最高峰の死闘
マルタ森中央付近。
王国内、いや世界でも最高峰の死闘が繰り広げられていた。
「ははっ!!」
ルークが無邪気な子供のような笑顔で剣を振る。まともにくらえば致命傷は避けられない。
「っ!」
エリスは鬼気迫る表情でルークの連撃を足を動かさずに全て躱す。
勇者の魔眼の特性、先読みでルークの攻撃の軌道を知る。そして最善の手で対処したのだ。
エリスは剣を振りかぶるとルークは自分の剣で防御の姿勢を取る。
「無駄よ」
それを先読みで知っていたエリスは剣の軌道を途中で止め、右足の回し蹴りでルークを蹴り飛ばした。
ルークが宙を舞い近くの木にぶつかり、木の根が地面から離れて木もルークもろとも吹き飛ぶ。
ルークは自分の背中に支えていた(共に吹き飛んでいた)木を蹴飛ばして地面に着地する。
口から僅かに血を垂らしたルークは、楽しそうだった。
「ここまで当たらないなんて!!
間違いなく、君は強い!
敵として不足なし異議なし文句なし!!
これは全力で応じないと!」
エリスは何も言わずに剣を構え直す。ルークは、突然剣を掲げた。
「魔燎創造 『聖戦終結』」
ルークがそう言った瞬間、全身から聖属性の魔力が溢れ出し、輝き出す。それに、景色がガラリと一転する。
大昔の、魔法が無かった頃の大規模な戦争の様子がエリスの視界に入る。兵士たちの剣、槍、盾、弓など多くの武器によって人が次々と命を落としていく。
そんな原始的な戦争の光景が垣間見える今、まるで別空間に飛ばされたように感じていた。
(!? なに、この景色は!?)
「聖戦って聞くと神々しい戦いを想像するよね。
でも今見えているような景色、つまり1人の力では
どうにもならない戦争が遥かに昔にはあった。
勇者や賢者、聖騎士と呼ばれた者のような
特別な力はない、そんな戦争を聖戦と呼ぶこともある。
話が長くなったね。制限が多いと面白くないし、
今回、お互い魔法の使用はOKにしようか」
「‥‥‥何を、言ってるの」
ルークのまるで何かを設定するような発言に、エリスは話についていけない。
「さあ、君の魔燎も見せてくれ。
僕のを壊すか、それとも君のが壊れるか」
「‥‥‥?」
エリスには先ほどから、ルークの発言の意味を全く理解できない。そんな彼女の反応に、ルークは少し目を丸くした。
「‥‥‥まさか、君は魔燎創造をできない?
もしかして、魔力解放もできないのか?」
「‥‥‥何を言ってるの」
そう答えたエリスを見て、ルークは少しだけ曇った顔にして、剣を構える。
「‥‥‥君ほどの逸材が、残念だ」
エリスはそう言ったルークを目で捉えていた。捉えていた。捉え続けていた。
剣が弾き飛ばされていた。
「っ!?」
ずっと見続けていた。だがルークはエリスの目の前に来ていた。そしてルークの剣の横振りが見えなかった。だが身体が危険を感じとり、咄嗟に剣を持った右腕が動いた。それが、剣を弾き飛ばされる結果に繋がった。
エリスはすぐにバックステップで距離を取る。
(見えなかった。全く見えなかった。私の目でも!)
エリスは動揺した。今まで勇者の魔眼で見えなかったものはなかったのだ。つまり、相手が速すぎるということになる。
だが、今回はそういう次元の話ではない。
今のエリスの両眼には、勇者の聖痕が宿っていない。
それは、ルークにも同様だった。彼の両眼の聖騎士の聖痕も消えている。
ルークの作った今の魔燎結界は、彼の説明した通り特別な力を発揮できない効果が付与されている。
つまり勇者の魔眼、聖騎士の魔眼を始めとする選ばれし者の力が使えなくなるのだ。
「よく防いだね」
エリスはルークの顔を見て何を考えているかわからなかった。何も考えていないように見えた。
(なんなのっ。彼は一体なにをしたの?)
エリスは今まで感じていなかった不安を感じ始める。そんな彼女は、勇者の力が消えていることに気づいていない。
「さあ、そろそろ終わりかな」
ルークの声に意識を向けたエリスは臨戦体勢をとる。
(‥‥‥負けられない!! 絶対に勝つ!!
アイのために、負けられないのっ!)
その意志の強さが、届いたのかもしくは偶然か。
エリスの右足に剣が掠る。
先読みを諦めた(実際は使えないが気づいていない)エリスは、ルークが見えなくなった瞬間に身体ひとつ分の跳躍をした。
大袈裟に動いたのが功を奏したのか、間一髪ルークの剣で串刺しになるのを避ける。
(今しかないっ!)
跳躍した直後、空に突き出していた手から風魔法を放つ。それは初級魔法【ウィンド】。
エリスはルークの話に全くついていけなかったが、『魔法の使用はOK』という言葉だけは微かに聞き取っていた。
敵の言うことを信用するといえば変だが、今の景色自体が信じられないものであるため、それを実現する彼の言葉は嘘じゃないと悟ったのだ。
天に掲げた手から突風を放ったエリスは急降下する。
エリスの体重と勢いを乗せた垂直ドロップキックがルークに迫る。
「面白いっ!」
ルークが剣を構え、エリスのドロップキックを受け止める。
ルークの剣を足で押し込むが、折れる気配はない。
「はああっっ!!」
エリスは自身に可能な最大の魔力出力で風魔法を発動。両手をルークに向け、大量の風魔力を放出する。
「っ! やるねっ!」
そう言ったルークの両腕から剣がすっぽ抜け、大きく体勢が崩れる。エリスの狙いはこれだった。
ルークほどの実力を持つ相手に生半可な攻撃では体勢は崩せない。魔力を温存したままルークに勝てるとは思えない。
そんな覚悟から、エリスは大量に魔力を消費してでも一矢報いると決意した。
それが功を奏したのかルークの剣は風圧に乗り、やがて少し離れた地点に落ちる。
ルークの手前で着地したエリスは殴りかかる。ルークは風圧によって体勢が崩れている。
エリスの右拳が、ルークの頬に直撃する。
「っ〜! さいっこうだ!」
殴られたルークはピンチにも関わらず、嬉しそうな声を出す。そして始まる、ルークとの超近距離戦。
「っ!!」
エリスの止まらない拳は、ルークを一心不乱に殴り続ける。
攻撃の手は止めない。止めるつもりもない。ルークは体勢を崩していたことで全く防御できない。
(ーーー倒す!!)
エリスは両腕に【血液凝固】を発動。【血液凝固】は自身の血を上手く扱うことで身体能力を上げる技術であるため、ルークの『聖戦終結』の適用外である。
バチンッと火花が弾けたような音が猛打の中に響き渡り、常人なら目で追うことができない拳の速度がさらに上がっていく。
2人の立っている位置が徐々に変わり始める。エリスが攻撃を始めてから、30メートルは動いていた。
(まだ、まだよっ!!)
攻撃をしているエリス自身の息が上がり始める。【血液凝固】の持続による身体への負担、目で追うことができない超速の乱打、そしてこれまで『勇者の魔眼』の制限解除をしていたことによる両眼への負担。
攻撃を受け続けているルークの身体から聖属性の魔力か何かの予兆を見せる。それと同時に、空に亀裂が走った。
「ーーーっ!!」
エリスは咄嗟に後ろに跳躍しながら左足でルークを蹴飛ばす。
その瞬間、亀裂が無数に広がって空間が割れた。
すると景色が元のマルタ森に戻る。ルークの作った『聖戦終結』という魔燎結界が解けたのだ。
だが、蹴られたルークはその場に踏みとどまった。
「けっこう、効いたっ!」
そう言ったルークの全身から聖属性の魔力が弾丸となって周囲に飛び散る。その聖弾は周囲の木を貫通し、吹き飛ばす。
エリスは自身に飛んでくる聖弾を避け切る。ルーク自身の攻撃以外は魔眼の力で知ることができた。
結界が崩壊したため、エリスに勇者の力が戻ったのだ。
「やっぱ合わせないとねっ」
だがそれはルークも同様。両瞳に刻まれた聖騎士の聖痕を輝かせながらエリスに突進する。
すぐさまエリスがその場で構えて迎え撃つ。そしてエリスも彼と同じように突進し、右手を前に突き出す。
「お返しだよ」
そう言ったルークはエリスの頭スレスレを飛び越えて空中で後ろ蹴りを繰り出し、エリスの背中を蹴飛ばした。
「うっ!!」
蹴飛ばされたエリスは地面を転がる。蹴りの威力が凄まじく、なかなか勢いが止まらない。
ようやく体勢を立て直した頃には、ルークとは30メートルほど離れていた。
そしてルークは、右手に聖属性魔力を槍の形に変化させたものを握りしめている。
(っ!! 間に合わないっ!)
この先を知ったエリスは右手を突き出す。魔力を右手に収束させる。それを見たルークは嬉しそうな顔を浮かべ、投げた。
偶然か、もしくは必然か。エリスも同時に発動する。
「【金の槍】!!」
「【マナ・バースト】!!」
2人から放たれた魔力が、中央で衝突する。その衝撃で周囲の木や地面が粉々に崩れる。
「っああぁぁ!!!」
右腕から自身の魔力を放ち続けるエリスは大声を上げる。
【マナ・バースト】。自身の魔力そのものを出力し、レーザーとして放出するエリスの大技。
魔力は属性(火や水、雷など)魔力に変換して魔法を発動をすることが基本である。
エリスは多数の属性に適性があった。そして、その感覚から逆に魔力そのものを放出する術を身につけたのだ。
ルークとの戦いの最中、口から魔力の圧を生み出したのもこの技術によるものであった。
自身の魔力そのものを放出することはかなり難しく、血の滲むような訓練が必要である。
アイトですら魔力そのものを放出することは難しい。
それに属性魔力に変換し、属性魔法を使えばいいと常人なら考える。普通は意味がないかもしれないことをやろうとはしない。
だが魔力そのものは属性魔力に変換していないため各属性に対して有利・不利がなく、いついかなる時でも扱うことができる。エリスはそのことに気づいたのだ。
そして、【マナ・バースト】がレーザー状であるのは、アイトの【終焉】に憧れたからである。
「! 魔力そのものを、放出するなんて!」
【金の槍】を撃ち終わったルークは嬉しそうに声を上げた。
(正直、ここまで強いとは思ってなかった)
ルークが自身の魔力を押し返そうとしているエリスを見ながら心の中で声を漏らす。
「はあああっ!!!」
エリスが右手から放出する魔力出力を上げる。
(本当に、僕と同等以上に才能溢れた子だ)
ルークは不適な笑みを浮かべる。自身の技が押し返されたのに、笑っていたのだ。
そして、エリスの【マナ・バースト】がルークに直撃した。
周囲の木々を巻き込むほどの大爆発が起こる。
「はあ、はあ、はあ‥‥‥」
エリスは膝が地面につきそうになるが、堪えて立ち上がる。
「うっ!!」
ここで『勇者の魔眼』の制限解除に限界が来る。エリスは無意識に染色魔法で真紅の瞳を覆うように碧色に変えていた。
(なんとか、押し返せた‥‥‥)
周囲の煙が晴れてきた頃、1人の影が姿を現す。
「危なかった。魔燎を壊されていたから余計にね」
そう言ったルークが歩き始める。聖属性の魔力が全身を満たしていた。
(なんで、あれを受けて立ってられるのっ)
息も絶え絶えのエリスは不満を漏らす。すでに彼女は疲労困憊だった。
「ここまでくれば、もう見せるしかないね」
そう言ったルークの足元が金色に輝き出し、一気に広がる。瞬く間にエリスの足元にまで伸びた。
(まだ何か隠してるのっ!?)
エリスがバックステップでその場から離れる。だがエリスの立った場所がすぐに金色に輝き出す。
「先に言っておく。別に手加減してたわけじゃない。
僕自身は全力を出したつもりだよ。
魔燎創造なんて本当に久しぶりだったし。
でも、1つだけ切り札は残してた」
「‥‥‥何を言ってるの」
「『破滅魔法』、知ってるかい?」
「!!」
これまでの戦闘の中で、最大の魔力がルークの身体から溢れ出す。
「これを出すつもりはなかった。卑怯といってもいい。
本来、他国への抑止力になりうる手段だからね。
普通なら敵と呼べる君に易々見せるものではない。
でも君は自分の秘密を顧みず全力を出してくれた。
だから、その意気込みに応えたい」
魔力を膨張させたルークが歩いて近づいた分、エリスは後ろに足を後退させて距離を取る。
「これを見せるのは、君で3人目だっ!!」
(意外と見せてるわねっ!!)
エリスが珍しくこんな状況で突っ込むと同時に地面が揺れ始める。
「私も見たい」
エリスとルークは、声が聞こえるまで第三者の存在に全く気づかなかった。
2人は声が聞こえた方向を向く。空中に白い翼を生やした人間がいた。
「『使徒』シャルロット・リーゼロッテ!!」
「! あの人は‥‥‥」
エリスが驚いた声を出す。ルークも少し驚いていた。
「2人だけ楽しそう。ずるい。私も混ぜて」
そう言ったシャルロットが地面に着地する。3人の距離が見事にトライアングルとなっていた。
(今の私にこの2人を相手にする力はもうーー)
「さすがに、『使徒』さんの前では見せられないな」
エリスの思考が通じたかのようにルークの魔力が収まり、足元に広がっていた魔力も消える。
「なんで、なんで」
そう呟いたシャルロットは無表情だが、どこか拗ねているように見えた。
「どの国にも所属していない伝説の冒険者殿に、
国の最高機密を見せるわけにはいきませんよ」
爽やかな笑顔でルークが返事をする。エリスは警戒を怠らずに2人の会話を聞いていた。
「そこの子には見せようとしてたのに」
「ははっ‥‥‥はあ、話すのめんどくさいな」
(あのルーク・グロッサが振り回されてる‥‥‥)
失礼なことを考えると同時にほんの少しだけ動揺するエリス。それだけ『使徒』の存在が未知数に感じられた。
「はあ、これはもう続きが出来そうにないね。
どうだろう、今回は引き分けで手を打たないかな?
さっきのは誰にも言わないから安心していいよ」
「さっきってなに? なになに」
ルークは学生服(『ルーライト』の隊服に着替える余裕が無かった)についた汚れを手で払いながらそう言うとシャルロットはズムッとルークに詰め寄った。
「ふざけないで。あなたを生かしておくわけには」
エリスは続きを言わない。それはエリス自身にしかわからない情報が届いたからだ。
情報源は勇者の魔眼の特性の1つ、『探知』によるもの。
(アイの魔力反応が、消えたっ!?)
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時は少し遡り、マルタ森の端部分。
(そろそろ森の外に出られる!)
『使徒』シャルロット・リーゼロッテと別れたアイトは単独で移動を続けていた。
視界が狭まるほどの大量の木が生えた地帯を走り抜けると視界が広がる。
そこには、多数の生徒たちがいた。大勢と目が合う。もちろん銀髪仮面で特殊戦闘服を着たエルジュ代表、『天帝』レスタとして。
(!? まさかこれって避難してる生徒たち!!)
「あれはなにっ!?」
「確か、国で指名手配されているレスタってやつ!?」
驚く生徒たちの声が聞こえる中。
「あれがレスタか! よしオレに任せろ!!」
(げっ、ギルバート!)
アイトの友人である1年Dクラス、ギルバート・カルスが大剣を構えてレスタ(アイト)に向かって突進する。
アイトは聖銀の剣を鞘から取り出し、ギルバートの大剣に真っ向から対抗する。ぶつかり合う剣。生まれる金属音。
「お! やるじゃねえか!」
(早く済ませよっ)
剣がぶつかり、力の押し合いになった瞬間に足払いをして軽く蹴飛ばした。
「うお!? 強え!!」
「何やってるのもう!」
吹き飛んでいくギルバートとすれ違うように、同じく友人のクラリッサ・リーセルが杖を回しながらアイトに飛び込む。
(うえっ!? クラリッサまで!)
少し驚いたアイトはクラリッサの杖を剣で受け止めた後に片手で掴み、杖を持ったクラリッサごと投げ飛ばす。
「きゃっ!?」
「大丈夫ですか!」
同じく友人のポーラ・ベルが走ってクラリッサの後を追う。2人が軽く対処されたことで生徒たちは後退り、アイトの前に道ができる。
(今のうちに)
「そこの怪しい男、聞きたいことがある」
背後からの声と共に飛び込んできたのは1年Aクラスのジェイク・ヴァルダン。
(うぇっ!? 土人形のメガネ!!)
ジェイクは両手に構えた盾を振り回し攻撃を仕掛ける。アイトはそれを剣で受け止めた。
「君は鞭を扱う茶髪の女性を知っているか」
(! メリナのことか)
知っているがもちろんアイトが答えるわけがない。声を出さずに盾を押し返す。
「もし知っているならジェイク・ヴァルダンが
礼を言っていたと伝えておいてほしい。
君がここから逃げることができればの話だが」
(‥‥‥義理堅いメガネめ)
ジェイクのハイキックをアイトは跳躍して回避し、木の枝に飛び乗ろうとする。
「逃げる気か!」
(めんどくさいな!!)
背後からの声に応えたか、アイトは飛び乗ろうとしていた木を右足で蹴って再び地面へと急降下。
「ぐっ!?」
アイトの膝蹴りがジェイクの脇腹に直撃。動けなくなったジェイクを無視して今度こそ離れようと周囲を見渡す。
「面白そうじゃないか」
「邪魔!! 私が仕留める!!」
そんな声と共に、スカーレット、システィアの姉妹コンビが襲いかかる。
(ーーー地獄だ!?)
一瞬でそう悟ったアイトは跳躍し、近くの木に飛び乗る。2人の動向を確認していると。
「えっ???」
「んっ???」
目が合ったーーーアイト・ディスローグに。
(あれっ!? 俺がいるっ!? どういうこと!?)
(あれっ!? なんであいつがここにいるのだ!?)
レスタ(アイト)とアイト(怪盗ハートゥ)が見つめ合う。どちらも明らかに動揺し、ガン見していた。
それをアイト(怪盗ハートゥ)の隣にいた1年Bクラス、アヤメ・クジョウが見逃さない。
なぜか(?)彼女の目は血走っていた。
「‥‥‥消すっ!!」
鋭い声を出したアヤメが両手に魔力を纏わせ、指を鳴らす。
周囲の木々が爆発した。移動中に木を触りながら移動していたのだ。
(ヤベッ!! 爆破少女クジョウさんだ!!!)
脅しかパフォーマンスだったのか。アヤメは木の枝に乗っているアイトめがけて走り出す。レスタ(アイト)へと。
冷や汗をかいたアイトは地面に着地し、その場から離れる。
「待ちなさいっ!! 彼の視線を独り占めして、
絶対に‥‥‥絶対に許さないっ!!!!!」
(何言ってんのこの人怖い!?)
「待て、我が相手をする」
低く響いた声。アヤメが足を止めると同時にアイトの周辺に発生した魔力の壁がアイトに迫る。
「【ブラックソード】」
黒く染まった剣を握ったアイトはその場で2回転にも及ぶ回転斬りを繰り出す。
回転しながら体勢を低くし、迫ってきた障壁を全て粉々に粉砕した。
「! あの数を容易く破壊したっ!
お前はっ! メルチ遺跡を破壊した男かっ!」
そう声を漏らしたのは生徒たちの避難を誘導していた『ルーライト』副隊長、ジル・ノーラス。
(あれはたしか『ルーライト』の副隊長!
もう戦ってる時間はないっ!)
「【照明】!」
「!? 目が!」
アイトは自身の体から光を発してジルの目を眩ませる。
そして【血液凝固】を施した両足で地面を蹴るように跳躍し、その場から離れる。
(ここを抜ければ森の外だ!!)
斜めへ跳躍したアイトの背後に突如として誰かが現れる。
「っ!?」
空中で背中を蹴飛ばされたアイトは生徒から離れた地面に急降下。体勢を立て直してなんとか着地する。
(一瞬で背後に回り込むなんて、いったい誰がーーー)
そう考えていたアイトの目の前に、先ほど蹴飛ばした相手が姿を現す。というより転移してきた。
薄桃色の長い髪をした、アイト自身も交流がある少し背の低い少女。
「‥‥‥(フンスっ!)」
(シロア先輩っ!?)
『ルーライト』最年少隊員、シロア・クロートが特殊鉄棒を振りかぶった。