表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

156/347

面白いね、君

 競技場。


 ゴートゥーヘル最高幹部『深淵アビス』第三席、クロエ・メルは競技場の外に出ようとしていた。


 『クロエ、今どこかな?』


 魔結晶から連絡が来たのは、第二席のエレミヤ・アマド。


 「競技場で〜す。先ほど魔力が無くなったので、

  今から予定通り動こうかなと思いまして。

  エレミんは今どこですか〜?」


 『秘密かな』


 「あ、ウチには言わせておいて卑怯ですね〜♪」


 『クロエ、これからの報告はノエルにするの?』


 「はい、そういう決まりですし」


 『それなら、僕にも教えてくれないかな?』


 「! 良いですけど、今回の一件は傍観するのでは?」


 『そうだったけど、あの子の穴を誰かが埋めないと』


 「!! そう、ですか。優しいですね〜」


 そう言ったクロエの表情が暗くなる。片方の拳をわなわなと震わせ、下唇を噛んでいた。


 「‥‥‥なんで、あんな子を気にかけるんですか」


 『ん? クロエ? 何か言った?』


 クロエが漏らした声は僅かであったため、エレミヤには届かない。


 「‥‥‥いえ。また連絡しますので♪」


 かろうじて平静を装ったクロエは連絡を切ると、任務のために走り出した。


 (ウチはあんな役立たず、絶対認めない。

  ホント最高幹部の恥晒し。第六席の無駄遣い。

  はあ、早く死んでくれないかなぁ〜)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一方、マルタ森中央。現時点での大戦が続いている。



    エルジュ代表、『天帝』レスタ(アイト)


            VS


    『使徒』シャルロット・リーゼロッテ



  2人の戦闘が始まって、既に20分は経過していた。



 「ッ!」


 鋭い息と共にアイトが剣を真横に振り抜くが、シャルロットは跳躍して回避。


 「また、あれ見せて」


 シャルロットは逆さまの状態で宙に浮いたまま、右手に魔力を集める。


 「【サンダーストーム】」


 彼女が放ったのは雷属性の最上級魔法。右手から放出された大規模な豪雷がアイトの周辺に発生する。周囲の大量の木が一瞬で吹き飛んで粉々になる。


 「【ブラックソード】!」


 アイトの愛剣である聖銀の剣が黒く染まる。


 (今までの速度じゃ間に合わない!!)


 その剣を右手に持ったアイトは迫る豪雷に連撃を繰り出す。


 「やっぱり、すごい魔法」


 シャルロットは豪雷を消し去るアイトの姿を眺めながら拍手し、文字通りの称賛を贈る。


 アイトは豪雷を消し飛ばした後、剣を振って息を吐いていた。


 (この技をあまり連発で使いたくない。

  【終焉】とは違って剣の表面を覆うだけだから

  魔力の消費は少ないけど、そういう問題じゃない)


 アイトの額から汗が流れる。今のところ両者ほぼ互角だが、シャルロットにはまだ余裕があるように見える。


 もちろんアイトも全力で戦っているわけではない。故に彼の固有魔法の中でも最強格の威力を誇る【終焉】、殲滅力を誇る【ラスト・リゾート】も使っていない。


 だが白い翼が生えている時点で彼女は只者ではないというのは一目瞭然。そして特別という言葉を纏ったような雰囲気とオーラ。そのためアイトには少し焦りが見えていた。


 「すごい。多数の属性魔力を制御できるなんて」


 「‥‥‥は?」


 そんなシャルロットに突然褒められたアイトは面食らう。しかしすぐに彼女の発言の怖さを理解する。


 (なんで【ブラックソード】が10個の属性魔力を

  混ぜたモノだと見破られてるんだ!?)



 【ブラックソード】。アイトの師匠、アーシャとの修行で編み出した技の1つ。


 今までのアイトは指に各属性魔法を発動し、それらの魔力を融合するという手順を踏んでいた。


 だがアイトは修行の中で、自身の体内で複数の属性魔力の発動、融合を行えるように練習したのだ。


 それにより、これまでの10個の属性魔力の発動と融合の過程を省略することで時間短縮、体内で行うため圧縮率も上がることで威力の向上にもつながった。


 そして【終焉】で放つ魔力を、剣に纏わせてみたら魔力の消費が少なく、実戦に役立つかもという閃きから編み出した技なのだ。



 「10個の魔法を同時発動できる魔法制御力。

  それに膨大な魔力量。私より素質がある」


 「なんでそんなことがわかる」


 アイトは真顔でシャルロットに言い返す。だがシャルロットは完全に無視しながら発言を続ける。


 そして次の発言は、アイトにとって全く理解できないものだった。



     「真上から落ちてくる大規模隕石も

      君の魔法なの? すごい大きい」



           「‥‥‥は?」



       「? 君の魔法じゃないの?」



        (‥‥‥大規模の、隕石?)



 アイトは一瞬思考が止まりかけたが、シャルロットが嘘をついてるようには見えない。そして答えに辿り着いた。



        「ーーーちょっと待て!!」


 アイトはすぐに両目に【血液凝固】を施し、真上を見上げる。


 血液の出力を上げ続け、アイト自身が辛くなってくる。



  だがそこで、彼女の発言通りーーー隕石を発見する。



  「!? 嘘だろ!? あんなのが落ちたらっ!!」


       「うん、森ごと全て消し飛ぶ」


 焦るアイトに対して冷静に返事するシャルロット。まるで事の重大さを自覚していない。


 (‥‥‥だから結界を張ってたんだ!

  あの隕石でルーク王子を始めとする王族、

  次世代を担う生徒たちを虐殺する気か!!

  そしてグロッサ王国の信用を最底辺に落とす。

  奴らの目的は、グロッサ王国の崩壊なんだ。

  ‥‥‥そんなこと許さない。絶対に止める!!!)


 平穏を脅かす『ゴートゥーヘル』‥‥‥特にその最高幹部である薄っぺらい笑顔を絶やさない銀髪の青年が頭をよぎり、アイトは歯を噛み締める。


 そして、アイトは阻止すべく即座に行動を始めた。


 「天使さん! あれが落ちてくるまでどれくらい!?」


 アイトがシャルロットに話しかけると、彼女はキョトンとしていた。


 「え、君じゃないの? あ、確かにあの魔法を

  発動してたら戦うのは無理かも」


 あくまでもマイペースなシャルロットは絶妙に会話が噛み合っていない。


 「いいから早く!!」


 「ん〜。20分くらいかな」


 (20分!? もう時間がない!!)


 アイトは居ても立っても居られず走り出す。シャルロットも後に続いた。


 「まださっきの戦い、終わってないよ?」


 事もあろうか、シャルロットはそんなことを言い放つ。


 「それどころじゃない!

  あの隕石を壊さないとみんな死ぬ!!」


 「君も?」


 そう言ったシャルロットは首を傾ける。アイトは即座に当たり前のことを断言した。


 「そりゃあ何もしなかったら死ぬだろ!」


 「ふーん。じゃ、止めないとね」


 「当たり前だ!! 天使さんも協力して!!」


 「うん、わかった」



 ここで『天帝』と『使徒』の戦いが幕を閉じ、共同戦線が形成される。



 アイトは自分の思ったことをシャルロットに話しかけた。


 「天使さんならあの隕石、

  消すか壊せるんじゃないか!?」


 「無理」


 だがその期待も虚しく、シャルロットは即答した。


 「え、どうして!?」


 「普段の私ならたぶんできると思うけど、

  君との戦いで魔力使っちゃったから、無理」


 その言葉に、アイトは先ほどまでの彼女が使った魔法が脳裏によぎっていた。そしてそれが大規模で破壊力抜群であることも。


 「おいなに軽く言ってんだ!?

  最上級魔法ばかり発動するからだろうが!?」


 「だって、知らなかったもん」


 アイトは思わず声を荒げてツッコむ。シャルロットは少し拗ねた様子で頬を膨らませていた。


 「天使さん、何か考えは無い!?」


 「だから、今はたぶん君にしかできない」


 「‥‥‥俺?」


 アイトは突然の名指しに思わず聞き返すと、シャルロットは頷いた。


 「あの黒い剣を作ることができる君なら、できる。

  それに見た感じ、君はまだたくさん魔力残ってる。

  私との戦い、魔力を温存して戦ってた。いけず」


 (‥‥‥つまり、俺の【終焉】しかないってことかよ)


 頬を含ませるシャルロットを気にする余裕は今のアイトになかった。


 気づいてくれないと悟ったシャルロットは拗ねた様子で口を開く。


 「それか、あの金髪の男の子。

  『聖騎士』の魔眼を持ってるなら、たぶんできる」


 「‥‥‥ルーク王子か」


 「たぶんその子。今は君かその子しか、壊せない」



       自分か‥‥‥ルーク・グロッサか。



   アイトは2択を迫られるが、判断は一瞬だった。



           「俺が壊す!!」



 アイトは走る速度を上げる。シャルロットは少し驚いた様子を見せるが、すぐにアイトの後を追いかける。


 (ルーク王子は生徒を守ることに集中してる。

  そもそも隕石に気づいてない可能性もある。

  なら天使さんも近くにいる俺がやらないと!)


 そんな考えのもと、アイトは自分が今やるべきことを理解する。


 そして誰よりも早く、隕石墜落阻止に動き出した。



 「あの隕石、君のじゃなかったのかあ」


 「なんでそんな落ち着いてるのっ!?」


 張り詰めた緊張が解けるような声で呟く天使を連れて。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 マルタ森、中央付近。


 「はあ、はあ、これでここは大丈夫ね」


 マリアは制服の袖で額の汗を拭う。周辺の覆面集団を全て始末したのだ。1人を除いて。


 隣にやってきたルークが残った瀕死の覆面男の首を掴んで持ち上げる。


 「結界を張った目的は? ここに転移させた目的は?

  それと君たちは何者かな?

  さあ、残った君に教えてもらおうか」


 「‥‥‥知ら、ない」


 覆面が苦しそうな声を上げるが、僅かに振り絞った声で話し出す。


 「知らないわけだろう? 知らずに命を投げ出す

  頭がおかしい集団なのかな?」


 「お前ら如きに何がわかるっ!!

  もし知っていても、絶対に言わん!!」


 「‥‥‥はは。今のでわかったよ」


 ルークは容赦なく男の腹に剣を突き立てる。男は声にならない声を上げ、動かなくなった。


 「な、なんで話を聞く前に」


 マリアは、剣を振って血を落としていたルークに話しかける。


 「ん? あれ以上聞いても無駄だからさ。

  彼は仲間を売る気は一切無かった。

  敵ながら天晴れだよ。でもそれでわかった」


 「な、何がですか?」


 マリアは全く話についていけてない。ルークが詳しい説明を始める。


 「彼の意思の固さは単なる忠誠心だけじゃない。

  僕に殺されても構わないと腹を括っていたんだ。

  つまり、もともと僕が殺さなくてもこの後に

  死ぬことが決まっていた」


 「!? そ、そんなの」


 「それにさっきまで結界を張られていたことから、

  死ぬのはこの森にいる全員。

  おそらく方法は大規模な魔法じゃないかな。

  そして、その魔法が今もまだ継続してるとみた」


 「ッ‥‥‥」


 マリアは声が出なかった。文字通りの絶句だった。ルークの考えが今の状況にしっくり来るからだ。


 「すぐに森から離れた方がいいね。

  マリア、君も生徒たちの方へ向かって。

  君も含め、生徒全員が森から脱出するんだ」


 「る、ルーク先輩は?」


 そういったマリアにルークは手刀を軽く叩き込む。マリアは左手で頭を押さえた。


 「痛った!?」


 「こら、今は先輩ではなく、隊長だよ」


 (今は本気でどうでも良くない!?)


 マリアは本気でイラっと来たが、それを口に出してる場合では無い。口に出さないようなんとか心に留め、ルークの話に耳を傾ける。


 「僕は他に逃げ遅れた人がいないか周囲を確認する。

  それと同時に覆面や怪しい人は斬り捨てる」


 「でも、長くいると隊長も危険です!」


 「大丈夫。最後には()()を使う。

  生徒たちの避難方向はあっち。マリア、頼んだよ」


 「‥‥‥はい! 隊長、気をつけてください!!」


 マリアは一礼するとその場を離れていく。ルークが彼女を急いで向かわせた理由は他にもあった。



 (‥‥‥上手いな。マリアが気づかないわけだ。

  気配からして只者ではない相手を、

  さすがに僕が見過ごすわけにはいかないか。

  生徒たちと鉢合わせても面倒だし)



 ルークは両手を伸ばしてストレッチを始める。


 「今から覆面集団を退治するか〜」


 そう発言した後、周囲に静寂が訪れる。変化は何もない。ただの独り言に終わる。


 これじゃないと感じたルークは軽く咳払いした後、こう言った。



 「まだ時間はありそうだし、侵入者レスタに

  手合わせでもしてもらおうかなぁ〜」



 ルークが伸びをしながらそう呟いた、次の瞬間。



           「ーーーーッ!」



 何者かが空から降りてきて地面に着地したと同時に凄まじい速度でルークに剣を振る。


 「速いね」


 ルークは鞘から剣を抜いて相手の剣を受け止める。受け止めた衝撃で彼の靴底が地面を数十センチ抉った。やがて止まると、剣を交えて対峙する相手を確認する。


 数秒で剣が幾度にもぶつかり合い、金属音と火花を散らす。


 鋭く、恐ろしいほど正確無比な剣閃の先に見えた相手は女性、そして自分と同じ金髪。


 組織製造の特殊な戦闘服を見に纏った少女は、口元に黒い布を巻いていた。


         「彼の邪魔はさせない」



 相手が剣を薙ぎ払うとルークは弾き返して距離を取り、嬉しそうに笑った。



  「見え見えの罠に突っ込むなんて。面白いね、君」



      エルジュの精鋭部隊、《黄昏トワイライト》No.1。



     『覇王』エリス・アルデナが舞い降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ