聖天教会、第9代教皇
翌日の早朝。
アイト、ユニカ・ラペンシアの2人は山道を歩いていた。
「ラペンシア、昨日はよく眠れたか?」
「眠れるわけないでしょ」
エルジュ本拠地の牢獄で一夜を明かしたユニカは不機嫌であった。
「ま、手錠されてないだけマシね」
「指輪になったけどな」
ユニカの右手の小指に、魔力封じの効果が付与された指輪がはまっている。手錠だと目立ちすぎるためだ。
だが効力は少し違う。変装のための染色魔法を使えるだけの余力を設定されている。現在のユニカの髪色は灰色に変化していた。
「私、これだとあまり戦えないわよ」
「俺1人でキツくなったら外してやる。
正直、まだ信用できないからな」
「それなら私をずっと監視し続けてることね」
「言われなくても今もずっと継続中だわ」
お互いに軽口(?)を叩きながら、山道を歩く。ベルトラ皇国を目指して。
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午後、グロッサ王国。
王都南地区に位置する店舗、『マーズメルティ』。
「レスタくん今日は来ないね〜。忙しいのかな」
カンナは口を尖らせながら生地を伸ばす。
「レーくん、いそが、しい?」
首を傾げながら隣で同じ作業を行うのはリゼッタ。小さい手で生地をこねる。
「はあ、お兄ちゃん早く来ないかなぁ」
そしてミアが生地を無造作に叩きつける。ストレス発散ではなく、製作の過程である。
「エリスも修行でしばらくいないし、寂しいね〜。
アクアも今日の朝から呼び出されていないし」
「さび、しい」
「は? 青髪女は普段寝てるだけでしょうが」
3人は型を抜いた生地をオーブンに入れ、焼き上がるのを待つ。
これからアイトがしばらく来ないことをカンナたちはまだ知らない。
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ベルトラ皇国、大教会。
聖天教会、第9代教皇アストリヤ・ミストラル。
長く美しい金髪を背中まで落とし、髪から覗かせる顔は相手を虜にするほど美しい。そして豊満な身体は修道服に包まれている。
早々に夫を亡くした未亡人である彼女に対し、今日も訪問者が顔を見せる。
「アストリヤ様、ごきげんよう。
ああ! 今日のあなたも、美しい」
訪問者は、いかにも金にものを言わせたような外見をした貴族。贅沢になんでも食べているのか、肥えていた。
「ありがとうございます。
それで、何用でございますか?」
アストリヤは微笑む。たとえ相手から下衆な視線を向けられても。彼女が微笑んだだけで、相手の心は舞い上がる。
「前に話した件、考えてくれたか?」
「その件でございますか。
申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
「‥‥‥なんだって?」
貴族の薄っぺらい笑顔が一瞬で凍る。
「なぜだ! 断る理由など、どこにある!?
私と結婚すれば、必ず実りあるものになる!!
それに、あなたはすでに役目を終えていいころだ!
2人の娘だって立派に成長してる!
そろそろ、自分の幸せを掴むべきではないかね!」
まるで自分と結婚すれば幸せになれるという発言をする貴族。
「役目とか、そういうものではないのです。
私は、生涯を聖天教会に捧げると誓っています。
それに私が愛しているのは娘と、あの方だけです」
「‥‥‥断ったこと、後で後悔することになるぞ!」
憤慨した貴族が早々に帰っていく。その直後に扉から静かに覗いていた2人の少女がアストリヤの前に走り寄る。年齢はどちらもアイトとほとんど変わらない。
「お母様! 大丈夫ですか!?」
「母上は歳のわりに綺麗ですからな〜!」
「リルカっ!! お母様に失礼よ!」
「褒めてますぞミルラ! 母上の美貌の前には
世界中の男が夢中になるのはわかりまする!」
「ふふっ、2人とも喧嘩しないの。
もう大人が近いんだから」
アストリヤは微笑んで2人の娘の頭を撫でる。自分と同じ2人の金髪に優しく触れる。
アストリヤの娘は双子。髪型と性格以外で判別するのは難しい。
双子の姉、ミルラ・ミストラル。15歳。金髪ロングに教会の修道服。性格は真面目で優しく、しっかり者。母親大好き。
双子の妹、リルカ・ミストラル。15歳。金髪ボブに教会の修道服。性格は天真爛漫(能天気)でお調子者。口調が独特すぎる。母親大好き。
「まったく、本当に身勝手な人ばかり。
お母様、気にすることないですよっ」
「そうですぞ! 母上は口説かれるほど
綺麗ってことですからな! 女冥利に尽きまする!」
「ふふ、ありがとう。大丈夫、気にしてないわ。
私が愛しているのは、あなたたちとお父さんだけよ」
アストリヤは2人を抱き締める。夫が亡くなった今、彼女にとっての宝物は2人だけだった。
「2人とも、準備は進んでる?」
「もちろんです! アステス王国へは
長い道のりになりますので!」
「楽しみですなあ〜! アステス王国のご飯〜!」
「リルカっ! 仕事の一環なのよ、旅じゃないわ!」
「まあまあっ! 楽しんでこその仕事ですぞ!」
2人の喧嘩(リルカは怒ってない)を微笑みながら宥めるアストリヤ。
「あと4日でアステス王国に出発するから、
2人とも準備を怠らないようにね」
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夜。
とは言っても、アイトとユニカが出発してからすでに5日ほど経過している。
「ラペンシア、早くしろ」
「はぁ、はぁ、ドSね。どんな体力してるの?」
「どうも」
「ま、あの叛逆者レスタが弱いわけないか」
「どうも」
「眠いの?」
「眠くないわ!!」
2人の仲は相変わらず最悪(信用してないから当たり前)。
グロッサ王国からベルトラ皇国まではかなりの距離がある。それをアイトは風魔法の応用【飛行】で短縮したが、魔力の消費が激しいため継続はできない。
魔力が切れたら回復するまで徒歩。回復すれば【飛行】、その循環を数日にわけて繰り返していた。
ちなみにユニカは【飛行】中は腕を引っ張られ、徒歩はアイトの速度に合わせて移動。当然、歩幅や体力が全く異なるため、かなりの疲労を生む。
「はぁ、はぁ。今、どのくらいかしら」
「言わない。もし近ければ安心して速度落とすだろ」
「ひど。あなたのこと優しいと思ってたのに」
「仲間に対してな」
「はぁ、はぁ、それに括られるのは、いつかしらね」
こんな会話をしているうちに、遠くの視界にベストラ皇国が見えて来るのだった。
「やばい‥‥‥こんなに遅いと宿も無さそうだ」
「どうするの。さすがにこれ以上、野宿は嫌よ」
2人はベルトラ皇国に着いたが夜遅い。皇帝がいる城はもちろん、皇都も暗闇に包まれていた。1箇所を除いて。
「見て。あそこだけ明るいわ。大きい教会ね」
「あれが聖天教会? やっぱりすごいな」
暗闇の中で光る教会に吸い寄せられる2人。
「きゃああっ!!」
「なんだ!?」
「かなり近いわね」
すると突然近くから悲鳴が上がり、反射的に声がした方へ駆け寄るアイトとユニカ。
1人の少女が大男に襲われそうになっていた。当然アイトはそれを見過ごさない。
素早く少女と大男の間に割り込み、アイトは拳を叩き込む。
「ぐおっ!?」
大男は腹を押さえてうずくまった直後、ユニカの蹴りが直撃した。その後、警備兵が駆けつけて大男は連行されていく。
「お前、意外と戦えるんだな」
「失礼ね。これが無ければもっと戦えるけど?」
「絶対に外さんわ」
指輪をチラつかせるユニカに対し、視線すら合わさずに言い捨てるアイト。
そして2人は大男を倒したきっかけを忘れたかのように歩き出す。
「あ、あのっ!」
すると背後から聞こえた少女の声に2人は振り返る。
「助けてくれて、ありがとうございます!」
「あ、ああ」
アイトは少し面食らう。長い金髪を靡かせて現れた少女は修道服を着ていたからだ。
「もしかして、ここの修道女さん?」
ユニカがアイトの代わりに聞きたかったことを質問する。
「は、はい。聖天教会の者です」
「! 聖天教会‥‥‥ここ、ずいぶん大きいわね」
「あ、私の母が教皇なんです」
「!?」
「嘘でしょ‥‥‥そんなことある?」
少女の発言にアイトは驚きで声が出ない。ユニカは舞い降りた偶然に独り言を呟く。
「私はミルラ・ミストラルです。
ぜひ、あなたたちに恩返しさせてくださいっ!」
「「へっ?」」
2人は皇国に入って早々、聖天教会に辿り着く。あまりにもうまくいきすぎていた。
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大教会、聖堂。
「ミルラを助けてくれて感謝でございまする!
妹のリルカ・ミストラルですます!」
「娘を助けてくれてありがとうございました。
この子たちの母、アストリヤ・ミストラルです」
(まさかいきなり奴らの暗殺対象に会うとは)
(まさかいきなり彼らの暗殺対象に会うなんてね)
アイトとユニカは3人の親子から感謝されていた。だが2人はゴートゥーヘルの暗殺対象であるアストリヤに驚き、ほとんど聞いていない。
「あなたたちは娘の命の恩人です。
これは聖天使エルフィリア様のお導きに
間違いありません。
お名前をお聞かせくださいませんか?」
そして気づけば3人の親子にずいずい寄られて気まずくなるアイトとユニカ。
「な、名乗るほどの者じゃありません。
夜も遅いですしこれで失礼します〜。
ラペンシア、行くぞ」
「そうね。名乗るほどの者じゃありませんので」
椅子から同時に立ち上がった2人は足早に聖堂から出ようとする。理由は明白。
(今この3人と関わるのはまずい!!)
(今この3人と関わるのはまずいわ!)
いきなり標的と近い距離を取りすぎて動揺しているため、一度冷静になりたかったのだ。
「まあまあ! もう遅いですし、
今日はお泊まりになってください!」
だが離れるよりよ早く、ミルラが2人の前に回り込む。
「「いや、でも」」
「お部屋はたくさんございまするよ!」
次にリルカが2人の手を掴む。
「「ええ? でも」」
「リルカはともかくミルラがこんなに懐くなんて‥‥‥
ぜひ、お泊まりになってくださいっ」
そして教皇のアストリヤが深々と頭を下げる。親子による美しい三段攻撃。
ベルトラ皇国の中でも屈指の人気と権威を持つ人物を無下に扱うとどうなるか。
「「‥‥‥はい、お世話になります」」
結果、2人は諦めるしかなかった。
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翌朝。アイトは教会のベッドで目を覚ます。寝る前に渡された修道士の服を身につけている。
(はあ、あんまり寝れなかった)
アイトは顔を洗って、目を擦りながら廊下に出る。
「あ! アイトくん! 眠れましたかな?」
「う、うん。おはよう」
「おはようございまする!
その服、とっても似合ってまするなあ!
よっ! オトコマエ!」
(修道士ってカッコよさ必要だっけ??)
リルカの元気な声を聞いて徐々に脳が活性化していく。
「ラペンシアはもう起きてる?」
「いえ! 彼女さんはまだ見てませんぞ!」
「は? 彼女じゃないから。怒るよ?」
「いやいやそんな照れなくてもいいですます!
人前だからってファミリーネームで呼ぶなんて、
アイトくんもウブですなぁ!
それに明らかに仲良さそうなご様子!
いいですなぁ! あんなに綺麗で可愛い彼女!
私も男だったら猛アプローチしてましたぞ〜!」
「‥‥‥いやマジで違うから。寒気がする。
これ以上言うと本当に怒るよ???」
彼女どころか元敵対組織の1人。アイトはまだユニカを全く信用していない。
「なんとっ!? ホントに彼女ではないとっ!?
それならまだチャンスはあるですな!」
「チャンス??」
「母上に話して来ますのでこれにて失敬!」
リルカはニカッと笑った後に廊下を走っていく。
(台風のような子だ。カンナと相性良さそう)
リルカをそう評価しながら(良い評価か悪い評価かは人の捉え方次第)、ユニカ・ラペンシアが寝ている部屋の扉をノックする。
「ラペンシア、そろそろ起きろ」
返事は返ってこない。しばらくノックし続ける。
「んぅ〜、うるしゃいわねぇ」
目を擦りながら呂律が回ってない修道服を着たユニカが扉を開ける。
「もう朝だ。早くここから出るぞ」
「ん〜? ごはん食べてからでいいでしょぉ」
「お前な‥‥‥あと4日でアステス王国にも
行かなきゃいけないんだぞ?」
「アイトさ〜ん! ユニカさ〜ん!」
廊下からパタパタと小走りで走ってくるのは、リルカの姉のミルラ。
「おはようございます!」
「お、おはようございます」
「おはよう、ございますぅ〜」
突然のミルラに少し困るアイトと眠たいユニカ。
「朝食ができましたので今からご案内いたします!」
「いやわざわざそこまでしていただ!?」
「ごはんー」
発言する前にミルラに腕を掴まれて2人は連行されていった。
「アイトさん、ユニカさん。よく眠れましたか?」
「ハイ、トテモ」
「眠れました」
朝食を取った後、聖堂の机を囲って教皇アストリヤと話をすることになったアイトとユニカ。
「見たところ、お2人はこの国の国民ではないように
見えます。観光ですか?」
「まあそんなところです」
アイトよりも先に口を開くユニカ。アイトは少し驚きつつも何も言わない。
「まあ。2人で観光だなんて、仲がよろしいのですね」
「「仲良くないです」」
ここは意地でも訂正したい2人はアストリヤに対して即座に返事をした。
「息までピッタシでございまする!
アイトくん、やっぱりユニカちゃんは彼女では!?」
「あら、私そんなふうに見られてたの?」
ユニカはニヤリとした顔を浮かべる。その顔を見たアイトはかなりイラッとした。
「‥‥‥こんなやつなんです。ありえないですね」
「ひどい。あんまりよローグくん‥‥‥!」
「ウザ」
呼び方に特別な感じが出てるが、アイトのファミリーネームの一部分を切り取って呼んだだけ。名前で呼ぶのは抵抗があったのだ。それはアイトも同様である。
「やっぱり仲良さそうでございまするぞミルラ!」
「なんで私に話を振るのよ!!」
またしても言い合いに発展した2人を眺めていると、アイトは教皇アストリヤに話しかけられる。
「お2人はしばらくの間滞在されますか?」
「いえ、今日のうちにこの国から出て行きます」
(‥‥‥騒ぎを、起こしてね)
申し訳なさそうに言うアイトの真意を、アストリヤは勘違いして解釈する。それを見抜いたユニカはニヤニヤしていた。
「え!? もう、行ってしまうのですか?
‥‥‥あっ、す、すみません!」
ミルラが思わずと言った様子で口から声が漏れる。
「まあ、私たちもアステス王国へ
出発しますからな! お互い様ですぞ!」
「‥‥‥え?」
サラッと発覚した事実にアイトは声を漏らす。
「アステス王国のパレードに来賓として
母上と私たちが招待されてまして!
聖天教会の重要なお仕事ですぞ!」
「そうなのね。そのパレードってそんなにすごいの?」
パレード自体は知っているが、内容は知らないユニカが話しかける。これはアイトを落ち着かせる意図もあった。
「各国からの来賓も多いですぞ!
あの魔導大国からは『魔導会』の総代殿!
あと2人が知ってそうな他の有名な人物だと‥‥‥
あ! 聖騎士の末裔でグロッサ王国最強、
ルーク王子の妹君も来られまする!」
「は‥‥‥?」
アイトは驚きのあまり素っ頓狂な声が出る。ユニカは表情を変えずに口を開く。
「それって、どちらの方かしら?」
「両方ですぞ! 第1王女のステラ・グロッサ様、
第2王女、ユリア・グロッサ様ですな!」
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同時刻、グロッサ王国。
「ステラ、ユリア。ごめん」
「兄さん、どうか謝らないでください。
私たちも王族としての責務があります。
兄さんは今、国を離れるべきではありません。
そうよねユリアちゃん」
「その通りです! わたしたちも背負います!」
「‥‥‥そうか。ありがとう。
『ルーライト』からは現地にいるエルを合流させる」
「エルリカさんが‥‥‥それなら安心です」
ステラは嬉しさのあまりニコッと微笑む。ルーライト隊員、『金剛』エルリカ・アルリフォンは彼女にとって憧れの存在。
凛々しくて強くて頼りになる彼女をステラは姉のように慕っているのだ。
「あ、エルリカさんって綺麗でカッコいい
茶髪のお姉さんですよね。
たしかお兄様のことをーーームグゥ!?」
「ユリアちゃん、それ以上はダメよ?」
「ふぉんわぁ!?」
ユリアは、何かに勘付いたステラによって口を遮られる。
(妹たちの仲が良くて、僕も安心だ)
そんな2人の様子を、微笑ましく見つめるルークは真意に全く気付いていなかった。
本来、アステス王国からのパレードへの招待状はルークに宛てられたもの。
だが、ルークは素直に了承することはできなかった。
それは魔闘祭を襲撃されたことにより、国民たちの不安が急激に増したから。
そんな不安定の内政の中、現グロッサ王国最強と名高く王位継承最有力候補のルークが離れるわけにはいかない。
だが同盟国であるアステス王国からの招待を無碍に断ることもできない。
そのため彼の妹である第一王女ステラ、第二王女ユリアが来賓として向かうことになったのである。
「ギルドで評判のある3人をつける。
それではアクアさん、カイルさん、オリバーさん。
妹たちをお願いします」
ルークは少しだけ畏まった様子で話しかける。
だが名前を呼ばれた3人は、全く話を聞いていなかった。
(おい、オリバー。こいつが素直に任務を受けるって
どういうことだ? またミストを生け贄にしたか?)
(いえ、その話をする前に引き受けてくれました。
『よろしく』されたからって言ってましたけど)
(はあ? いったいどういうことだ?)
(僕にもわかりません。
でも引き受けてくれたので結果オーライです)
カイルとオリバーは小声で話し合っており。
「ふあ〜‥‥‥zzz〜」
アクアは立ったまま夢心地となっている。今にも鼻ちょうちんが浮かびそうなほどである。
「あの、聞いてますか?」
そんな3人を見たルークは少し戸惑った様子で聞き直す。するとオリバーたちは一瞬で視線を戻して口を開いた。
「あ、はい! お任せください」
「お、おう任せとけ!! バチっとかましてやる!!」
「ふあ〜‥‥‥あ、うん」
こうして王国ギルド『ジャバウォック』所属(情報収集のため潜入中)のアクア、カイル、オリバーが王女2人の護衛を任される。
そしてユリアは、3人を見てワクワクが止まらなかった。
(この女性は! 前に私の友達として城に潜入した
アイトくんのお仲間っ! もしや何か目的がっ!?)
(‥‥‥めんどくさ)
目を輝かせるユリアと目が合ったアクアはすっ‥‥‥と視線を逸らす。自分にとって疲れる相手だと判断したのだ。
王女たちを乗せた馬車はアステス王国への移動を始める。ちなみに、馬車を運転する御者はオリバーが務めている。
つまり、彼以外の4人が馬車の中にいるのだ。
ユリアからすれば、アイトの仲間から話(『エルジュ』として活動など)を聞くことができる絶好の機会。
しかも以前に、青髪少女とは城へ招待したこと(注;第3章の話)がある。
ユリアは期待に胸を躍らせ、キラキラした目で口を開く。
「あの〜アクアさん! お聞きしたいことが」
「zzz‥‥‥」
「あれぇぇ!?」
だがアクアは、すでに夢の中へ逃げていた。