初任務
「黄昏と教官はこの場に残ってくれ。他の訓練生は解散。これからの活躍に期待する」
アイトがそう言うと、大勢の訓練生が一斉に返事をして解散していく。
そして訓練場にはアイトと序列上位10名、そして教官のラルドが残った。
アイトはとりあえず表彰台から降りて10人と向かい合う。
「まずは自己紹介をしよう。知ってる人もいるし知らない人もいる。まずはお互いを知ろう」
「その通りです、さすがですレスタ様」
エリスの合いの手を受け、アイトは若干恥ずかしそうに咳払いをする。
「‥‥‥俺はレスタ。一応この組織のリーダーになる。これからよろしく。じゃあ次は君たち。エリスから順番に頼む」
アイトがそう言うと、それぞれ順番に自己紹介を始めた。
「エリスです。レスタ様には『エルジュ』に入る前から仕えています」
「ッチッ」
エリスがそう言うと誰かが舌打ちしたような気がしたが、たぶん気のせいだろうとアイトは思い込んだ。
そして、エリスは気にせずに話を続ける。
「ここにいる者は同じ立場の同士。だから言います。私は【魔眼】持ちです」
エリスの発言にアイトを含む数名以外は驚く。
「信用して話しました。他言したら、わかりますよね?ではみなさん、これからよろしくお願いします」
「‥‥‥ターナだ。元暗殺者。以上」
「カンナだよ!この目を見たらわかるよねっ!そういうこと!みんなはすでに知ってると思うけど一応エリスと同じで他言無用でよろしくね!」
「アクア」
「カイルだ!!弱いやつに興味ねえ!!レスタをボコるためにこの組織に入った!!」
「ミア。お兄ちゃんの役に立ちたい、それ以外の有象無象は興味ない。お兄ちゃん、ミアがんばったんだよあとでいっぱい褒めて♡それとさっきの脳みそ筋肉はミアが後で殺しとくから〜♪」
「オリバーです。エリスさんの紹介でここに来ました。エリスさんの主であるレスタさんを尊敬してます。よろしくお願いします」
「リゼッタ‥‥‥レーくん、みんな、よろすく」
「ミストですっ!!ら、ラルド様の元側近です‥‥‥あ、足を引っ張らないようにがんばりますぅぅ!」
「メリナ。戦闘はあまり得意じゃないけど頭を使って貢献していくよ」
こうして、エリスたち全員の自己紹介が終わる。
(うん、個性が強すぎるな。それとできれば特技とか知りたかった)
アイトは頷きながらも内心焦っていた。
「レスタ殿、これを」
するとラルドが、かなり分厚い書類をアイトに渡す。
「なにこれ?」
「全訓練生の能力資料だ。指揮するときに役に立つかと」
「わ、わかった」
(330人の指揮って素人がしていいものなの?とりあえず、この10人の行動について話しておこう)
アイトは咳払いをすると、真剣にエリスたちを見つめた。
「まず君たちの普段の行動について。基本自由だ」
「え? 自由、ですか?」
エリスが聞き返す。他の人もどうしてか聞きたい様子である。
「君たちは相当強いと思う。単独行動でも良いくらいだ。それぞれ別々に動いた方が効率が良い」
「さすがでーーー」
「さすがお兄ちゃん♡」
わざとらしくエリスの言葉に被せるように話したミア。エリスは笑顔だが、心の底から笑っていない。
アイトは気まずくなりながらも、なんとか続きを話す。
「‥‥‥基本は自由に行動してくれ。自分で何をするか決めて動く習慣をつけた方が色々と役に立つ」
「さすがレスタ様です」
「さすがお兄ちゃん♡」
エリスとミアに続くように、他の皆も頷く。
「ラルド。この組織を運営するのに資金とか大丈夫なのか?」
「レスタ殿から聞いた知識や技術を活かした革新的な料理や商品の販売により表向きはレストランや道具屋、ランジェリーショップとして十分すぎるほど利益を上げている」
「へぇ‥‥‥それはすごいな」
「『エルジュ』には訓練生の他にも商業や産業に長けた者、職人など様々な分野で活躍する者がいる」
ラルドは自信ありげに話す。
「その者たちのおかげで今は組織の資金は十分に安定しているぞ。余った資金は大部分は保管しているが、この拠点の拡大のため少しずつ投資している」
「順調じゃん」
「すべてはレスタ殿の知恵のおかげ」
(いや前世の偉人たちのおかげだわ)
アイトたちはこのようなやりとりを続け、時間が過ぎていく。
「とりあえず今日はこれくらいかな。みんなお疲れ」
「それではレスタ様。今から拠点のご案内を」
「レスタくん今から試合しようよ〜!私にレスタくんの技を見せて〜!」
「ずるいぞカンナ! 俺だってレスタと戦いたいんだよ!!」
「お兄ちゃ〜ん♡ 今からミアの部屋に行こ♡」
エリス、カンナ、カイル、ミアがほぼ同時にアイトを誘う。
アイトは正直、これまで驚きの連続で精神的に疲労していた。
「ちょ、ちょっと待って? とりあえず後日に」
「そうだよ。今からお兄ちゃんはミアの部屋に来るんだから。他は後日ね」
「はあ?何言ってんだこいつ!?」
「は???脳まで筋肉まみれツノ男には意味わかってないのかな??」
「アアッ!?」
「まあまあ2人ともちょっと落ち着こうかっ!レスタくんが見てるよ!」
「そうですよ2人とも。レスタ様が困ってます」
「アンタたちには関係ない」
「テメェらには関係ねえ」
「あははっ、そうカリカリしないでっ!」
「‥‥‥(ブチッ)」
(あのエリスが怒ってらっしゃる!!?)
アイトは戦慄していた。エリスを怒らせると恐怖の次元が違うからである。
(他の6人とラルドは無干渉だし。おいこんなのでこの先やっていけるのか!?)
アイトは不安を募らせるが、周囲に漂う険悪は空気は次の瞬間に一転する。
「ーーー教官!! ご報告があります!」
そう言って入ってきたのは『エルジュ』の構成員。
「どうした!?」
「グロッサ王国近辺の村に大量の魔物が!今はまだ魔物が移動中のため被害はありませんがこのままだと被害は避けられません!」
「なに!? 被害の規模は!」
「また我々の一部の店舗にも、甚大な被害に遭われることが予想されます!」
「っ‥‥‥数はいくつだ!!」
ラルドの切羽詰まった言葉に、周囲の空気は重苦しいものとなる。
「見た限り、およそ、500‥‥‥」
「500!? なんて数だ‥‥‥」
今度はラルドが戦慄することになる。
グロッサ王国近辺の村はアイトの家とは全く無関係。だがその村には、王立学園に入学する人が数多くいる。
(その人たちが今死ぬと、もしかしたら学園自体が休みになる‥‥‥!?)
そしてまたアイトは戦慄した。
(それはダメだっ、もし学園に行けなくなれば色々困る!!それに俺が《エルジュ》での活動を控える言い訳手段が無くなってしまう!!)
アイトに残された手段は、もはや1つだった。
(‥‥‥仕方ない)
心の中でそう呟くと、目を見開いて前を向く。
「みんな、準備してくれ。『黄昏』、出撃するぞ」
「了解ですレスタ様。急ぎ支度を!」
「え〜、さっそく忙しいじゃん」
「よっしゃあああ!!! 待ってたぜ!!!」
「お、お兄ちゃん‥‥‥♡ カッコいい‥‥‥♡」
アリス、アクア、カイル、ミアはそれぞれ反応を示す。
アイトは次に、教官であるラルドに話しかけた。
「ラルド、『黄昏』以外のこの拠点にいる者たちはここで待機だ」
「レスタ殿、まさか11人だけで行くつもりか!?」
「俺たちは素性を知られてはいけない。多く連れていけばいくほど目立つ。他のみんなは何かあった時のために待機」
「し、しかし」
「俺たちが戦ってる状況をこっちに同時刻で流すから戦況を把握してラルドが指示を出してくれ」
「それでは危険がーーー」
「『黄昏』は、精鋭部隊なんだろ?」
アイトの発言にエリスたち(ターナ、アクア、ミストを除く)はやる気に満ち溢れた。
もはや、ラルドに止められる術は無い。
「‥‥‥そうだな。ではこちらも万全の体制で待機しよう。『黄昏』、レスタ殿と共に任務を全うせよ」
ラルドはそう言うと、アイトに向き直る。
「レスタ殿、これを!」
そして、手に持っていた物をアイトに投げる。
アイトはそれを右手で受け取った。
「希少な宝石と鉱石、そして指折りの鍛冶屋に頼んで作らせ組織こ中でも最高の剣だ!」
「剣‥‥‥」
「鍛冶屋が命名した『聖銀の剣』、使ってくれ!」
アイトはその剣を確認する。黒の鞘に少し白くも感じる銀色の剣身のバスタードソード。まさしく『聖銀の剣』という名がピッタリだった。
「ありがとうラルド! 使わせてもらう!」
アイトは剣を鞘に収める。その時にエリスが剣帯をアイトに渡す。アイトはエリスから受け取った剣帯を付けて左腰に剣を差す。
「チッ‥‥‥」
それを見ていたミアは舌打ちしていたが。
「準備はできたか?」
アイトの言葉に、『黄昏』のメンバーがそれぞれ返事をする。
「行くぞ」
アイトたち11人が、拠点から元『ルーンアサイド』の本拠地に転移を始める。
こうして黄昏にとっての初任務が始まった。




