ! そこの女!! それ、呪力だろ!?」


 ヴァドラはユニカを見て嬉しそうに声を上げる。ユニカは「え、怖‥‥‥」といった様子で顔を引き攣らせていた。


 「新しい同志が現れやがった!!

  だが、余計なもんが混じってるなぁ??」


 ヴァドラが言う『余計なもの』とは、言うまでもなく魔力のことである。それをわかってないユニカは「え、怖‥‥‥」といった様子で(以下略)。



 「アンノーン‥‥‥やっぱりね。

  その男と組んでいたのね、見るに絶えないわ」


 「! ノエル‥‥‥」


 ヴァドラのことは意に介さないノエルに殺意が宿った視線を向けられたユニカ(アンノーン)は声が上擦る。


 「もうお前に弁明の余地はない。

  そんな奴と組むなんて、これ以上ない裏切りよ。

  もういいわ。ここで、お前たち全員を消す」


 そう宣言したノエルは魔力解放した状態で、両手を突き出して握りしめる。



         「【カタストロフィ】」



  彼女が繰り出したのは超広域、超高出力の重力魔法。


 ノエルが立っている場所以外の全てが音を立てて陥没する。攻撃対象者は彼女自身を除いた、この場にいる人間全て。


       「うぉっ、最高じゃあねえかっ!!」


   地面にめり込んだヴァドラは嬉しそうな声を出す。


       「ッ、【ライト・サークル】!!」


 ソニアはセシルを抱えて自分たちを包むように光の円を発動。襲いかかる高密度の重力を緩和する。


          「っ、重いっ!!!」


 だが緩和しても身体を動かせないソニアは焦った声を出す。焦りの原因は自分ではなくセシルに影響が及ぶことを懸念したからだ。


    (こんなの、『破滅魔法ルイン・マジック』に匹敵する!!)


 彼女のそれは賞賛か愚痴か。そんなことを考えていたソニアは苦しそうな顔だった。


       (なんだっ、この重さはーーー)


 アイトは自身の体重が何倍にもなった感覚に陥り、地面に押し込まれて片膝が地面につく。そして地面にめり込んでいく。ユニカも同様に動けないでいた。


    (っ! このままだと潰れ死んじゃう!!)


 数秒後には圧迫死すると確信したユニカは焦ってアイトの方を向く。


 だがアイトはそこまで動揺していなかった。魔力解放状態なのは、アイトも同じ。



         「【ブラックソード】!!」



 指先から剣へと黒い魔力が流れ、右腕に【血液凝固】を発動し、その場で微かに剣を振りかぶる。



 「ーーー消されたっ!!」


 10個の属性魔力が混ざり合うことで反発しあっている黒い魔力がノエルの重力魔法に反応し、拒絶反応を引き起こす。


 つまり、アイトの作る黒い魔力には魔法を打ち消す効果が生まれていたのだ。


 【カタストロフィ】は超広域の超高出力の大魔法と言っても、発動している魔法は1つ。その一部がかき消されると、連鎖して全てが消える。


 その結果、【カタストロフィ】の魔法自体が消滅した。


 「面白えやつしかいねえ!! アツすぎるぜ!!」


 ヴァドラはその場で同じ高さにいるレスタ(アイト)をガン見する。


 (あの男、何者なの?)


 疑問を感じつつ、ソニアは【ライト・サークル】に魔力を追加で付与することで強化し、次に備える。


 (複数の属性魔力の制御と融合。

  組織の代表ってのは伊達じゃないわね)


 ユニカはアイトの方を見続けている。ノエルと目を合わせると寒気が起こりそうだったからだ。


 「‥‥‥」


 ノエルは1人だけ陥没していない地面から、アイトを見下ろす。


 そんな複数の視線を集めたアイトは、笑っていた。まるで予定通りとほくそ笑んでいるかのように。


 「これから、どうするのーーーー」



 ユニカの返事に返ってきたのは、言葉ではなくーーー。



           「‥‥‥えっ?」


            「はっ?」


 意味がわからないと声を漏らすユニカ。目に入るのは、自分の腹に突き立てられている剣。それを見たノエルも意味がわからず声が出ていた。


 それを認識した頃、ユニカの視界には地面が広がっていた。


 「な、なんで‥‥‥」


 「お前は役に立ったよ。でも、もう用済みだ」


 冷たい目で言い切るアイト。仮面をつけて顔が見えないはずなのに、どんな顔をしているかユニカはハッキリと感じられた。心を閉ざす、そんな顔。


 「ーーーーーーぁ」


 唸り声を一瞬上げたが、ユニカの瞼は自然と下がっていき、視界が真っ暗になり、やがて意識もーーー。


 「‥‥‥」


 ユニカは、パタリと動かなくなった。動いているのは流れ出る、鮮血のみ。


 「いったい、どういうつもりよ!!?」


 ノエルは銀髪仮面の男を睨みつける。それが面白かったのか、アイトは再び冷たい笑みを浮かべる。


 「見た通りだ。この女は情報をくれた。役に立った。

  でもこいつはお前たちから狙われ続けるんだろ?

  だからこれ以上、この女に用は無い」


 そう言い切ったアイトは、眉ひとつ動かしていない。


 「‥‥‥へえ? さすが私たちの邪魔をする叛逆者ね。

  血も涙もない、人間の皮を着た化け物だわ」


 「お前らみたいな理解不能の化け物に、

  善良な人間が相手すると思うか?」


 売り言葉に買い言葉。怨敵に刺激されたノエルは、両手を突き出す。


 「楽に死ねると思わないことね」


 さっきと同じ構えからして、【カタストロフィ】を発動するとこの場にいた全員が感じ取った。


 ヴァドラは呪力を集め、ソニアは自身とセシルを包む【ライト・サークル】を念入りに強化する。


 「あ。やばー」


 少し離れた位置にいたアクアはーーーミルラとリルカを掴んで走り出す。



         「いや、もう終わりだ」



 アイトは片膝をついて黒く染めた剣を地面に突き刺すと、黒い魔力が周囲に広がり始める。


       「! 【カタストロフィ】!!」


 その異変を感じ取ったノエルはすかさず魔法を発動。さっきの教訓を生かしてアイトが放つ黒い魔力に触れないように発動範囲を限定する。


 またしてもノエル以外、誰も身動きが取れない‥‥‥はずだった。


          「!? なんでーーー」


 アイトの体勢が全く崩れない。まるで効いていないかのようにーーー。


 その間にも黒い魔力はヴァドラ、ソニア、そしてノエルの足元にも広がる。


 「っ! これはっ!!」


 声を出したのはソニア。ノエルの魔法の影響だけではない地響きが起こりだす。


 「こりゃあ最高って言葉じゃ物足りねえなぁ!!」


 ヴァドラは【ヴォル・ヴァリ・バースト】を発動。呪力の塊がアイトを襲う。


 「ーーーヤバすぎんだろ!?」


 ヴァドラは自分の視界に捉えた衝撃に、嬉しさが隠し切れない。片膝をついて剣を刺しているアイトに当たる寸前で、呪力が弾け飛んだのだ。


            「無に還れ」


 誰も止められないまま、アイトの剣が黒く輝き出す。その輝きは黒くなった地面にまで広がり、輝く。


 それはミルドステア公国で見せた時よりも遥かに威力が高い、魔力解放状態のーーー。



         「【ラスト・リゾート】」



  地面から、無尽蔵の黒い魔力が全方位に放出された。



 彼の一撃が、血に塗れたパレードに終わりをもたらす。

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